ムクガイヤ


S1
若者は剣を振っている。剣には重りの鉄板が縄で縛り付けてある。
剣を振るっているときが一番落ち着く。この世界の全てが消えうせ、ただ我が身と剣のみがある。
???「ほう、斬撃に魔力を込めることができるのか。」
せっかくの自分の時間に邪魔が入るのは好まないが、返事をしないわけにもいかない。城の中でこのような声のかけ方をしてくる者は確実に自分より身分が上だ。
サル「大したものではありません。」
振り返った先にいたのは宮廷魔術師である。堂々としていたが、陰湿でどこか不気味な風貌であった。兵舎の裏手のこの場所には似つかわしくない。
(袖に3本の金刺繍・・・・・・上級か。お偉い方の気まぐれの散歩といったところか。)
魔「いや、中々の物だ。見識がなくて申し訳がない、貴殿は騎都尉ですかな?」
魔術師は馬と馬具を見ながら尋ねた。
サル「一兵卒ですよ、騎士でもありません。その馬は我が隊の騎都尉から預かったものです。」
魔「それほどの才がありながら兵卒だと。勿体無いことだ。」
魔術師は不敵な笑みを浮かべながら言った。
サル「平民は騎士にはなれません。私は貴方のような方に声を掛けてい頂く様な者ではありません。」
魔「私も平民だそのようなことを気にするな。」
サル「平民?貴方は上級ではありませんか。」
魔「アカデミーで主席をとった者は上級になる資格が与えられる。これに身分条項は無くてな。後はドルス殿の推薦だ。」
サル「ばかな、そもそも平民は研究室に入れないではないか!従魔術師として宮廷魔術師にはべる事になるはずだ。」
魔「確かに研究室には入れなかったな。だが私は主席を取った。」
サルステーネは絶句した。騎士アカデミーも似たようなものだったからだ。
騎士の家柄の子息は最終学年で騎士団に所属し訓練を受けるのだが、サルステーネは騎士としての訓練を受けることができなかった。
。平民の学生は騎士の親衛隊としてはべる為にアカデミーで学ぶのであって、騎士の構え一つ学ぶことはできなかったのである。
サル(まして学識の世界である魔術師が研究室に入らずに主席だと、この男は私をからかっているのか。)
魔「ククク、気に入ったぞ。貴様を頂くことにしよう。」
サル「な、なんの話ですか?」
魔「ククッ、魔力を使う全く新しい騎士団を作ってみたくなった。魔道騎士団だ、どうだ面白そうではないか?クックック。」
魔術師の突拍子も無い話にサルステーネは困惑するのみだった。
魔「クック、平民出の騎士団総長というのも面白い。そうだ、剣も一工夫しなくてはな。」
魔術師は独り言のようにぶつぶつ言いながら去っていった。
その魔術師こそ、後にサルステーネが全存在をかけて忠誠を誓うムクガイヤであった。

~暗転~

王権の簒奪に成功したムクガイヤであったが、ギリギリと音が聞こえてきそうなほど口を歪め怒りを隠す気は無かった。
盛大な戴冠式はそれなりに盛り上がった、サクラを指揮し王都のムクガイヤ熱に貢献したヒューマックは横目でムクガイヤを追いながら呟いた。
ヒュ「ヒュー、おっかねぇ。」
問題は戴冠式後の諸侯達との会合である。
諸侯「おお、さすがはムクガイヤ殿!トライトのような化石とはまるで違いますな!」
上ずった声で賞賛する領主に目を向けることも無く、ムクガイヤは憮然としていた。
諸侯「我が地方はムクガイヤ殿に永久に忠誠を誓いましょうぞ!」
続ける領主の声は閑散とした部屋に虚しく響いた。数十脚用意された椅子のほとんどが空のままである。
腕を組みながら壁にもたれ掛かっていたサルステーネは、何も発言しなかったが燃える様な決意を胸に秘めていた。
(許さぬ!必ず全員この席に着かせてやる!自ら懇願し、全てを差し置いてでも着きたくなるようにしてくれようッッ!)


S2
バァァン!乱暴に開けられた扉からホールに入ってくるのはサルステーネであった。後を小男が小走りに追いかける。
引かれた椅子に飛び込むように腰を掛けると、サルステーネが離れるのを見てふぅと一息つき隣の席の男に目を向ける。
同じ境遇の男に目配せしようと思ったのだ。だが、隣に腰を掛けていたのは腕と頬を削がれ、シャツが血で汚れた遺体であった。
小男「ひっ、ハイメス候・・・・・・」
見渡すと席の半分は暗い顔をした顔なじみの諸侯たちと、残りの半分は遺体である。
小男「うわぁーーーーーーー!」
小男は思わず走り出した。席についていた諸侯達が思わず顔を上げる。ひどく危険な行動だと思われたからだ。
それでもあまりに恐ろしくて、走り出してしまった。
出口の近くの長髪の騎士ハイトロームが、ゆったりと剣を抜き始めている。
ヨネ「あら、行儀が悪いのね。」
小男は突然つまずいて転んでしまった。この広いホールでいったい何につまずいたのか。身を起こそうとするが自由が利かない。
見ると下半身が石になってしまっている。
ヨネ「このヨネアさまが逃がすわけ無いじゃない。馬鹿なやつ。」
宙に浮く箒に腰を掛け、蔑む目で見下ろしているのはまだ年端もいかない女の子である。うわさに聞いた闇の賢者ヨネアであった。
小男「た、助けてくれ!」
ヨネ「どうしよっかな~~。」
器用に組み換えた足がロングスカートの隙間から膝窩(ひかがみ)まで見えたが、ひどく華奢で白い。その弱々しさにかえって恐怖を感じる。
ヨネ「うん、死んじゃえ。」
小男「ひぃぃ!」
ヒュ「おうおうあの小娘よぉ、神官みてぇな魔術師が居ないからやりたい放題だな。ここに残ってるのはネジがおかしい奴らばっかりだぜ。」
ひそひそと話す相手は謀反が起こるまで死刑囚であった吸血魔道のゾーマである。
ゾー「無駄口を叩くな。それにそれは私に対しても言っているのだな。」
ムク「ヨネア!せっかくお越しいただいたお客様だぞ、丁重におもてなしをするのだ。」
一番奥の席に腰掛けた不気味な男がにこやかに、だが意思のこもったはっきりとした口調で話す。
ヨネ「は~~い。」
ヨネアは友人に調合してもらった薬を無造作に注ぎ石化を治すと、箒に乗ったまま先ほど声をかけたムクガイヤの方へと向かう。
サル「さあどうぞお掛けください。」
すぐ傍に来ていたサルステーネの低い声に、小男はすごすごと席に着いた。
小男(暗黒騎士団総長、ムクガイヤの第一臣下サスルテーネ、この男が居る限り・・・・・・ルートガルトはムクガイヤのものだ。)
サルステーネは主に跪くとうやうやしく述べた。
サル「我が君。これで全員そろいまして御座います。」
その顔は珍しく笑みを含んでいた。


  • 「サル」って略し方のせいで完全に猿ゥ!って感じで悲しい -- 名無しさん (2020-03-17 22:08:32)
  • ヨネとかゾーも違和感あるゾー -- 名無しさん (2020-08-03 20:38:08)
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最終更新:2020年08月03日 20:38