「20110115(土) 01:03:18」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

20110115(土) 01:03:18」(2024/01/26 (金) 09:19:37) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

**&color(blue){聖杖オステア} ゴート三世率いるレオーム軍が各地のルートガルト軍を打ち破り、宿敵ムクガイヤを王都まで追い詰めていた頃、 オステアの港町でもひとつの歴史が動こうとしていた。 窓から入る陽射しは漆黒のカーテンで遮られ、灯りと呼べるものは数本の蝋燭から立ち昇る弱々しい灯火だけである。 その薄暗い部屋の中心に、一人の初老の男が静かに座している。 目を閉じ、僅かな呼吸の動きも注意していなければ判らないほど、初老の男は自身の生命活動を極限まで抑えていた。 まるで死んでいるかの様に、身動きひとつしないままどれだけの刻が過ぎた頃か。 男の眉が僅かに動き、その目が静かに開くのと同時に、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。 薄暗い部屋に眩しいほどの光を背に、一人の小柄な影が浮かび上がる。 「――見たか」 最初に口を開いたのは初老の男の方だった。 肩を震わせた小柄な影が男の言葉に小さく肯く。 「愚かな事を……力を欲するあまり闇に呑まれおった。今にして思えば惨めな男よ」 初老の男は静かに思い出すように語る。 意外にも冷静な態度に、小柄な影の人物は思った事をそのままに口を開いた。 「先生、これからどうなるのですか」 「…………」 「ピコック先生!!」 影の主は、その口調に普段は滅多にみせる事のない焦りの色を顕にし、自身の師に問い詰るのだった。 ピコックは弟子の問いに対してゆっくりと答え始める。 「アルジュナ……我々は光を失った。大きな光だ。世界は今以上の闇に覆われるだろう。  だが、我々はそれに抗わねばならない。力なき者のためにも」 アルジュナと呼ばれた少女は、師の言葉に神妙に聞き入り、しばらく考えた後にこう聞き返した。 「それは――オステアのためにですか?」 ピコックは弟子の問いには答えず、徐に立ち上がると窓を塞いでいた漆黒の布を手で払った。 窓から覗くことが出来るオステアの街並みは、所々に無残にも焼け焦げ崩れた家が立ち並び、大きな通りには住む場所をなくした人々が薄汚れた服をきて虚ろな瞳で宙を眺めている。 戦争で親を失った子供がふらふらと彷徨いながら泣き叫ぶ声が、ピコックの耳にいつまでも残り、その光景を思い起させる。 戦火の広がりは、戦争に巻き込まれた全ての街でこのような光景を爪痕として深く残したことだろう。 ピコックは静かに目を閉じると、弟子のアルジュナへ伝えた。 「何れ新たな光が現れる……それまで我々が出来得る限りの事をするのだ」 「でき得る限りのこと……」 アルジュナは師の言葉を反芻すると、しばらく考え込むように視線を床へと落とした。 オステアが戦火に巻き込まれた際、彼女はファルシス騎士団やルートガルト国から出仕を求められていたが、それらを全て断っていたのである。 師の前であっても、戦争に加担する事を頑なに拒否していたのだった。 アルジュナは意を決したのか、強い眼差しで師へと訴えた。 「ボクにもお手伝いさせてください」 「お主は争い事が嫌いではなかったのか?」 思いもよらぬ弟子の言葉に、ピコックは驚いて聞き返す。 「今まではそうでした――戦争など無意味なことだと……。  でも、でも今はきっと意味があるのだと思います」 「……戦う事になるのは闇の力だけではないのだぞ」 「それでもボクは」 「そうか、ならばみなまで言うまい」 ピコックはアルジュナの決意にそれ以上の言葉を語るのを止め、部屋の奥に向かって歩きだし壁に飾られていた一振りの十字の杖を手に取った。 その杖は、若くして病に倒れそのまま返らぬ人となったピコックの娘が手にしていた杖であり、オステアを守る者が代々所持する由緒ある聖杖でもある。 アルジュナの正面に立ち、彼女の面前に杖を差し出す。 「受け取れ」 「こ、これをボクに??」 最初は手にするのを躊躇っていたアルジュナであったが、喉を軽く鳴らすと、振るえる手で恐る恐る杖を抱えるようにして受け取る。 手に持っただけでも伝わってくる杖の力に、アルジュナは自身の魔力が洗練され研ぎ澄まされていくのを感じていた。 『聖杖オステア』 無意識のうちに口をついた言葉に、アルジュナの手に握られていた杖はより一層の輝きを増したように見えた。 少なくともピコックの目には、新しき持ち主と一体となり長い間眠っていた杖の力が解放されている光景に見えたはずである。 (やはり……やはりそうであったか) アルジュナと杖をみてピコックは声にならない声をあげた。 容易に側に近づくことさえ困難なほどに、魔力が幾重にも渦となってアルジュナの周りを包み、鼓動する。 暫しその光景に目を奪われていたピコックであったが、彼を呼ぶアルジュナの声に現実へと引き戻された。 「先生!」 「あ、ああ」 アルジュナは杖を大事そうに両手で抱え、少し恥ずかし気にうつむきながら上目づかいにピコックを見上げていた。 「ボク、嬉しいです。あ、ありがとうございます」 ピコックはアルジュナの上目遣いな目をまじまじと見返す事ができず、顔を横に向けながら指で頬を掻く。 「いや、まあ、喜んでくれたのなら、やったかいもあるわ」 「えへへ」 「いつまでも浮かれるでない」 弟子の喜びようを目にして、目尻が下がりそうになるのを必死におさえつつ、ピコックはいつもの様に振舞おうとするのだった。 遠くから、オステアの街で一番高い建物である時計塔に据付けられている鐘の音が鳴り響いてくる。 戦火を逃れ今でも時を刻み続けるこの時計は、実に多くのオステアの歴史を見てきていた。 「そろそろ行くとしよう。ルートガルトからの急使が到着する頃だ」 「はい!」 師と弟子の二人は外にでると、東の空に渦巻く暗雲をその目にしかと見据えてから、鐘の音が鳴り響く大通りを歩き出すのだった。 ---- - アルジュナがかわいいです。 &br()杖で魔法少女に変身してほしい &br() -- 名無しさん (2011-01-16 22:48:58) - 良い出来。ほほえましい。 -- 名無しさん (2011-01-17 00:38:40) #comment(size=60,vsize=3) ----
**&color(blue){聖杖オステア} ゴート三世率いるレオーム軍が各地のルートガルト軍を打ち破り、宿敵ムクガイヤを王都まで追い詰めていた頃、 オステアの港町でもひとつの歴史が動こうとしていた。 窓から入る陽射しは漆黒のカーテンで遮られ、灯りと呼べるものは数本の蝋燭から立ち昇る弱々しい灯火だけである。 その薄暗い部屋の中心に、一人の初老の男が静かに座している。 目を閉じ、僅かな呼吸の動きも注意していなければ判らないほど、初老の男は自身の生命活動を極限まで抑えていた。 まるで死んでいるかの様に、身動きひとつしないままどれだけの刻が過ぎた頃か。 男の眉が僅かに動き、その目が静かに開くのと同時に、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。 薄暗い部屋に眩しいほどの光を背に、一人の小柄な影が浮かび上がる。 「――見たか」 最初に口を開いたのは初老の男の方だった。 肩を震わせた小柄な影が男の言葉に小さく肯く。 「愚かな事を……力を欲するあまり闇に呑まれおった。今にして思えば惨めな男よ」 初老の男は静かに思い出すように語る。 意外にも冷静な態度に、小柄な影の人物は思った事をそのままに口を開いた。 「先生、これからどうなるのですか」 「…………」 「ピコック先生!!」 影の主は、その口調に普段は滅多にみせる事のない焦りの色を顕にし、自身の師に問い詰るのだった。 ピコックは弟子の問いに対してゆっくりと答え始める。 「アルジュナ……我々は光を失った。大きな光だ。世界は今以上の闇に覆われるだろう。  だが、我々はそれに抗わねばならない。力なき者のためにも」 アルジュナと呼ばれた少女は、師の言葉に神妙に聞き入り、しばらく考えた後にこう聞き返した。 「それは――オステアのためにですか?」 ピコックは弟子の問いには答えず、徐に立ち上がると窓を塞いでいた漆黒の布を手で払った。 窓から覗くことが出来るオステアの街並みは、所々に無残にも焼け焦げ崩れた家が立ち並び、大きな通りには住む場所をなくした人々が薄汚れた服をきて虚ろな瞳で宙を眺めている。 戦争で親を失った子供がふらふらと彷徨いながら泣き叫ぶ声が、ピコックの耳にいつまでも残り、その光景を思い起させる。 戦火の広がりは、戦争に巻き込まれた全ての街でこのような光景を爪痕として深く残したことだろう。 ピコックは静かに目を閉じると、弟子のアルジュナへ伝えた。 「何れ新たな光が現れる……それまで我々が出来得る限りの事をするのだ」 「でき得る限りのこと……」 アルジュナは師の言葉を反芻すると、しばらく考え込むように視線を床へと落とした。 オステアが戦火に巻き込まれた際、彼女はファルシス騎士団やルートガルト国から出仕を求められていたが、それらを全て断っていたのである。 師の前であっても、戦争に加担する事を頑なに拒否していたのだった。 アルジュナは意を決したのか、強い眼差しで師へと訴えた。 「ボクにもお手伝いさせてください」 「お主は争い事が嫌いではなかったのか?」 思いもよらぬ弟子の言葉に、ピコックは驚いて聞き返す。 「今まではそうでした――戦争など無意味なことだと……。  でも、でも今はきっと意味があるのだと思います」 「……戦う事になるのは闇の力だけではないのだぞ」 「それでもボクは」 「そうか、ならばみなまで言うまい」 ピコックはアルジュナの決意にそれ以上の言葉を語るのを止め、部屋の奥に向かって歩きだし壁に飾られていた一振りの十字の杖を手に取った。 その杖は、若くして病に倒れそのまま返らぬ人となったピコックの娘が手にしていた杖であり、オステアを守る者が代々所持する由緒ある聖杖でもある。 アルジュナの正面に立ち、彼女の面前に杖を差し出す。 「受け取れ」 「こ、これをボクに??」 最初は手にするのを躊躇っていたアルジュナであったが、喉を軽く鳴らすと、振るえる手で恐る恐る杖を抱えるようにして受け取る。 手に持っただけでも伝わってくる杖の力に、アルジュナは自身の魔力が洗練され研ぎ澄まされていくのを感じていた。 『聖杖オステア』 無意識のうちに口をついた言葉に、アルジュナの手に握られていた杖はより一層の輝きを増したように見えた。 少なくともピコックの目には、新しき持ち主と一体となり長い間眠っていた杖の力が解放されている光景に見えたはずである。 (やはり……やはりそうであったか) アルジュナと杖をみてピコックは声にならない声をあげた。 容易に側に近づくことさえ困難なほどに、魔力が幾重にも渦となってアルジュナの周りを包み、鼓動する。 暫しその光景に目を奪われていたピコックであったが、彼を呼ぶアルジュナの声に現実へと引き戻された。 「先生!」 「あ、ああ」 アルジュナは杖を大事そうに両手で抱え、少し恥ずかし気にうつむきながら上目づかいにピコックを見上げていた。 「ボク、嬉しいです。あ、ありがとうございます」 ピコックはアルジュナの上目遣いな目をまじまじと見返す事ができず、顔を横に向けながら指で頬を掻く。 「いや、まあ、喜んでくれたのなら、やったかいもあるわ」 「えへへ」 「いつまでも浮かれるでない」 弟子の喜びようを目にして、目尻が下がりそうになるのを必死におさえつつ、ピコックはいつもの様に振舞おうとするのだった。 遠くから、オステアの街で一番高い建物である時計塔に据付けられている鐘の音が鳴り響いてくる。 戦火を逃れ今でも時を刻み続けるこの時計は、実に多くのオステアの歴史を見てきていた。 「そろそろ行くとしよう。ルートガルトからの急使が到着する頃だ」 「はい!」 師と弟子の二人は外にでると、東の空に渦巻く暗雲をその目にしかと見据えてから、鐘の音が鳴り響く大通りを歩き出すのだった。 ---- - アルジュナがかわいいです。 &br()杖で魔法少女に変身してほしい &br() -- 名無しさん (2011-01-16 22:48:58) - 良い出来。ほほえましい。 -- 名無しさん (2011-01-17 00:38:40) - アナザーの人?素晴らしい -- 名無しさん (2024-01-26 09:19:37) #comment(size=60,vsize=3) ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: