. フィザ「ドルス殿、少しよろしいか」 ドルス「フィーザレス殿か、何かご用ですかな?」 フィザ「少々難しい話です。お時間を頂きたい」 ドルス「なるほど、ではまず人払いを致しましょう」 フィザ「話が早くて助かります」 ドルス「さて、フィーザレス殿は現在のレオーム家の戦略に疑問がおありかな?」 フィザ「お待ち下さい。その調子では私に語る言葉がなくなってしまいます」 ドルス「これは失礼」 フィザ「疑問というべき物はありません。ドルス殿の方針は理にかなっている。 抱いているのはどちらかと言えば不安です」 ドルス「ふむ、殿下のご気性を考えての話でしょうか」 フィザ「……然り。殿下は王道を望んでおられます。しかしドルス殿が勧めているのは」 ドルス「覇道」 フィザ「やはり自覚しておいでか」 ドルス「勿論ですとも。己も分からず主を支える事など出来ますまい」 フィザ「先ほども言いましたが、理屈は分かるのです。 大陸の混乱は必然でした。いずれ起こる事が今起こっただけの事。 ムクガイヤの謀反は単なる切欠です。それを征したくらいでは根本的な解決にはならない。 故に誰かが、否、殿下こそ大陸そのものを制さねばならぬ」 ドルス「しかし殿下の本心はそれを望まない。そこに不安があるのですな」 フィザ「ええ、無理が生じるのではないか、と。 殿下はまだ若い。いかに高貴の生まれと言えど諦観には遠いお歳です」 ドルス「そうかもしれませんなあ」 フィザ「ドルス殿!」 ドルス「ふぉふぉ。殿下は貴方が思っているほど脆くありませんよ。 一種の綺麗好きでありましょう。野蛮を野蛮と、汚い物を汚いと思う、それだけの話です。 その純粋さを人に求めたりしません。そこまで子供ではない。 それに、むしろ好都合ではありませんか」 フィザ「貴殿……!」 ドルス「そんな怖い顔をなされるな。 人間、嫌なことを楽しもうとは思いませぬ。覇道を嫌えばこそ、覇道に酔う心配がないのです。 殿下ならば一刻も早い戦乱の終結、すなわち大陸の制覇を目指すでしょう。 結果としてそれだけ犠牲が少なくて済む。それは殿下の望むところではありませんかな」 フィザ「理屈は分かるが、やはり納得しかねる」 ドルス「ふぉふぉ。フィーザレス殿のお気持ちは分かりますとも。 ですがそれは殿下への忠誠心や情ではなく、己への嫌悪に近いものではありませんかな」 フィザ「……それは、否定しません。 思う節はあります。我らは忠誠心を言い訳に殿下を担いでいるだけではないか、と」 ドルス「ふぉふぉ……そういう見方も可能でありましょう。 王家への忠誠心も、その支配の復活を望むのも、突き詰めれば個人的な欲望の表れ。 要するに我らとムクガイヤの本質に大きな違いはありませぬ。 己の欲望を大儀と称して邪魔者を排除する、そこにどんな違いがあるとお思いですかな」 フィザ「……」 ドルス「理想というものは通じる者にしか通じない。しかし力は万人に通じる。 どのような志を持とうと、それを完璧に実現しようとすれば結局のところ道は一つなのです。 故に人は争いを止めないのですな」 フィザ「そんな大きな話をされても困ります」 ドルス「難しく考える事はないのですよ。 貴方は戦いで勝ち続ければ良い。それこそが忠義の証となりましょう」 フィザ「ドルス殿、貴殿は悪い御人だ」 ドルス「おや、今頃お気付きになりましたか」 フィザ(恐ろしい男だ。最後まで忠、不忠の言質を得られなかった。 『貴殿が主と仰ぐのは殿下である必要がないのではないか』と問い詰める隙も無い。 それだけに危険だが……今のレオーム家に必要な存在であるのも事実。 当分は獅子身中の虫とならぬ事を願うしかないか) ドルス(将軍もまだ若いな。殿下が我ら二人を『同様に』重用する訳に気付かぬとは。 覇道に疑問を抱き、殿下への忠義を重んじる連中は将軍の下に集うであろう。 そして旧時代の支配に反発する者、王家を道具と見なす者は私の同調者となる。 いかなる勢力もその間の対立も、制御下にあるならどのようにでも対処できよう。 我ら二人が共通の主君の元で結束する事にこそ意味があるというのに) ---- - さすがに殿下→陛下にしないと変。 -- 名無しさん (2011-10-27 15:57:44) - 面白かった、ドルスかっこよす -- 名無しさん (2014-03-01 22:00:16) - 最後のドルスの内心 &br()黒いと言うか口下手なだけに見えてしまう -- 名無しさん (2014-03-02 08:01:45) - ツンデレ爺 -- 名無しさん (2014-03-02 16:54:12) - へへっ面白いっ -- 名無しさん (2021-11-17 01:06:56) - アナザーとかまさにこれだよね -- 名無しさん (2023-10-28 09:12:34) #comment(size=60,vsize=3) ----