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**&color(blue){セレンのお勉強} パーサの森に特設された陣屋。そこで、青竜の騎士は分厚い本の山を前に頬杖つき、 そのうちの一冊を汚いものでも触るように恐る恐る開き、覗き込む。 セレン「うう……これ、古代エルフ語かなんか?」 アーシャ「ちゃんとリュッセルの公用語で描かれていますよ」 今日の教師役はアーシャであった。この本の山を用意したのも彼女である。 セレン「いや、でも冗談だよね? これ全部消化するの?」 アーシャ「アルティナ様ならばこのくらい半日で読破していましたよ」 セレン「う…わかった。やってみる」 青竜の騎士は巨大な敵に挑んだ。結果は…惨敗。 セレン「もうだめぇ~。わけわかんない」 アーシャ「もう、仕方ありませんね。では、私がレクチャーしてさしあげます」 セレン「うん、それなら多少はラクができるかも」 白い神官は黒い木でできた板に白墨を走らせ、教鞭で、左上の文字を指し示す。 アーシャ「まず、君主としての心構えからです。セレン。君主にとって一番大事なのはなんですか?」 セレン「理想です! そしてアルティナ様の理想こそ至上! ああアルティナさまあああああーーー!!」 条件反射のように、白墨が飛んできて、セレンの眉間にビシッとヒットする。 セレン「あうっ」 アーシャ「そうですね。高き理想もまた大事です。でも、まず大事なのは民に安寧をもたらすことです」 セレン「大丈夫! アルティナ様の理想は、全ての民に安寧をもたらします! あああるティナあうっ!」 本日二本目。 アーシャ「話を進めます。民に安寧をもたらすにはどうすればよいか? それは、国を豊かにすること、 不義を働かないこと、そしてなにより、戦争をしないことです」 セレン「またはじまったよ、これだから聖職者は」 無言のまま白い神官は威圧する視線を飛ばす。青の竜騎士は、何処吹く風というようにそれをかわす。 アーシャ「あなた、今、私がアルティナ様の行動を否定したことに気づきましたか?」 セレン「なんですって! それは許せない! 撤回しなさいっ! さもなくば…」 生徒が火竜剣に手をかけるのを見て、アーシャは満足したような表情になり、 アーシャ「セレン。その剣はどこで手に入れましたか?」 セレン「これは、父様から譲り受けた剣……だったらいいんだけど、騎士団から支給されました」 アーシャ「では、騎士団に剣を送り届けるのは誰ですか?」 セレン「リュッセルの鍛冶屋さん?」 アーシャ「そうです。そして、彼らが無事に鍛冶仕事をするために、リュッセルの地を誰かが守らなくてはなりません。 今はそれをガルダーム殿が担っておいでです。火竜剣を作るためには、良質な鉱物を採掘しなくてなりません。 食料、飛竜の調達と運搬、街道の整備、その他にも、様々な人の助けがなくては、 騎士団は戦争することもままらないのです」 セレン「そ、そんなことわかってます!」 アーシャ「ですが、そんな私たちを支えてくれる人々のほとんどは、戦争をすることを嫌っています」 セレン「そうなの?」 教鞭を持つ手を下げ、やれやれといったふうにため息を吐きながら白い神官は一呼吸つき、次の言葉を発する。 アーシャ「いいですか? セレン。全ての人があなたやアルティナ様のような恵まれた存在ではないのです。 ほとんどの人間は自分の限界を知り、戦や病に怯えながら社会の歯車として懸命に働き、人知れず死んでいきます。 彼らにとって重要なのは日々の糧と身の安全です。彼らは戦争は嫌なのです。戦争ともなれば、税は重くなり、労働の量も増え、 危険に晒され、疲弊します。アルティナ様は彼らの感情に働きかけつつも、善政を行い、 民に戦争に参加させる気運と戦争継続できるだけの国力を維持してこられました。ですが、彼女はもういません」 セレン「……」 アーシャ「結論から言うと、理想だけでは人はついて来ません。寄るべきところであるリュッセルの地を 流賊や悪魔に奪われれば、騎士団は崩壊します。リュッセルに残された人々は、そもそも 戦争自体が嫌なのです。あなたには政治の才はない。そして、さらに、アルティナ様ほどのカリスマもない。 既に有事であるゆえ致し方なしとも言えますが、それでもあなたには戦火を広げないように努める義務があります」 セレン「でも、パーサを解放すれば…」 アーシャ「確かに、それは騎士団の名声を高める一因にはなるでしょう。ですが、戦争の勝利と同意義ではありません。 既に、大いなる力の半数が破壊され、四海の諸侯はその力が世界を滅ぼす脅威としては眉唾物であると見ています」 セレン「そうなの?」 アーシャ「そうです。私たちはリュッセルの民と土地を守る義務を負っています。そして、私たちにリュッセルを見捨ててまで パーサを救う義理はない。恐らく、このままでは戦力が不足して、ガルダーム殿のみではリュッセルは守りきれないでしょう。 こういった理由から、私は都督代に撤退を進言いたします」 セレン「却下」 アーシャ「なぜですか?」 セレン「だって、アルティナ様がパーサ解放するって言ってたし」 アーシャ「では、あなたは、アルティナ様がこのままリュッセルを見捨てるとお思いですか?」 セレン「だって…そんなこと言ったって……」 青の竜騎士は帽子を目深にかぶりうつむく。 アーシャ「今日はここまでにしましょう。アルティナ様の理想に近づきたいのならば、それ相応の 素養を身につけてください。リューネの将兵はあなたに期待しています。では……」 白い神官は恭しく礼をして去っていった。セレンは虚空を仰ぐ。 セレン「アルティナ様……わたしじゃ、アルティナ様の代わりにはなれないの?」 ---- - 頑張れ、セレン。 -- 名無しさん (2012-08-04 11:14:36) #comment(size=60,vsize=3) ----
**&color(blue){セレンのお勉強} パーサの森に特設された陣屋。そこで、青竜の騎士は分厚い本の山を前に頬杖つき、 そのうちの一冊を汚いものでも触るように恐る恐る開き、覗き込む。 セレン「うう……これ、古代エルフ語かなんか?」 アーシャ「ちゃんとリュッセルの公用語で描かれていますよ」 今日の教師役はアーシャであった。この本の山を用意したのも彼女である。 セレン「いや、でも冗談だよね? これ全部消化するの?」 アーシャ「アルティナ様ならばこのくらい半日で読破していましたよ」 セレン「う…わかった。やってみる」 青竜の騎士は巨大な敵に挑んだ。結果は…惨敗。 セレン「もうだめぇ~。わけわかんない」 アーシャ「もう、仕方ありませんね。では、私がレクチャーしてさしあげます」 セレン「うん、それなら多少はラクができるかも」 白い神官は黒い木でできた板に白墨を走らせ、教鞭で、左上の文字を指し示す。 アーシャ「まず、君主としての心構えからです。セレン。君主にとって一番大事なのはなんですか?」 セレン「理想です! そしてアルティナ様の理想こそ至上! ああアルティナさまあああああーーー!!」 条件反射のように、白墨が飛んできて、セレンの眉間にビシッとヒットする。 セレン「あうっ」 アーシャ「そうですね。高き理想もまた大事です。でも、まず大事なのは民に安寧をもたらすことです」 セレン「大丈夫! アルティナ様の理想は、全ての民に安寧をもたらします! あああるティナあうっ!」 本日二本目。 アーシャ「話を進めます。民に安寧をもたらすにはどうすればよいか? それは、国を豊かにすること、 不義を働かないこと、そしてなにより、戦争をしないことです」 セレン「またはじまったよ、これだから聖職者は」 無言のまま白い神官は威圧する視線を飛ばす。青の竜騎士は、何処吹く風というようにそれをかわす。 アーシャ「あなた、今、私がアルティナ様の行動を否定したことに気づきましたか?」 セレン「なんですって! それは許せない! 撤回しなさいっ! さもなくば…」 生徒が火竜剣に手をかけるのを見て、アーシャは満足したような表情になり、 アーシャ「セレン。その剣はどこで手に入れましたか?」 セレン「これは、父様から譲り受けた剣……だったらいいんだけど、騎士団から支給されました」 アーシャ「では、騎士団に剣を送り届けるのは誰ですか?」 セレン「リュッセルの鍛冶屋さん?」 アーシャ「そうです。そして、彼らが無事に鍛冶仕事をするために、リュッセルの地を誰かが守らなくてはなりません。 今はそれをガルダーム殿が担っておいでです。火竜剣を作るためには、良質な鉱物を採掘しなくてなりません。 食料、飛竜の調達と運搬、街道の整備、その他にも、様々な人の助けがなくては、 騎士団は戦争することもままらないのです」 セレン「そ、そんなことわかってます!」 アーシャ「ですが、そんな私たちを支えてくれる人々のほとんどは、戦争をすることを嫌っています」 セレン「そうなの?」 教鞭を持つ手を下げ、やれやれといったふうにため息を吐きながら白い神官は一呼吸つき、次の言葉を発する。 アーシャ「いいですか? セレン。全ての人があなたやアルティナ様のような恵まれた存在ではないのです。 ほとんどの人間は自分の限界を知り、戦や病に怯えながら社会の歯車として懸命に働き、人知れず死んでいきます。 彼らにとって重要なのは日々の糧と身の安全です。彼らは戦争は嫌なのです。戦争ともなれば、税は重くなり、労働の量も増え、 危険に晒され、疲弊します。アルティナ様は彼らの感情に働きかけつつも、善政を行い、 民に戦争に参加させる気運と戦争継続できるだけの国力を維持してこられました。ですが、彼女はもういません」 セレン「……」 アーシャ「結論から言うと、理想だけでは人はついて来ません。寄るべきところであるリュッセルの地を 流賊や悪魔に奪われれば、騎士団は崩壊します。リュッセルに残された人々は、そもそも 戦争自体が嫌なのです。あなたには政治の才はない。そして、さらに、アルティナ様ほどのカリスマもない。 既に有事であるゆえ致し方なしとも言えますが、それでもあなたには戦火を広げないように努める義務があります」 セレン「でも、パーサを解放すれば…」 アーシャ「確かに、それは騎士団の名声を高める一因にはなるでしょう。ですが、戦争の勝利と同意義ではありません。 既に、大いなる力の半数が破壊され、四海の諸侯はその力が世界を滅ぼす脅威としては眉唾物であると見ています」 セレン「そうなの?」 アーシャ「そうです。私たちはリュッセルの民と土地を守る義務を負っています。そして、私たちにリュッセルを見捨ててまで パーサを救う義理はない。恐らく、このままでは戦力が不足して、ガルダーム殿のみではリュッセルは守りきれないでしょう。 こういった理由から、私は都督代に撤退を進言いたします」 セレン「却下」 アーシャ「なぜですか?」 セレン「だって、アルティナ様がパーサ解放するって言ってたし」 アーシャ「では、あなたは、アルティナ様がこのままリュッセルを見捨てるとお思いですか?」 セレン「だって…そんなこと言ったって……」 青の竜騎士は帽子を目深にかぶりうつむく。 アーシャ「今日はここまでにしましょう。アルティナ様の理想に近づきたいのならば、それ相応の 素養を身につけてください。リューネの将兵はあなたに期待しています。では……」 白い神官は恭しく礼をして去っていった。セレンは虚空を仰ぐ。 セレン「アルティナ様……わたしじゃ、アルティナ様の代わりにはなれないの?」 ---- - 頑張れ、セレン。 -- 名無しさん (2012-08-04 11:14:36) - ↑ &br()ありがとう、頑張る -- 名無しさん (2022-01-15 01:26:15) #comment(size=60,vsize=3) ----

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