ゴートとイオナ


――ルーニック島、ゴートⅢ世の寝室にて――

「ゴート様、お食事をお持ちしました」
「その声は…イオナか? …入ってくれ」
「失礼します。…どうぞ」
「うむ、忝い」
「…あの、ゴート様。御身体の具合は如何でしょうか?」
「うむ。もう殆ど回復している。君の魔法のおかげでな」
「滅相もございません。ゴート様に対して我々ができるのはこのような粗末な部屋をお貸しする事程度…そのようなお言葉、もったいのうございます」
「十分に広い部屋だ。それに、君達には本当に世話になっている。本当に、感謝しているのだ。
 しかしイオナよ、なにもこのような仕事まで君がやる必要も無かろうに」
「…! それは、その…なにかひとつでも、貴方様の御役に立ちたいのでございます……!」
「そうは言うがな、イオナ。食事など、下女にでも運ばせればよかろう。
 それに、立場というものもある。私が君のような女性とふたりきりになるのは…その、なんだ、色々と拙かろう?」
「!! ……申し訳ございません、立場も弁えずに……」
「い、いや、責めているのではない。先も申したように、君には本当に――」
「確かに私は下女とは違います。そこで無礼を承知でお願い申し上げます…ゴート様、私をどうか、神官の一団にお加え下さい…!」
「…今、なんと申した? 神官とは、それはつまり、まさか、戦場に立つという意味ではあるまいな?」
「その通りです。多少とはいえ、私には神聖魔法の心得があります。この力を、どうかお使い下さい!」
「出来ぬ相談だ! 君はここの領主の娘だろう! …戦場でもしものことがあれば、君の父上に申し訳が立たぬ」
「父は王家の家臣なれば、私もまた貴方様に忠誠を誓いし家臣にございます! 父も喜んで行けと背を押してくれることでしょう」
「…よしんば君の父上がそう言ったとて、軍紀というものがある。戦を知らぬ娘子をホイホイと戦場に立てられん!」
「ドルス様にも、推挙の伺いを立ててあります」
「い、いつの間に…。それでまさか、ドルスは首肯したのか」
「はい。そして仕官の暁には、ドルス様じきじきに用兵を教えてくださると」
「ドルスの奴め……。だがたとえドルスが君を認めたとしても、私は許可せん」
「何故にございます!」
「本音を言おう。理屈ではない、私個人、ゴートⅢ世の感情として嫌なのだ! 戦場は君の想像するより遥かに危険だ!
 …私は君をそのような場所に立たせたくはないのだ」
「貴方様はその危険な場所に立っておいでです! それも、最も危うい前線で剣を振るっておられるではありませんか!
 だというのに私に出来ることといえば、安全な城で神に無事を祈るばかり……!」
「私にとっては君の祈りは十分すぎるほど役に立っているとも」
「そのお怪我もそうです。ゴート様が傷を負って城に運ばれた時、私はどれだけ、胸が……!」
「う…。そのことについては、心配をかけてすまなかった。今度からそのような事は――」
「いつだって、心配なのです! どこに居ても、貴方の事が心配でたまらないのです!
 なにも出来ずにただ祈るより、いっそ危地にて貴方様と共に戦いたいのです! ゴート様、どうか……」

「……フフ…どうやら、私の負けのようだな……」
「! …それでは、ゴート様……」
「ああ。君の思うとおりにするとよい。だが、一つだけ約束してくれ」
「約束……ですか?」
「うむ。『絶対に死ぬな』……何が起ころうとも、君は生き延びてくれ」
「はい…。心得ました」
「私の方も、一つ約束をしよう。王家の名に誓って…何が起ころうとも、命を懸けて君を守り抜いて見せよう」
「そっ、そのような! 私のようなものに対し、そのようなお言葉は!」
「約束させてくれ。君のような女性を守りぬけないようでは、このゴートⅢ世、男が廃るというものだ」
「…有り難き、幸せでございます……!」
「そのような顔をするな…今日はもう下がるといい。女性があまり男の部屋に居るものではない」
「は…。お時間をとらせてしまい、申し訳ございませんでした」
「よい。気にするな」
「それでは、失礼しました」
「うむ。…………イオナ!」
「はっ、はい!」
「強い女性だな……君は」
「強くもなりましょう、ゴート様のためなら」


――後日――
「御身体の方は大丈夫のようですな、若」
「うむ。既にこうして存分に剣も振れる。いや、前よりも気が漲っているようだ」
「それは大変結構な事ですな。ところで若、実は領主の娘、イオナのことについて――」
「その話は聞いた。本人から直接な」
「なんと。ふぉっふぉっ。思い切ったことをしますのう」
「ああ見えて、そうとうに押しの強い女だな、イオナは」
「その御様子では、どうやら若も押し切られたようですな」
「そう言うそちとて、首を縦に振ったではないか」
「ふぉっふぉ。この老体では若者の情熱に勝てる道理もございませぬ。それに、才もございます。
 後々まで、王家のお役に立てる才女となれることでしょう」
「うむ。私も、強くならねばな」


  • ゴートのイオナ加入イベントってこれが元ネタ?最新版で消えちゃったけど -- 名無しさん (2023-11-21 11:59:19)
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最終更新:2023年11月21日 11:59