王の帰還


ムクガイヤの勢力は完全に抵抗する力を失った。満を持して入城するゴート。
ここに、王の帰還がなされたのである。
「ゴートさま。王都へのご帰還、全ての臣民を代表してお喜び申し上げます」
「ご苦労、イオナ。ムクガイヤもこうなってしまえばいっそ哀れだな」
既に事切れているムクガイヤの亡骸を尻目に、ゴートは玉座を見やる。
玉座。ゴートが追われ、求め、そしてついに取り戻した座である。
そういえば、父王の突然の崩御のせいで戴冠式もなく、ゴートはまだ玉座に座した経験はなかった。
ゆっくりと腰を下ろす。小柄な彼にはやや大きすぎるこの玉座は王としての責務の大きさを物語っている
かのようであった。
「王……か。今まではこの玉座を取り戻すことにのみ専心してきたが、これからは
 私がいかに王として責務を果たせるかが試されるのだな」
「ゴートさまならきっと、よい<キング>に成られるでしょう。
 いえ、既にゴートさまは私たちの<キング>であらせられます。
 ゴートさま。戦争をチェスに喩えたことはございますか?」
「ふむ、確かに。今までの戦いでも私という<キング>を失えばその時点で
 戦争は負けであっただろう。だが、戦争をゲームと一緒に考えるのは良くないのではないか?」
「いいえ、戦争はゲームです。」
慈悲深い彼女が、戦争をゲームだと言う。そして話がどこか噛みあわない。ゴートはいぶかしんだ。
「君らしくもないな。私たちは多くの地をこの脚で歩き、多くの人々と会ってきた。戦乱にあえぎ、
 私たちに光を求める人々を。志半ばで散っていった者もいた。彼らの悲願に報いるために私たちは
 ここにいるのではないのか?」
イオナは呆れた様にふるふると首をふる。彼女がこんな態度をしたことは今までになかった。
「ええ、ある者は違え、ある者は狂い、殺し、殺され、奪い、失い……。歪な世界を形作る。
 そして、<キング>はそれらを弄ぶ。人々の苦悶と悲鳴こそが貴方の望みなのですから」
「なにを言って……」

「覚えておられないのですか?はじめて私を抱いてくださった、あの夜を。
 貴方はマクラヌスの呪いに中てられたというのに、それはもう元気で……。
 その中で、いろんなことをおっしゃっていましたね。
『戦争なんてチェスと同じだ』『自分は駒を動かしただけだ』
 なんて……。戦場で見てきたものは、貴方には辛すぎたようでしたわね。
 貴方の采配ミスで多くの兵が死んで、それの言い逃れにあんな子供じみたことを。
 ところで、貴方が<キング>だとして、<キング>という駒を動かしているのは誰かしら?」
「……イオナ、君は一体」
「そう。貴方という<キング>を動かしていたのはこの私。敵の<キング>が敗れた今、
 新しい敵を作り、次のゲームをはじめなくてはなりません。
 『魂は光を投げかけ、死はその影となる。光がかすれていくとき、生と死は一つとなる。』」
イオナの手がムクガイヤの亡骸に触れる。冷たくなったその体が影のようなものに覆われ、
そこに、邪悪という概念を模したような存在が出現する。
「死霊術!?」
「さあ、殺し合いをしなさい。全ての生命、全ての魂は私のために永遠に踊り続けるのです。」
「GUOOOOOO…………」

かつて、世界はひとつでした。ひとつであった頃の世界はこの上なく平和で、安定していました。
でも、平和なんてつまらない、と私は思ったんです。だから、私は私自身を二つに引き裂きました。
二つになった私たちは世界という<チェス盤>を挟んで<禁じられた遊び>をすることにしました。
たくさんの捨て駒たち。それを導く<キング>。そして<キング>を動かすのは私。
この罪深き行いに神は失望し、この世界は永遠に見捨てられました。
でもいいんです。私は今、とても満ち足りているのですから……。
さあ、世界よ。踊り続けなさい。私のために。



  • 王の帰還ってオリシナあったよね、ファーレントゥーガだっけ? -- 名無しさん (2023-04-30 11:20:00)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年04月30日 11:20