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追放されし竜騎士の一族がいた。彼らはリューネ騎士団に忠義を尽くしたが
その有り余る才能と華々しい功績からその時代の騎士団に疎んじられ、無実の罪を
着せられて追放されたのだ。青い魔童・セレン。彼女は幼少の頃に両親を心無い者たち、
竜騎士を名乗る賊に殺された過去を持つ。彼女はその後、追放された一族に仕える侍女に
育てられた。成長と共にセレンは恐るべき速度で剣の腕を上げていった。常人に乗りこなせない
青竜ライムも従えさせ、乗りこなした。
今日も少女と青竜は戦い続ける。名目は冒険者としてモンスター退治であったが、これは・・・。
――曇天の空を覆いつくす翼竜の群れ。その羽風のみで屈強な騎士すらも引き裂いてしまう。
青い竜騎士は風を読む。天性の勘だ。急降下する竜を最低限の機動で回避し、もっとも好ましい
地形へと誘う。
「・・・今っ!」
煌きと共に発せられる青い炎。竜たちを焼き、さらに断崖を抉って落石・破片によって
多くを撃墜する。全滅には至らない。ここでセレンはなによりも早く虚空を疾駆する。
(狙うは、大将のみ!)
体勢を立て直す前にリーダー格の竜を刺し貫く。早く、確実に。目標を屠ったのちに、
青い影はその場から離脱する。
ポタ・・・ポタ・・・。いかに剣の腕が立とうとも、大群を相手に一騎で駆けるのは自殺行為だ。
セレンの戦法は仇敵に死をもたらすのを第一として自身を省みない。少女の体にまたひとつ
消えない傷を作りながらも、彼女は騎士団本営の方を睨み続ける。
彼女を育てた侍女は子守唄代わりに一族が騎士団に受けた仕打ちと、両親の非業の最期を
聞かせた。その侍女も流行り病で死に、今、ここにはこの哀しき少女、天賦の才と共に、
呪われた宿命をも受け継いだ少女のみが残った。

村人から報酬を乱暴にひったくるようにして受け取ると、セレンは隠れ家へと帰ろうとした。
そこへ、伴を連れた身なりのいい女騎士がやってくる。
「また、無理をしていたの?」
ルオンナル。貴族の出であり、リューネ騎士団の騎士であるにも関わらず、なにかと
青い魔童と恐れられるセレンに気を遣ってくる奇特な騎士だ。
「ああ、またこんな傷を作って・・・。手当てもしないで」
「こんなの平気・・・触らないで」
不敬な態度に従者が剣を抜こうとするのをルオンナルは静止する。
「仕官の話、考えてくれた?」
「くどい、わたしの一族が騎士団にどんな仕打ちを受けたか知ってるくせに」
「過去は過去よ、今の総長・アルティナさまは貴女の生まれのことなんか気にしないわ」
「また似たような話を。・・・・・・でも、リュッセルの魔物退治にも飽きてきた。
 近々、ゲルドを襲うんでしょ? 先鋒を任せてくれるんなら考えてもいい」
「・・・・・・そう。貴女がそんな気持ちで入団するのならいらないわ、それじゃあ」
いつになく冷たいルオンナルの態度にセレンは少し寂しさを覚える。

後日、落日とともに、小さな影と大きな影が騎士団本営へと現れた。
「なんだ、貴様は。ここはおまえのような小娘の来るところではない」
「招かれた。通して」
「お待ちなさい! セレン、どうして来たの?」
騒ぎを聞きつけて騎士達が集まってくる。竜に乗っている者はいない。
「あら、どうしたのですか?」
「アルティナさま!」「これは、総長・・・」
総長自らもその場に来て全員が畏まる。ひとりを除いて。
「楽にしてよいのですよ。貴女が音に聞く青竜乗りですね。
 こんなに若いなんて・・・」
青の少女は赤い女性の前に跪き、
「セレンと申します。これはライム。我が一族の汚名をそそぐために参上致しました。
 再びリューネの御旗の元に参ずることをお許しくださりますれば、
 相手がゲルドであろうと、悪魔であろうと真っ先に死ぬ所存にございます!」
容姿からは想像もつかぬ胆力。礼を尽くした態度に一同は感心する。
だが、次の瞬間――。跪いたまま、低い体勢からセレンは疾駆をはじめる。
剣を抜き放ち、対象を見ることもなく寸分たがわぬ方向へと突進する。
それに呼応してライムも暴れはじめて周囲の騎士たちをなぎ倒す。
奇襲は完璧であった。対応し切れない。狂気の紅い瞳にが光を放ち、
周囲の全てを硬直させるかのようであった。
剣がアルティナを捉えるまであとわずか、誰も止められない、そう思われたとき。

ドスッ! ひとつの華奢な体躯が間に割って入った。
「ルオン・・・ナル!」
狂気の刃は動きを止める。その瞬間にスヴェステェンをはじめとする精兵がアルティナを
守るように囲み、青い襲撃者を捕捉せんと取り囲む。
彼女の目からは狂気は去っていた。生まれてはじめて彼女は後悔というものを感じていた。
無謀な相手に挑んだから? 違う。唯一本当の意味で心を許してくれた人をこの手で・・・。
虚ろな目を漂わせると、剣が映る。今まで共に戦ってきた愛剣が急に恐ろしく見えた。
剣を放そうとする。放れない。地面に打ち付けるようにしてようやく放す。
「あ、あああああ・・・」
泣くこともできず、セレンはうずくまる。
(失敗した。ここまでだ)(ルオンナルを、わたしはルオンナルを)
(なぜ、こんなに苦しい、この痛みは・・・)(誰か、だれ・・・か・・・)

混濁する意識の中に光が差し込む。暖かい光。記憶にはないけど、でも覚えている。
これは・・・。これは・・・。
見上げれば、そこに『母』がいた。

「わたしの祖先が貴女の祖先にしたこと。貴女のご両親の身に起こったこと。
 知っています。もしも、この命が欲しいのならば、喜んでさし上げましょう。
 でも、わたしには。わたしたちにはまだやらなくてはならないことがあるのです」
「あ・・・ああ」
「貴女はセレン。青い魔童ではない。青の竜騎士セレン。素晴らしい人。
 大切な人の痛みをわかる人。少しだけ、貴女の力を貸してはくれませんか?」
どれほど時間がかかっただろう。赤の竜騎士は幼子のように震える少女を抱きしめるように諭す。


「――汝、セレンをここに騎士に任ず」


熱を持たない儀式用の剣が青の少女の方に触れる。


「・・・・・・我が命は貴女とともに」


祈るようにして洗礼を受ける。ここに青の魔童は死に、新たに青の竜騎士が生まれた。

その後、セレンは三日三晩付きっ切りでルオンナルの看病をした。下女たちも寄せ付けず、
二人っきりで過ごしたらしい。あんなことがあった後に二人きりというのは反対の声ばかり
だったが、総長と看病される当人のたっての願いもあって了承された。
二人の竜騎士の伝説のはじまりである。


  • ・・・暗殺未遂も許されるとは実にぬるい組織ですね。
    もしこんな騎士団なら乱世を生き抜くなど到底不可能でしょう。 -- 名無しさん (2011-03-21 02:51:17)
  • 自分を殺そうとした相手を許したりは結構あるとおもうぞ。
    それにゲームの世界なんだから何があっても不思議じゃない。 -- 名無しさん (2011-03-21 13:33:48)
  • 三国志…
    曹繰の配下の張繍が謀反を起こし、腹心の部下である典韋と曹繰の嫡男である曹昴が死んだ。
    しかし、曹繰は、そんな張繍を許し、再び家臣として迎えた -- 名無しさん (2011-03-22 09:45:04)
  • 戦争の結果としての併吞と一緒にすんのもどうだろうね。 -- 名無しさん (2011-03-22 11:24:53)
  • 物語の手法としては間々あることだと思うが。何がそんなに気にいらないんだ? -- 名無しさん (2011-03-22 18:48:50)
  • ちょっと綺麗過ぎると言いたいんじゃなかろうか。
    あと最後にルオンナルとの絡みが入っていたら丸く収まった感があったとオモフ -- 名無しさん (2011-03-23 00:15:01)
  • ご都合主義に見えて現実的じゃないと感じるのでは
    ただ、むしろ乱世を勝ち抜くなら有能なら仇でも手に入れていけるぐらいの器が欲しい -- 名無しさん (2011-03-23 21:32:51)
  • まあ、だってこの会話だけ見てセレンを信用する理由がないしなあ -- 名無しさん (2011-03-23 23:57:35)
  • セレンかっこいいから仕方ないよ -- 名無しさん (2023-09-10 23:52:27)
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最終更新:2023年09月10日 23:52