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20101223(木) 00:32:50 - (2012/08/04 (土) 13:24:22) のソース

**&color(blue){自主亡命}

リュッセル城下での、竜から下り手綱を引きながらの凱旋式で、セレンは救国の英雄として、総長ミシディシ以上の歓声を集めていた。ミシディシは支持はされても人気を集められない男である。それを自覚している彼は、市民にもみくちゃにされるセレンを特にうらやましがることもなく笑ってみていた。
ところが実際のところ、彼女らを取り巻く状況はあまり芳しいものではなかったのだ。
ミシディシをはじめとする上層部は既に彼女らと和解したと考えていたのだが、一般兵の中には戦時ゆえの特例だとみなしているものも多くいた。戦乱が終わった今、特例を解除し軍紀どおりに処罰を求める声が上がっていた。都督代の脱走など前代未聞だが、ミシディシ派が正統と見られていたために、軍紀に照らせばセレンは脱走兵扱いだった。脱走は死刑が原則である。
特に家族を失ったものも多い、リュッセル半島にいた直参を中心とする騎士の反発は凄まじかった。離反しなければもっと多くの家が救えたであろうと言うのだ。一方で彼女が戦乱の終結、半島の奪還に多大な貢献をしたことも確かであり、彼女は絶大な人気を集めていた。特に大出世ということもあり、郷士たちは熱心に彼女を支持していた。
彼女の処遇をめぐって、郷士と直参で内乱になりかねない程の諍いが繰り広げられていた。大陸の大半を支配する騎士団が内乱を起こしてしまっては元の木阿弥である。ミシディシは戦乱終結早々に難しい状況に直面していた。

◆

「ミシディシ、どうしたのですか?」

ようやく市民から解放されたセレンが執務室へやってきて言った。ミシディシは声をかけられてようやく顔を上げたが、その顔は険しい。

「知っているだろう。あなたとルオンナルの処遇についてだ」
「軍紀に照らして処刑……ですか?」
「そんなことをしたら早晩私が殺されてしまうさ。そしたらまた戦乱だ」
「処罰しないわけにもいかないでしょう。あの群衆の中にも直参派の人が紛れ込んでいて、売国奴呼ばわりされた挙句石投げられたりもしましたよ。次の瞬間にはぼこぼこにされてて、私が仲介に入ってやっと止まりましたけど」
「石頭の私が和解できて他の騎士に出来ないわけはないのだが、正直そんなに悠長に構えてられる訳でもない」

二人が余りに難しい顔をしていたからか、ルオンナルが笑いながら入ってきた。

「セレンと一緒なら国外追放とかでも良いけどね。書類にも追われないで済むしさぁ」

楽天家のルオンナルらしい意見にセレンがようやく笑った。それからふと何かを思いついたようにミシディシへ向き直った。

「自主亡命ということにします。それなら職に就く必要も、私の名誉が落ちることもないでしょう?」
「確かに自主亡命ならあなたの名誉は傷つかない。だが、それでいいのか?」
「いいですよ。ルオンナルもああ言ってますから」
「え? ホント? 二人でいっぱい旅行しようね!」

顔一面に笑みを浮かべながらルオンナルが後ろからセレンに抱きつく。セレンが驚いて振り放そうともがき、ルオンナルはもう抱きつくというよりしがみつくといった感じになっていた。ミシディシは目の前できゃあきゃあ騒ぐ二人を笑いながら見て、二人の自主亡命を認めることにした。

次の朝セレンとルオンナルがリュッセル城からいなくなった事が明らかになり、多少騒ぎになった。ミシディシが二人は旅に出る旨の手紙を残していることから自主亡命だという事を説明し、騒ぎは収まった。直参は彼女が公権力から消えたことに満足し、郷士は色めきたったがいなくなったのが本人の意志であるために、それ以上の追及は出来なかった。
二人の行方はようと知れないが、リグナム火山の付近に住む住人が、外海に向けて飛んでいく二匹の竜を見たのだという。朝日に照らされる二匹は、珍しい青系統の色だったらしい。 


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- 和解とかまじいいよね。  -- 名無しさん  (2012-08-04 13:24:22)
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