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**&color(blue){ピヨンのクーデター} 辺り一面が白銀に覆われた大地を踏みしめる、一つの影があった。 その姿は吹き荒れる吹雪によって、おぼろげな輪郭しか捉えることができない。 だがその影は吹雪が弱まるにつれ、次第に数を増し、姿形を鮮明に浮かび上がらせる。 二体…三体…五体、十体と数を増やし、その数は十七にも及んだ。 皆例外無く体が雪のようにが白く、  ・・・というより、その姿はまさしく雪だるまそのものであった。 ザッザッザッザッザッ・・・・・・ 雪だるま達は無言で歩み続ける。 弱まっていた吹雪が息を吹き返したように少しずつ強まりだした。 冷たい雪が吹きかかるが、彼等は表情一つ変えずに真っ直ぐと突き進む。 突如、赤いマントを纏い、金の王冠を被った先頭の雪だるまが立ち止まった。 太い眉をピクリと動かしながら、その大きな目で眼前の城―――グリーン古城をじっと見つめる。 「ボクピヨン―――――」 吹雪が止む。 時間までもが止まったかのような静寂が辺りを包みこんだ。 ゆっくりとピヨンが右手を挙げる。 そして――― 「―――ヨロシクネ」 その言葉を合図に、アイスマン達は一斉に駆け出した。 ゴォォォォォォ……… もう一度息を吹き返した吹雪が、大きな音を立てて彼らの背を強く押した。 「また天気が荒れてきただわさ。しばらくここにいるだわさ」 「その方がいいですぅ。今外に出ると風邪をひいちゃいますぅ」 カルラとポートニックは、他愛もない会話をしながら、夕暮れ時の時間をのんびりと過ごしていた。 城に引き篭りがちのカルラには、ポートニックはとても良き友人である。 カルラは王国支配から独立を勝ち取った英雄の娘である為、グリーンの住民の支持も厚く、権力もあるのだ。が、当の本人はあまりの周囲からの期待と尊敬の念の大きさに「しくしく・・・」と大変お困りなのである。 それをポートニックはその賢者としての力だけでなく、政治方面でも遺憾なく力を発揮し、カルラを大いに助けた。 しかしポートニックを頼るあまり、カルラはますます『ひきこもりがち』になってしまっているのだが・・・。 『友を助けるのは当たり前』と、ポートニックは特にその事を気にしてはいなかった。 カルラにもいいところはたくさんあるのだ。 とはいえ、 「・・・カルラ、スノーベアは操れるようにはなっただわさ?」 いつまでもそうする訳にはいかない事がわからない彼女ではなかった。 カルラ自身が強くならなければ、カルラの為にもならないのだ。しかし… 「・・・スノーベアは怖いですぅ」 と、そっぽを向いてしまった。 「そんな事言ってたらいつまでたってもできないだわよ。ちょっとずつでも、練習しないといけないだわさ」 「・・・・・・」 黙り込んでしまった。 元々カルラは、何か嫌な事があるとすぐ逃げてしまう。 英雄という大きな存在が身近にいたため、カルラは自分に対する自身が無くなってしまったのだろう。 それがわかっていながら。 親友でありながら、ポートニックはどう言葉をかけてあげればいいのかわからなかった。 彼女自身も、今まで話すのを避けてしまっていたからだ。 「・・・・・・」 二人とも黙り込んでしまう。 窓の外では、吹雪がより激しさを増している。 それに気付いたポートニックが外の景色を覗いたのと、敵の襲撃を伝える声が城内に響きわたったのは同時であった。 雪の結晶を浴びたビーストテイマーが悲鳴をあげる。 たまらず、「やられた」「なんて強いんだ」と呟きながら、逃走してしまった。 城門付近では八体のアイスマンとビーストテイマー達の戦いが始まっていた。 高い精度とスピードをもってアイスマンに矢が迫る。が、それに氷の結晶が纏わりつき、その重みに逆らえず地面の雪に墜落する。 人数でアイスマンの小隊を上回っているはずのビーストテイマー達の必死な射撃も、アイスドラゴンのブレスを彷彿とさせるようなその密度ある攻撃に阻まれ、落とされた矢が積み重なっていくだけであった。 「うがぁぁぁぁ」 ビーストテイマーに率いられていたイエティが、一斉に突進を始めた。 地面を強く蹴り、そのパワーと重量に雪が沈む。 その巨体からは想像もつかないスピードでアイスマンに迫り、打撃を放った。が、あと拳一つ分の所で避けられる。 避けられても尚、野生の反射神経で第二撃を繰り出す。 しかし、またもや攻撃は外れた。 23体のイエティがアイスマンに殺到するが、何度やっても攻撃は当たらない。 それどころか、雪の結晶のダメージが蓄積されていく。 「うがぁぁっ、うがあああ」 雪の上を素早く動くことのできるイエティでも、滑る様に駆け回るアイスマンの速度についていけないのだ。 次第に怒り、乱暴に腕を振り回しながらアイスマンを追いかけるが、一定の距離から近づく事が出来ない。 「うがぁ・・うが・・・うわーー」 「ぎゃああああ」「もうダメだ」 ついには攻撃に耐えられずに逃げ出してしまった。それを見たビーストテイマー達も、同じように散開してしまう。 その隙を見逃さず、アイスマン達はがら空きの城内に突入すべく駆け出した。 素早い動きで、古城に足を踏み入れたその瞬間。 「トルネード!」 突如出現した竜巻に、八体のアイスマンは為す術も無く空中へ巻き上げられた。 空を裂く音を響かせ、竜巻は次第に大きさを増してゆく。 アイスマンはその強力な風に抗う事もできず、ぐるんぐるんと振り回された。 そして竜巻が消える。 回転から開放されたアイスマンは空中からボテボテと雪の上に落ちていった。 「悪いことした罰だわさ」 風の魔法による空中回転。 未知の体験に酔ったアイスマンの中には、気分の悪さから口から水を吐き出している者もいた。 しばらくは動くことが出来ないだろう。 「・・・・・?」 ポートニックは、アイスマン達の姿に違和感を覚えた。 このアイスマン達は見たことがある・・・と、すぐに気付く。 「ピヨンの部隊だわさ」 ピヨンは、君主であるカルラに忠誠を誓っているはず。 その部隊が、なぜグリーン古城を襲撃したのだろうか? カルラと話していた時にも、城内にピヨンやアイスマンの姿が無かった事を聞こうと思っていたのだが、結局聞き忘れてしまった。 八体のアイスマンの中にピヨンの姿も無く、 話せる状況になってから情報を引き出そうと思ったのだが・・・ 「上の階が騒がしいだわさ。・・・・・!?」 明らかな戦闘の音が、上階から聞こえてくる。 おかしい。この門を避けて進めるはずが・・・ 「しまった!」 なんて事だ。と口を手で覆う。 彼女にしては珍しく、動揺した表情を見せた。 ポートニックは一瞬にして城の外に飛び出すと、素早く城壁を見渡す。 そこには、氷によって作られた足場が階段のように作られていた。 カルラが危ない。 雪が体にかかるのも無視し、彼女は城壁に沿うようにカルラの元へ飛んでいった。 カルラのいる階層のビーストテイマーは、突然の襲撃に逃げ惑うばかりであった。 城門での戦闘が不利である事が他のテイマー達に伝えられると、風の賢者を含めほとんどの戦力がそちらに割かれた。 そうして手薄になった最上階に、直接侵入してくるとは誰も予想していなかったのだ。 たった九体のアイスマン。だが、連携の取れたアイスマンと、パニックに陥ったテイマー達ではまるで勝負にならず、 闇雲に攻撃をしかけるも全て打ち落とされ、撃退され続けている。 現状を打破するにはテイマー達に適切な指示を下し、戦略をもって戦う必要があるのだが、 それをすべき人物はというと 「怖いですぅ…」 泣きべそをかいていた。 指揮官が指揮を放棄するというのは、もはや敗北と同義である。 パニックに陥り正常な判断が行えなければ、例え完全に戦力が上回っていようとも勝つ事などできはしないのだ。 それどころかカルラは戦いから逃げ出し、階段を下りようとさえした。 しかしアイスマンに阻まれ、道を逆戻り。そして自分の部屋へと逃げ込んでしまった。 「もうだめですぅ。カルラはここで死ぬんですぅ」 もはや彼女は完全に諦めていた。 そして十秒もしないうちに、鍵を閉めた扉にアイスマンが押し寄せる。 扉を打ち壊すべく扉に襲いかかる豪打の音が、カルラの表情を恐怖に染めた。 「どうすればいいですか、どうすればいいですか」 具体的な解決策が見つかる事も無く、扉は無情にも打ち壊された。 「・・・・・・」 ポートニックは城の最上階の高さまで飛ぶと、破られた窓から廊下へと飛び込んだ その表情は今までに無く真剣そのもの。 そもそも、カルラにはピヨン率いるアイスマンによる強力な守りがあった。 氷の結晶で敵を牽制、近づく敵を氷付けにし、時にはその防御力をもってして身体を張って主君カルラを守る。 その護衛が敵になってしまっては、カルラには敵の攻撃から身を守る事ができないのだ。 どうしてピヨンが・・・と何度も考えたが、今はそれどころではない。静まり返った最上階の不審さに、焦りを募らせる。 下の階で駆け回る音が聞こえる。カルラは下にいるのだろうか? そう思い階段へと向おうとした時、カルラの部屋の前で壊された扉の残骸が目に入った。 まさか・・・! 「カルラ!」 全速力でその部屋へと飛ぶ。 三秒もしないうちに部屋の前へと辿り着いたポートニックが目にした光景は、彼女の予想を大きく覆していた。 「ボクピヨン、ヨロシクネ」 「もういいですぅ。顔をあげるですぅ」 床に跪き(片方の足を曲げた状態)、顔を伏せるアイスマン達。 何度も謝罪を繰り返すピヨンと、それに困ったように視線をきょろきょろと動かすカルラの姿だった。 「・・・何がどうなってるだわさ?」 「それが・・・」 「ボクピヨン、ヨロシクネ」 ピヨンの話によれば、要するにこうだ。 身勝手である事は重々承知である上で、カルラにグリーンの為、彼女自身の為にも主君として頑張ってほしい。という事だった。 無礼ではあるが、カルラに刺激を与え、変わる事のきっかけになればいいと思ったそうだ。 「ボクピヨン、ヨロシクネ」 そして、それによって自分が解雇、追放される事も覚悟の上だ。とピヨンは言った。 部下のアイスマンも同様であるらしく、落ち着いた物腰で彼らもピヨンに続いた。 処遇をどう決めるかは、全てカルラにある。 「そんな事言わないでください。カルラが悪かったですぅ」 考える素振りもみせず…さも当たり前の様に、許しは出たのだった。 この騒動が起きてまもなく、カルラはポートニックと共にモンスターを使役する練習を熱心に始めた。 スノーベアだけでなく、オークやマンティコア、扱いが難しいとされるグリフォンも完璧に操ってみせた。 カルラの物覚えのよさに、ポートニックは英雄の血がカルラにも流れているのだろうと感心し、 ほどなくしてカルラはビーストテイマーとして一人前となったのだった。 そんなある日、魔界から召還された悪魔にグリーン古城は占拠されてしまう。 命からがら逃げ出したグリーン・ウルスの人々は、故郷の奪還を目指し魔族と戦う決意を固めていた。 そんな中。 「カルラは戦いたくないのですぅ…」 「駄目だわよ!一緒に戦うんだわさ!」 「ボクピヨン、ヨロシクネ」 あくまでも魔族と戦う事を嫌がるカルラに、二人は必死の説得を試みる。 カルラの出陣は味方の士気を上げるためにも必要不可欠なのだ。 しぶしぶ承諾したカルラだが、その表情は暗かった。 一人前のビーストテイマーとなってなお臆病なこの性格は、いつか改善される日が来るのだろうか。 今日も彼女は、戦場で逃げる隙をうかがっている。 「やっぱりカルラは不幸の星の下に生まれてるんですぅ!」 ---- #comment(size=60,vsize=3) ----
**&color(blue){ピヨンのクーデター} 辺り一面が白銀に覆われた大地を踏みしめる、一つの影があった。 その姿は吹き荒れる吹雪によって、おぼろげな輪郭しか捉えることができない。 だがその影は吹雪が弱まるにつれ、次第に数を増し、姿形を鮮明に浮かび上がらせる。 二体…三体…五体、十体と数を増やし、その数は十七にも及んだ。 皆例外無く体が雪のようにが白く、  ・・・というより、その姿はまさしく雪だるまそのものであった。 ザッザッザッザッザッ・・・・・・ 雪だるま達は無言で歩み続ける。 弱まっていた吹雪が息を吹き返したように少しずつ強まりだした。 冷たい雪が吹きかかるが、彼等は表情一つ変えずに真っ直ぐと突き進む。 突如、赤いマントを纏い、金の王冠を被った先頭の雪だるまが立ち止まった。 太い眉をピクリと動かしながら、その大きな目で眼前の城―――グリーン古城をじっと見つめる。 「ボクピヨン―――――」 吹雪が止む。 時間までもが止まったかのような静寂が辺りを包みこんだ。 ゆっくりとピヨンが右手を挙げる。 そして――― 「―――ヨロシクネ」 その言葉を合図に、アイスマン達は一斉に駆け出した。 ゴォォォォォォ……… もう一度息を吹き返した吹雪が、大きな音を立てて彼らの背を強く押した。 「また天気が荒れてきただわさ。しばらくここにいるだわさ」 「その方がいいですぅ。今外に出ると風邪をひいちゃいますぅ」 カルラとポートニックは、他愛もない会話をしながら、夕暮れ時の時間をのんびりと過ごしていた。 城に引き篭りがちのカルラには、ポートニックはとても良き友人である。 カルラは王国支配から独立を勝ち取った英雄の娘である為、グリーンの住民の支持も厚く、権力もあるのだ。が、当の本人はあまりの周囲からの期待と尊敬の念の大きさに「しくしく・・・」と大変お困りなのである。 それをポートニックはその賢者としての力だけでなく、政治方面でも遺憾なく力を発揮し、カルラを大いに助けた。 しかしポートニックを頼るあまり、カルラはますます『ひきこもりがち』になってしまっているのだが・・・。 『友を助けるのは当たり前』と、ポートニックは特にその事を気にしてはいなかった。 カルラにもいいところはたくさんあるのだ。 とはいえ、 「・・・カルラ、スノーベアは操れるようにはなっただわさ?」 いつまでもそうする訳にはいかない事がわからない彼女ではなかった。 カルラ自身が強くならなければ、カルラの為にもならないのだ。しかし… 「・・・スノーベアは怖いですぅ」 と、そっぽを向いてしまった。 「そんな事言ってたらいつまでたってもできないだわよ。ちょっとずつでも、練習しないといけないだわさ」 「・・・・・・」 黙り込んでしまった。 元々カルラは、何か嫌な事があるとすぐ逃げてしまう。 英雄という大きな存在が身近にいたため、カルラは自分に対する自身が無くなってしまったのだろう。 それがわかっていながら。 親友でありながら、ポートニックはどう言葉をかけてあげればいいのかわからなかった。 彼女自身も、今まで話すのを避けてしまっていたからだ。 「・・・・・・」 二人とも黙り込んでしまう。 窓の外では、吹雪がより激しさを増している。 それに気付いたポートニックが外の景色を覗いたのと、敵の襲撃を伝える声が城内に響きわたったのは同時であった。 雪の結晶を浴びたビーストテイマーが悲鳴をあげる。 たまらず、「やられた」「なんて強いんだ」と呟きながら、逃走してしまった。 城門付近では八体のアイスマンとビーストテイマー達の戦いが始まっていた。 高い精度とスピードをもってアイスマンに矢が迫る。が、それに氷の結晶が纏わりつき、その重みに逆らえず地面の雪に墜落する。 人数でアイスマンの小隊を上回っているはずのビーストテイマー達の必死な射撃も、アイスドラゴンのブレスを彷彿とさせるようなその密度ある攻撃に阻まれ、落とされた矢が積み重なっていくだけであった。 「うがぁぁぁぁ」 ビーストテイマーに率いられていたイエティが、一斉に突進を始めた。 地面を強く蹴り、そのパワーと重量に雪が沈む。 その巨体からは想像もつかないスピードでアイスマンに迫り、打撃を放った。が、あと拳一つ分の所で避けられる。 避けられても尚、野生の反射神経で第二撃を繰り出す。 しかし、またもや攻撃は外れた。 23体のイエティがアイスマンに殺到するが、何度やっても攻撃は当たらない。 それどころか、雪の結晶のダメージが蓄積されていく。 「うがぁぁっ、うがあああ」 雪の上を素早く動くことのできるイエティでも、滑る様に駆け回るアイスマンの速度についていけないのだ。 次第に怒り、乱暴に腕を振り回しながらアイスマンを追いかけるが、一定の距離から近づく事が出来ない。 「うがぁ・・うが・・・うわーー」 「ぎゃああああ」「もうダメだ」 ついには攻撃に耐えられずに逃げ出してしまった。それを見たビーストテイマー達も、同じように散開してしまう。 その隙を見逃さず、アイスマン達はがら空きの城内に突入すべく駆け出した。 素早い動きで、古城に足を踏み入れたその瞬間。 「トルネード!」 突如出現した竜巻に、八体のアイスマンは為す術も無く空中へ巻き上げられた。 空を裂く音を響かせ、竜巻は次第に大きさを増してゆく。 アイスマンはその強力な風に抗う事もできず、ぐるんぐるんと振り回された。 そして竜巻が消える。 回転から開放されたアイスマンは空中からボテボテと雪の上に落ちていった。 「悪いことした罰だわさ」 風の魔法による空中回転。 未知の体験に酔ったアイスマンの中には、気分の悪さから口から水を吐き出している者もいた。 しばらくは動くことが出来ないだろう。 「・・・・・?」 ポートニックは、アイスマン達の姿に違和感を覚えた。 このアイスマン達は見たことがある・・・と、すぐに気付く。 「ピヨンの部隊だわさ」 ピヨンは、君主であるカルラに忠誠を誓っているはず。 その部隊が、なぜグリーン古城を襲撃したのだろうか? カルラと話していた時にも、城内にピヨンやアイスマンの姿が無かった事を聞こうと思っていたのだが、結局聞き忘れてしまった。 八体のアイスマンの中にピヨンの姿も無く、 話せる状況になってから情報を引き出そうと思ったのだが・・・ 「上の階が騒がしいだわさ。・・・・・!?」 明らかな戦闘の音が、上階から聞こえてくる。 おかしい。この門を避けて進めるはずが・・・ 「しまった!」 なんて事だ。と口を手で覆う。 彼女にしては珍しく、動揺した表情を見せた。 ポートニックは一瞬にして城の外に飛び出すと、素早く城壁を見渡す。 そこには、氷によって作られた足場が階段のように作られていた。 カルラが危ない。 雪が体にかかるのも無視し、彼女は城壁に沿うようにカルラの元へ飛んでいった。 カルラのいる階層のビーストテイマーは、突然の襲撃に逃げ惑うばかりであった。 城門での戦闘が不利である事が他のテイマー達に伝えられると、風の賢者を含めほとんどの戦力がそちらに割かれた。 そうして手薄になった最上階に、直接侵入してくるとは誰も予想していなかったのだ。 たった九体のアイスマン。だが、連携の取れたアイスマンと、パニックに陥ったテイマー達ではまるで勝負にならず、 闇雲に攻撃をしかけるも全て打ち落とされ、撃退され続けている。 現状を打破するにはテイマー達に適切な指示を下し、戦略をもって戦う必要があるのだが、 それをすべき人物はというと 「怖いですぅ…」 泣きべそをかいていた。 指揮官が指揮を放棄するというのは、もはや敗北と同義である。 パニックに陥り正常な判断が行えなければ、例え完全に戦力が上回っていようとも勝つ事などできはしないのだ。 それどころかカルラは戦いから逃げ出し、階段を下りようとさえした。 しかしアイスマンに阻まれ、道を逆戻り。そして自分の部屋へと逃げ込んでしまった。 「もうだめですぅ。カルラはここで死ぬんですぅ」 もはや彼女は完全に諦めていた。 そして十秒もしないうちに、鍵を閉めた扉にアイスマンが押し寄せる。 扉を打ち壊すべく扉に襲いかかる豪打の音が、カルラの表情を恐怖に染めた。 「どうすればいいですか、どうすればいいですか」 具体的な解決策が見つかる事も無く、扉は無情にも打ち壊された。 「・・・・・・」 ポートニックは城の最上階の高さまで飛ぶと、破られた窓から廊下へと飛び込んだ その表情は今までに無く真剣そのもの。 そもそも、カルラにはピヨン率いるアイスマンによる強力な守りがあった。 氷の結晶で敵を牽制、近づく敵を氷付けにし、時にはその防御力をもってして身体を張って主君カルラを守る。 その護衛が敵になってしまっては、カルラには敵の攻撃から身を守る事ができないのだ。 どうしてピヨンが・・・と何度も考えたが、今はそれどころではない。静まり返った最上階の不審さに、焦りを募らせる。 下の階で駆け回る音が聞こえる。カルラは下にいるのだろうか? そう思い階段へと向おうとした時、カルラの部屋の前で壊された扉の残骸が目に入った。 まさか・・・! 「カルラ!」 全速力でその部屋へと飛ぶ。 三秒もしないうちに部屋の前へと辿り着いたポートニックが目にした光景は、彼女の予想を大きく覆していた。 「ボクピヨン、ヨロシクネ」 「もういいですぅ。顔をあげるですぅ」 床に跪き(片方の足を曲げた状態)、顔を伏せるアイスマン達。 何度も謝罪を繰り返すピヨンと、それに困ったように視線をきょろきょろと動かすカルラの姿だった。 「・・・何がどうなってるだわさ?」 「それが・・・」 「ボクピヨン、ヨロシクネ」 ピヨンの話によれば、要するにこうだ。 身勝手である事は重々承知である上で、カルラにグリーンの為、彼女自身の為にも主君として頑張ってほしい。という事だった。 無礼ではあるが、カルラに刺激を与え、変わる事のきっかけになればいいと思ったそうだ。 「ボクピヨン、ヨロシクネ」 そして、それによって自分が解雇、追放される事も覚悟の上だ。とピヨンは言った。 部下のアイスマンも同様であるらしく、落ち着いた物腰で彼らもピヨンに続いた。 処遇をどう決めるかは、全てカルラにある。 「そんな事言わないでください。カルラが悪かったですぅ」 考える素振りもみせず…さも当たり前の様に、許しは出たのだった。 この騒動が起きてまもなく、カルラはポートニックと共にモンスターを使役する練習を熱心に始めた。 スノーベアだけでなく、オークやマンティコア、扱いが難しいとされるグリフォンも完璧に操ってみせた。 カルラの物覚えのよさに、ポートニックは英雄の血がカルラにも流れているのだろうと感心し、 ほどなくしてカルラはビーストテイマーとして一人前となったのだった。 そんなある日、魔界から召還された悪魔にグリーン古城は占拠されてしまう。 命からがら逃げ出したグリーン・ウルスの人々は、故郷の奪還を目指し魔族と戦う決意を固めていた。 そんな中。 「カルラは戦いたくないのですぅ…」 「駄目だわよ!一緒に戦うんだわさ!」 「ボクピヨン、ヨロシクネ」 あくまでも魔族と戦う事を嫌がるカルラに、二人は必死の説得を試みる。 カルラの出陣は味方の士気を上げるためにも必要不可欠なのだ。 しぶしぶ承諾したカルラだが、その表情は暗かった。 一人前のビーストテイマーとなってなお臆病なこの性格は、いつか改善される日が来るのだろうか。 今日も彼女は、戦場で逃げる隙をうかがっている。 「やっぱりカルラは不幸の星の下に生まれてるんですぅ!」 ---- - ピヨンが水に無敵だった時代に書かれたSSのようだ -- 名無しさん (2023-11-30 12:07:56) #comment(size=60,vsize=3) ----

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