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**&color(blue){二人の王} 「ハッハッハッハッ」 一定のリズムで呼吸を刻みながら半獣の悪魔グウェンは疾走していた。 こんなにも走る事が喜びであった事があろうか。 匍匐茎が張り巡らされた地面は、蹄を突き立てると心地よい抵抗を返し、更なる加速を促す。 馬上槍の風切り音が滑る様に耳をなでていった。 ルートガルト平野――西はブレア地方から、北はハルトまで続く広大な黒土層の平地地帯である。森林が少なく、イネ科の植物群がどこまでも続く草原を成しており、馬での移動に優れる。ファルシス騎士団を育んだ「土壌」であった。 敵部隊には各小隊に1体の漂う者がいて、後方から魔法の支援攻撃を続けていた。最右翼の漂う者、その更に斜め後方に回り込んだグウェンは急速に距離を詰め始める。 敵がグウェンを察知したのは丁度魔法を打ち終えた後で、次の魔力の集中はまるで間に合っていなかった。 「遅い!」 グウェンの槍が漂う者を突き上げる。耳障りな叫び声とも付かぬ異音を発し、掻き消えていった。 (これほどあっけないとは・・・ルーゼル様の見立て通りだ・・・) 飛べない悪魔――劣悪な地形の多い魔界においてグウェンの体は足枷でしかなかった。同族に馬鹿にされ、己の足がこの世で最も嫌いな物だった。悪魔の形は様々であったがグウェンの体はひと際「普通」と違い、中には本気で獣と思っていた悪魔もいたのだ。 「何故俺には、こんな醜い足しかないのか」自分の足を引きちぎろうとした事すらあった・・・・・・ 1体目を始末した後、スピードを落とすことなく軌道修正のみで立て続けに次の獲物を貫ぬく。グウェンは足に更なる力のみなぎりを感じて地を蹴った。 目前に現れた岩を軽やかに駆け上がり跳躍すると、高揚する心を抑えきれずにグウェンは叫んだ。 「我は魔王軍騎兵隊長、グウェンなりィィィーーーーー!」 パルスザンは精兵2名を引き連れ左翼にいた。大きめに回りこむだけで、地を這う者はみなルーゼルに殺到していた。 間合いをかすめる様に通過すると、漂う者はたった3体の悪魔相手に距離をとって魔法を放つ。 (まるでカラクリ人形だな、定められた動きしか出来ない。) パルスザンの任務は漂う者達が逃げぬように牽制し、グウェンの突撃をサポートする事にあった。 部下に巧に指示を出しながら、グウェンに身振りで追い込む位置を知らせる。この役目を軍師のパルスザンは黙々とこなした。 パルスザンにとって己の取った首級の数は問題ではない。地位におぼれることなく縁の下に徹することが出来る悪魔らしからぬ気質は、パルスザン最大の特徴でありルーゼルが信頼を寄せる理由にもなっていた。 (どれ程の力を持っていようと、戦略を持たぬ相手など何の脅威でもない。私はなんと未熟だったのか・・・) パルスザンは預かった軍の大半を失った自らを戒め、改めて主人ルーゼルの力と戦術を敬い喜んだ。 だが、パルスザンの自責は的を得ているとは言い難い。この作戦はルーゼルがあって初めて可能となるものだったからだ。 ルーゼルは力を取り戻しつつあった。群がる敵を一瞥すると大きく腕を振る。地を這う者の腕が、足が、肉片と体液とが飛び散り、地面が悲鳴を上げるような音を立てて引き裂かれ、ちぎれた草が舞った。 見えない巨大な鍵爪が、間合いに入ったもの全てを空間ごと引き裂いている様であった。 手が飛ぶ位で止まるような敵ではなかったが、2撃、3撃と重ねると小隊ごと肉塊と化した。 (ホルスのバカタレにもお見舞いしてやりたいが、後の楽しみとするか。) 時に後退しながら、時に敵一団の周りを旋回しながら、ルーゼルは「悪魔の爪」を叩き込み続けた。 地を這う物たちは動きの速いルーゼルに対し散開して囲もうとする事もなく、ただ殺到し砕かれた。 「昨日の屈辱をッ、全て晴らさせてもらうぞ!」 ルーゼルがハルトに到着し受けた報告は、戦力の2/3を失ったこと、殆ど戦果を挙げていないこと、押し込まれ続け戦線の維持も絶望的であることだった。 「そうか。」と一言答えたが、信頼してルートガルトに置いたパルスザンに対する苛立ちは消せなかった。 (壊滅状態ではないか、多少の不測には十分な軍勢を任せたはずだぞ。) 敗北に次ぐ敗北で消耗し、士気が著しく低下した兵達を確認すると、ルーゼルは直ちに出撃する事を決めた。 勝利により、士気と勢いを取り戻そうと思ったのである。ルーゼルの到着に沸いた今こそ好機であった。 移動する中規模部隊を横から強襲し、そのまま背後を取るように斜めに展開する。状態異常が通用しない事は報告で知っていたので、戦列を維持しながらゆっくりと後退しつつダークブレスの斉射で敵を飲み込んだ。 ルーゼルの最初の違和感はここであった。ダークブレスの影からするすると敵前線が接近してきた。地面をのたのた歩く敵が予想外のスピードで間合いを詰めてきたのである。 (く、もう接近戦か、もう少し削りたかったが・・・) 「波動!」 ルーゼルの号令に従い、デーモン達は近接攻撃主体へと移行した。 だが、敵の攻撃は苛烈で、鍛え上げられたデーモンたちの肉体を容赦なく引き裂いた。 馬鹿な・・・心のどこかで、ゾンビやマミーといったアンデットを想定していた・・・多少強い位だろうと・・・。 戦闘を開始してどのくらいの時が経ったろうか、僅かの間に阿鼻叫喚の地獄と化した戦場に、ルーゼルは現実味を失っていた。 最前線は次々と切り伏せられ、後ろから一個小隊の一斉射撃のように魔法をばら撒く別種の敵が空中を漂っている。 そこかしこで血を思わせる様な赤い渦巻く炎が上がり、渦の中央付近のデーモンは見る間に焼け落ちた。 パルスザンの「有効な攻撃が可能」との要請によりラザム戦線から同行させたグウェンは、何体かを串刺しにしたものの自身も満身創痍であった。 気が付くと、ルーゼルは効果が期待できないと報告を受けていた筈のナイトメアを放っていた。だが、そのおかげで自分がパニックによりただ立ち尽くしていたことにも気が付けた。 「退却!退却だ!全力で退却せよ!」 声の限り叫び、さながら壊走のような退却でハルトに戻ると、既に出撃した兵の1/4以上を失っていた。 主人を案じたパルスザンが近くに来ると、搾り出すような声で呟いた。 「パルスザン、今まで良くぞ持ち堪えた。」 その小一時間後のことである・・・ 「明日、早朝に出撃する!」 「しかし、たった今退却して来たばかりです。出撃できる兵が有りません」 「私と、パルスザン、グウェン、精兵一小隊のみにて出撃する。何とかかき集めろ。」 パルスザンとグウェンは訝しがったが、ルーゼルは冷静であった。 (この戦いで分かった事がある。私の力、思い知らせてくれる・・・) グウェンとパルスザンが最後の漂う者を地に沈めると、地を這う者もあらかた片付いていた。 昨日手酷くやられた相手を被害を出す事もなく殲滅したことで、勝利の予感が現実味を帯びてきた。 「さて、奴を殺しにいくか。最初からそうするつもりだったからな。」 斥候の報告では、死霊軍を指揮するムクガイヤは未だ無人となった王都に居るとの事であった。パルスザンの見立てではムクガイヤさえ討てば、統制の利かなくなった死霊どもは軍でなくなる筈である。 「無人の都で王様気分とは、哀れですな。」 グウェンがいななく様に鼻で笑った。 2階正面入口から大広間に入り、そのまま真直ぐに進むと謁見の間へと通じる階段がある。ルーゼルは悠然と階段を上がってゆく。 周辺の死霊は既に殲滅したが、王都に接近しつつある死霊軍の撃退にゼオンが苦戦しており、パルスザンとグウェンを向かわせていた。 階段を上がりきった部屋は、宮殿の中でもその部屋のみ一階分高く作られた最上階で、窓が多く戦争用とは言いがたい。シルクとコルクウールを使った織りの細かい上品な絨毯が階段から真直ぐに敷かれている。その先の王座には、身じろぎもせず座る影があった。 「どうだ、私を使って王になった気分は?お目にかかれて光栄とでも言っておこうか。もう死ぬがな、この卑種めが!」 ムクガイヤであった躯はゆるりと王座から立ち上がる。 ルーゼルが腕を振り上げたその時、躯から放射状に氷塊が飛びルーゼルを打った。 「グゥ!(重い!かなりの魔力が乗せられている。)」 氷塊に壁が砕かれ、謁見室の天井が落ちてくるとルーゼルと躯は外へと飛び出した。窓にはめられたグラゥスの細かい破片がキラキラと光りながら散り落ちる中、ルーゼルは空中で距離を詰める。 (こいつも漂う者の系統か。ならば接近戦でかたを付ける!) 眼下に広がる城下町に雷や隕石が雨のように降り注ぎ、悪魔の爪が塔を破壊する。世界の終わりのごとき激戦が無人の街を震わせた。 戦いの中、ルーゼルは不利を悟りつつあった。悪魔の爪は魔力を自身の攻撃力に乗せて放つ技であるが、敵の魔力に対する抵抗力が規格外に高かった。かといって闇の力も通用しない。 (何と言うことだ、これは相性が悪い。) 自分が敵わなければ、魔王軍に成すすべは無い。パルスザン達を始めとして全て飲み込まれてしまうであろう。 「俺様を侮辱した貴様にだけは負けるわけにはいかない!これでも食らいやがれ!」 ルーゼルは躯に掴みかかるとそのまま町の東門の見張り塔の壁に押し付け、身に宿る全ての魔力と生命力を活性化させ炸裂させた。 「ドゴォォォーーーー」 凄まじい音にパルスザンが振り返ると、王都に紅い火柱が上がっていた。 「ル、ルーゼル様・・・。あれは・・・敵の仕業なのか。あれほどの破壊力を奴は持っているのか。あれではルーゼル様は・・・」 「あれは、おそらく・・・ルーゼル様の自爆です。」 ハルトから援軍に来ていたリリックであった。 「自爆?ルーゼル様は無事なのか?」 「己の纏う魔力を外に打ち出すことなく直接炸裂させたのです。自らの血肉を爆発させるに同義なれば・・・・・・自身が助かるはずも在り申しません。」 「そ、そんなことが・・・」 「ここは引きましょう。先ずは体勢を立て直さなくてはなりません。これからの事も決めなければ・・・」 ---- - おっと題名を失敗した。 &br()対峙は王座でも爆発は町の外れなのです。 &br() -- 投稿者 (2011-02-04 21:58:15) - 的を得て、じゃなくて的を射て、な -- 名無しさん (2011-09-23 15:06:25) - 「的を得る」は「正鵠を得る」の派生であり間違いではない。 &br()得るを間違いとする理由は「的は射るものだから」であるが、この主張は「正鵠を得る」の存在に矛盾する。 &br()正鵠は的の中央の黒丸で「得る」は当たるを意味しているからである。中国の古典に「正鵠を失する」という言葉があり、当たり外れを得る失するで表現するのである。 &br()つまり的は射るものでも得る(当たる)ものでもあるので誤用の根拠が崩れる。 &br()「得る」と「射る」は語感が近く「当を得る」という近い意味の表現もあるので、それらも相まって性急に誤用だと確信されてしまったのではないかと、、 &br() &br()最近誤用が叫ばれるまで(テレビで見た気がします)、逆に「射る」の表現を使っていた人はかなり少なかったのでは? &br()憶測でしかありませんが、「得る」のほうが広く一般的に用いられているのは元々の表現が得るだったからではないかと、「当を得る」の影響の可能性もありますが、これはこれで「当」と「的」どちらが先なのか、、 &br()なお「的を射る」「正鵠を射る」も共にあって、古くから用いられていた言葉のようです。 -- 名無しさん (2011-10-01 01:38:56) #comment(size=60,vsize=3) ----
**&color(blue){二人の王} 「ハッハッハッハッ」 一定のリズムで呼吸を刻みながら半獣の悪魔グウェンは疾走していた。 こんなにも走る事が喜びであった事があろうか。 匍匐茎が張り巡らされた地面は、蹄を突き立てると心地よい抵抗を返し、更なる加速を促す。 馬上槍の風切り音が滑る様に耳をなでていった。 ルートガルト平野――西はブレア地方から、北はハルトまで続く広大な黒土層の平地地帯である。森林が少なく、イネ科の植物群がどこまでも続く草原を成しており、馬での移動に優れる。ファルシス騎士団を育んだ「土壌」であった。 敵部隊には各小隊に1体の漂う者がいて、後方から魔法の支援攻撃を続けていた。最右翼の漂う者、その更に斜め後方に回り込んだグウェンは急速に距離を詰め始める。 敵がグウェンを察知したのは丁度魔法を打ち終えた後で、次の魔力の集中はまるで間に合っていなかった。 「遅い!」 グウェンの槍が漂う者を突き上げる。耳障りな叫び声とも付かぬ異音を発し、掻き消えていった。 (これほどあっけないとは・・・ルーゼル様の見立て通りだ・・・) 飛べない悪魔――劣悪な地形の多い魔界においてグウェンの体は足枷でしかなかった。同族に馬鹿にされ、己の足がこの世で最も嫌いな物だった。悪魔の形は様々であったがグウェンの体はひと際「普通」と違い、中には本気で獣と思っていた悪魔もいたのだ。 「何故俺には、こんな醜い足しかないのか」自分の足を引きちぎろうとした事すらあった・・・・・・ 1体目を始末した後、スピードを落とすことなく軌道修正のみで立て続けに次の獲物を貫ぬく。グウェンは足に更なる力のみなぎりを感じて地を蹴った。 目前に現れた岩を軽やかに駆け上がり跳躍すると、高揚する心を抑えきれずにグウェンは叫んだ。 「我は魔王軍騎兵隊長、グウェンなりィィィーーーーー!」 パルスザンは精兵2名を引き連れ左翼にいた。大きめに回りこむだけで、地を這う者はみなルーゼルに殺到していた。 間合いをかすめる様に通過すると、漂う者はたった3体の悪魔相手に距離をとって魔法を放つ。 (まるでカラクリ人形だな、定められた動きしか出来ない。) パルスザンの任務は漂う者達が逃げぬように牽制し、グウェンの突撃をサポートする事にあった。 部下に巧に指示を出しながら、グウェンに身振りで追い込む位置を知らせる。この役目を軍師のパルスザンは黙々とこなした。 パルスザンにとって己の取った首級の数は問題ではない。地位におぼれることなく縁の下に徹することが出来る悪魔らしからぬ気質は、パルスザン最大の特徴でありルーゼルが信頼を寄せる理由にもなっていた。 (どれ程の力を持っていようと、戦略を持たぬ相手など何の脅威でもない。私はなんと未熟だったのか・・・) パルスザンは預かった軍の大半を失った自らを戒め、改めて主人ルーゼルの力と戦術を敬い喜んだ。 だが、パルスザンの自責は的を得ているとは言い難い。この作戦はルーゼルがあって初めて可能となるものだったからだ。 ルーゼルは力を取り戻しつつあった。群がる敵を一瞥すると大きく腕を振る。地を這う者の腕が、足が、肉片と体液とが飛び散り、地面が悲鳴を上げるような音を立てて引き裂かれ、ちぎれた草が舞った。 見えない巨大な鍵爪が、間合いに入ったもの全てを空間ごと引き裂いている様であった。 手が飛ぶ位で止まるような敵ではなかったが、2撃、3撃と重ねると小隊ごと肉塊と化した。 (ホルスのバカタレにもお見舞いしてやりたいが、後の楽しみとするか。) 時に後退しながら、時に敵一団の周りを旋回しながら、ルーゼルは「悪魔の爪」を叩き込み続けた。 地を這う物たちは動きの速いルーゼルに対し散開して囲もうとする事もなく、ただ殺到し砕かれた。 「昨日の屈辱をッ、全て晴らさせてもらうぞ!」 ルーゼルがハルトに到着し受けた報告は、戦力の2/3を失ったこと、殆ど戦果を挙げていないこと、押し込まれ続け戦線の維持も絶望的であることだった。 「そうか。」と一言答えたが、信頼してルートガルトに置いたパルスザンに対する苛立ちは消せなかった。 (壊滅状態ではないか、多少の不測には十分な軍勢を任せたはずだぞ。) 敗北に次ぐ敗北で消耗し、士気が著しく低下した兵達を確認すると、ルーゼルは直ちに出撃する事を決めた。 勝利により、士気と勢いを取り戻そうと思ったのである。ルーゼルの到着に沸いた今こそ好機であった。 移動する中規模部隊を横から強襲し、そのまま背後を取るように斜めに展開する。状態異常が通用しない事は報告で知っていたので、戦列を維持しながらゆっくりと後退しつつダークブレスの斉射で敵を飲み込んだ。 ルーゼルの最初の違和感はここであった。ダークブレスの影からするすると敵前線が接近してきた。地面をのたのた歩く敵が予想外のスピードで間合いを詰めてきたのである。 (く、もう接近戦か、もう少し削りたかったが・・・) 「波動!」 ルーゼルの号令に従い、デーモン達は近接攻撃主体へと移行した。 だが、敵の攻撃は苛烈で、鍛え上げられたデーモンたちの肉体を容赦なく引き裂いた。 馬鹿な・・・心のどこかで、ゾンビやマミーといったアンデットを想定していた・・・多少強い位だろうと・・・。 戦闘を開始してどのくらいの時が経ったろうか、僅かの間に阿鼻叫喚の地獄と化した戦場に、ルーゼルは現実味を失っていた。 最前線は次々と切り伏せられ、後ろから一個小隊の一斉射撃のように魔法をばら撒く別種の敵が空中を漂っている。 そこかしこで血を思わせる様な赤い渦巻く炎が上がり、渦の中央付近のデーモンは見る間に焼け落ちた。 パルスザンの「有効な攻撃が可能」との要請によりラザム戦線から同行させたグウェンは、何体かを串刺しにしたものの自身も満身創痍であった。 気が付くと、ルーゼルは効果が期待できないと報告を受けていた筈のナイトメアを放っていた。だが、そのおかげで自分がパニックによりただ立ち尽くしていたことにも気が付けた。 「退却!退却だ!全力で退却せよ!」 声の限り叫び、さながら壊走のような退却でハルトに戻ると、既に出撃した兵の1/4以上を失っていた。 主人を案じたパルスザンが近くに来ると、搾り出すような声で呟いた。 「パルスザン、今まで良くぞ持ち堪えた。」 その小一時間後のことである・・・ 「明日、早朝に出撃する!」 「しかし、たった今退却して来たばかりです。出撃できる兵が有りません」 「私と、パルスザン、グウェン、精兵一小隊のみにて出撃する。何とかかき集めろ。」 パルスザンとグウェンは訝しがったが、ルーゼルは冷静であった。 (この戦いで分かった事がある。私の力、思い知らせてくれる・・・) グウェンとパルスザンが最後の漂う者を地に沈めると、地を這う者もあらかた片付いていた。 昨日手酷くやられた相手を被害を出す事もなく殲滅したことで、勝利の予感が現実味を帯びてきた。 「さて、奴を殺しにいくか。最初からそうするつもりだったからな。」 斥候の報告では、死霊軍を指揮するムクガイヤは未だ無人となった王都に居るとの事であった。パルスザンの見立てではムクガイヤさえ討てば、統制の利かなくなった死霊どもは軍でなくなる筈である。 「無人の都で王様気分とは、哀れですな。」 グウェンがいななく様に鼻で笑った。 2階正面入口から大広間に入り、そのまま真直ぐに進むと謁見の間へと通じる階段がある。ルーゼルは悠然と階段を上がってゆく。 周辺の死霊は既に殲滅したが、王都に接近しつつある死霊軍の撃退にゼオンが苦戦しており、パルスザンとグウェンを向かわせていた。 階段を上がりきった部屋は、宮殿の中でもその部屋のみ一階分高く作られた最上階で、窓が多く戦争用とは言いがたい。シルクとコルクウールを使った織りの細かい上品な絨毯が階段から真直ぐに敷かれている。その先の王座には、身じろぎもせず座る影があった。 「どうだ、私を使って王になった気分は?お目にかかれて光栄とでも言っておこうか。もう死ぬがな、この卑種めが!」 ムクガイヤであった躯はゆるりと王座から立ち上がる。 ルーゼルが腕を振り上げたその時、躯から放射状に氷塊が飛びルーゼルを打った。 「グゥ!(重い!かなりの魔力が乗せられている。)」 氷塊に壁が砕かれ、謁見室の天井が落ちてくるとルーゼルと躯は外へと飛び出した。窓にはめられたグラゥスの細かい破片がキラキラと光りながら散り落ちる中、ルーゼルは空中で距離を詰める。 (こいつも漂う者の系統か。ならば接近戦でかたを付ける!) 眼下に広がる城下町に雷や隕石が雨のように降り注ぎ、悪魔の爪が塔を破壊する。世界の終わりのごとき激戦が無人の街を震わせた。 戦いの中、ルーゼルは不利を悟りつつあった。悪魔の爪は魔力を自身の攻撃力に乗せて放つ技であるが、敵の魔力に対する抵抗力が規格外に高かった。かといって闇の力も通用しない。 (何と言うことだ、これは相性が悪い。) 自分が敵わなければ、魔王軍に成すすべは無い。パルスザン達を始めとして全て飲み込まれてしまうであろう。 「俺様を侮辱した貴様にだけは負けるわけにはいかない!これでも食らいやがれ!」 ルーゼルは躯に掴みかかるとそのまま町の東門の見張り塔の壁に押し付け、身に宿る全ての魔力と生命力を活性化させ炸裂させた。 「ドゴォォォーーーー」 凄まじい音にパルスザンが振り返ると、王都に紅い火柱が上がっていた。 「ル、ルーゼル様・・・。あれは・・・敵の仕業なのか。あれほどの破壊力を奴は持っているのか。あれではルーゼル様は・・・」 「あれは、おそらく・・・ルーゼル様の自爆です。」 ハルトから援軍に来ていたリリックであった。 「自爆?ルーゼル様は無事なのか?」 「己の纏う魔力を外に打ち出すことなく直接炸裂させたのです。自らの血肉を爆発させるに同義なれば・・・・・・自身が助かるはずも在り申しません。」 「そ、そんなことが・・・」 「ここは引きましょう。先ずは体勢を立て直さなくてはなりません。これからの事も決めなければ・・・」 ---- - おっと題名を失敗した。 &br()対峙は王座でも爆発は町の外れなのです。 &br() -- 投稿者 (2011-02-04 21:58:15) - 的を得て、じゃなくて的を射て、な -- 名無しさん (2011-09-23 15:06:25) - 「的を得る」は「正鵠を得る」の派生であり間違いではない。 &br()得るを間違いとする理由は「的は射るものだから」であるが、この主張は「正鵠を得る」の存在に矛盾する。 &br()正鵠は的の中央の黒丸で「得る」は当たるを意味しているからである。中国の古典に「正鵠を失する」という言葉があり、当たり外れを得る失するで表現するのである。 &br()つまり的は射るものでも得る(当たる)ものでもあるので誤用の根拠が崩れる。 &br()「得る」と「射る」は語感が近く「当を得る」という近い意味の表現もあるので、それらも相まって性急に誤用だと確信されてしまったのではないかと、、 &br() &br()最近誤用が叫ばれるまで(テレビで見た気がします)、逆に「射る」の表現を使っていた人はかなり少なかったのでは? &br()憶測でしかありませんが、「得る」のほうが広く一般的に用いられているのは元々の表現が得るだったからではないかと、「当を得る」の影響の可能性もありますが、これはこれで「当」と「的」どちらが先なのか、、 &br()なお「的を射る」「正鵠を射る」も共にあって、古くから用いられていた言葉のようです。 -- 名無しさん (2011-10-01 01:38:56) - 誤用が有名になり、最近はまた射るが主流になってきた -- 名無しさん (2023-10-30 09:20:21) #comment(size=60,vsize=3) ----

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