吸血魔導


ルートガルト王城地下、薄暗い部屋の中心に描かれた魔法陣にゾーマは立っていた。
かつては拷問室として使われたこの部屋の壁は、
脈動する魔法陣の仄かな光に照らされ、朱く染まっている。
かつての血のなごりか所々に黒染みが見えるこの部屋は、不気味な程ゾーマに似合っていた。
目を瞑り、微かに聞こえる程度の小さな呪文を唱える彼の額にはうっすらと汗が滲む。
言葉に合わせて陣を這う様な朱い光が次第に強くなって行く。
手をかざし、少し強く握る。光が集約し手の中へ集まり部屋は暗闇に閉ざされた。
ゾーマが小さく溜息をつきランプをつけると、不意に手を叩く音が部屋にこだました。
ムクガイヤ「どうやら、成功したようだな。」
ちらりと扉に目をやるが、開けられた形跡は無い。
如何なる方法をとった物か、部屋の隅にいなかったはずのムクガイヤが寄り掛かる様に立っていた。
ゾーマ「吸血魔導は我が研究の要。研鑽は常に必要だ。」
水差しからコップに水を入れ、一息に飲み下す。
椅子に座り己の主たるムクガイヤを一瞥する。
総合的魔力には劣る物の、事に外法に於いてはゾーマは他の追従を許さない。
その自負故の主君への慇懃な態度である。
ムクガイヤ「実験材料は足りているか?」
主君を立たせたまま自分だけ椅子に座るという態度を気にも留めず、ムクガイヤは質問する。
実力主義であるが故、成果を貪欲に求め続けるゾーマをムクガイヤは評価している。
多少の無礼など気にする事では無い。
ゾーマ「…人間相手では、ほぼ完璧であろう。魔なる者に対する効果の低下は否めんがな。」
不満そうなゾーマの様子にムクガイヤは静かに笑う。
闇の眷属であり魔なる者、即ち悪魔に闇魔術が効かないのは自明の理なのだが、
ゾーマはそれさえも越えたい様だ。
なんという傲慢
なんという強欲
だが、それこそがムクガイヤが求める正しき魔術師の姿でもあった。
ムクガイヤ「悪魔の死骸、捕虜を集めておこう。」
ゾーマ「…感謝する。」
ゾーマが二杯目の水を飲み終えた時、既にムクガイヤの姿は部屋に無かった。



  • ムウムウ -- 名無しさん (2020-03-17 22:09:22)
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最終更新:2020年03月17日 22:09