おい、フーリン


「おい、フーリン。竜騎士どもを殺してこい」
「わかりやした!」
クイニック⇔リュッセル間の海峡での何度目かの空中戦。大義に燃える竜騎士たちは
善戦するも百戦練磨の悪魔たちに押されつつあった。とりわけ、悪魔たちの中で花形とも
いえる戦いぶりをしていたのが最速の悪魔・フーリンであった。
「シェアアア!」
「は、速い!」
竜騎士たちは大陸でも駿速で鳴る精鋭たちであったが、彼ほどの相手と戦ったことは無かった。
爆音に近い風切り音を上げつつ迫る黒影。その速度を一切殺さずに投げつけられる槍は狙い違わず
三騎を射ち落とし、続いて繰り出される蹴りは歴戦の将を叩き落とした。
「ヒュウ♪ 竜騎士ってのも大したことねぇなぁ」
槍を投げ尽くした彼は一度、本陣に戻ることにした。身軽になった体を風に遊ばせつつ、
楽しげに、どこか物足りなさそうに西の空へと消えていった。
「我が軍の攻勢に、奴らは成す術なしです。
 ここは一気にリュッセルへの上陸を図るべきかと」
常に慎重なパルスザンが更なる攻勢を示唆してきた。今がその時。悪魔たちは勇み立つ。
「……そうか。さっさとケリをつけよう……。
 おい、フーリン。あの赤毛の小娘を殺してこい」
「了解!」
リュッセル北での戦いがはじまった。魔軍優勢の状況は、未だ覆らない。
「フーリンの野郎にばっかいい格好させるな。野郎ども、殺りまくれ!」
「イーッ!」
ショハードの隊が自慢の豪弓にて矢の雨を降らす。それだけで何騎もの竜騎士が戦闘不能になる。
戦功を譲るまいとしたその斉射が皮肉にもフーリンを援護する形となった。
「我が隊も防ぎ矢をいたせ!」「速い! 奴だ! フーリンが来たぞ!」「馬鹿言え、誰が追いつけるんだ!」
最低限の装備で飛び出したフーリンは雑魚には目もくれない。目指すはただひとり。
「奴の狙いは御館様だ! セレン、我が隊ではお前が一番速い。行け!」
「間に合え……間に合ぇーーー!!」
間に合う筈も無い。フーリンは早くも目標を捉えていた。投げ槍に手をかける。
忙しなく指示を飛ばすアルティナはこちらに気付いてすらいない。チャンスだ。
「白銀の結晶よ。天空を貫け。ブリザード!」
「!?」
リューネ、魔王軍双方にとって予想だにしない援軍が駆けつけた。その魔力――絶大。
「フーリンが死んだ!」
「馬鹿、まだ死んでねぇよ」
だが、フーリンは大きなダメージを受けた。そこに、鬼気迫る形相の青竜の騎士が追いついてきた。
「アルティナ様を傷つける奴は、許さない!」
負傷しているとはいえ、フーリンを相手に一歩も退かぬ戦いぶりをする。
これ以上は無理か。舌打ちし、だが、どこか楽しげにフーリンは退却していった。
危機から脱し、心強い援軍を得たリューネ騎士団は盛り返し、
悪魔たちをリュッセルから追い出すことに成功した。
「作戦を練り直す必要がありますね。一度退きましょう」
「……そうか。止むを得まい」



  • 俺はどこまでも行ける…はず -- 名無しさん (2012-08-04 13:11:12)
  • つえー -- 名無しさん (2023-04-30 11:18:22)
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最終更新:2023年04月30日 11:18