今日は卒業式。
式が終わった後、一人屋上に出て、散り散りになる卒業生達を眺めていた。
人の気配に、振り返る。
卒業証書と小さな花束を手にしたあいつが立っていた。

「卒業、できたんだ」
「おう」
「じゃあもうあんたの顔見なくても済むのね」
「それはこっちの台詞だっての」
「あー、これでやっと鬱陶しい日々が終わるわー。・・・そっか、卒業できたか」
「おう。全部大先輩様のおかげさまです」
「ふふん、もっと全力で感謝したまえ」
「本当に。ありがとうございました・・・――」
「何を馬鹿丁寧に。あんたらしくない・・・って・・・何だ、もう逝っちゃったのか」
 ・・・・・・
「・・・気のせい、か」

私以外誰もいない屋上で、空を見上げる。
教師として母校に戻ってきた日に出会った、人間不信の野良犬のようなバカ幽霊。
あいつの為に駆け回り頭を下げまくったこの一年が、無駄にならずに済んだ。
「好きでした、か」
最後に聞こえてきた言葉。
「ばーか。そんなセリフ、私に言うには百年早い」
初めての教え子の卒業に、感動しただけ。
涙を拭いながら、そう自分に言い訳した。
最終更新:2012年03月04日 05:37