トルネード漁法


夜のとばりがおりて宵も深くなった雪の街。
とある民家の窓からは未だに灯りが洩れている。
深々と降る雪が照らされて微かに浮かび輝いていた。


「誰でも簡単に大漁になる方法を教えます――っと」
 蝋燭の薄明かりに照らされる机。
その机の上に乗せられた真新しい紙切れに、すらすらと、少女の手に握られた筆が奔る。
「驚くほど簡単に、数分もあれば実践できます――っと」
 インク瓶の中へと筆先を数回つけつつ、次の文句を思案しながら空いている方の指先で髪を弄ぶ。
二つに分け、肩口から下がる三つ編みがそれに合わせて揺れていたが、上手い文句が思いついたのか筆を奔らせた。
「漁の経験は要りません。すぐにでも始められます――っと」
 書きながら口元が緩む。我ながら間違った事は何も書いていない、と自身の経験がそう語っている。
 息抜きのつもりで、ふと顔を上げて窓から外を覗くと、朝から降り続ける雪が止む事なしに今も舞っていた。
「寒い日でも大丈夫。濡れて凍える心配はありません――っと」
 思いついたかの様に書き連ねる。
「一日一回。これだけで十分。もう、大漁間違いなしです。
慣れてくれば一日に何回でも出来ちゃうので、欲張りさんにも向いてます――っと」
 前々から考えていた文句を最後にすらすらと書き足す。
 少女は筆を置くと、一通り容となった紙切れを手にして眺めた。


 誰でも簡単に大漁になる方法を教えます!!
 驚くほど簡単に、数分もあれば実践できます
 漁の経験は要りません。すぐにでも始められます
 寒い日でも大丈夫。濡れて凍える心配はありません
 一日一回。これだけで十分。もう、大漁間違いなしです!
 慣れてくれば一日に何回でも出来ちゃうので、欲張りさんにも向いてます
 その名も『トルネード漁法』です!!
 金5000で教材を販売しています! この機会に是非!!

 詳しくは『天才美少女』ポートニックまで


 満足げに頷くと、大きく両手を広げて伸びをひとつ。
その時、静寂に包まれていた部屋に「コンコン」と、扉を叩く音が響き渡った。後ろを振り向くと同時に背後の扉が僅かに開く。
金色の髪を無造作にばさっと肩に垂らした気弱そうな少女が、隙間から顔を覗かせて様子を伺っていた。
「まだ起きてるですぅ?」
「夜なべしてただわさ。もう少ししたら寝るだわさ」
 出来上がった宣伝用の張り紙をつぶさに見つめ、最後の確認をしながら気弱そうな少女へと答える。
「そうですかぁ~。カルラ眠いのでさきに寝るですぅ……」
「おやすみですぅ……」と、消え入りそうな程の小さな言葉を残して、少女は顔を引っ込めると自室へと戻っていく。
 その様子を見届けると、机へと向き直り、また新たな紙を取り出して筆を手にする。
 今夜もポートニックの夜は静かに更けていくのであった。



  • SS魔法がみんな使える時代が来るのか・・・
    -- 名無しさん (2011-02-02 18:26:05)
  • ロザイナなら出来そうだな -- 名無しさん (2011-02-05 15:31:28)
  • ムクガイヤあたりがシステム化して生産体制を整えそう -- 名無しさん (2023-11-27 12:23:18)
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最終更新:2023年11月27日 12:23