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**&color(blue){百合という花} テーブルに置かれたティーカップから香る仄かな煙が、ゆったりとした時間を好むこの男にとって至高のひと時を与えていた。 木で造られた質素な、それでいてどこか優雅さを漂わせる背の高い椅子に腰掛け、今まで開いていた本を静かに閉じるとティーカップへと手を伸ばす。 しかし、その視線の先は手元ではなく、少し離れた木々の合間に立つ二人の人物へと注がれていた。 男は口元へ運ばれた紅茶の香りを鼻腔で存分に楽しみながら小さな声で 「やはり素晴らしい……」 と静かに漏らした。 木々の合間に少し開けた草原があり、そこで二人の女性がお互いの剣を重ね合い鋭い音色を響かせあっている。 さわやかな風が吹くなかで、二人は頬を上気させながら流れ落ちる汗を拭おうともせずに、ただ只管に相手の一挙一動に心を奪われているかのようだった。 「ふう……今日はここまでにしましょう」 長い緊張を破るかのように、陽を浴びて燃えるように赤く輝く髪色をした女性が口を開いた。 「は、はい! あの……あ、ありがとうございました!」 急いで剣を鞘へと戻し深々と頭を下げた女性の額には玉のような汗が浮かび、青く綺麗な髪が離れまいとしている。 慌てて頭を垂れた相手の様子を見て微笑をこぼした赤髪の女性は 「その様な礼は不要、と以前に申しました」 と優しい声で返した。 「セレンも腕を上げましたね。初めて逢った時より強くなりました」 セレンと呼ばれた青い髪の女性は顔を真っ赤に染めうつむき加減に、木々のざわめきにかき消されそうな小さな声で答えた。 「そ、それは、アルティナ様にこうして稽古をつけて頂いているからです……」 「ふふ、私は大した事はしていませんよ。貴方は自分の力で成長しているのです」 純白の布で頬を流れる汗を拭いながら、アルティナはセレンの瞳をみつめて強く言う。 みつめられ、稽古中よりもさらに上気した顔を恥ずかしそうに慌てて隠そうと背を向けたセレンを、不思議な表情でアルティナは眺めていた。 二人のやりとりを遠くから眺めつつ、まだ十分な熱をもった紅茶を男は一口啜ると 「香りが引立ちますね……」 と、感嘆の声を上げた。 男の隣にはいつのまにか、一人の年端もいかない少女が小さな袋を手に佇んでいた。 視線は決して男を見ず、木々の中に居る二人から逸らす事なく喋りだす。 「クッキーを焼きました。皆さんに食べてもらおうと思って」 小さな袋を二つテーブルに置くと、はじめて男の方を向いてそれまでの険しい表情をかえて微笑んだ。 男はティーカップを静かにテーブルに置くと、丁重にクッキーの入った袋を手にとり、結わえてあった紐を解いた。 「おや、ハート型ですか……これは手が込んでいますね。ところで、袋が二つあるようですが……私だけ特別でしょうか」 目を細めて喜びの表情を素直に表した男へ 「勘違いしないでください。一人あげる予定の人がいなくなって余っただけです」 少女は先程と同じような険しい顔に戻り、声を若干荒げて否定をした。 急な変化に戸惑いつつも、男は少女の視線の先に納得すると、少しおかしそうにクッキーを口に運ぶ。 「この味も悪くないですね……」 とつぶやいてから、しまったという風にバツの悪そうな顔で少女のほう窺ったが、少女は男の事など関心がないのか木々の方をじっと見つめたままだった。 視線の先にいるアルティナとセレンは、草原に腰を下ろし互いに屈託のない笑顔で話しをしている様で、時折セレンの顔が明るく輝いたり、頬を赤らめたりと 変化を見せ、その都度、少女も険しさを増したり、哀しそうになったりと変化を見せていた。 「アーシャさん、美味しいクッキーご馳走様でした」 その声で現実に引き戻されたようにアーシャは男の方に向き直ると 「いえ……では先に戻ります」 と、早口に挨拶を済ますとアルティナとセレンの方には振り向かずに小走りに去っていった。 男はアーシャの後姿を見えなくなるまで見送ると 「いまだ咲かぬ蕾もまた美しくあり」 誰に言うでもなしに一人つぶやくと、一度閉じた本をまた開いて視線を落とした。 男が再度読み出した本に気をとられかけた時、それまで陽に照らされていたページに突然の影が舞い、男が顔を上げて周囲を見渡すと、 アルティナとセレンの元に一人の竜騎士が空から降りてくるところであった。 竜騎士は女性であり、風で乱れた澄んだ水色の髪を手でまとめてから服装を正すと、セレンの方に一度視線を向けた後でアルティナに向かい騎士礼をとり口を開いた。 「アルティナ様こちらでしたか。そろそろお戻りになられるよう、スヴェステェン殿が申しておられました」 「スヴェステェンが……わかりました」 その名前を耳にした瞬間、セレンの表情が曇ったかのように見えたが、努めて冷静を保とうとアルティナに別れの騎士礼をとる。 アルティナは稽古後に外していた剣や鎧を身に着けると自らの竜の名前を呼び、愛竜と共に城へと戻っていった。 セレンはアルティナの乗る竜が見えなくなるまで空を眺めていたが、それも見えなくなると寂しそうな表情を浮かべ、さらに水色の髪をした女性へと恨みの表情を浮かべる。 「あなたね……私は家臣としての仕事をしたまでよ」 「それはわかってる」 「じゃあ、なんでそんな顔するのよ」 「……ルオンナルのバカ」 セレンに突然バカ呼ばわりされたルオンナルは怒る気にもならず、深いため息をひとつ吐くと呆れたような表情をした。 アルティナを尊敬し、慕い、憧れを抱いているセレンの気持ちを親友であるルオンナルは誰よりも知っていた。 誰よりも知っているからこそ、心の中で (わたしの気持ちも知らずに……セレンのばか……) と、静かにつぶやくのだった。 アルティナとの時間を奪われて落ち込むセレンをみて、ルオンナルは自身の手を強く握り締めると 「ミルフォースが飛竜の子が産まれたから見にこないかって……二人でいかない?」 少し頬を赤らめてセレンの顔を覗き込みながら誘いの声をかけた。 「うん……」 セレンはまだ落ち込みから復活していない様子で答えたが、それでもルオンナルは嬉しそうにしている。 二人は竜に乗り、飛竜の里であるリグナム火山の方向に飛び立つ。 そこにはセレンに寄り添うように飛ぶルオンナルの姿があった。 男は本を片手に紅茶を啜りながら、二人の竜騎士の影を見送っていた。 「一途な花も素晴らしい……」 ティーカップをテーブルへとおき、まだ残っていたクッキーを口に運びながら本へと視線を落とす。 数ページ読み進めたところで不意に独特な言葉遣いの女性の声が響いた。 「ヒュンター、何を読んでおるのじゃ?」 背の小さい幼さの残るエルフの少女が、ヒュンターと呼ばれた男が座っているテーブルへと肘をついて本のカバーを見つめていた。 「エルアートさんには似合わない物ですよ」 ヒュンターは丁寧に、それでいて少し棘を含んだ様な言い方でエルアートという少女へ答えた。 「どうせヒュンターのことじゃ、たんのう小説とかそういうなんたらぞえ」 「それをいうなら官能小説ですよ。これは違いますが、まあ、たんのうという意味では……」 「アヒャヒャヒャヒャ、わらわはその手の物は大好きぞ」 エルアートは口元を緩めると、手や指を妙な動かし方をして一人悦に入りかかっていたが、テーブルの上にそっと置かれていた妙な物に目をつけ手にとると 「花……かの?」 色々な角度から珍しそうに眺めはじめた。 「それは押し花という物です。本のしおりにしてまして」 玩具の様に扱うエルアートの手から押し花を優しく取り返すと、読みかけのページにそっと挟んで本を閉じた。 「その花はなんという名前じゃ?」 ヒュンターはティーカップに残っていた紅茶を啜ると、静かに椅子から立ち上がってエルアートにこう告げた。 「百合という花です、この世でもっとも美しい花ですよ……」 「ところでヒュンター、わらわの新しいおなごをみたいか?」 「それは遠慮しておきます……」 //長文失礼しました。 ---- #comment(size=60,vsize=3) ----
**&color(blue){百合という花} テーブルに置かれたティーカップから香る仄かな煙が、ゆったりとした時間を好むこの男にとって至高のひと時を与えていた。 木で造られた質素な、それでいてどこか優雅さを漂わせる背の高い椅子に腰掛け、今まで開いていた本を静かに閉じるとティーカップへと手を伸ばす。 しかし、その視線の先は手元ではなく、少し離れた木々の合間に立つ二人の人物へと注がれていた。 男は口元へ運ばれた紅茶の香りを鼻腔で存分に楽しみながら小さな声で 「やはり素晴らしい……」 と静かに漏らした。 木々の合間に少し開けた草原があり、そこで二人の女性がお互いの剣を重ね合い鋭い音色を響かせあっている。 さわやかな風が吹くなかで、二人は頬を上気させながら流れ落ちる汗を拭おうともせずに、ただ只管に相手の一挙一動に心を奪われているかのようだった。 「ふう……今日はここまでにしましょう」 長い緊張を破るかのように、陽を浴びて燃えるように赤く輝く髪色をした女性が口を開いた。 「は、はい! あの……あ、ありがとうございました!」 急いで剣を鞘へと戻し深々と頭を下げた女性の額には玉のような汗が浮かび、青く綺麗な髪が離れまいとしている。 慌てて頭を垂れた相手の様子を見て微笑をこぼした赤髪の女性は 「その様な礼は不要、と以前に申しました」 と優しい声で返した。 「セレンも腕を上げましたね。初めて逢った時より強くなりました」 セレンと呼ばれた青い髪の女性は顔を真っ赤に染めうつむき加減に、木々のざわめきにかき消されそうな小さな声で答えた。 「そ、それは、アルティナ様にこうして稽古をつけて頂いているからです……」 「ふふ、私は大した事はしていませんよ。貴方は自分の力で成長しているのです」 純白の布で頬を流れる汗を拭いながら、アルティナはセレンの瞳をみつめて強く言う。 みつめられ、稽古中よりもさらに上気した顔を恥ずかしそうに慌てて隠そうと背を向けたセレンを、不思議な表情でアルティナは眺めていた。 二人のやりとりを遠くから眺めつつ、まだ十分な熱をもった紅茶を男は一口啜ると 「香りが引立ちますね……」 と、感嘆の声を上げた。 男の隣にはいつのまにか、一人の年端もいかない少女が小さな袋を手に佇んでいた。 視線は決して男を見ず、木々の中に居る二人から逸らす事なく喋りだす。 「クッキーを焼きました。皆さんに食べてもらおうと思って」 小さな袋を二つテーブルに置くと、はじめて男の方を向いてそれまでの険しい表情をかえて微笑んだ。 男はティーカップを静かにテーブルに置くと、丁重にクッキーの入った袋を手にとり、結わえてあった紐を解いた。 「おや、ハート型ですか……これは手が込んでいますね。ところで、袋が二つあるようですが……私だけ特別でしょうか」 目を細めて喜びの表情を素直に表した男へ 「勘違いしないでください。一人あげる予定の人がいなくなって余っただけです」 少女は先程と同じような険しい顔に戻り、声を若干荒げて否定をした。 急な変化に戸惑いつつも、男は少女の視線の先に納得すると、少しおかしそうにクッキーを口に運ぶ。 「この味も悪くないですね……」 とつぶやいてから、しまったという風にバツの悪そうな顔で少女のほう窺ったが、少女は男の事など関心がないのか木々の方をじっと見つめたままだった。 視線の先にいるアルティナとセレンは、草原に腰を下ろし互いに屈託のない笑顔で話しをしている様で、時折セレンの顔が明るく輝いたり、頬を赤らめたりと 変化を見せ、その都度、少女も険しさを増したり、哀しそうになったりと変化を見せていた。 「アーシャさん、美味しいクッキーご馳走様でした」 その声で現実に引き戻されたようにアーシャは男の方に向き直ると 「いえ……では先に戻ります」 と、早口に挨拶を済ますとアルティナとセレンの方には振り向かずに小走りに去っていった。 男はアーシャの後姿を見えなくなるまで見送ると 「いまだ咲かぬ蕾もまた美しくあり」 誰に言うでもなしに一人つぶやくと、一度閉じた本をまた開いて視線を落とした。 男が再度読み出した本に気をとられかけた時、それまで陽に照らされていたページに突然の影が舞い、男が顔を上げて周囲を見渡すと、 アルティナとセレンの元に一人の竜騎士が空から降りてくるところであった。 竜騎士は女性であり、風で乱れた澄んだ水色の髪を手でまとめてから服装を正すと、セレンの方に一度視線を向けた後でアルティナに向かい騎士礼をとり口を開いた。 「アルティナ様こちらでしたか。そろそろお戻りになられるよう、スヴェステェン殿が申しておられました」 「スヴェステェンが……わかりました」 その名前を耳にした瞬間、セレンの表情が曇ったかのように見えたが、努めて冷静を保とうとアルティナに別れの騎士礼をとる。 アルティナは稽古後に外していた剣や鎧を身に着けると自らの竜の名前を呼び、愛竜と共に城へと戻っていった。 セレンはアルティナの乗る竜が見えなくなるまで空を眺めていたが、それも見えなくなると寂しそうな表情を浮かべ、さらに水色の髪をした女性へと恨みの表情を浮かべる。 「あなたね……私は家臣としての仕事をしたまでよ」 「それはわかってる」 「じゃあ、なんでそんな顔するのよ」 「……ルオンナルのバカ」 セレンに突然バカ呼ばわりされたルオンナルは怒る気にもならず、深いため息をひとつ吐くと呆れたような表情をした。 アルティナを尊敬し、慕い、憧れを抱いているセレンの気持ちを親友であるルオンナルは誰よりも知っていた。 誰よりも知っているからこそ、心の中で (わたしの気持ちも知らずに……セレンのばか……) と、静かにつぶやくのだった。 アルティナとの時間を奪われて落ち込むセレンをみて、ルオンナルは自身の手を強く握り締めると 「ミルフォースが飛竜の子が産まれたから見にこないかって……二人でいかない?」 少し頬を赤らめてセレンの顔を覗き込みながら誘いの声をかけた。 「うん……」 セレンはまだ落ち込みから復活していない様子で答えたが、それでもルオンナルは嬉しそうにしている。 二人は竜に乗り、飛竜の里であるリグナム火山の方向に飛び立つ。 そこにはセレンに寄り添うように飛ぶルオンナルの姿があった。 男は本を片手に紅茶を啜りながら、二人の竜騎士の影を見送っていた。 「一途な花も素晴らしい……」 ティーカップをテーブルへとおき、まだ残っていたクッキーを口に運びながら本へと視線を落とす。 数ページ読み進めたところで不意に独特な言葉遣いの女性の声が響いた。 「ヒュンター、何を読んでおるのじゃ?」 背の小さい幼さの残るエルフの少女が、ヒュンターと呼ばれた男が座っているテーブルへと肘をついて本のカバーを見つめていた。 「エルアートさんには似合わない物ですよ」 ヒュンターは丁寧に、それでいて少し棘を含んだ様な言い方でエルアートという少女へ答えた。 「どうせヒュンターのことじゃ、たんのう小説とかそういうなんたらぞえ」 「それをいうなら官能小説ですよ。これは違いますが、まあ、たんのうという意味では……」 「アヒャヒャヒャヒャ、わらわはその手の物は大好きぞ」 エルアートは口元を緩めると、手や指を妙な動かし方をして一人悦に入りかかっていたが、テーブルの上にそっと置かれていた妙な物に目をつけ手にとると 「花……かの?」 色々な角度から珍しそうに眺めはじめた。 「それは押し花という物です。本のしおりにしてまして」 玩具の様に扱うエルアートの手から押し花を優しく取り返すと、読みかけのページにそっと挟んで本を閉じた。 「その花はなんという名前じゃ?」 ヒュンターはティーカップに残っていた紅茶を啜ると、静かに椅子から立ち上がってエルアートにこう告げた。 「百合という花です、この世でもっとも美しい花ですよ……」 「ところでヒュンター、わらわの新しいおなごをみたいか?」 「それは遠慮しておきます……」 //長文失礼しました。 ---- - 是非。 &br()見てみたいです。 -- 名無しさん (2012-08-04 12:55:13) #comment(size=60,vsize=3) ----

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