セレンとルオンナル


リュッセル城北部、リュッセル地方を囲む山の上をドラゴンナイトの大編隊が通過していく。
ルーガルトで起きた謀反の終結、ならびに魔王軍討伐のためリュッセル城から出陣したリューネ騎士団の軍勢である。
その軍勢を山地の斜面に寝そべり、見上げている少女がいた。傍らには青い色をしたドラゴンが一匹。
「ねぇライム、見える?あれがアルティナ様の率いるリューネ騎士団よ。」
ライムと呼ばれた青竜は返事をするかのように「グルル・・・」と喉を鳴らした。
「そしてあの中央に見える赤竜、あれがラスタスね。きっとあの上にアルティナ様が乗っているんだわ。」
憧れの人が載る竜を見つけ瞳を輝かせながらその少女・・・セレンが言った。
竜騎士セレン――後にリューネ騎士団を率いることになる大陸最強の竜騎士である。
だがこのときの彼女はまだ、リューネ騎士団総長アルティナに憧れる若干14歳の少女であった。

「あれがオーティ様の乗る竜であっちがスベェステェン様の竜ね。二匹ともすばらしい竜だわ。」
一般の者にはとても見分けがつかないだろうが、セレンの目は上空を飛ぶ竜達の姿をはっきりと捉えていた。
彼女の才能は群を抜いていた。まだ少女ながら扱いの難しいといわれる青竜を乗りこなし大空を駆け巡った。
剣技でも誰にも負けなかった。そのことは同年代の子供だけでない。大人ですら太刀打ちできなかったのである。
「神童」・・・周りの者達は彼女のことをそういって褒め称えた。もっとも、それだけの実力は彼女の生い立ちにも関することがあるのだが・・・
「私はあの中には加われないんだよね・・・」
誰に語りかけるわけでもなく、ポツリとつぶやく。彼女の上を通り越した騎士団は西へ西へと去っていく。
戦乱が始まり、郷土の兵も騎士として迎え入れられていたがどうにも志願する気にはならなかった。
やっぱり自分の生い立ちを気にしてるのかな・・・セレンは思った。
彼女の一族はかつて騎士団から追放を受けた家柄だった。幼少の頃から行く当てもなくリュッセルの地を彷徨い歩いた。
安泰な土地で暮らしたことなど一度もなかった。住むところは常に他の「なにか」がいた。
その多くはモンスターであり、彼女は生きるために剣を振るった。そうして気が付いたら、周囲に自分に敵うものはいなくなっていた。
   そんな落ちぶれ騎士を神童だなんて・・・郷士もよっぽど話題がないのね・・・
空を見上げながら、自嘲気味に笑う。騎士団はもうはるか彼方へと飛び去っていた。

と、急に自分の頭上に影が現れた。同時に聞きなれた声が耳に響く。
「どうしたの、こんなところで。」
「ルオンナル・・・」
セレンの親友、ルオンナルであった。
「ん・・なんでもない。」
「どうせ出撃していく騎士団でも見てたんでしょ?全く、素直じゃないんだから・・・」
セレンの隣に座りながら、ルオンナルはクスクスと笑った。
「ふーんだ。ルオンナルこそ何してるのよ。騎士団についていかなくてよかったの?」
上体を起こしながらセレンが聞く。
「今回は、ね。城の守備隊として残ることになったわ。土産話が聞けなくて残念?それとも、心配してくれたの?」
「べ、べつにそういうわけじゃ・・・」
顔を赤くして拗ねるように顔を背けるセレン。そんな彼女の態度を見て、ルオンナルは満足そうに微笑んだ。

「でもいいなー、ルオンナルは・・・私もアルティナ様の下で戦いたいな・・・」
思わず親友にやきもちを妬く。ルオンナルは譜代の出身であり、若いながらもすでに騎士団の一員となっていた。
「ならいい加減、志願したらどうなのよ?あなたの腕なら都尉だってすぐよ。」
「でもわたしは・・・」
「アルティナ様は家柄なんか気にするお方じゃないわよ。それは前にも話したでしょう?」
「そうだけど・・・でも・・・」
セレンは寂しそうに俯く。ルオンナルはため息をつくとセレンをたしなめた。
「やれやれ、そんなんじゃ神童セレンの名が泣くわよ」
「やめてよ。その呼ばれ方好きじゃないんだから・・・それにそんな呼び名、わたしのまわりだけだよ」
それは事実であった。確かに神童と呼ばれてはいるが、それはあくまで郷士の騎士達の間だけである。
セレンの名など、噂話程度にはなっていたものの、譜代の騎士は彼女のことなど気にも留めなかった。
「ルオンナルくらいだよ。わたしのこと知ってる譜代なんて・・・」
セレンの言葉にルオンナルは少し悲しそうな目をすると、それを隠すかのように彼女の後ろに回り、背後からセレンを抱きしめた。
「る・・・ルオンナル?!」
突然のことにセレンは驚き慌てふためくが、頭を完全に抱きかかえられてしまい、どうしようもない。
「まーたそうやって捻くれるんだから。」
セレンの頭に自分の顎を乗せ、髪をなでながらルオンナルは言った。
「ねぇセレン。今回の戦はきっと大きなものになるわ。戦力も不足すると思う。だからこそあなたには騎士団に来て欲しいの。
あなたは大陸一の竜騎士じゃない。きっとアルティナ様もあなたのことを気に入るわ。それに、あなたの実力は私が一番知ってるもの。」
ルオンナルはセレンに初めてあったときのことを思い出していた。
まだ幼かった時、道に迷いモンスターに襲われそうになった自分を助けてくれた、自分よりも幼い女の子。
あの頃のセレンはまだ心を開いてはくれていなかったけど、今では自分のことを姉のように慕ってくれている。
そんな彼女が、自分の所属する騎士団に入隊を希望するなら、なんとしてでも入れてあげたいとルオンナルは思っていた。
―――危ないことなのかもしれない。でも、セレンならきっと大丈夫。それにアルティナ様に仕えるのが、この子の夢なのだし・・・
ルオンナルがそんなことを考えていると、セレンがルオンナルに呼びかけた。
「ルオンナル・・・その・・・そろそろ腕、ほどいてくれないかな・・・?」
「あ・・・ああ、ごめんなさい。」
そういって、少し名残惜しそうにルオンナルはセレンを開放した。

「あの・・・ありがとう、ルオンナル・・・」
セレンが照れくさそうに言った。
「うれしかった・・・ルオンナルの言葉。」
「なに水臭いこと言ってるのよ。友達でしょ、私たち。」
その言葉にセレンは頬を赤らめると、くすぐったそうに笑った。その笑顔はまだあどけなさの残る、可愛らしい少女の笑みだった。
「でもセレン、あんまり無茶はしないでね。なにかあったら言うのよ?」
「ルオンナルこそ、私が騎士団に入隊するまでしっかりしててね。」
「それ、どういう意味よ。」
そういうと二人は顔を見合わせて再び笑った。世は戦乱に突き進んでいたが、二人の周りではまだ穏やかな空気が流れていた。
「じゃあまたね。」
セレンが言った。ライムが翼を翻し、勢いよく北へと飛び去っていく。
親友が去るのを見送ると、ルオンナルもリュッセル城へ向け飛び去っていった。


このときの二人は、後に襲い来る残酷な運命など、知るよしもなかった。


  • 本家をプレイしたことがないので分からないのですが、
    セレンはルオンナルより年下なのですか? -- 名無しさん (2011-03-05 02:18:04)
  • 原作(というか原作公式サイトの小説)だとセレンは14歳の設定なんだが
    もしルオンナルがセレンと同い年となるとルオンナルは更に幼い頃から騎士団に入隊してたことになっちゃうから
    ルオンナルを歳上と仮定したんじゃない?
    そもそもftではキャラ付けが薄かったから、年齢はおろか性別すらわからなかったはず
    -- 名無しさん (2011-03-05 10:26:23)
  • なるほど、ご丁寧にありがとうございます。 -- ↑↑ (2011-03-05 21:32:06)
  • 続編キボンヌw -- 名無しさん (2011-03-05 22:01:20)
  • 続きはS1をプレイして自分で見るんだ
    これ元々はセレンopの原作だし -- 名無しさん (2011-03-06 13:55:43)
  • おー -- 名無しさん (2024-01-26 09:20:59)
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最終更新:2024年01月26日 09:20