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■ルルニーガ仕官

 フェリル党がムクガイヤ魔術師団の支配下となってから、ゴブリン達はその頭数を生かし、その版図拡大に大きく貢献していた。
 フェリル島を滞りなく統一できたのもフェリル党の功績が大きいといえる。
 しかし、洞主のバルバッタを始め、前衛で戦うゴブリンには粗暴なものが多く、次第に民衆の不満は大きくなっていった……。

―ルーニック島 代官所 

 フェリル島を統一してからも、ルーニック島の代官所は拠点として使われていた。
 現在、ファルシス騎士団とは同盟を結んでいるが、お互いとって形だけの同盟に過ぎず、隙あらば互いに名分を打ち立て、攻め入るのがわかっていたからである。

―会議室

サルステーネ「我が君、フェリル党の件ですが、確かに、戦においては戦果はあげておりますが、素行が悪く、民衆から不満が上がっております。民衆にとどまらず、軍の中でも、ゴブリンに差別意識をもつ者は多く、このままでは……」
ムクガイヤ「やはり、こうなったか。所詮はゴブリン、全く知能の低い生き物は……」
サルステーネ「いかがなさいますか? 幸い版図を拡大したことで、我が騎士団に仕官を求めてくるものも増えつつあります」
ムクガイヤ「前衛にゴブリンを使う必要は無くなりつつあるわけか……」


―執務室

チルク「ニースルー、この前頼まれていた、フェリル島の開拓事業の見積もりだけど」
 ムクガイヤ魔術師団では、政務はニースルー一人に押し付けている、しかし、ニースルーは自分の負担を減らすため、同じくフェリル党の政務を押し付けられていたチルクを勧誘し、自分の仕事を手伝わせていた……。
 チルクは頼まれて作成した見積書をニースルーに手渡す。
ニースルー「……」
ニースルー(……妥当な期間と予算……。ゴブリンは知能が低いというのが定説だけど、それは間違いね、決して低くはない、問題があるとすれば、教育機関が無い事かしら?)
ニースルー「特に問題ありません。これで行きましょう。開拓に関しての現場の指揮はチルクに任せます」
ニースルー(このまま、何人かゴブリンの文官を育成できれば、政務をゴブリンに任して、私は魔道研究に時間が割けそうね……)
チルク「わかった、早速、業者を手配するよ」
ニースルー「チルク、他にも政務ができそうなゴブリンの知り合いはいないかしら?
      もう何人か、文官が増えてくれると助かるし、フェリル島の自治をゴブリンに委ねるようムクガイヤ様に進言しやすくなるんだけど」
チルク(フェリル島の自治か……。それが可能になれば、老師も少しは見なおしてくれるかな? 手伝わせるとすれば、フーリエンとキスナートあたりか……、割と頭良いし、ただどっちもクセあるよな)
チルク「いるにはいるけど、協力してくれるかはわからない、人間を嫌うゴブリンは多いから」
ニースルー「そう、まあ、簡単に溝が埋まるわけでもないし、焦らなくていいわ、後、フェリル島に教育機関、早い話、大学を作ろうと思うんだけど」
チルク「大学? って教える所だよね?」
 ゴブリン達の文化は、人間より遥かに遅れており、学校の様な教育機関も病院といった医療機関も無かった。
ニースルー「そうよ、チルクに色々と手伝って貰ってわかったけど、決して、人間にひけをとるとは思わないし、人間と同等の教育機関を設立すれば、知能が低いとかそういう非難も無くなると思うの。
 まあ流石に、教育機関を設立するのに、私の自己判断で行うわけにもいかないから。ムクガイヤ様に話を通すことにはなるけど」
チルク「……」
 チルクは一人で熱くなっていく少女とは対象的にそんなの事が認められるわけがないと思い、特に返事はしなかったが、ゴブリンの事を自分の事の様に考えるニースルーに好感を頂きつつあった。


―会議室

ムクガイヤ「素行の悪いゴブリンの所業を調査しておき、比較的大きな問題を起したら、それを大義に始末すればよいか」
サルステーネ「ムクガイヤ様、こちらの調査書を……」
ムクガイヤ「既に進めておったか……。後はキッカケだな」
 書類には、ゴブリンが飲食店に入った時、女性ウエイトレスが猫耳をつけて応対しなかった事に腹を立て暴れたと書かれていた。
 他にも意味もなく、ホアタの民衆を土下座させたり、店頭の物を勝手に食べ、それを注意されて逆ギレした報告などが纏められている。
ムクガイヤ「低俗な……」
コンコン (ドアをノックする音
「ニースルーです」
ムクガイヤ「入れ」
ニースルー「失礼します。」
ムクガイヤ「どうした?」
ニースルー「我が君、実はフェリル島にゴブリンの教育機関を設立したく、相談に参りました。
 確かにゴブリンは馬鹿と思われるような行動を取りますが、それは、誰も教えないからであって、人間と同等の教育を行えば、人間と同等の知恵を持ちます」
サルステーネ「ニースルー様」
 冷静に、そして少し困ったような顔でサルステーネがニースルーの言葉を遮る。
ニースルー「?」
ムクガイヤ「実はな、ニースルー、ゴブリンに対する民衆の不満が大きくなっておるのだ」
 そういってサルステーネから渡された調査書を、ニースルーに手渡す。
ニースルー「こ、これは!?」
ムクガイヤ「それでだな、早い話、サルステーネが暗黒騎士団を創設し、前衛問題も改善されつつある」
ニースルー「ゴブリンはもう用済みというわけですか?」
ムクガイヤ「そういう事だ」
ニースルー「待ってください、今まで我々の盾となって闘ってきた者達にこの仕打ちは……」
ムクガイヤ「しかし、今のままでは確実に民衆の心が離れていく、問題というのは先送りにすればするほど、大きくなるものだ」
ニースルー「……」
ムクガイヤ「ニースルーよ、ゴブリンを配下に引き入れるよう、進言したのはお前だが、この件でお前を咎めるような事は決して無い」
ニースルー「我が君、一ヶ月、いや一週間、時間をください、その間に、ゴブリンの愚行を正して見せます」
ムクガイヤ「……。わかった、一週間だぞ」
ニースルー「ありがとうございます」
 ニースルーはお辞儀をし、速足で会議室を去っていった……。
サルステーネ「一週間でゴブリンを正す事など、いくらニースルー様でも……」
ムクガイヤ「だが、あそこで、強引に粛清に踏み切ればニースルーとの間に溝を作る事になる、ひとまず、ニースルーに任せればよい。」
     「私とて、可能性は低いと思うが、解決できるならそれに越した事はないと思っている」

バタン

 血相を変えたニースルーが執務室に戻ってきた。
チルク「どうだった? ってその顔だとうまくいかなかったんだね」
 ニースルーの表情を見て、大学の話は、却下されたものと思い、チルクは平然としつつも内心がっかりしていた。
ニースルー「それどころじゃないわ」
チルク「?」

………………

チルク「何だって!?」
ニースルー「一週間までに、バルバッタ達の素行を正さないと、ゴブリンは一匹残らず粛清される」
チルク「そんな……、くそ、僕達を騙したんだな」
ニースルー「チルク、怒るのはわかるけど、今は争っている場合じゃないわ、調査書によると、主に被害が多いのはホアタだから、ホアタに行くわよ」
チルク「えっ? っちょ」
 ニースルーは怒りかけたチルクを無視し、腕を掴むと強引に引っ張って現地に向かった……。

―ホアタ 大通り

バルバッタ「ヒャッハー、ムクガイヤ魔術師団、最強の戦闘集団フェリル党のお通りだぜ!」
ケニタル「おい、人間どもは頭がたけーぞ」
ツヌモ「俺らが、どなた様かわかってんのか? 人間」
ケニタル「おい、俺の名を言ってみろ」
 ゴブリンは大きく分けて、二つの種に分かれる。
 魔法に長け、比較的おとなしいブルーゴブリン種と、身体能力に優れ、好戦的なノーマルゴブリン種、バルバッタ、ツヌモ、ケニタルはノーマルゴブリン種であり、チルクはブルーゴブリン種であった。
 人間の街で主に威張り散らしているのはノーマルゴブリン種でそれも半数にも満たない程であったが、民衆からすればゴブリン=凶悪な生き物として映っている。

 チルク達はホアタに着くと、目撃情報などから、バルバッタ達を捜索、本人達が目立った行動を取っているので見つけるのに時間はかからなかった。
 しかし、すぐに話合うとするのではなく、物影に隠れ、まずは調査書の真偽を確認する。
 バルバッタ達は、意味もなく人に土下座させたり、店頭の物を勝手に食べるなど、報告書通りのわかりやすい愚行を見せていた。
 それを見て、頭を抱えるチルクとニースルー。
チルク「ニースルー、僕が説得してくるよ」
ニースルー「あ、うん」
 チルクが三人の元へ向かっていき、ニースルーはその場に留まり、事の成り行きを見守った……。
 声は届かないがチルクが、何か必死で訴えるのが見てとれる。
 しかし、三人は取り合わず、ケニタルとツヌモがチルクに暴行を加え、バルバッタが止めるように言ったのか、二人は手を止めて、そのまま倒れたチルクに背を向け去っていく……
ニースルー「大丈夫?」
 慌てて駆けつけたニースルーが回復魔法を唱えた。
チルク「いてて。人間の犬め、って言われたよ。僕がニースルーの仕事を手伝っているのが、媚びているように見えるんだって……」
ニースルー「……」
 ニースルーがチルクに政務を手伝わせるようにしてのは、主に、自分の負担を軽減するためだった。
 自分のした事が原因で、溝を作ってしまい、罪悪感を感じてしまう。
 しかし、チルクが政務を手伝ったのは、少しでもゴブリンの地位を上げるため、人間に自分を認めさせるためであった。
 その努力が返って、義兄弟であるバルバッタとの間に溝を作ってしまう結果となった事に歯がみする。
ニースルー「ねえ、こうなったら、バルバッタ達の頭が上がらないゴブリンっていないの? 例えば父親とか……」
 自分とチルクとでは説得は無理と判断して、説得出来そうなゴブリンがいないかを尋ねた。
チルク「いるにはいるけど……」
ニースルー「じゃあ」
チルク「断られると思うけど、当たって見るよ」

―ルルニーガの住処

 ニースルーはチルクに案内されるがまま山道を登っていた……。
ニースルー「そのルルニーガってゴブリンの方、そんなに強いの?」
チルク「うん、負け惜しみに聞こえると思うけど、竜王ルルニーガが陣営に加わってくれれば、あの時負けなかったって今でも思ってる」
 確かに負け惜しみに聞こえなくもないが、チルクの言葉には確信めいたものを感じた。
ニースルー「どうして、フェリル党に加わらなかったの? というより、それほど強いなら、将として迎え入れる事も……」
チルク「愚かな将の下について、犬死にしたくないってさ……」
ニースルー(……確かに、バルバッタの挙兵は無謀といえたけど……)
チルク「ムクガイヤがフェリル島を統一してからも一度誘ったけど、断られたよ、人間と共闘する気は無いって……」
チルク「ここだよ」
 ニースルーがドアをノックしようとしたとき……。
「チルクか?」
 中から声がした。
 扉を開けて入ると、大柄なゴブリンが一人、その風貌はニースルーが今まで会ったどのゴブリンよりも貫禄があり、威圧感もあった。
ルルニーガ「久しぶりだな」
 ルルニーガはチルクに同行したニースルーに目をやるなり……
ルルニーガ「相変わらず人間に従属しているらしいな、よりにもよって、此度の戦乱を引き起こした連中と共闘するとは……。」
     「それで、何の用だ?」
チルク「ゴブリンが、戦で活躍したお陰で、少しずつだけど、地位が高くなっている。」
   「このままいけばフェリルの自治権を勝ち取れるかもしれない。しかし、バルバッタ達の素行が問題視されている」
ルルニーガ「それで?」
ニースルー「このままでは、素行の悪さを理由にゴブリンを嫌う者達に大義名分を与え、ゴブリンは粛清されてしまいます。そうなるまえにバルバッタ達を説得したいんです」
ルルニーガ「人間を信用するからそういう事になる。利用されるのは始めから見えていただろうに……」
チルク「確かに、そうかもしれない、でもバルバッタが行動を起さなければ、結局、僕らは害獣として一匹残らず駆除されてましたよ。
老師も貴方もバルバッタと違って何もしなかった。
 でも、今は少ないけど、ここにいるニースルーを始めとして、僕達に理解を示そうとしてくれる人間はいる。貴方にそういう知り合いがいますか?」
 ルルニーガはいつもと違って強い口調で言うチルクに今までとは違うものを感じ取り、ニースルーの方に目をやった……。
ニースルー「本当です。チルクを始めとして、ゴブリンには何度も助けれました。それをこんな形で終わらせたくないんです」
ルルニーガ「……説得するだけだぞ……」


―ホアタ

 ルルニーガが要請を受けホアタに着くと、そこでは、ノーマルゴブリン達が複数の人間の女性を囲いの中に入れ、ゴブリンが目隠しを付けて追いかけまわしていた。
 ルルニーガは無言で、柵の中へと入っていく……。
ゴブリン「うえっへっへ、何処かな~」
人間女性「いや」
    「こないで~」
ゴブリン「捕まえたっと」
 ルルニーガに抱きつくゴブリン。、
ゴブリン「ん? えらく固くてがっしりした体つきだな、一体どんな女だ~?」
 目隠しを取ると、そこには拳を振り上げたルルニーガがいた。
ゴブリン「ル?」
 ドコ、
 そのまま拳を振りおろし、ゴブリンは地面にめり込みピクリとも動かない。
ゴブリン「フェルリの竜王ルルニーガ……」
 蜘蛛の子を散らす様に逃げて行くゴブリン達、ルルニーガは特に気にする様子もなく、そのままホアタの代官所へと向かう。

………………

ケニタル「アニキ、何すかね、緊急会議って」
バルバッタ「さあな、チルクとあの女との催しだ、俺が知るか」
ツヌモ「チルクの奴、すっかりあの女にだぶらかされやがって」
 バルバッタ達が代官所の会議室に入ると、会議室にはルルニーガが踏ん反り返る用に椅子に座り、ニースルーとチルクは、立って3人を待っていた……。
ルルニーガ「今日からフェリル党は俺が仕切る。お前達は出奔するか、このまま切腹するかどちらか選べ」
 思いがけない来客と、いきなり三行半を突き付けられ、いきり立つ3人。
ケニタル「クッ、この野良犬が」
ツヌモ「飢えて狂ったか」
 ケニタルやツヌモよりは冷静なバルバッタが口を開いた……。
バルバッタ「ルルニーガのおっさんよぉ、時代ってのは変わるんだぜ? 確かにアンタは強かった、だが常に戦場で修羅場を潜り抜けている俺達とじゃもはや格が違うんだよ」
ルルニーガ「…………」
バルバッタ「まあ、俺らがあまりにもゴブリンの強さを見せつけちまったせーで、船に乗り遅れると思って来たんだろーが、悪いがオッサンの席はねー」
ツヌモ「アニキ、このイカれた野良犬の躾は俺にやらせてくれ」
バルバッタ「そうだな、よし、任したぜ」
ニースルー「チルク、止めなくていいの?」
チルク「黙って見てて」
 早速、乱闘になりそうな雰囲気を見てニースルーは不安を覚えた。
 対象にチルクは冷静に事の成り行きを見守っている。
 ニースルーはルルニーガの事を心配したが、チルクはバルバッタ3人の事を心配していた。
ツヌモ「へへ、そういう事だ、立ちな」
 スタンドアップのジェスチャーをして、立つ事を促す。
ルルニーガ「このままでいい」
ツヌモ「な? 何だと、立って戦え」
ルルニーガ「このままでいい」
ツヌモ「舐めやがって」
 ツヌモがルルニーガに向かって走り出す!
 ルルニーガは床に引いてある絨毯を足で引っ張った……。絨毯が引っ張られた事で、ツヌモはバランスを崩し、そのままルルニーガの方へと倒れ込む。
 その瞬間、ツヌモの頬にルルニーガの蹴りが入る、器用に足で往復ビンタされてしまい、成すすべもなく地面に伏すこととなった……。
ツヌモ「ぶぷ~~~」
ケニタル「て、てめえ」
 あっさりやられたツヌモを見て、ケニタルはナイフを抜き、そして、投げつけた。
 しかし、ルルニーガはナイフを人差し指と中指で挟むようにして受け止めると、そのままケニタルに向かって投げ返す。
 ナイフの柄がケニタルの額にぶつかり、ケニタルはそのまま大の字になって床に倒れた。
 向きを変えて投げ返せば、脳天に突き刺さり、即死だっただろう。
バルバッタ「ケニタル!」
 ナイフが額に当たったのを見て焦り、思わずケニタルの安否を確かめようとするバルバッタ……。
 そのケニタルの方を見た一瞬の隙にルルニーガは距離をつめて、肩にポンっと手を置いた……。
ルルニーガ「残るはお前だけだぞ?」
バルバッタ「はっ!」
ルルニーガ「遅い」
 バルバッタが戦闘態勢に入るよりも速く、平手打ちがバルバッタの頬に決まる。
 平手打ちとはいえ、ルルニーガの剛腕で放たれた一撃は、バルバッタの顎を揺らし、脳震盪を起させるには十分であった。
ニースルー(強い! こんなゴブリンがいたなんて)
バルバッタ「な、何だよ、いきなり現れて、出奔しろだの、切腹しろだの言い出しやがって」
 意識が朦朧するため、頭を軽く振りながら悪態をつく。
ルルニーガ「バルバッタよ、ゴブリンはお前達の素行が問題で、粛清される事が現在、話し合われている」
バルバッタ「な!? チルク、何で今まで黙っていた!?」
チルク「この前、話そうとしたけど、取り合ってくれなかったじゃないか」
バルバッタ「うっ」
ルルニーガ「お前達に、ゴブリンの未来を担う資格は無い」
 指の関節を鳴らしながら、淡々と言い放つ。
バルバッタ「はっ、ちょ……待って」

…………………
ツヌモ「あべし」
ケニタル「うわらば」
バルバッタ「ひでぶ」

…………………

チルク「ニースルー早く!」
ニースルー「はっ? は、はい」
 圧倒的なルルニーガの強さの前に唖然としていた。
 チルクの声で我に返り、慌てて、回復魔法をバルバッタ達にかける。
 ルルニーガは何も言わずに部屋を出て行き、暫くしてから、バルバッタが意識を取り戻した……。
バルバッタ「…………。ようするに俺らが邪魔になったんだろ、だからオッサンに俺らの排除を頼んだ。俺らを消せば自分達は粛清を免れるってわけだ……」
チルク「そうじゃない」
 バルバッタに対し、珍しく強い口調で言い返す。
チルク「バルバッタ達にはこれからも第一線で活躍して欲しいと思ってる。でも今のままじゃダメだ。
昔は、人間は僕達の島を奪っただけの存在だったけど、共闘を始めた時から協力者でどっちが上とか下じゃない」
バルバッタ「何言ってんだ、人間は相も変わらず俺達を見下しているじゃねーか、だから俺達が見下されないように、逆に見下してやったんだよ」
チルク「それだと、ゴブリンを排除したい連中の思うつぼだよ」
バルバッタ「何!?」
ニースルー「本当です。ゴブリンを嫌う人間からすればゴブリンが悪さをしてくれた方が話が速く進むんです」
バルバッタ「じゃあ、どうすりゃ、人間は俺達を見直すんだ?」
ニースルー「まず、素行を正し、ゴブリンを嫌う人間から非難をさせないようにします。
そして、フェリル島に教育機関を設立するんです」
チルク「ゴブリンだって、人間と同じ様に幼い頃から教育すれば、馬鹿にされなくなるよ。
それにバルバッタが言ったんじゃないか、師匠や竜王はゴブリンは人間より劣っていると思っているけど、そんな事は無い、それを俺が証明してやるって
そうやって引っ張ってきたからここまでこれたんじゃないか」
バルバッタ「それはそうだが」
チルク「でも、力だけじゃダメなんだよ」
ニースルー「バルバッタさん、私達を信じてください。必ずゴブリンの社会的地位を人間と同等にします」
 ニースルーは頭を下げて頼み込んだ。
バルバッタ「…………。わかったよ。でも俺はどうすりゃいい? ここを去れって事なのか?」
チルク「フェリル党の党首はバルバッタ以外にいないよ。ただ皆に素行を正すようまとめて欲しいんだ。
何と言っても、フェリル党のカリスマなんだし」
バルバッタ「それもそうだったな、よし、俺に任せとけ」
ニースルー(単純、でもこれがバルバッタの魅力なのね……)
 その後、一通り治療を終え、ニースルーは4人を残して部屋を出る。
 廊下では、ルルニーガが壁によっかかりながら待っていた……。
ルルニーガ「終わったのか?」
ニースルー「ええ、これで何とかなりそうです。今日は本当にありがとうございました」
ルルニーガ「そうか……」
ニースルー「4人を待っているんですか?」
ルルニーガ「いや、お前に聞きたい事があってな、何故そこまで?」
ニースルー「ゴブリンを配下に加えたのは、自軍の追い詰められた状況と、ゴブリンに対する生物的な部分での個人的興味からでした」
ニースルー「理由はどうあれ、共に戦っていくなか、ゴブリンは言葉を話し、物事を覚え、仲間を想い、人間と同等という事を知りました」
ニースルー「私は破門された身ですが、元は神官です。救いの教義は種族に留まらないと感じました」
ルルニーガ「そうか……、なら何故」
 ルルニーガは魔王召喚の理由を聞こうとしたが、思い止めた。
 魔王が召喚されず、戦乱が起きなかったら、フェリル島はレオーム家の支配下になり、ゴブリンは害獣として残らず駆除されていただろう
ニースルー「?」
ルルニーガ「それで、今後の事だが……」
ニースルー「わかってます。あくまでバルバッタの説得に協力するという事で、それ以上の事は……」
ルルニーガ「そうではない……。ワシも陣営に加えて貰えないか」
ニースルー「それは、むしろ貴方程の方に加わっていただけるなら、こんなありがたい話はありませんが、でもどうして?
ルルニーガ「ワシもゴブリンの為に、共存の為に戦ってみたくなった。それにまた、バルバッタの奴が、調子に乗らないワケでもあるまい」
 ニースルーはクスりと笑う。
ニースルー「そうですね、では、よろしくお願いします。竜王ルルニーガ」
 その時、ニースルーにはルルニーガがほんの僅かだか、ムッとしたように見えた。
ニースルー「どうしました?」
ルルニーガ「いや、何でもない」
ニースルー「それでは……」
 言いかけた時、扉が開き、4人のゴブリンが出てくる。
チルク「まだいたの?」
ルルニーガ「ワシも仕官させて貰える事になってな」
 バルバッタを見て、にやりと笑うルルニーガ。
バルバッタ「げっ……」
ルルニーガ「というわけで、今後ともよろしく頼むぞ、洞主殿」
バルバッタ「お、おう、お前も出遅れんなよ」
 動揺しつつも、強がって応えるバルバッタの肩にルルニーガは手を置いて去っていく……。
チルク「さ、行こうバルバッタ、やる事が沢山ある」


■VSローイス水軍

 フェリル島を統一してから、ムクガイヤ魔術師団は北上はせずに東を攻めた。
 理由としては北に位置するファルシス騎士団は険悪の仲だが、同盟関係にあり互いに何かしらの大義名分が無いと戦えない、一方、東のローイス水軍は海賊であり、名分が立ちやすかったからである。
 手始めに、フェリル島に一番近い、シャンタル島に侵攻を開始し制圧した。
サルステーネ「我が君、ローイス水軍が和睦を求めておりますが」
ムクガイヤ「まだ、シャンタル島を制圧しただけなのにか? 随分と張り合いがないな」
サルステーネ「レオーム家と我々との二正面作戦は避けたいのでしょう。既にレオーム家がナース島まで進軍しております。もともと海賊でレオーム家とは相入れませんからな」
ムクガイヤ「レオーム家の敵である我々の方がまだマシという事か、だが、和睦は無い、同盟ではなく従属という形にもっていかなくては、今後が大きく変わってくる……」
サルステーネ「左様でございます」
ムクガイヤ「こちらも少なくてもヒュン島まで軍を進め、それからこちらの有利な条件で降伏勧告しよう」
ゾーマ「逆らえば、そのまま潰すという事だな?」
ムクガイヤ「そうだ、相手は所詮海賊だ。だが、争わず海を支配できるならそれに越したことは無いし、兵站輸送力の強化等、利用価値はある」
サルステーネ「海戦は我々の不得手とするところ、取り込めるなら取り込んだ方が良いのは確かですね」
ムクガイヤ「そういう事だ。レオーム家がナース島まで制圧している以上、海賊に海の主導権を握らせるなど、消極的な事はしていられん。
こちらが主導権を握っていかなくては、勝ち目が無い」
サルステーネ「御意」
 ムクガイヤは予定通り、順調にエルタ島と南エルタ島を攻略、ヒュン島までの制圧に成功し、そこでレオーム家と戦線が接することとなった。

サルステーネ「では、予定通り、ローイス水軍に降伏勧告をしましょう。条件はどうなさいますか?」
ムクガイヤ「こちらの傘下に入る代わりに、今後も、この辺一体の制海権は与えると伝えよ……。
      ただし、略奪、密輸等の賊軍的行為は認めないがな……
      ところで、ニーナナスという海賊のリーダーはどんな女性だ? 早い話美人か?」
 ムクガイヤの意外な質問にゾーマとサルステーネは訝しげな顔をする。
サルステーネ「戦場で相見えた事が一度ありますが、海賊とは思えない綺麗な方でしたな……。」
ゾーマ「何だ? 美人だったら妾にでもするつもりなのか? そういう事はあまり興味のない奴だと思っていたが」
ムクガイヤ「勘違いをするな……。
      今後の部隊編成を考えてな、美人であるのなら、ローイス水軍の名を残しそのままニーナナスを軍団長として迎え入れたい……」
ゾーマ「海賊をか?」
ムクガイヤ「だから、美人かどうかを聞いたのだよ。ブスならいらん。
      男で、髭面、ハゲ、隻眼、刺青といった世間の想像する海賊の外見の持ち主なら軍のイメージが悪くなるから起用などありえんし、
      ブレッドや赤髭がだったら周囲の士気を高めるため公開処刑だが、性格が大人しくて、美人なら周囲のウケは良いであろう?」
サルステーネ「成程、そういうことでしたか」
ゾーマ「外見で人を判断するということか?」
ムクガイヤ「違うな、これはそういう事ではない。」
     「外見で人を判断するなど愚か者の行いだ、しかし、外見もまた、その者の持った一つの強さなのだよ」
     「早い話、美人とぶ男では、交渉事は前者の方が上手くいくものだ……。何なら賭けて見るか? ゾーマ」
 持論に絶対の自信があるのか不敵に笑うムクガイヤ……。
ゾーマ「いや結構だ、確かに言われてみればそうかもしれないな……」

 クリンク島まで追いやられたローイス水軍は、レオーム家とは交渉の余地が既になかったため、ムクガイヤ魔術師団に従属を受け入れる他なかった……。
 ニーナナスとそのローイス水軍はムクガイヤの狙い通り、ムクガイヤ魔術師団 第3軍 ローイス水軍として配下に加えられた。


■VSラストニ・パクハイト

 ヒュン島に拠点を築いたムクガイヤ魔術師団はヒュン島とナース島の間の海域でレオーム家と交戦することなる。
 しかし、互いに不得手な海戦という事もあり、戦線は膠着していた。

ムクガイヤ「もどかしいな……」
サルステーネ「我が君、こうして戦線が膠着し、睨み合いが続いている間にもレオーム家は王都を中心に直轄領を増やしておりますぞ」
ムクガイヤ「気に入らんな、やつらの腐敗が原因で挙兵したというのに、それを奴らの版図拡大に利用されておるとは……」
     「だが、まずい、奴らが直轄領を増やせば増やす程、我々が不利となる。」
     「ただでさえ、王都とフェリル島では経済力が違うのだ……」
ゾーマ「もうひとつ、パーサの森で、ラストニパクハイトという死霊術師率いるアンデッドの軍勢が現われ、エルフ共と交戦となった。」
   「現在、あの穹廬奴がエルフに協力する形で迎え討っている」
ムクガイヤ「面白い事もあるものだな。まああのトカゲ共は野蛮で色々と敵に回しておったからな、そうせざるを得なかったのだろう」
ゾーマ「アンデッドの軍勢の中に、光弾を放ち、辺り一帯を吹き飛ばす兵器があるとの報告を受けている。
   「現在そのせいか、エルフと穹廬奴側が不利の様だな」
ゾーマ「ラストニパクハイトからも、パーサからも、友好を求めてきておるが、どうする?
    我々からすれば、こうして睨み合いが続く以上、どっちに味方するにしてもパーサの森をこの際、奪う他ないと思うのだが」
ムクガイヤ「無論、そのつもりだ……。
     「戦の名分が立ちやすいのはエルフに加担し、ラストニパクハイトを討つ事だが、それではパーサの森は手に入らん」
ゾーマ「とはいえ、素性の知れない、死霊術師と手を結ぶわけにもいくまい」
ムクガイヤ「一旦エルフに加担し、その兵器とやらの破壊に協力する……。
 破壊が終われば、この度の惨事は、エルフが森の管理を怠ったという事にしその責を負わせ、安全管理を理由に支配権を奪うとするか、エルフ達にラストニパクハイトを討伐するに当たって大々的にグリンシャスに向けて派兵するため、パーサの森の中央と西部の支配権をこちらに委譲するように伝えよ。
 リザードマンは血の気が多く信用できないとし、穹廬奴とは手を切るようにも伝えておけ、後、その例の死霊術師は生け捕りにせい」
ゾーマ「わかった。それで誰を使者に向かわせ、誰に任せる?」
ムクガイヤ「そうだな、レオーム家は引き続き、我々本軍とローイス水軍で当たり、それは、フェリル党にやらせよ。海に置いておいてもしょうないし、森は獣の方が幾分よいだろう」
ゾーマ「ふっ……」
 ゾーマは犠牲が大きいであろう任務はまずゴブリンにやらせてみるというムクガイヤの冷徹な判断に失笑した。
 こうして第2軍 バルバッタ率いるフェリル党はパーサの森に派兵された……。


■アスターゼ仕官

 ムクガイヤ魔術師団が海域でレオーム家と交戦する中、ニースルーとヨネアはルーニック島に配備され、ファルシス騎士団の警戒と政務及び、魔術の研究を行っていた。

―ルーニック島 代官所 執務室

ヨネア「王都に帰れるのは一体いつになるのかしら」
 ヨネアは執務室で愚痴をこぼしていた
チルク「随分と荒れているね、ヨネア」
ニースルー「まあ、中々、思う通りにいかないしね、現在は、ファルシスを警戒してルーニック島に配備されているけど、何の進展もないし……」
チルク「…………」
 ニースルーは王都に戻れない事が、ヨネアの荒れる原因と言ったが、チルクは、親友であるニースルーがヨネアの相手をしない事が原因と思っていた。
ヨネア「ねえ、ニースルー、仕事はいつ終わるの?」
ニースルー「そうね、フェリル島の開拓事業や、教育機関設立に向けてやらなきゃいけない事があるし、今日も深夜まで……」
ヨネア「え~、今日も~? 貴方、政務をあんなに嫌がっていたじゃない」
チルク「そんなに、ニースルーが遅くまで仕事をするのが不満だったら手伝えば?」
 チルクは特に仕事をするわけでもなく、執務室にいるヨネアに苛立ちを感じていた。
ヨネア「何よゴブリン、ニースルーに気に入られているからって調子に乗って」
チルク「仕事をしないなら、執務室から出てってくれる? 自分の研究所があるだろ?」
 ニースルーはヨネアのために、予算を割いて小さな研究所をルーニック島に作っている。
 ただ、設備もろくに用意できない状況では、王都で予算を湯水の如く使って研究していたヨネアを満足させるには至らなかった。
ヨネア「碌に魔術書もない状況で、何を研究しろっていうのよ! 低能なゴブリンにはわからないでしょーけどね」
 差別的な発言が親友の口から出てきて、思わずビクっとするニースルー、状況が荒れるのは好ましくない。
 しかし、ニースルーの心配とは裏腹に、チルクは失笑していた。
ヨネア「何よ、その笑いは」
チルク「一つ聞きたいけど、魔王を召喚したのってヨネアでしょ?」
ニースルー「そ、それは……」
 魔王召喚をしでかしたのは、ムクガイヤ魔術師団の仕業というのは周知の事実だが、しかし、魔術師団としてはその事実は否定してきた。
 何を聞かれても、知らぬ存ぜぬ、クーデターを起したのはレオーム家の衰退と魔王降臨がその好機と判断したという事に表向きはしてある。
 当然、後から加わったゴブリン勢にも、そういう説明がなされていた。
チルク「いや、何も答えなくていいよ、その顔で十分」
ニースル「うっ……」
ヨネア「だったら、何だっていうのよ」
 ニースルーとは対象的に、ふてくされたように答えるヨネア、ニースルーと違ってヨネアは政治には興味が無い。
 むしろ、魔王召喚に成功した偉大な魔道師と思ってもらいたいくらいだった。
チルク「召喚魔導論……。を読んだよね?」
ヨネア「あら、ゴブリンから魔法の論文の名前が出てくるなんて以外ね、勿論読んだわよ」
チルク「だろうね、だから、笑ったんだよ」
ヨネア「!? 何でそれで笑われなきゃいけないのよ」
 ヨネアはチルクに笑われた意図を読めず、苛立ちを感じ始める。
チルク「それを書いた、アスターゼはゴブリンだからだよ」
ヨネア「なっ!?」
ニースルー「うそ…」
ヨネア「ふん……。騙されないわよ。私を担ごうって気ね、確かに驚かされたわ」
 ヨネアは冷静を保とうとしていたが、動揺しているのが見てとれた。
 チルクは何も言わず、自分の使っている机に置いてある本を取って、得意げにヨネアに渡す。
チルク「はい」
ヨネア「何よこれ」
チルク「昔アスターゼの弟子をやっていた時に、アスターゼの書いた魔術書の写本、修行の一環としてね僕が書いた」
ヨネア「アンタがアスターゼの弟子? 嘘よ……。素人なら、騙せるでしょうけど、ヨネア様の目はごまかせないわよ、確かにアスターゼは素性の知れない変人で、郵便などを使って誰にも姿を見せないってのは有名だけど。
 アンタの汚い字で、こんな適当に書かれた……」
 といって、ヨネアは写本のページをパラパラと斜め読みをするが、数行読んだだけで口を閉じ、真剣な眼差しで読み始めた……。
チルク「これで、納得した?」
 すっかり夢中になり黙り込んだヨネアに、先ほどの非礼を認めさせようと話しかけたが、ヨネアは読書に集中しており、声は全く届かなかった……。
ニースルー「ちょっと、ヨネア」
ヨネア「ん? ごめん、ニースルー、部屋に戻るわ」
 ヨネアはそういうと本を読みながら、自分の部屋に戻っていく……。
チルク「…………、ちゃんと返してよ(ボソッ」
ニースルー「ちょっとチルク、アスターゼが貴方の師だってこと、何で今まで黙っていたの?
 ムクガイヤ様は優れた魔術師なら、死刑囚だろうが、禁忌の闇の魔法を習得していようが、破門された神官でも登用する方よ?」
チルク「子供の遊びには付き合えないって言われててね、それに僕も破門された身だし」
ニースルー「でも、アスターゼは確かに、王都の魔術アカデミーでも天才としてその実力を認めらているし、ゴブリンに人間を認めさせられるには格好の人物じゃない」
チルク「確かにそうなんだけどね、また話してみるよ」
ニースルー「ねえ、私もついて行っていい?」
チルク「別にいいけど何で?」
ニースルー「そりゃあ、謎の多い大賢人に会ってみたいじゃない」

…………………………
 翌日、チルクとニースルーはフェリル島の山奥にあるアスターゼの住まう庵を訪ねた。
 現在庵には住み込みで、修行している弟子が2人いる。
ハウマン「お久しぶりですチルク」
チルク「久しぶり、ハウマン、マタナ」
アスターゼ「チルクか。そろそろ訪ねて来るとは思っておった」
チルク「そうですか、それでは話は早い」
アスターゼ「まさか、ゴブリンと人間が共に戦うとはのう」
チルク「まだ、問題は山積みです。ですから是非、老師のお力を借りたく……」
アスターゼ「わかっておる。マタナ、ハウマン、チルクに協力して上げなさい」
ハウマン「わかりました」
マタナ「喜んで」
チルク「老師にも加わって欲しいんです」
アスターゼ「わかっておる、しかし、折角、お前やバルバッタの力でここまで来たのじゃ、少し名の知れたワシが協力すれば、お前達の努力が水の泡になる」
チルク「何故ですか?」
アスターゼ「ワシが加われば、ゴブリンを快く思わない認めない者からすれば、ワシだけが認められる存在としてゴブリンという種族を否定するだろう、
 お前やバルバッタの様な、無名のゴブリンが認められてこそ、ゴブリンという種族が認められるのじゃ」
チルク「そんな……」
 チルクは言い返そうとしたが、かつてバルバッタの言った言葉を思い出す。
 『ジジイやオッサンはゴブリンが人間よりも下だと思っている。だからジジイやオッサンよりも劣る俺がそんな事は無いって証明する』
 確かにルルニーガがフェリル党の全軍の指揮をとり、アスターゼが全面的に知恵をかせば、ムクガイヤ魔術師団の助けになるだろう。
 しかし、それは、ルルニーガとアスターゼだけが認められる結果となり、若い世代の芽を摘むことにもなりかねない。
 結果として、ゴブリンという種族が認められるわけではないという事だろうか。
ニースルー「それなら、育成では協力していただけませんか?」
アスターゼ「育成?」
ニーズルー「はい、今、私とチルクとで、フェリル島に教育機関の設立に向けて動いております。
     「大学ができれば、当然、教える者が必要になります。貴方がチルク達に任せようとするのは、先ほど言った事もありますが。
     「真意は、若い世代の可能性を考えての事でしょう? なら育成に携わるのは問題ない筈です」
アスターゼ「そうか、お主がニースルーか……」
ニースルー「申し遅れました。でも何故私を?」
アスターゼ「ルルニーガの奴から聞いた。ゴブリンと人間の共存に奔走している者がいてその者に心を動かされたとな……」
ニースルー「そうでしたか」
アスターゼ「大学といったな、当然、できれば魔術の学科もできるのじゃな?」
ニースルー「勿論です」
アスターゼ「わかった、協力しよう」

 アスターゼの庵を後にした帰り道……。
チルク「ありがとう」
ニースルー「どうしたの?」
チルク「いや、僕一人だったら、老師の協力は得られなかったと思ったから」
ニースルー「どういたしまして」

 大賢人と呼ばれたアスターゼの仕官は、フェリル島の教育機関の設立の歩に拍車をかける事となった。
 ゴブリンに対し、偏見を捨てつつも、積極的に友好を深める気がなかったムクガイヤも一人の魔術士として、アスターゼをリスペクトしていたからである。

■レドザイト仕官

―ルーニック島 代官所

 ニースルーがアスターゼ、ルルニーガを仕官させてからというもの、
 文官にはフーリエンとキスナートが加わり、魔法の研究者としてマタナ、ハウマンが加わり、武官として、ムッテンベル、ポイトライトが加わり、ゴブリンの人材が充実した事で、その成果も数字に表れて始めてきていた。
 また、ルーニック島に逃げ込んだ時と比べて、代官所の執務室は賑やかになっている。
 ニースルー一人しか政務を行う者がいなかったのが、今ではフーリエン、キスナート、チルクが加わり4人となったからである。
ヨネア「う~~」
   (楽しそうね……。でも政務なんてわからないし、私もああやって、自分の研究を手伝ってくれる助手が欲しいわ)
 となりの芝生が青く見えるのか、ヨネアはゴブリンと執務をこなしているニースルーが楽しそうに見えていた。
ヨネア「そうだ、私って天才、手伝ってくれる者がいないなら、召喚すればいいのよ、なんてたって魔王を召喚したんだから」
 独り言を言いながら、ポンっと手を打つ。
 早速自分の与えられた研究室に戻り、魔法陣を床に書き始める。
ヨネア「魔界にいる悪魔を呼び出すのは、色々と大変だけど、既に現世に来ている悪魔を召喚する分には少ない魔力で出来る筈……。
魔王召喚してからというもの放浪している悪魔を見たって話も聞くし……」
 召喚魔法を唱え終えると、魔法陣からつむじ風が巻き起こり、部屋中が煙で見えなくなる。
ヨネア「成功……よね?」
 煙が巻き上がったので、何が起きたのか見えないが、確かに魔法陣から新たな者の魔力の波動を感じた……。
 煙が晴れるとそこにはお面をつけた小さな女の子がいる。
レドザイト「えっとね、なんじか? あたしとけいやくしたいのは?」
 召喚されるのは初めてなのか、必死に台詞を思い出す様にして喋る小さな悪魔。
ヨネア「ちょ……子供?」
ヨネア「契約? あっそっか」
   「物語とかでよく、悪魔って人間と契約交わしているもんね、あれって事実を元にしてたんだ」
   (ってことは、何を要求されるのかしら、伝承とかだと人間の魂ってのが多いけど……)
ヨネア「その前に、見た所子供の様だけど、何ができんの?」
   「それと支払いは現金でいいのかしら? それとも人の魂とか?」
 ヨネアに意地の悪い質問攻めにされ、慌てだす小さな悪魔。
ヨネア(魔法の研究を手伝える有能な悪魔が欲しかったけど、無理そうね、まあ、研究補佐は無理でも研究対象になら成り得るかしら)
レドザイト「えっと、えっと、冷気の魔法が得意。
      後は、猫大好き、ベビーカステラも好きだよ」
ヨネア(本当にガキね、甘いものとかわいいものが好きだなんて。まあ良い買い物かも……)
ヨネア「わかったわ……、子猫を一匹と、カステラを一年につき365個、買ってあげる。だから、あたしに仕えるのよ?」
レドザイト「うん、いいよ、よろしくね、おねえちゃん」
 無邪気に笑いながら、契約をまるでわかっていないような感じである。
ヨネア「よろしくね、私は偉大な闇の賢者ヨネア様よ、貴方は?」
レドザイト「レドザイト、あたし、頑張るからね」
 レドザイトの無邪気な子供の笑顔とは対象的に、ヨネアの笑顔は悪魔の笑顔だった……。


■ポポイロイト仕官

ニースルー「ねえヨネア、前から気になっていたんだけどその子って……」
 ヨネアが買い与えた子猫と戯れるレドザイトを見て、疑問を口にする。
ヨネア「そう、悪魔の子……、召喚して契約したの」
ニースルー「本気? 悪魔と契約を交わすなんて」
ヨネア「大丈夫よ、見た目通りのガキだから、カステラと子猫で取引に応じたわ、子供だけど魔力は高いし、戦いもできる。安い買い物よ」
 そういって、腹黒く笑うヨネアを見て、ニースルーの表情はひきつった。
ニースルー「…………」
ヨネア「本当は、私の研究を補佐してくれる悪魔を召喚したかったんだけどね、助手には成り得ないから、また召喚しないといけないんだけど」
ニースルー「ヨネア、悪魔を陣営に加えるなんて、いくらなんでも危険よ。確かに戦力になるとは思うけど」
ヨネア「大丈夫よ、そんなに心配しなくても、やばそうなのが来たら、契約せずに送還すればいいんだし。」
   「大体、ニースルーだって、人とかゴブリンとか気にしなかったじゃない。」
   「ゴブリンが良くて、悪魔はダメってどっからくるわけ?」
ニースルー「いや、悪魔は流石に……。もともと現世にいる生き物でもないし、少なくても、ムクガイヤ様に了承を得たほうが……」
ヨネア「何でよ? そもそも自分とこの王を始末するのに、魔王を召喚するなんて無茶言い出したのはあいつよ?
   「おかけで、王は死なない、レオーム家と 魔王軍の双方から恨みを買うし……、
   「その結果、都落ちして、こんなしょぼい研究所で研究する始末」
ニースルー「ごめん、ヨネア」
ヨネア「あっ……。違うのよ、ニースルーが用意してくれたこの研究所に不満があるわけじゃないの。」
   「ただ、王都で研究した時に比べてやれることが限られているから……」
ニースルー「そう……よね」
ヨネア「とにかく心配しないで」
ニースルー「ヨネア、これだけは約束して、やばいの召喚して収拾つかなくなったら、必ず私に相談する。約束よ?」
ヨネア「わかったわ、やばい状況に追い込まれたら、必ず相談する」
 その言葉を聞いて、少し安心する。
レドザイト「大丈夫だよ、おねえちゃん、あたしがついてるもん」
 いつの間にか近くに来ており、会話に交ろうとするレドザイト。
ニースルー「そう? ヨネアの事を頼んだわよ」
 ニースルーは思わず人間の子供の様に頭を撫でた。
レドザイト「うん」
 ニースルーは、純朴そうなレドザイトを見て少し安心したのか部屋を後にする。

…………………

ヨネア「さて、魔法陣はこれでOKだし、やりますか」
 前回と同じように、部屋が煙に包まれ、煙が晴れると、レドザイトと同じような悪魔の子供がいた……。
ヨネア(また、子供か……)
ポポイロイト「ねーねーダッコして~」
 レドザイトが無邪気にニコニコしているのに対し、新しく現れた悪魔は、何処か邪気を含んだようなニヤニヤとした笑顔であった。
ヨネア(それにレドザイトと違って、クソガキそう。まあ、戦力にはなるかしら?)
ヨネア「単刀直入にいうわ、貴女に仕官して共に戦って欲しいんだけど、何で支払えばいいかしら?」
   (お菓子だと楽でいいわね、生意気にも魂が欲しいとか言い出したら、ゾーマの魂でも差し出そう、あいつは元死刑囚だし、誰も困らないわよね)
ポポイロイト「ポポの遊び相手になって欲しいの~」
ヨネア(遊び相手って、これまた格安、一文もかからないじゃない、いやまて、子供とはいえ悪魔、契約内容をよく確認しないのは危険よね)
ヨネア「遊びって何かしら、まさか大人の遊びじゃないわよね?」
ポポイロイト「ポポを抱っこしてくれたり、鬼ごっこして欲し~な~」
ヨネア「そんなのお安い御用よ、契約成立ね」
ポポイロイト「わーい、じゃあ、早速……」
 ヨネアは反射的に身を引いた。
 何かよくわからないが危険を感じ取ったのである。召喚の時に使った魔法の杖の先が何故か無くなっていた……。
 とっさに向かってくるものを杖で防ごうとして、何かが爆発したのだ。
 しかし、爆発がわからないのは、爆音を認識する前に、鼓膜が破れてしまい、音が聞こえなくなったためである。
ヨネア(一体何が!?)
 ポポイロイトの方に目をやると、ポポイロイトが複数になっていた。今も尚分裂するように増えていく……。
ヨネア「なっ!?」
ヨネア(まずい、あの分身に触れると爆発するんだわ)
ポポイロイト「100人のポポから逃げてね、おばちゃん」
 黒い笑顔を浮かべ、それを見てヨネアはぞっとした。
 軽はずみで悪魔を呼び出し契約した事を後悔する
ヨネア(ごめんね、ニースルー約束守れなかったみたい……)
 分身が一斉に向かってくる。激しい爆発音が鳴り響いた。
ヨネア(生きてる!?)
レドザイト「大丈夫? おねえちゃん」
 レドザイトが主の危険を察知し、ポポイロイトの分身からヨネアを冷気の魔法で守ったのだ。
 ヨネアは自分が守られた事を理解すると、レドザイトの手を掴みそのまま出口に向かって走った。
 追ってくる分身はレドザイトが冷気の魔法を唱え続けなんとか凌ぐ、外に出ると、エクスプロージョンを唱え、残った分身を1体残らず吹き飛ばした。
ポポイロイト「てへ、分身つきちゃった、おばちゃんの勝ち~」
 ポポイロイトには全く殺意が無い感じで、自分が何をしたのかわかっていないようだった。
ヨネア「こら、いきなり始める奴があるか? それに鬼ごっこはどっちが鬼かどうかをまず決めてからやるものよ」
   「それに、あたしはおばさんじゃない!」
 ヨネアはポポイロイトにごつんと拳骨を入れる。
ポポイロイト「ぶー、おばちゃんのバカー」
 涙目になったポポイロイトはそういって飛び去った。
ヨネア「レドザイト、悪いけど、今度から貴方があの子と遊んであげてね」
レドザイト「うん、いいよ」
 面倒な事はレドザイトに押し付けると、強力な特技を持った悪魔を手に入れた事に嬉しさを隠しきれない半面、残骸と化した研究室を見て、ため息を吐くヨネアであった。
ヨネア「ふぅ……。けど、助手には成りそうにないわね、研究室は大破するし……」
 その時ヨネアは気付いていなかった……。
 レドザイトとポポイロイトを遊ばせる事で、ポポイロイトがレドザイトに悪戯を教える事を……。


■ラングトス仕官

ヨネア「ぜえ、ぜえ、レドザイトをポポイロイトの遊び相手にしたのは失敗だったわね、レドザイトまで悪ガキになりつつあるわ……」
 ヨネアはポポイロイト召喚時に殺されかけたため、次の召喚に二の足を踏んでいた。
 しかし、日に日に大きくなる、子守の負担に、次の悪魔を召喚して、そいつにどうにかさせようと考え始めていた。
ヨネア「ニースルーに何かあったら、相談してとは言われているけど、流石に子守してとはいえないし……。危険だけど次の召喚を試みる事にする」
 研究日誌をつけながら、記載する内容を口ずさむ。
ヨネア「レド、ポポ、来なさい」
 屋内を走り回ってカクレンボをしている2人を呼び、何かあった時のために備えさせる。
ヨネア「いい? クソ生意気な悪魔が現れてあたしに何かしようもんなら、貴方達二人でそいつをボッコボコにするのよ?」
   「それこそ、思いっっっきり鬼ごっこしてあげていいから」
レドザイト「うん」
ポポイロイト「楽しみ~」
 召喚魔法を唱え終え、いつもの様に煙が噴き出し、あらたな魔力を持った存在がその場に現れる。
「ライブの始まりなんだってヴぁ」
 それは、召喚された悪魔の声だろう。ハスキーな声とともに部屋が光に包まれた。
 光り輝く精霊が現れたかと思えば、悪魔はそのままギターの演奏を始める。
 悪魔たちの音楽なのか、ヨネアにとっては初めて聞くジャンルの曲だった。
ヨネア(今度は物凄いイロモノが来たわね、流石にこれの面倒は見れないわ)
 強制送還の魔法の詠唱を始めるヨネアとは対象的に、レドザイトとポポイロイトは楽しそうにノリノリでラングトスの演奏と歌をきいている。
 ヨネアが強制送還の魔法を唱えようとした時、ラングトスの演出なのか、周囲の床が爆発した。
ヨネア「これは!?」 
 それは、ヨネアの使う闇のSSクラスの魔法、エクスプロージョンによく似ていた。
 爆発の規模はヨネアの物に比べ、小さいものであったが、演奏中に何度も使われる。
ヨネア(エクスプロージョンではないけど、それと似た魔法を短時間中に何度も使っている!?)
 エクスプロージョンはその威力のため、術者への負担が大きく、一日に一回が限度である。
 それを良く似た魔法を小規模なものとはいえ連発してみせるラングトスは、研究者としてのヨネアの心をくすぐった。
ヨネア(研究し甲斐がありそうね……)
ヨネア「中々だったわよ、今の演奏」
 とりあえず、適当に誉めながら、ラングトスとの交渉に入ろうとするが、ラングトスは特にヨネアに興味は無い感じで……。
ラングトス「バンド組もうZE」
 とだけ言った。
ヨネア「バ……バンド!?」
ヨネア(バンドってあれよね、少人数のメンバーがそれぞれ違う楽器を担当して演奏し、曲を作る連中)
   (それを組もうって言ったの?)
   (お金や魂がかからないのはいいけど、難題よね)
ヨネア「も……勿論いいわよ。
    ここにいるレドザイトとポポイロイトがそれぞれ、カスタネットとタンバリンができるから。これでバンド結成よね」
レドザイト「タンバリンってなあに?」
ラングトス「ふざけるんじゃないんだってヴぁ」
 ラングトスは持っているギターぶん回して暴れ出す。
ヨネア「ちょ……ちょっと暴れないで」
ラングトス「ベースとかドラムとかそういうのだってヴぁ」
ヨネア「わかったから、落ち着いて……。現世でバントを組もうと思ったら事務所に所属する必要があるの」
 ピタっと、動きを止めて、ヨネアを見る。
ヨネア「私が事務所を作ってあげるわ、何かと便利よ、メンバーも仕事も探して貰えるしね」
ラングトス「…………」
 ラングトスは疑うような目つきでじ~っとヨネアを見ている。
ヨネア「というわけで、契約書もってくるからサインお願いね」
ヨネア(何とかなりそうね)
ヨネア「これが契約書、さサインして」
ラングトス「………………」
 ラングトスは何も読まずにサインすると思ったヨネアの思惑とは違って、ヨネアが契約書にさりげなく盛り込んだ毒素条項に尽く修正を入れていく……。
ヨネア(うっ……こ…こいつ。できる)
 一通り、ヨネアに都合のいい内容の修正が終わると、無言で契約書を突き返す。
 修正したから、『上記修正に相違ありません ヨネア』と一筆入れろといわんばかりに……。
ヨネア(くそ……。しょうがない、いつまでにメンバーを用意するっていう約束は書いていないからとりあえずサインして、適当な悪魔を召喚してそいつをメンバーにするしかないわ)
 ヨネアは、渋々ラングトスの修正した契約書に一筆を入れ、それを見届けると、ラングトスもサインした。
ヨネア(ラングトスって言うのね、バンド名はジャンキージャンクか……。ヤクとかやってんのかしら?)
 ラングトスがヨネアの知らない魔法を唱えだす。
 そうすると、契約書が複製され、一枚を自分の懐に入れ、一枚をヨネアに渡した。
ヨネア(イカレた奴かと思ってけど、意外としっかりしているのね……)
ヨネア「はあ……。子守問題も解決してないし、メンバー探しか……。まあいいわ次の召喚で逆転してやる」

■ドラスティーナ仕官

―ルーニック島 代官所 ヨネアの研究所

 ラングトスが仕官してからというもの、連日連夜ギターの演奏をし、文官達から苦情が殺到していた。
 ニースルーは代官所の敷地内の母屋から離れたところに、新たにヨネア用の研究所を建てさせると、ヨネアにそこで研究するように言い渡していた。
ヨネア「神様ラザム様、子守のできる悪魔が来ますように、それがダメなら、せめてドラムかベースの演奏ができる悪魔が来ますように……」
 神の祈りと願いを終えると5度目の悪魔召喚を試みる。
 例の如く、もしものために、3人の悪魔は部屋の外で待機させていた。
 いつものように煙に部屋が包まれるが、あからさまに今までとは違う強烈な魔力の波動を感じ取る……。
ヨネア(この力! かなり高位の魔族が来た?)
ドラスティーナ「人間如きが私を呼ぶなんて、どんな命知らずかしらね」
ヨネア(ついに……、悪魔らしい悪魔が来た)
 思わず努力が報われた事に感動し、拳を握りしめ涙を流すヨネア。
ドラスティーナ「私を呼び出したワケを聞かせていただこうかしら? どこかの国でも焼き払うつもり?」
 自身の力に対する、絶対的な自信からか、物騒な事を言い始める……。
ヨネア「現世に来ているから知っているとは思うけど、今は戦乱の世。強い力を持った者が一人でも多く欲しいの(キリッ」
ヨネア(今、本当に欲しいのは子守だけど、私に仕えさせた後、子守を命じるのが得策、ついでにバンドのメンバーもやらしちまえ)
ドラスティーナ「そう……要するに私に仕官しろって事ね? それで貴方は私と契約するだけの代償を払えるのかしらね?」
ヨネア「そうね、あたしが貴方の友達になってあげる」
ドラスティーナ「クスッ  ふざけているのかしら? タダで働くとでも?」
ヨネア「友情は金でも魂でも買えないわ、悪魔と友達になってあげなきゃいけないなんて、人間にとってこれ以上の屈辱(代償)はないわ」
ドラスティーナ「面白い事をいうのね貴方、私を召喚してコケにしたのは貴方が初めてよ」
ヨネア(流石に無理があるか……)
ヨネア「わかったわ、じゃあ百歩譲って、強力な魔導師の魂をあげる」
ドラスティーナ「それじゃダメよ、ゾーマっていうのは貴方にとってどうでもいい存在の魂でしょ? そういうのは悪魔にとって何の価値もないの」
ヨネア(記憶を読まれた? これが高位の悪魔の力!?)
 闇の魔法には、メンタルサックやナイトメアといった他人の精神に関わる魔法が数多く存在する。
 それが高位の悪魔が使うとなるとこういった事もできるようだ。
ドラスティーナ「そうね……、貴方にとって正に賭け替えの無い魂となると、ニースルーっていうの? 貴方の大切なお友達は……」
ヨネア「あ?」
 表情がひきつり、怒りを露わにする。
ドラスティーナ「クスッ。良い顔ね、でもそれが悪魔との契約ってモノよ?」
ヨネア「心を読んだのならわかるでしょ、払えるわけがない」
ドラスティーナ「別にまだ契約したわけじゃないし、引き返す事もできるわよ」
ヨネア「ねえ、悪魔の社会って完全な縦社会よね? 強い者には絶対服従」
ドラスティーナ「まあ、大体そんな感じね。下位の悪魔が高位の悪魔に逆らうなど許されない事よ、それがどうかしたかしら?」
ヨネア「つまり、あたしが貴方をしばけば、貴方に何の代償も払う事無く、貴方を仕官させられるのね?」
ドラスティーナ「本当に面白い子ね、じゃあ、負け方が勝った方に従うって事でいいかしら?」
ヨネア「それでいいわ、契約成立ね」
ドラスティーナ「灰塵になっても恨みっこなしよ」
 ドラスティーナがそういうと、空間に炎の渦が出来き、一振りの剣が現れる。
ヨネア「ポポイロイト、この人と思いっきり鬼ごっこしてあげなさい」
 ヨネアは待機させていたポポイロイトに向かって叫んだ。
ポポイロイト「ほーい」
 研究室の扉が破壊され、ポポイロイトの分身がなだれ込む……。
ドラスティーナ「な!?」
 不意と背後を取られ、ドラスティーンはわずかに動揺するが、ドラスティーナの剣が炎に包まれたかと思うと、火炎を放ち、分身を手前で爆破させ凌いでいく……。
 レドザイトが素早く接近し、ブリザードブレスを放った。
ドラスティーナ「ちょっと、どういう事よ? 3人がかりなんて卑怯じゃない」
ヨネア「うるさい、うるさい、うるさーい、誰も一対一だなんて言ってない」
ラングドス「それに、俺もいるんだってヴぁ」
 ドラスティーナの頭上でギターを振り上げているラングトス。
 ライブエクスプロージョンを唱え、建物全体に爆音が鳴り響いた……。

―執務室

 研究所で起こった戦いで、ガタガタと建物全体が揺れている
チルク「うるさいなぁ」
ニースルー「はあ、また派手な爆発系の魔法の研究でもしているのかしら?」
チルク「離れにしたのに、ちっとも解決しない、もう、代官所の敷地外にした方がいいんじゃないか」
ニースルー「それだと、流石に予算が……。 ちょっと、見てくるわ、休憩を促して、少し話してみる」
 ニースルーは席を立ち、ヨネアのいる離れに向かった……。

ドラスティーナ「やるわね、一対一と思わせ、数人がかり、それに別の悪魔を既に味方につけていた事にも驚いたわ」
ヨネア(強い……)
ドラスティーナ「でも、前衛がいないのが致命的。デーモン種を味方につけていなかったのが貴方の敗因よ」
ヨネア「まだ、負けてないわ」
ドラスティーナ「この状況で、逆転できるとでも?」
 既に、ラングトスとポポイロイトはリタイヤしており、ドラスティーナの火炎をなんとかレドザイトの冷気で防ぐのが精一杯になっていた。
ヨネア(とんだ泥仕合ね、こうなると身体能力の高い方が有利……。まさか、ポポイロイトの分身を切り抜けるなんて……)
ドラスティーナ「潔く負けを認めたらどうかしら? 貴方面白いし、直ぐに殺すなんて真似はしないわよ?」
ヨネア「ここは私の研究所、私は闇の魔法エクスプロージョンの研究しているの……」
ドラスティーナ「だったら、使えばいいじゃない、それで私が倒せるなら……」
 ヨネアは研究所の大破を避けるため、広範囲の魔法は使っていなかった。
 それはドラスティーナも気づいていたが、仮に使われたとしても、それに耐えうるだけの力は持っていた。
ヨネア「残念ながら、私のエクスプロージョンだけじゃ、アンタは倒せない、でも……」
 壁に背を向けたまま手を伸ばし、壁についているレバーを倒す。
 ガタンと音がし、何かが作動する。
 扉のあった所と窓に鉄格子降りてきて、研究所が全体が封鎖された。
ヨネア「私の研究は禁忌だから、もし何かあった時のためにいつでも証拠を闇に葬れるよう、研究所には自爆装置が仕掛けてあるの」
ドラスティーナ「貴方も死ぬわよ?」
ヨネア「バカね、私はエクスプロージョンが使えるのよ。」
   「爆発の瞬間に合わせれば相殺できるわ、でも貴方はどうかしら? 2重の爆発に耐えられる?」
ドラスティーナ「ちっ」
 舌打ちをし、魔法の発動を阻止しようヨネアの方へ向って駆けてくる
ヨネア「生きていれば、今日からアンタは私の部下よ。」
   「エクスプロージョン」
 力ある言葉が解き放たれ、研究所が大爆発をおこした……。

―庭

ニースルー「ヨネア……。やってくれたわね……」
 ニースルーは爆発を見ても、身の心配はしていなかった。
 爆発の原因はヨネア自身の魔法によるものであろうから、術者が吹き飛ぶ分けはないと。
ニースルー「全く勝手な事ばかりして……」
 ぶつぶつ言いながら、爆煙の上がる方へ歩をすすめる。

ドラスティーナ「や……やるじゃない……。流石に今のは死ぬかと思ったわ……」
 全身真っ黒になり、それでも尚、膝をつく事無く、その場に佇む悪魔貴族。
ヨネア「ふ……ふん、アンタも、思いのほか頑丈ね……。あの爆発に耐えるなんて」
 ヨネアは魔力を使い果たし、立っているのがやっとの状態であり、一方、ドラスティーナはふらふらとした足取りではるが、ヨネアの方へ近づいていく……。
ヨネア(これでも倒せないなんて、万策尽きたって感じね……) 
ニースルー「ちょっとヨネア、幾らなんでもやりすぎよ」
ヨネア「げっ……。ニースルー」
ヨネア(いや! そうよ! ニースルーに加勢してもらうのよ、あいつもフラフラだしこれで勝てる)
ドラスティーナ(新手がまだいたとは……。)
 ニースルーはそのまま、ドラスティーナの方へ歩いて行き……。
ニースルー「新しく召喚された悪魔の方ですね、いつもヨネアがお世話になっています」
 礼儀正しくお辞儀をした。
ドラスティーナ(あの子の親友だというから、どんな電波かと思ったら、うって変わって礼儀正しい子ね)
ニースルー「向こうにお茶とお菓子を用意してあります。どうぞこちらへ」
ドラスティーナ(現世のお茶か……。どんなものかしらね?)
ドラスティーナ「そうね、いただこうかしら」
ヨネア「ちょっと、アンタ、決着はまだ、ついて……」
 その時、ヨネアの服が引っ張られる。
ヨネア「レドザイト?」
 泣き出しそうな顔で首を横に振る。
 子供なりにこれ以上戦うのは危険と伝えているようだ。
ヨネア「くっ……」
 ヨネアはとりあえず、2人の後を追った、ドラスティーナはニースルーに連れられ、紅茶と茶菓子を馳走されていた。
ドラスティーナ「あら、良い香り」
ニースルー「この紅茶はベルガモットといいます。お口に合うかしら?」
 2人はその後、紅茶について楽しそうに語りあう、ドラスティーナは淑女として振る舞い、特にニースルーに何かすることは無かった。
ヨネア「何よ、随分と楽しそうね……」
 遠目で、楽しそうに紅茶を嗜む2人を見て、複雑な気分になる。
 ちょっとしたお茶会が終わり、ドラスティーナはニースルーが視界からいなくなるのを見届けた後、ヨネアの方を向き直る。
ヨネア「まだ、決着はついていないわ」
ドラスティーナ「そうね。続きやる?」
ヨネア「くっ……」
 お互い魔力は空に近い、体力も互いに限界、それこそ子供の喧嘩の様に、意地の張り合い、殴り合いになれば、明らかにドラスティーナに分があった。
ドラスティーナ「ねえ、この勝負は引き分けって事にして、普通に雇ってくれてもいいのよ?」
ヨネア「どういう風の吹き回し? 悪魔からそんな言葉が出るなんて」
ドラスティーナ「ちょっと、現世というか貴方達に興味が持てただけよ、貴方と居れば退屈から解放されそうだしね」
ヨネア「…………」
ドラスティーナ「とはいえ、タダ働きなんて私のプライドが許さないから、報酬は貴方達の主、ムクガイヤっていうのね、それの給料と同額、それに月一回のティーパーティーを行う事、これが条件よ」
ヨネア「わかったわよ……。それでいいわ。契約成立ね」
 ヨネアはムクガイヤの取り分が幾らなど全く知らなかったがOKした。
ドラスティーナ「では、あらためて私はドラスティーナよ。これからよろしくね」
ヨネア「よろしく……」
 握手を交わす2人……。
 それを見たのか、復活したポポイロイトがやってきて、ドラスティーナに抱きついていくる。
ドラスティーナ「何よこの子、いきなり抱きついてくるんじゃないわよ、馴れ馴れしいわね」
ポポイロイト「ポポのママになってくれるんでしょ?」
ドラスティーナ「!?」
ヨネア(バカ! まだ早い)
ドラスティーナ「どういう事よ!?」
ヨネア「えーっと」
 ヨネアは人差し指と人差し指をつけながら困った顔をする。
ドラスティーナ「いいわ、思考を読めば」
ヨネア「あっ、こら、人の記憶を読んだりするのは禁止よ」

―回想

ポポイロイト「もっと遊んでよ~、つまんなーい」
レドザイト「つまんな~い」
ヨネア「う~、今度来る人が、貴方達のママになってくれるから、思いっきり甘えるといいわ」
ポポイロイト「ほんと?」
ヨネア「ほんとにほんと」
レドザイト「たのしみ~」
ラングトス「それより、俺のメンバーはいつになるんだってヴぁ?」
ヨネア「順序ってモンがあんのよ上手くいけば、それも今度かな」
ラングトス「…………」
ヨネア(チビ共はともかく、この目は疑っているわね早くしないと……)

ドラスティーナ「何よそれ! 貴方、私を子守にするどころか、あの、
やかましい、
おかしい、
いたましい、
3拍子揃った奴と、バンドを組ませる腹積もりだったの?」
ヨネア「……(コクリ」
ドラスティーナ「さて、魔王軍にでも仕官してこようかしら」
 そう言って、美しい翼をはためかせ、飛び去ろうとするドラスティーナの足をガシっと掴む……。
ヨネア「待ってよ、契約成立しているじゃない、契約反故は高位悪魔の名折れじゃないの?」
ドラスティーナ「うっ……。そ、そうよ、これは夢よ、夢なのだわ」
ヨネア「こらっ! 現実逃避するな!」
ドラスティーナ「何処に、高位悪魔に子守とバンドのメンバーやらせる奴がいるのよ!」
ヨネア「うるさいうるさい、アンタは私に雇われているんだから、子守もメンバーも仕事なんだから黙ってやりなさいよ」
 いつまでもいがみ合う二人、ニースルーはその口喧嘩をする2人を遠目で見ていた。
ニースルー「よかったわねヨネア、良い友達ができて……」


■キオスドール仕官

ヨネア「ホントにいるんでしょうね」
ドラスティーナ「いるわよ、私より遥かに子守に適した悪魔が」
 今回、次の召喚を提案をしたのはドラスティーナだった、その悪魔に貧乏くじを引かせるために。
ヨネア「いくら子守が得意でも、伝承とかに出てくる外見がグロい奴とかでっかいハエとか、いらないんだけど」
ドラスティーナ「大丈夫よ、見た目は二十歳前後で女性で美人だし、性格も大人しいわよ。シャルロットっていうんだけど、私が現世に来た時、魔力を感じたから、こちらに来ている筈」
ヨネア「大人しい子なんているの」
ドラスティーナ「いるわよ、気弱で、自分が悪くなくても謝ってしまうタイプ、いわゆるグズな子よ」
ヨネア「確かに、子守とかには向いてそうね」
ドラスティーナ「でしょう? それに潜在能力は決して低くは無い筈よ、悪魔にしてはめずらしく回復魔法も使えるし、
デーモン種だから、ラングトスとかよりも頑丈、ただ性格面の問題でいつまでたっても奴隷階級なんだけど」
ヨネア「ふーん」
 喋りながらも魔法陣を書き終え、魔法を唱える。
 するとそこには血だらけの女が立っていた。
ドラスティーナ「………………」
ヨネア「………………」
   「これ?」
ドラスティーナ「ちがうわよ!」
ヨネア「ちょっと何で血まみれなのよ? それとも血糊? 何かの演出のつもりかしら?」
マビドレ「何で、血がついているかって? それは人を殺しちゃったからだよ」
 ヨネアはドラスティーナに視線を送る。それに応え、首を横に振るドラスティーナ。
ヨネア「あのね、男は基本馬鹿でいらないけど、馬鹿な女も平等にいらないの。というわけで強制送還」
 召喚とは逆の魔法を使って、マビドレを何処かに飛ばした。
ドラスティーナ「どこに行ったの?」
ヨネア「さあ? 二度と会いたくないし、ここからなるべく遠くに飛ばしたつもりだから、パーサの森の僻地にでもいるんじゃない」
ドラスティーナ「そう、というか、召喚って指定できないの? ルーゼルを召喚したのって貴女なんでしょ?」
ヨネア「魔力の高い低いである程度選ぶ事はできるけどね、完全な指定は無理よ。有名でもなければ、会った事もないんだし……。」
   「それより、次いってみよう」
 数撃てば当たる方式で、召喚魔法を唱えていく。

ヨネア「何この軽薄そうな男? 死神でも気取ってんのかしら? 女に相手にされなそうなかわいそうな奴ね」
ヨネア「外見が生理的に無理、ドーピングとかどうでもいいから」
ヨネア「筋肉馬鹿は手玉にとられやすいからいらないの」
ヨネア「あのくだらない研究をする奴は一人で十分」
ヨネア「何コレ、ミイラ!?」

 片っ端から召喚しては片っ端から送還するヨネア。
ヨネア「ちっ……。碌な悪魔がいないわね」
ドラスティーナ(今まで悪魔に物怖じしない人間は何度か見たけど、悪魔をここまで上から目線で見る人間は初めてね、感嘆とさせられるわ)
ヨネア「本当にこっちに来ているの? その悪魔、一向に出てこないんだけど」
ドラスティーナ「来ているのは確かよ、ひょっとしたら、召喚を拒否しているのかも」
ヨネア「拒否?」
ドラスティーナ「悪魔は普通、召喚されれば面白がって、それに応じるんだけど、何か理由があってそこを離れたくないのよ」
ヨネア「へ~」
ドラスティーナ「例えば、すでに魔王軍に仕官している悪魔だったら、召喚に応じようものならルーゼルに処刑されるしね」
ヨネア「魔王軍にとられちゃったって事?」
ドラスティーナ「あんな気弱で奴隷階級の悪魔をルーゼルが登用するとは思えなかったけど、そういう事なのかしらね」
ヨネア「残念、じゃあ、次試みて、ダメだったら諦めるわ。戦場で出会う事があれば生け捕りにすればいいんだし」
ドラスティーナ「それもそうね」
ドラスティーナ(ちっ……。子守から解放されると思ったのに)
 気を取り直し、再び召喚を試みる、煙が上がり新たな魔力の波動を感じた……。
ドラスティーナ(シャルロットではないわね……。あーあ)
 煙が晴れるとそこには10代半ばくらいの少女が立っていた……。
キオスドール「うふふ、召喚していただき誠にありがとうございますわ」
ヨネア「また子供か……。でもあのチビ達と違ってしっかりしてそうね。この子で召喚自体、最後にしようかしら」
ヨネア(この外見は淫魔って奴よね、まあ、男がどうなろうと知ったこっちゃないし、別にいっか)
 ヨネアは礼儀正しい態度から、少しだけ期待を寄せている。
ドラスティーナ「ヨネア、あの子はやめた方がいいわ」
ヨネア「何でよ? チビ達みたいに、面倒かけそうには見えないわ、大体魔力の大きさからしても貴方より格下じゃない、何を警戒してんのよ?」
ドラスティーナ(確かに魔力は私より下……。でも何か、こう悪魔とは違った異質な者を目の前にしているかのような……)
ドラスティーナ「ふん、別に、警戒なんかしていなわよ」
ヨネア「じゃあ、決まりね」
   「知っていると思うけど、今は戦乱で一人でも多く、強い者が欲しいのよ。仕官して貰えないかしら?
    物足りないかもしれないけど、契約は人間と同様でお金の報酬となるし、勝手に男を垂らし込んだりしないでね淫魔さん」
キオスドール「ええ、それで構いませんわ、今後はキオスドールとお呼びください」
ヨネア(あら? やけに聞きわけいいじゃない)
ヨネア「キオスドール、それで大人の男の相手は得意そうだけど、女の子供の相手はどうかしら?」
キオスドール「うふふ、面白い事をおっしゃいますわね、勿論かまいませんわ」
ヨネア(凄く良い子じゃない)
ドラスティーナ(裏があるのは間違いないけど、一体何を企んでいるのかしらね)
ヨネア「ポポイロイト、レドザイト」
ポポイロイト「は~い、何~?」
ヨネア「今度から、このお姉さんの言う事を良く聞くのよ? 良い子にすれば色々と遊んでいる貰えるからね」
レドザイト「うん」
ポポイロイト「よろしく~」
キオスドール「うふふ、よろしくね、それではヨネア様、契約成立という事でよろしいですわね?」
ヨネア「ええ、いいわ。所で楽器は得意?」
キオスドール「ピアノが少しだけできますわ、ただ、ラングトスちゃんのお眼鏡に適う程ではありませんの」
ヨネア(色々とこちらの事を知っている様ね……)
 こうして、キオスドールがヨネアの陣営に加わった。


■銀の夜明け団結成

―ルーニック島 ヨネアの研究所

ヨネア「皆揃ったわね(キリッ」
ヨネア(こうして見ると、少し壮観ね、それにどいつもこいつも曲者揃い……)
ドラスティーナ「一度に全員集めるなんて珍しいわね、どうしたの? どっかの国でも焼き払う気になった?」
ヨネア「いや、あたし達も人数増えたし、今日はヨネア様率いる悪魔の軍勢の部隊名でも決めようかと思って」
ポポイロイト「しにがみおうこく~」
レドザイト「えっとね、ねこねこていこくがいいな」
ヨネア「却下」
ラングトス「ジャンキージャンク」
ヨネア「却下、それ、アンタのバンド名でしょうが!」
キオスドール「うふふ、夢魔の巣はどうかしら」
ヨネア「風俗じゃないから!」
ドラスティーナ「そうね、薔薇のネ……」
ヨネア「却下! てか、もう決まっているの!」
ドラスティーナ「だったら、先に言いなさいよ」
ヨネア「アンタ達が勝手にアレコレ言いだしたんでしょうが!」
ドラスティーナ「それで、なんてつけたの?」
ヨネア「銀の夜明け団、ヨネア様率いる悪魔の軍勢は今日から銀の夜明け団と名乗りを上げる事にするわ」
ポポイロイト「ぶ~、なにそれ~」
ヨネア「異論は認めない」
キオスドール「うふふ、面白い事になりそうですわね、わたくしゾクゾクしてきましたわ」
ドラスティーナ「これがどうして、面白い事になるのよ?」
キオスドール「あら? ご存じありませんの? 銀の夜明け団と言えば、10年前に壊滅した、闇の魔法を研究する秘密結社……」
      「おそらく、そんな組織を壊滅させる事ができるのは、今、魔王軍討伐に動いているラザムの使徒……」
      「そんな組織が復活したとあっては、ラザムのとる行動は?」
ドラスティーナ「……。つまり、ラザムを敵に回したって事ね」
キオスドール「戦いは避けられませんわね、きっとヨネア様の首を狙ってきますわ……」
ドラスティーナ「ふん、そんなことは私がさせないわ」
ヨネア「さあ、行くわよ皆の者。」
   「いい加減ルーニック島で、ママゴトしているのは飽きたわ。まずはあの生意気なファルシス騎士団をぶっ潰す!」
 びしっと指をさし、ポーズ決めてみせるリーダー、それに応えるかのようにラングドスは進軍ラッパの如くギターを演奏する。
 レドザイトとポポイロイトは興奮しはしゃぎまわっている。
 キオスドールは冷笑しており、ドラスティーナだけが真剣に戦略を練る……。
ドラスティーナ「ねえ」
ヨネア「ん?」
ドラスティーナ「ふと思ったんだけど前衛が私しかいなくない?」
ヨネア「そうね」
ドラスティーナ「いや、『そうね』じゃなくて」
ヨネア「あんた、一人いれば十分じゃない」
ドラスティーナ(こいつ……。ここで私が憤慨すれば、大したことないのねとして丸め込むつもりね)
ヨネア「ドラスティーナ、あたしは貴方に期待してるのよ。前衛なんて貴方一人いればいいじゃない」
ドラスティーナ「……。まあ、そういう事にしておくわ……」


―ムクガイヤ魔術師団 本軍陣営

サルステーネ「我が君」
ムクガイヤ「どうした?」
サルステーネ「ヨネア様が、銀の夜明け団と名乗り、悪魔の部隊を編成されたとの報が届きました」
ムクガイヤ「ほう……。悪魔の軍勢とはヨネアらしいな……。」
     「しかし、銀の夜明け団といえば、闇の賢者を排出していた秘密結社、やはり繋がりがあったのか……」
     「まあ、ヨネアは常人には少し理解しがたい行動を取るが、決して馬鹿ではない好きにやらせておけ」
サルステーネ「ははっ」

―ラザムの使徒 陣営

イオナ「銀の夜明け団……、生き残りがいたのね」
   「おそらく此度の魔王降臨にも関わっている……。」
   「率いるは悪魔の軍勢、ラザムとしては、ムクガイヤ魔術師団も討伐対象にしなくてはならなくなりましたわね」

―ファルシス騎士団 陣営

ロイタール「悪魔の軍勢とは……。あのクズ共の考えそうな事だ」
ホーニング「どうする? 今は互いに静観を決め込んでいるが、実質あの時結んだ同盟など、もはやどうでもよいもの」
ロイタール「無論、相手が悪魔の軍勢を率いているとなれば、それを討伐するにあたって騎士道に反するという事もあるまい。」
     「クックリー卿、宣戦布告だ。悪魔の軍勢を率いる、ムクガイヤ魔術師団の一角、銀の夜明け団を討伐する」
クックリー「わかった」

―ルーニック島 代官所

ドラスティーナ「貴女が名乗りを上げたせいで、早速ファルシスから宣戦布告が届いたわよ」
ヨネア「望むところよ。それともドラスティーナ、怖気づいたの?」
ドラスティーナ「バカおっしゃい。」
       (私の仕事が多そうなのが気になるけど……) 
ヨネア「さあ、行くわよ、これは銀の夜明け団の初陣なんだから是非とも勝利で飾らなくてはね」
ドラスティーナ「はいはい」

■ラストニパクハイト陥落

サルステーネ「フェリル党がグリンシャスを制圧したとの報が入りました」
ムクガイヤ「援軍を乞う事なくやるとはゴブリンと言えど侮れぬものよ」
サルステーネ「フェリル党には中々優れた武官がいるようですな」
ムクガイヤ「穹廬奴とエルフの動きは?」
サルステーネ「予想通り、森の返還を求めてきております。穹廬奴はレオーム家との進行を防ぐため、エルフとは袂を分かっておりますが互いに眼前の敵の為、交戦には至っていない模様」
ムクガイヤ「フェリル党に予定通り、エルフに降伏を促し、傘下に入る様に伝えよ。拒否すればそのまま攻め落とせとな」
サルステーネ「御意」

 その後、バルバッタ(実質ルルニーガ)率いるフェリル党はエルフ達を降伏させ自軍に取り込み、穹廬奴征伐に乗り出す。
 フェリル党はエルフ達に武器を取って戦う事は強要せず、戦場に立たせる場合はあくまで衛生兵として、敵兵を殺させる様な真似はしなかった……。


■重臣ルルニーガ

 ルルニーガが、その功が認められバルバッタを凌ぐ重臣として扱われるのに左程時間はかからなかった。
 フェリルの竜王ルルニーガの武勇は止まる事をしらず、サルステーネに次ぐ武官として扱われるまでに至る。
 しかし、ルルニーガはあくまでフェリル党の洞主はバルバッタとし、軍事面において絶対的権限を持っても、それ以外の事はバルバッタを立てた……。

―ルーニック島 代官所 執務室

ニースルー「ねえチルク。ルルニーガさんって何で竜王って呼ばれているの?」
チルク「何でって、そりゃ強いからでしょ」
ニースルー「でも、あの外見じゃ、竜王っていうより獣王って感じじゃない?」
     「それに前、竜王って呼んだら、嫌な顔されたし、少しひっかかるのよね」
チルク「確かに、あの呼び名にはちょっと事情があるし、正確には『竜王』じゃなくて、『フェリルの竜王』なんだよね」
ニースルー「どういう事?」
チルク「本人が嫌がるから、話したくなかったけど、まあいいか……。」
   「あれはまだ、レオーム家が入植する前の話なんだけど」

―回想 フェリル島、沖

 2人のリザードマンが小舟で島に降り立つ……。
ゲルニード「先生、この地は?」
ジェイク「ここはフェリル島といって、ゴブリンの住まう島よ」
ゲルニード「大陸にそのような場所もあったのですね。しかしゴブリンと言えば、弱い事で有名な、いずれは人間に支配されましょう」
ジェイク「ゲルニードよ、どの種族にも寵児という者はおるぞ?」
ゲルニード「しかし、いくら天賦の才に恵まれた蟻がいようと、恐竜に勝つことはできません」
ジェイク(若いな……)

 二人はそのまま島を見て回る……。
 しばらくすると、ガサッと草の音と共に、茂みの奥から武装したゴブリンの子供達が現れた。
バルバッタ「ヒャッハー。珍しいな……。リザードマンかよ」
ツヌモ「観光する場所を間違えたな、ここは大陸でもっとも危険な所なんだぜ?」
   「アニキィ、どうしてやりましょうか? 俺から世の中の厳しさ、いや、フェリル島の過酷さってやつを教えてやってもいいっすかね」
チルク(絡む相手、まずってないかな、リザードマンて凶暴で危険っていうし……)
ゲルニード「雑魚共が、絡む相手を間違えたな……」
 ゲルニードは剣を抜こうとし、それをジェイクが手で制した……。
ジェイク「ゴブリンの子供よ、我々は旅をしているだけだ、危害を加えるつもりはそこを通してもらえまいか?」
バルバッタ「旅だぁ~? わかってね~な~。ここを通りたきゃ金がいるんだよ~」
 そういうと、バルバッタはジェイクに飛びかかり、手にしたショートソードで斬りかかった。
 バキンッ
 その瞬間、バルバッタの手にしたショートソードは半ばからポッキリと折れ、刃は宙に舞っていた……。
 ドスッ
 そのまま、バルバッタの足元に落ち刺さる。
バルバッタ「なっ…なにしやがった……」
 ジェイクの左手にはダガーが握られている、そのダガーは普通の刃と櫛状の峰がついており、特異な形状をしていた。
ゲルニード「先生、それはソードブレイカーですか? 人鬼どもの使う?」
ジェイク「そうだ、この前戦った人間が使っていたものだ……。中々面白いものだったので自分でも使ってみる事にしたよ」
 世間話でもするかのように、軽い感じで話すジェイクだが、バルバッタは震えて動けなかった……。
ゲルニード(ソードブレイカーはレイピアといった細身の剣を折る武器、しかしショートソードをへし折って見せるとは……)
 ゲルニードはジェイクのその神技にあらためて驚愕する。
ゲルニード「相手が悪かったな小僧」
バルバッタ「ひ、ひぃ~~~」
 バルバッタは逃げようと背を向けたが、恐怖で足が竦んでしまい、その場に転んでしまう。
ジェイク「よせゲルニード、相手はまだ子供だぞ」
ゲルニード「ふん、貴様らなど相手にならんわ、命ある内に消えよ」
バルバッタ「ひぃ」
 バルバッタは座ったまま後ずさりし、ガサッと再び、草陰から音がすると、今度は大剣を携えた大柄のゴブリンと、魔道師の風貌をした初老のゴブリンが現れる……。
アスターゼ「珍しいのう、リザードマンの来客とは」
ルルニーガ(あの、竜を象った兜、まさか!?)
ジェイク(どちらも並じゃないな……)
ジェイク「警戒するのも致し方の無い事だが、我々は旅をしているだけだ、事を荒立てる気はない」
バルバッタ「ルルニーガのアニキ、こいつらがいきなり俺達を襲ってきやがったんだ」
 何とか立ち上がり、ルルニーガにすがりつくバルバッタ。
ルルニーガ「バカが、己の力量もわからんのか!」
バルバッタ「ひでぶ」
 叱責し平手打ちをバルバッタにかますと、ジェイクの方を向き直り、大剣を抜く……。。
ルルニーガ「穹廬奴の竜王ジェイク殿とお見受けする、私と手合わせ願いたい」
ジェイク「竜王というのは人間共が勝手につけた名だ、私の本意では無い」
ルルニーガ「それは失礼をした。だが貴殿が強い事に変わりない」
ゲルニード「貴様如き、ゴブリン風情が先生と勝負をしようなど、100年早いわ!」
 ゲルニードは剣を抜き、ルルニーガと対峙する。
ジェイク「ゲルニードよ、勝負を申し込まれたのはこの私だぞ? 無粋な真似をするでないわ」
ゲルニード「ゴブリン如き、先生が相手をするま……」
 ジェイクの鋭い眼光を目にし、ゲルニードは思わず口を閉じる。
 全身から汗が吹き出し、蛇に睨まれた蛙の如く身が硬直しいているのがわかった。
ゲルニード「し……失礼しました。」
ゲルニード(先生のあの殺気だった目は! それほどの相手だというのかあのゴブリン)
 ジェイクは左手にダガーを逆手に持ったまま、右手でサーベルを抜く……。
ルルニーガ「ゆくぞ」
 ルルニーガが地を蹴り、大剣がジェイクに向かって振り下ろされた。
 ジェイクはそれを左手のダガーで防ぎ、櫛状の部分で刃を掴むと、そのまま右手の剣で斬りつける。
 ルルニーガは避けるのは無理と判断し、闘気と筋肉で刃を止め、傷を最小限にした。
 ルルニーガは大剣を両手で持ち、攻防一体で戦い、ジェイクは、主にダガーで攻撃を防ぎ、剣で攻撃するといったものだった。
ゲルニード(あのゴブリン、先生と互角だと!?) 
 一進一退の攻防がつづく、数合打ち合ったのち、様子見を終えたのか、互いに飛び退き距離を取った。
ルルニーガ「……………」
ジェイク「なるほど、強いな……」
ルルニーガ「先ほど、ショートソードをへし折って見せた技は、相当な腕力と正確さが無くては出来ぬ技……」
ジェイク「…………」
ルルニーガ「貴殿の利き腕は左利きか?」
 ジェイクの口元がかすかに笑う。
ジェイク「ふっ……気づいておったか……」
    「だが、何故それを言う?」
ルルニーガ「全力の貴殿に勝たなくては意味が無い」
ジェイク「そうか……。ならば望み通り……」
 一瞬にしてダガーとサーベルを持ちかえる。
ジェイク「ゆくぞ」
 その場にいた者達にはジェイクの手が一瞬ブレた様にしか見えなかった。
 しかし、激しい金属音が鳴り響き、ルルニーガは大きく後ろに飛び退いた。
ルルニーガ「ぐぅ」
     (速い! 太刀筋が見えん!)
 ルルニーガの体は一瞬にして切り刻まれていた、後ろに飛び退いた事で致命傷こそ避けてはいたが、体中に激痛が走る。
ゲルニード(百裂斬……。目で追う事のできない高速の剣)
ジェイク「どうした?」
ルルニーガ「くっ……」
 ルルニーガがジェイクの挑発を受け、ジェイクに向かっていく、しかしジェイクは先ほど同様、ルルニーガの攻撃をダガーで難なく去なし、反撃に出る。
 数合打ち合い、今度はジェイクの振るう太刀を全て防いだにも関わらず、ルルニーガの体が斬られていた。
ルルニーガ「なっ!?」
ルルニーガ(バカな!? 確かに、攻撃は全て見切った筈だ!? 何故、斬られている?)
ゲルニード(旋風剣……。目で視る事のできない真空の剣。
      先生の剣技は、第一計 瞞天過海 に準ずる。
      高速の剣で相手を攻撃し、相手の目が慣れてきた所で、視えない剣で相手を攻撃する。
      多くの人鬼どもが、何に斬られたかもわからず死んでいったわ……)
 ジェイクがその剣技を見せてからは、ルルニーガは防戦一方となり、みるみる内に血に染まっていった……。
ジェイク(強い……。そして若い……。この者はまだまだ強くなる。)
    (今は勝てても、次戦えばどうなるかはわからぬ……)
    (そして、今においてもこの戦いを諦めてはいない……。まだ私に本気で勝つつもりでいる)
 ジェイクはルルニーガが距離を詰めて戦おうとすれば、刃の短いダガーで攻撃を去なし、時にはダガーの方でも切り返し、ルルニーガが体勢を立て直すため、後ろに大きく飛び退けばダガーを投げ、どの間合いにおいても有利に戦って見せた。
 ダガーを投げても、別の新たなダガーを抜いてみせ形勢は変わらない……。
ルルニーガ(くっ……。隙が無い!) 
 ルルニーガは著しく体力を減らしていったが、未だ勝つつもりでいた。
 ルルニーガは生命の力、闘気を纏って戦う、闘気は相手の攻撃から身を守り、有利に戦う事ができる。そのため、何処を斬られても致命傷だけは防ぐ事ができていた。
 ジェイクの見えない攻撃を、野生的な勘だけで交わしていたルルニーガは、百裂斬と旋風剣ではその予備動作が違う事に気づく。
 そして、ひたすら旋風剣をジェイクが放つのを待っていた。
 ジェイクが旋風剣の構えに入る……
ルルニーガ(今だ! 全身に纏っていた闘気を両腕に集中させる)
 ルルニーガの狙いは、百裂斬に比べ、殺傷力の劣る旋風剣に対し、あえて防御を捨て、肉を斬らせて骨を断つ捨て身の反撃に転じたのである。
 ルルニーガの全闘気を集中させた一振りは完全にジェイクを間合いに捕えていた。
ルルニーガ(そう……。お前はその特異な形状のダガーでガードする、だがそれが命取りよ……) 
 ソードブレイカーは櫛状の峰で剣を折る事ができる武器である。
 逆に言えば、特異な形状であるため、折れやすい武器でもあった。ましてや、ジェイクはダガーを正確さに欠ける利き腕ではない方の手で持っている。
 ルルニーガの放った渾身の一撃は、ソードブレイカーをへし折り、そのままジェイクの右腕を斬り飛ばし、鎧ごと、肩から胴にむかって薙いでいた。
ゲルニード「先生!」
 ジェイクの方から上がったまさかの血飛沫をみて、ゲルニードが叫んだ。
ルルニーガ「ぬぅ」
 ルルニーガの一撃は、ジェイクの体を浅く斬りつけたに過ぎず、致命傷を与えるには至らなかった。
 一方、ジェイクの剣はルルニーガの首元に当てられている。
ジェイク「見事だ、だが、惜しかったな……」
ルルニーガ(ダガーも左腕も鎧も斬った……。だが届かなかったか……)
 ジェイクがその気になれば、首を刎ねられていただろう。
ルルニーガ「参りました」
 ジェイクはルルニーガが負けを認めると、剣を鞘におさめ、斬り飛ばされた右腕を拾い、自分の腕にくっつける……。
ゲルニード(リザードマンの再生力は、人間よりも強い、だが、一度斬り落とされてしまえば、握力が完全に元に戻る事は無い)
ゲルニード「おのれ」 
 再び剣を抜き、ルルニーガの方に向かっていく……。
ジェイク「よせ、ゲルニード」
ゲルニード「先生、しかし」
ジェイク「その者は、私と正々堂々と戦い、そして潔く負けを認めたのだ、この決闘を汚す事は私が許さん」
 ジェイクに凄まれ、ゲルニードはまたしても剣を納める他なかった。
ゲルニード「出過ぎた真似をしました」
ジェイク「うむ、それでよい」
アスターゼ(互いに種族性には苦労しておるようじゃの)
 諫められては頭に血を登らせる、血気盛んなゲルニードを見て、アスターゼはそう思った。
 ルルニーガとアスターゼが視線を交わし、ルルニーガが無言で頷く……。
ジェイク「では、さらばだ。フェリルの竜王よ」
 ジェイクとゲルニードは背を向け来た方向へと去っていった……。

…………………

ゲルニード「先生、あれでよかったのですか?」
ジェイク「あれでとは?」
ゲルニード「あのゴブリンは危険です。穹廬奴が中原を制し、大陸統一に向けて兵を進めれば、いずれ戦場で会いまみえるかもしれません」
ジェイク「それだけか?」
ゲルニード「いえ、悔しいですが、私に勝てる相手ではありませんでした。ここで倒せるなら倒しておくのが上策かと」
ジェイク「確かに私とて、次戦えば、勝てるかはわからぬ、しかし、あの者の首を刎ねれば、我らは生きてこの島を出る事は叶わなかったぞ?」
ゲルニード「何故ですか? ゴブリンが束になろうとも私一人がいれば、先生を守って島から出る事など容易」
ジェイク「ふぅ……、よいかゲルニード、私があの者と戦っておる時、すでに我らは包囲されておったのだ」
ゲルニード「な!?」
ジェイク「あの老齢のゴブリンは優れた召喚士、すでに我らは50ばかりのフェニックスに包囲されていた」
ゲルニード「…………」
 何も言えずに黙り込む、フェニックスはリザードマンの苦手とする炎を使う精霊、もし戦っていれば命は無い……。
ゲルニード「まだ、何もかも遠いですね……」
ジェイク「焦るな……。お前はまだ若い……若いのだ……」
ジェイク(ゲルニードに限らず、リザードマンの種族性は気が短い、ここを何とかできねば、宿願を果たすなど夢のまた夢……)
 二人のリザードマンはフェリル島を後にした……。

…………………

チルク「それからというもの、ルルニーガの事を竜王って呼ぶゴブリンが増えてね」
チルク「相手は私が穹廬奴の竜王ならお前はフェリルの竜王、要するにお前も強かったぞ的な意味で言ったんだろうけど、負けたのに竜王って呼ばれるのはルルニーガの本意じゃないわけ」
ニースルー「その呼び名はやめろって言わなかったの?」
チルク「敗軍の将は語らずって事で、甘んじて受け入れたんだよ」
チルク「でもそれからだよ、元々、十分に強かったのに、さらに強くなったのは、次戦う機会があれば、今度は俺が勝つって感じで……」
ニースルー「で、再戦はしたのかしら?」
チルク「してないと思うよ、あれから20年近く立つし、既にその時、いい歳してたっぽいしねそのリザードマン」


■穹廬奴征伐

 ムクガイヤの魔術師団の第二軍団フェリル党はパーサの森を平定するとそのまま北上し、穹廬奴攻略を命じられる。
 穹廬奴は既に敵勢力に囲まれた状態にあり、各地で奮戦していたため、既に疲弊しており、フェリル党は順調に穹廬奴領を平らげていった……。

―決戦前夜 フェリル党 陣営

ムッテンベル「親父様、穹廬奴が兵をウェルン沼に集結させているようです」
ルルニーガ「うむ、そこで雌雄を決する事になるだろう。わが軍が数では圧倒的有利だが、向こうは追い詰められている。
逃げ場の無い敵を決して侮るでないぞ?」
ムッテンベル「窮鼠猫を噛むですね? わかりました気を引き締めて行きます」

―決戦当日

 戦は、数で勝るゴブリン勢が優勢に進める。
 犠牲を出しつつも、ゲロゲロ隊、イオード隊、モーゼン隊、ガウエン隊を退け、残すは本陣のみとなった……。

―穹廬奴 本陣

 ジェイクとチョルチョはゲルニード共に本陣にいた。
 ジェイクはすでに、老いと病により、先陣を切って戦う事はしなくなっており、チョルチョはリザードマンの苦手とする魔法を警戒しての事だった。
チョルチョ「単于、残るは本陣のみにございます」
ゲルニード「く、もはやここまでか……。ならば最後に一矢報いてくれる。うって出るぞ!」
 ゲルニードが剣を取り、席を立とうとした時……。
ジェイク「第三十六計」
ゲルニード「な!? ならん、それだけはならんぞジェイク!」
 第三十六計 走為上
 勝ち目が無いならば全力で逃げて再起を計るという策である。
 しかし、穹廬奴の領地はここが最後であり、ここを逃げるとなると、野に下る事を意味する。
 一旦穹廬奴を捨てて生き延びれと……。
ゲルニード「俺が敵に背中を見せる事などありえん、それ……がっ」
 ジェイクは一瞬にして、ゲルニードの背後を取り、鞘のついたままの剣でゲルニードの頭部を強打し気絶させる。
チョルチョ「土門何を!?」
ジェイク「よいかチョルチョ、単于を連れて行け、これからはお前が支えるのだ、ここは私が引き受ける。必ず穹廬奴を再興させるのだぞ」
 ジェイクは優しく言うと、チョルチョは目に涙を浮かべた……。
チョルチョ「わかりました。」
 チョルチョは涙を拭い、ゲルニードを抱え、わずかな兵を連れて、この場を去る。
 ジェイクは残った兵達を集めた……。
ジェイク「皆の者、よく聞けい、私は何も捨て石になるつもりはないぞ、単于がいては思う存分、戦えんのでな……。
     今日の歴史は奴らの総大将の血で書かれる事になる」
 ジェイクは単于を足で纏いといって笑いを取り、敵の総大将の首を取ると途方もない事をさらりと言ってのけ、兵の士気を高めていく……。
リザード兵(土門、こんな時になんていい顔をなさるんだ)
 リザードマン達はこの時、ジェイクの言葉に痺れたといっていい。
ジェイク「私に続け!」

―フェリル党 バルバッタ隊

 フェリル党の全軍をルルニーガが士気する様になってから、バルバッタは切り込み隊長になっていた……。
 本陣に向かって一番乗りで兵を進めて行く……。
バルバッタ「後は、本陣落として終わりだな~、おい、てめえらバルバッタ隊がゲルニードの首を上げるぞ! 出遅れんなよ」
ゴブリン「隊長、何か向かってきますよ」
バルバッタ「ん?」
バルバッタ(りゅ…竜!?)
 正に瞬く間に接近したジェイクの部隊は、ゴブリン達を一方的に斬り殺し、バルバッタ隊を300ドットあまりも後退させた……。
 この時、バルバッタは竜を見たと後に語る。

―フェリル党 本陣

ムッテンベル「親父様、バルバッタ隊、ツヌモ隊、ケニタル隊が敗走を始めております。現在、ポイトライト隊が交戦中、私に救援の指示を!」
 元帥であるルルニーガの前に膝をつき、伝令をおこなうムッテンベル。
ルルニーガ「ならん、ワシが出る!」
 そういって席を立つルルニーガ。
ムッテンベル「元帥自ら、動かなくても」
ルルニーガ「わからんのか!? あの部隊を止められるのはこのワシしかおらんわ!」
 ルルニーガの言った言葉は、理屈ではなく直感によるものだった。
 だがこの判断が、この戦において、フェリル党の被害を最小限にしたのはいうまでもない。

―フェリル党 ポイトライト隊

ポイトライト「救援が来るまで、時間を稼ぐんだ!」
 焙烙玉を投げ、敵を撹乱し、敵の進軍をなんとか食い止め様とするポイトライト隊……。
 しかし、ジェイクの部隊は、時には、沼に潜り、鎧に泥を塗って、草をつけ、茂みと同化し、神出鬼没に戦って見せた。
 ポイトライトが壊滅間近で、死を覚悟した時、ルルニーガ率いる部隊が到着する。
 ルルニーガはジェイクを見つけると、迷わず横から斬りかかった……。
 ジェイクはルルニーガの気配に気づき、剣で受け止める。
ルルニーガ「久しぶりだな! 貴様に付けられた汚名を返しに来たぞ!」
ジェイク「総大将自ら来てくれるとはありがたい、探す手間が省けたわ」
ルルニーガ「ぬかせ」
 数合打ち合い、距離を取る。
ジェイク「ゆくぞ!」
 年老いたジェイクにとって、今ここでルルニーガと一騎打ちをする事はハイリスクだったが、ルルニーガを討ち果たす事ができれば、総大将の首を取る事になり、フェリル党を大きく弱体化させる事ができる。
 ジェイクは老将とは思えないスピードで剣技を繰り出していく……。
ルルニーガ(この男! 老いてなおこの強さか!?)
 ジェイクは後ろに下がるルルニーガの体勢を立て直させないため、ダガーを投げるが、しかし、ルルニーガは投射されたダガーを掴み取り、投げ返した。
ジェイク(やはり、この者、あの時よりもさらに強くなりおった。だがあの時と違って地の利はこちらにある)
 湿地帯はリザードマンの最も得意とする地形、決してルルニーガに楽観視できる状況ではなかった。
 ルルニーガとジェイクは200合あまり打ち合っても決着がつかなかったが、老いたジェイクのスタミナに限りが見え始める。
ルルニーガ(……強い、おそらく歴代のリザードマンの中でもここまで強いものはそうおるまい、だが老いと病には勝てぬか……)
ジェイク(この者は、1000年に一人の天才)
*1
 1戦目も2戦目も決して対等の条件で戦ったとは言えない状況に、その想いは同じだった。
 互いに全盛期で、戦ってみたいと思う程の相手、そして、ジェイクのスタミナは底をつき、次第に防戦一方となり、ついには力尽きた……。
 ジェイクが討たれた後も、リザードマンはよく戦ったが、また一人と戦場に倒れて行き、合戦はフェリル党の勝利に終わった……。
ムッテンベル「親父様、ご無事でしたか」
 救援に向かったルルニーガを心配し、さらにその救援にきたムッテンベル隊。
 本来なら、指示なく持ち場を動くなど、軍令違反だったが、総大将自ら動いたのが原因だったため、不問にされた。
ルルニーガ「ムッテンベルよ、ゲルニードには逃げられた」
ムッテンベル「では、探さなくてはなりませんね、再起を図られては何かと厄介です」
ルルニーガ「いや、敵の本陣は落ちた、今日の所は引き上げる、そして身を隠している以上、難しいが降伏を促す」
ムッテンベル「降伏をですか? 気性の激しい、リザードマンが応じるとは……。いえ、わかりました、そのようにいたします」
 ルルニーガの意思が固い事を感じ取り、余計な事は言わないようにする。
ルルニーガ「うむ」

―陣営から少し離れた所にある湿地帯 夜

ムッテンベル「親父様、どちらへ?」
 急に姿を消したルルニーガを探して、ムッテンベルは部隊を率いて捜索に当たっていた。
 戦には勝ち、湿地帯を制しても、リザードマンがゲリラ戦を行う可能性は十分にあり、隙あらば総大将の暗殺も考えるだろう。湿地帯を出歩くのは危険と言えた。
ルルニーガ「少しな……」
ムッテンベル「お墓ですか?」
 ルルニーガの後ろ、地面に剣が刺さっているのに気付き、疑問を投げかける。
ルルニーガ「そうだ……。竜王が眠っている」

―フェリル党 陣営 野戦病院

 ゲルニードが野に下り、湿地帯はムクガイヤ魔術師団が制圧した……。
 ルルニーガは敵、味方を問わず、負傷兵の治療を命じる、治療を終えたリザードマンは危険を承知の上、残らず解放するつもりで……。
 負傷兵には、ゲルニードを討つつもりは無い事を伝え、もし会う事があれば出頭し服属するよう言伝を頼む。

エルフィス「ふぅ……」
 エルフである彼女は、衛生兵を率いて穹廬奴征伐に参戦していた。
 ルルニーガはエルフが戦を嫌う事を理解し、エルフに戦場で戦う様な事は命じず、あくまで衛生兵としての任務しか与えなかった。
 負傷したリザードマンの治療に当たる事には、何の抵抗も無く、むしろそうやって異種族を気遣うルルニーガに好感を覚える。
 リザードマンは気性が激しいため、常にゴブリンが護衛についていた。
モーゼン「殺せ……」
エルフィス「そんな……、事を言われましても、私は軍医として来ているみたいなものでして……」
エルフィス(面倒臭いのきたわねー)
モーゼン「いいから殺せ、エルフ如きに助けられる等……」
エルフィス「負傷兵は残らず帰還させるように言われてますので、生きていればいい事ありますよ?」
エルフィス(しまった! 出るタイミング逃した)
モーゼン「帰還だと? 何処に帰る場所がある。帰る場所も無く行き恥さらして生きろというのか?」
エルフィス(こいつ声でかいわねー、知らないわよそんな事)
エルフィス「わかりました」
モーゼン「ん?」
エルフィス「死にたいんですね?」
モーゼン「も、勿論だ……」
 念を押す様に死を望んでいるのかと聞かれ、たじっとなるモーゼン。
 エルフィスはその言葉を受け、医薬品をごそごそと漁りだす……。
エルフィス「あったあった、致死量はこれくらいだったかしら」
 まるで楽しそうに液体の薬品を注射器で吸い取っていく……。
モーゼン「…………」
エルフィス「さっ、手を出してください」
モーゼン「注射で殺すのか?」
エルフィス「私はエルフで女性ですので、頑丈なリザードマンの首を刎ねるなんて真似はできません」
モーゼン「…………。苦しいのか?」
エルフィス「知りません。致死量を注射するのは初めてですから」
 モーゼンは薬殺という未知の恐怖を感じ、手を出すのをためらう。
エルフィス「どうやら死にたくないみたいですね、では治療を必要としているリザードマンは他にもいますので私はこれで……」
エルフィス(やっと抜け出せる)
 そういって、モーゼンのいるテントを去ろうとするが……。
モーゼン「待て! もっと他の方法が……」
 モーゼンは手を伸ばし背を向けたエルフィスの服を掴んだ。
エルフィス「きゃあ!」
 ブスッ
モーゼン「えっ?」
 エルフィスは反射的に注射器をモーゼンの腕に突き刺した
モーゼン「うわああああああ」
 刺さった注射器を見ながら、子供の様に思いっきり叫ぶモーゼン。
エルフィス (うっるさ~~、ただの食塩水よ!)
 その時、モーゼンがバタッと倒れた。
エルフィス「あれ?」
キニー「彼、死んでしまうの~?」
 キニーが叫び声を聞いて、ララバイをかけて眠らせたのだ、エルフィスは首を横に振り……。
エルフィス「大丈夫です。命に別状はありません」
キニー「よかったなの~」
モーゼン「Zzzzz~~~~~~」
エルフィス(眠ってもうるさいのね、こいつは!)


―湿地帯 ゲルニードの潜伏場所

 治療を受けて解放されたリザードマンからジェイクの悲報と、降伏勧告が伝えられる。
ゲルニード「ふざけるな! ジェイクの敵を今からでも」
ゲルニード(先生……。俺がふがいないばかりに……)
 ゲルニードは俯き、涙を流す……。
チョルチョ「単于、ここは降伏を」
ゲルニード「チョルチョ!? お前まで何を?」
チョルチョ「土門は、穹廬奴の再起を図れと私に言われました」
チョルチョ「天の時機、地の利、人の和」
チョルチョ「いつまでもここに隠れている事はできません、しかし、ここしか地の利はありません、私達にとって人の和はここでしか得られません」
 大陸にリザードマンが最も得意とする湿地帯はここにしか無く、リザードマンは湿地帯にしか住んでいない。
 戦ばかりしてきたリザードマンを好む異種族は少なく、支援する者などいないだろう。
 ゲルニードがこの地を捨て、何処を放浪しても、再起を図る事ができないのは自明の理と言えた。
ゲルニード「…………」
 チョルチョは治療される事で一命を取り留めた兵の中には、ジェイクと共に戦った者もいた。
 その者から、ジェイクの武人としての最後や、総大将のルルニーガによって手厚く葬られた事、リザードマンを狩るような事はせず、負傷兵を敵味方問わず治療している事を聞いていた。
 ならば降伏して、この地に身を置いた上で再起・独立を図るのが上策と判断したのだ。
ゲルニード「降伏する。ジェイクの死を無駄にしないためにも……」
 ゲルニードはその日、降伏を決意した……。


―ムクガイヤ魔術師団 本軍陣営

ムクガイヤ「穹廬奴が降伏!? あいつらは最後の一兵まで戦うものと思っていたが……」
サルステーネ「フェリル党も侮れませんね」
 エルフの従属、リザードマンの降伏と、無理難題をこなしていく、ゴブリンの軍勢に驚きを隠せない。
 サルステーネはフェリル党の洞首、バルバッタから届いた書状を渡す。
 書状には滞りなく軍を進めるため、リザードマンを刺激しないためにも、ゲルニードの助命嘆願の旨が書かれていた。
 エルフと違って、リザードマンはどの種族からも嫌われており、ゲルニードを処刑すれば、民衆の指示をより得られるのは間違いない。
 しかし、リザードマンの反感をかえば、テロ行為に走るリザードマンが必ず現れる、湿地帯でそういった事が起こるのを避けたいというのがフェリル党の総意であった。
ムクガイヤ「……。」
     「リザードマンなど、皆殺しでも良いと思うが、快進撃を続けているのにあえて水を指す事もあるまい、好きにさせるか」
サルステーネ「ではそのように伝えます。
      「それで、いかがなさいますか?
      「湿地帯をこちらが制した事で、同盟国オステア、湿地帯のフェリル党、そして我々と王都へ3方向から攻め入る事ができます」
ムクガイヤ「いや、先に北上し、リュッセルを攻めろと伝えよ」
     「今レオーム家は魔王軍と戦っている。お互い消耗させてからの方がやりやすかろう」
サルステーネ「御意」


■王都

 第一軍団サステーネ率いる暗黒騎士団と、第三軍団ニーナナス率いるローイス水軍が、レオーム家との海戦を制し、ナース島とチャム島を攻め落とした……。

ムクガイヤ「これでルートガルド港を落とせば、王都に上陸できるな……」
ゾーマ「ムクガイヤ、例のものが届いたぞ……」
ムクガイヤ「そうか……」
 2人はあまり周囲の人間には知られたくないのか、悟られない様にその場を去る。
ゾーマ「ここだ」
 そこは船にある、奴隷を閉じ込めておく牢だった……。
ムクガイヤ「ラクタイナだったか? おまえの名は?」
ラクタイナ「……」
 ラクタイナは何も言わずに、ムクガイヤを見ている。
ムクガイヤ「ふっ……。単刀直入に言うぞ、私の配下となれ、とはいえ、自由にはできんから常に監視をつけるがな、このまま処刑を待つよりは幾分マシだろう?」
ラクタイナ「……。何故私を? 戦力は足りているだろう?」
 ムクガイヤ魔術師団は堂々と国家を名乗っても問題ないだけの領土を持っており、既にこの時、どの勢力よりも大きくなっていた。
ムクガイヤ「戦力としてお前が欲しいのではない、一人の魔術師として欲しいのだ」
 そういって、ムクガイヤは懐からマクラヌスを取り出して見せる。
ラクタイナ「これは!?」
 ラクタイナの表情が変わった……。
ムクガイヤ「何かわかるか?」
ラクタイナ「いや、何かはわからないが、死霊の力を感じる……。古代兵器の類か? いや……」
ムクガイヤ「ふっ……流石、死霊術師だな」
ラクタイナ「いいだろう、その話乗った……」
ムクガイヤ「決まりだな」
 牢屋を後にするムクガイヤとゾーマ……。
 ラクタイナの生け捕りと雇用に関しては、忠臣であるサルステーネですら反対していた……。
ゾーマ「流石にまずくないか?」
ムクガイヤ「元死刑囚のお前らしくもない」
ゾーマ「あやつがお前に忠誠を誓うわけはあるまい、それにあの所業を考えるとな……」
 ラクタイナのやった事は、国家を揺るがしかねない事だった。
 大量破壊兵器ともいうべき、アルティマイトを動かし、アンデッドの軍勢を率いたのだ。
 パーサの森にいたエルフとエルフに協力した穹廬奴、第二軍団に所属する多くのゴブリンが犠牲となり、死者の数は今まで起きた戦のどれよりも大きかった……。
ムクガイヤ「王都に戻った時、研究は牢の中で行わせる。あいつを外に出す事は無い」
ゾーマ「……」
 それでもゾーマの不安は拭えない、ラクタイナの表情には常に余裕があったからである。
 何か切り札を隠し持っている様な……。



■アルナス仕置き
 ヨネアの興した第五軍団 銀の夜明け団は、ファルシス騎士団を壊滅させ、ブレア手中に納めていた……。
ヨネア「男って馬鹿よね、正義とか騎士道とか言って、突撃しか能がないんだもん」
ロイタール「…………」
 ロイタールは死の間際、ハイトロームの言葉を思い出していた……。

―会議室
 銀の夜明け団ではドラスティーナを宿将、キオスドールを軍師の様に扱い、3人で軍議を行う事が多かった。。
 他の面子は特に軍議には参加せず、各自自由行動を取っている。
 レドザイトとポポイロイトはカクレンボなどの子供の遊びを行い、ラングドスはひたすらギターの練習や作詞作曲に明け暮れた……。

ドラスティーナ「次はどうするの?」
ヨネア「ブレアの守りは薔薇十二字団に任せて、このまま北上、アルナス・ウルフを討つわ。」
   「元々、スネアは毒蛇とか言われている様な奴だし、大した大義名分はいらないと思うの」
 ヨネアの言葉に意外そうな顔をするドラスティーナ。
 薔薇十二字団とはニースルーが率いる第四軍団(実質チルクと共同)、ブルーゴブリンを中心とし、フェリル島の経済活性化、交渉、魔法の研究を行っている。
ドラスティーナ「意外ね、てっきり難癖つけて、同盟破棄に持っていって、オステアを攻めるかと思っていたわ」
ヨネア「オステアには興味ないの」
ドラスティーナ「砂漠に興味あるとでも?」
ヨネア「まさか、あたしが興味あるのはその先にあるものよ」
キオスドール「うふふ、ラザム神殿……。ですわね?」
ヨネア「きっと、あの神殿、裏ではきっと悪どい事をしているわよ~」
ドラスティーナ「復讐?」
ヨネア「違うわよ、私に闇の魔法を伝授した、旧・銀の夜明け団の最後の一人に対して特別な想いはないわ、ただ、正義づらして光の魔法を独占し、気取っている奴らが気に入らないだけ」
キオスドール「面白い事になりそうですわね」
ヨネア「ちがうわキオスドール。面白い事になるんじゃなくて、面白い事をしてやるのよ。」
   「あいつらを信じている連中にあいつらの悪事を公開し、目を覚まさせてやるの」
ドラスティーナ「……」
 ドラスティーナにとって、ラザムがどうなろうと勿論知った事ではない、ただ、ヨネアの親友であるニースルーはこういった事を望まないと思うと、少しだけ複雑な気分になるのであった。

 翌日ヨネアは宣戦布告をアルナス・ウルフに対して行い、進軍を開始する。

―ムクガイヤ本軍 陣営

ムクガイヤ「ヨネアがアルナスを攻めただと?」
サルステーネ「はっ」
ムクガイヤ「別に、アルナス・ウルフがどうなろうと別に構わぬが……」
 砂漠の経済効果は薄く、そして戦線が延びてしまうのは好ましく無い。
 アルナス・ウルフとは利害が一致すれば一時的に同盟を結び、ラザムや魔王軍との戦いに利用する事もできるので、ヨネアの取った行動は想定外という他なかった。
ムクガイヤ(少し、自由にさせすぎたか……)
サルステーネ「呼び戻しますか?」
ムクガイヤ「いや、もう過ぎた事だ。ニースルーにヨネアの行動に気を配る様に伝えよ」
サルステーネ「御意」

 このヨネアの個人的進軍が大きく歴史を動かす事になる。
 その頃、魔王軍は北上し、グリーンで、ラザムと激しく交戦。
 聖騎士ラファエルと神官戦士ホルスとの戦い、ラザムは悪魔の天敵とも呼べる存在で、苦戦を強いられた。
 一時はグリーン古城まで兵を進めていたルーゼルだが、ラザムの総攻撃に合い、クイニックまで兵を引いていた。
 この時、リュッセル半島では、リュッセル国がリグナム火山に追い詰められていたのもあって、余裕の出来たリューネ騎士団はラザムに援軍を送り、魔王軍を挟撃する。
 レオーム家も、ムクガイヤ魔術師団との戦いは防衛に集中させ、北上し、魔王軍を攻め、魔王包囲網を敷いていた。

―ラザムの使徒 陣営

 グリーン古城を攻略し、レオーム家と、リューネ騎士団の協力もあって、勢いづくラザムの使徒。
 しかし、この時、光の賢者イオナに銀の夜明け団が砂漠を進軍しているとの報が届く……。
イオナ(銀の夜明け団の目的は、ラザムの神殿!?)
 このヨネアの取った行動が、ラザムの闇を知るイオナにとって、苦渋の選択を迫られる事になる……。
イオナ「ラフェエル殿、ホルス様、ラザムの使徒はここを引き上げ、ラザム神殿の奪還に入ります」
ラファエル「何と申されたイオナ殿!? この状況で兵を引くのか?」
ホルス「イオナ、今、僕達は魔王を追い詰めているんだぞ? このままゴート様やアルティナ様と強力すれば魔王を倒せるんだ」
 イオナはアルナス汗国にラザムの神殿が制圧されても、魔王討伐を優先し、アルナスウルフに制圧されても魔王討伐を優先した。
 それが今になって、魔王討伐よりも神殿奪還を優先すると言い出し、ラフェエルとホルスに動揺が走った。
イオナ「理由は申せません」
ラファエル「しかし、となれば、魔王軍をどうする?」
イオナ「魔王軍に停戦を申し入れます」
ホルス「なっ!?」
ラファエル「正気か?」
     「魔王軍がそんなものを受け入れるわけが無い。」
     「それに我々が引けば、レオーム家はともかく、グリーン地区や、リューネ騎士団はどうなる?」
 魔王討伐に協力しているグリーン・ウルス勢も、リューネ騎士団もぎりぎりの状態で戦っている。ラザムが引けば魔王軍に蹂躙されるだろう。
イオナ「グリーン地区はグリーン・ウルスに返し、リューネ騎士団は身捨てます」
ホルス「そんな!」
イオナ「それが決定事項です」


―魔王軍 陣営

パルスザン「まさか、人間がここまでやるとは……」
 包囲網を敷かれ、予想以上に苦戦を強いられ、確実に魔王軍の中に焦りが生まれつつあった。
 何より、ホルスとラファエルの攻撃を受け、グリーン古城を手放す事となり、ルーゼルが初めて退却させられたのだ。
フーリン「完全に人手不足だなー。仕官する武将が少なすぎる」
パルスザン「おかしい……。ゲートが開き多くの悪魔がこの地へ来ている筈だが、何故、ルーゼル様に臣下の礼を取りにこない」
ムナード「…………」
 いつもなら、ここでパルスザンを無能と罵倒するところだが、追い詰められた状況に沈黙を貫いた。
ショハード「兄貴、ラザムから書状が届いたぜ!」
 その場にいる全員の悪魔が意外な顔をする。
 この状況で何を伝えるというのか?
ルーゼル「停戦だと?」
 ラザムの使徒の書状には、停戦の申し入れが書かれていた。
 明らかに今は魔王軍は包囲され、ラザムに分があるというのに……。
ルーゼル「気に入らんな、だが何故だ?」
パルスザン「向こう側にとって何か一大事が起きたのが原因かと」
ルーゼル「一大事? 私よりも優先すべき事があるだと?」
 この後回しにされたというのが現世に並ぶもの無しとされるルーゼルにとって、不愉快極まりなかったのはいうまでもない。
パルスザン「おそらく……」
フーリン「で、どうしやす? 当然、突っぱねますよね?」
 パルスザンとしては、体勢を立て直すため、正直受けたがったが、悪魔の種族性、ルーゼルの性格を考えて、進言をためらっていた……。
ルーゼル「いや受けろ」
フーリン「へ? 受けるんですか?」
ルーゼル「そうだ、フーリン、奴らの動向を探れ、このルーゼルよりも優先すべき事象があるなら見てみたい」
パルスザン(何はともあれ、これで、立て直しを計る事ができますね……)
フーリン「わかりやした」

―ラザムの使徒 陣営

 手を休める事なく、撤退の準備を進めるラザムの武僧達。、
ポートニック「ちょっとどういうことだわさ、この状況で引き上げるとか、グリーンはどうなるだわさ?」
ピヨン「ボク、ピヨンヨロシクネ」(抗議の声)
イオナ「誠に申し訳ございませんが、ラザム神殿の危機なのです。お察しください」
 淡々というイオナに余計苛立つポートニック。
ポートニック「だから、グリーンはどうなるだわさ?」
イオナ「グリーンは返還致します。ラザムの神殿を奪還すれば、必ず援軍に駆けつけると約束します」
 ポートニックは淡々と喋るイオナを見て、交渉の余地が無い事を悟る。
 心情的には、援軍などいらんと突っぱねたかったが、後々を考えて、口を閉じた。
カルラ「お願いですぅ。カルラ達を見捨てないでください」
 向こうではカルラが必死にホルスに懇願している。
 ホルスは悔しさと悲しさで何も言えずに俯いていた。
ホルス「……すまない……カルラ……本当に……」
 そういってホルスは、カルラ達に背を向け歩きだした……。


■ゲルニード

―穹廬奴の湿地帯
 ムクガイヤ魔術士団に降伏したリザードマン達は、リュッセル国の要塞、リュッセル城を攻めるに当たって、物資を前線に輸送していた。
チョルチョ「単于、穹廬奴を取り戻すため、私と共にリュッセルを攻めましょう。単于が動けばリュッセルなど敵ではありません」
 チョルチョは、ゴブリンが元々、フェリル島を巡って、ムクガイヤ魔術師団とは敵対しており、成り行きで共闘、そして今では第ニ軍団としてその地位を不動のものにしている事に目をつけていた……。
 つまり、種族を問わず、ムクガイヤの覇業で、功績を残せば当然、権力を手に出来る。権力を手にすれば、湿地帯の自治も勝ち取れるかもしれない。
 湿地帯を抑えれば、穹廬奴を再び興す事もできるのではないかと考えたのだ。
 現時点で、ムクガイヤは大陸の半分以上を制圧しており、手柄を立てるチャンスは少ないが、あのルルニーガが戦果を上げられないでいるリュッセルを攻略すれば、大きな戦功を上げられると踏んでいた……。
 しかし、女性である自分の指示に従うリザードマンは少ないため、そこで慕うゲルニードに再び穹廬奴を指揮して欲しかったのだ。
ゲルニード「リュッセルを……? 馬鹿を申すな、あそこは以前攻めたが、難攻不落だったではないか、それに人間のために戦うなど……」
 ゲルニードにはかつての覇気がない。
 自分の尊敬するジェイクを死なせ、穹廬奴は降伏し、国を潰したのである。
チョルチョ(単于は、すっかり自信をなくしておられる……。しかし、皆を纏めるのは単于以外に無い……)
チョルチョ「単于、しかしこのまま、リザードマンが何もしなければ無用の種族として粛清を受けるかもしれません」
 ゲルニードはチョルチョの方は見ずに黙って聞いている。
チョルチョ「今は、ここを制圧したフェリル党の一存で、何もありませんが、我が種族を嫌う人間は多い」
     「ここで結果を出さなくては、たとえ、粛清されなくても、人間の奴隷として扱われます」
ゲルニード「チョルチョよ、おまえの言いたいことはわかった……。」
     「しかし、勝たなくては意味が無い……。」
     「だが、俺は、兵を上げたがどこと戦ってもまともに勝てなかった……。」
     「もはや、魔法も武器も発達し、穹廬奴の様な剣のみで戦って勝つことなどできんのだ……。」
チョルチョ「単于、ならばせめて私に兵を預けてください、私が何とかして単于のためにきっと穹廬奴を再興しますから」
ゲルニード「…………」
 ゲルニードは無気力だったが必死に懇願するチョルチョについに折れ、今でも自分を慕うリザードマン達にチョルチョに全面的に協力するよう伝えた……。

 チョルチョは人員を確保し、改めて考える。何故自分達が勝てないのか?
 確かに、ゲルニードの言う通り、以前、リュッセル城を攻め、何の戦果も上げられず敗退したのである。
 しかし、リザードマンは人間とは根本的に筋力が違う、純粋に殴りあったらどの種族にも負けないだろう。戦闘において有利な種族であるのは間違いの無い事実なのである。
 今の時代でも、剣や槍といった武器は主流で、決して魔法や弓などの飛び道具だけが戦で活躍しているわけではない。
 それに、わずかではあるがリザードマンにも弓を使う部隊は存在する。
チョルチョ「土門がいてくれれば……」
 兵法に通じたジェイクがいれば、助言を仰げるだろう。しかし、もういない、そしてこれからは自分が単于に助言をする存在にならなくてはならないのだ。
 何としても、リュッセル城を攻略し、リザードマンでもできるという事をゲルニードに証明して見せて、再び立ち上がってもらおうと考えていた。
 しかし、こうして必死に知恵を絞ろうとすると、自分が何も知らない事に気付く……。
 ふと周りを見渡してみる。
 以前はどこを見てもリザードマンしかいなかったが、今では人間、ゴブリン、そしてわずかではあるがエルフもいる。
チョルチョ(知らざるを知らずとなす。これ知るなり……)
     (人を以て言を廃せず……)  
 以前、ジェイクに習った偉人の言葉を思い出し、チョルチョは、人間、ゴブリン、エルフになけなしの財産をはたいて、戦に関わる書籍を買った……。

……………………

 チョルチョは、多種族から購入した戦に関連する本を読み漁っていた……。
 穹廬奴は多種族を見下す傾向があり、積極的に他の文化を取り入れようとはしない、以前ダガーを取り入れた事があったが、基本的には魔法や飛び道具に対して物凄く抵抗があるのである。
 そういった、良い物は良いとしない事に敗因があるのではないかと考えたのだ……。
チョルチョ(今は相手がリザードマンと見れば、一斉に距離を取って魔法を唱えたり、こちらの得意とする接近戦は極力避けてくる……)
 改めて、敵の出方を考えると、既にリザードマンの種族性というものが相手に理解されており、そこを突かれているようだった。
チョルチョ(リザードマンは魔法に対する抵抗力が弱い……。しかし、今から魔法を学ばせるには時間がかかる……)
 チョルチョはリザードマンの中では巫女と言う事もあり、魔法が使え、魔法抵抗力も高い、
 しかし、個人でどうこうなる問題でもなく、また、リザードマンとしては高くても人間と比較すれば秀でた物をもっているわけではなかった。
チョルチョ(魔法の抵抗を上げる事はできなくても、相手がこっちの苦手とする攻撃をする前に倒せれば……)
チョルチョ(となると武器か……)
チョルチョ「イオード」
イオード「ん?」
 チョルチョは、穹廬奴で唯一弓兵を率いるイオードに声を掛けた……。


■ラザム神殿

―銀の夜明け団 陣営

 ヨネア率いる銀の夜明け団は、快進撃を続け、アルナス・ウルフをラザム神殿に追い詰めていた。

ヨネア(バカね……。ホラガスに逃げれば良かったのに……)
 悪魔の軍勢にとって、アルナス・ウルフなど敵ではなく、毒蛇スネアを捕え、速やかにラザムの神殿を制圧する。
 ラザム神殿にいた信者は殆どがスネアの手によって、殺されていたが、人質として使うためなのか、わずかだが閉じ込められている者達がいた。
ドラスティーナ「神殿まで来たけど、どうするの? ここで」
ヨネア「必ず記録が何処かに残されているから、それを頂くのと、後は光の魔法のノウハウが書かれた魔術書ね、これを一般公開してやるのよ」
ドラスティーナ「わかったわ」
 率いるデーモンとリッチーに捜索を命じ、色々と内部を調べるが、一向に見つからない。
 飽きたのかレドザイトは床に猫の落書きを始め、ポポイロイトはふん縛ったスネアの顔に落書きをしている。
 ラングトスは座り込んでギターの練習を始めた……。
ヨネア「全くあいつらは……、あまり時間はかけたくないのよね……」
ドラスティーナ「本当にあるの?」
ヨネア「ある筈よ、無いわけないし……」
   「気は進まないけど、キオスドール、ラザムの関係者の精神に入り込んで隠し扉とかが無いか調べてもらえない」
キオスドール「うふ、わかりましたわ」
 キオスドールは淫魔という事もあり、人の精神に入り込むのは得意だった。
 スネアに捕えられていた適当な、男性信者を見をつけ、あっさりと誘惑し情報を吐かせる。
 隠し階段を見つけたヨネア達は、そのまま地下の探索に入った……。

ヨネア「これよこれ」
 ヨネアはうれしそうに見つけた光の魔術書を用意したリュックに放り込んでゆく……。
 ドラスティーナは年号がタイトルになっている書籍を見つける。
ドラスティーナ「ヨネア、これじゃないかしら、ラザムの記録」
 ラザムが、過去に行ってきた事が詳細に書かれている。
 そして、確かに、10年前、銀の夜明け団のメンバーを皆殺しにしていたことが書かれており、
 中でも酷かったのが、200年以上も前の話ではあるが、魔女狩りと称して、多くの罪の無い女性を殺していたことがわかった……。
ドラスティーナ「これが黒歴史って奴ね、どっちが悪魔かわからないわ」
 そういって、その書籍を片っ端から収拾していく……。
ヨネア「これはお持ち帰り、これもお持ち帰り、これはいらない、これはお持ち帰り」
 買い物でも楽しむかのように、いるものといらないものを選別して行く……。
ドラスティーナ「小説?」
 本棚の中に「屍姫」と銘うたれた書籍を見つけた。
 ドラスティーナは個人的好奇心により手に取りパラパラとめくる……。
 その時、よく知った気配を感じとった。
ドラスティーナ(この速さこの魔力、間違いなくあいつね……)
ドラスティーナ「ヨネア、一回地上に出てくる」
ヨネア「わかったわ」
 ドラスティーナは場を離れ、迫って来る魔力の方へと向かった……

………………

ドラスティーナ「久しぶりね、フーリン」
フーリン「これはこれは姐さん、こんな所で何してるんすか?」
ドラスティーナ「何って、今、私は人間に仕官しているのよ。そっちこそ何しに来たのよ? 魔王軍は今、ラザムと交戦中でしょ?」
フーリン「姐さんが人間に仕官!?」
ドラスティーナ「そうよ、何か文句ある?」
フーリン「いえ、別に何も、しかしルーゼル様が知ったら」
ドラスティーナ「ルーゼルと言えど、指図は受けないわ」
ドラスティーナ「もし、銀の夜明け団と、魔王軍が戦になったら、私はその主の側で剣を抜くつもりよ」
フーリン「マジすか? …………。こりゃ荒れそうだ」
 他人事の様に言うフーリン、この悪魔はあまり他人に干渉したり、自分の考えを押し付ける事を好まなかった……。
 フーリンとしても、ドラスティーナが敵側として剣を抜けば、魔王側として戦うまでである。
ドラスティーナ「それよりも、シャルロット知らない? あの子、奴隷階級だけど回復魔法使えるし、仲間に引き入れたいのよね」
フーリン「何いってんすか姐さん、シャルロットはパルスザンのコレですよ」
 笑いながら小指を立てて見せる。
ドラスティーナ「そうなの!?」
 しかし、よく考えてみれば、パルスザンは悪魔にしては珍しく差別意識が無く、他人を否定して見るのではなく、良い所を見つけようと肯定的に見る。
 総合的に劣っていても、突出した才能を持った者は積極的に登用し、適材適所を心がけている。
ドラスティーナ「パルスザンならありえるか……。本題だけど、どうしてここに来たの?」
フーリン「敵になるかもしれない、姐さんに言っていいかわかりやせんが、
     ラザムからは停戦の申し入れがあってルーゼル様はそれを受諾したんですよ。
     それで、停戦に至った理由を調べに、ヤツらの後を追っていたら、姐さんの力を感じたので、奴らがつくよりも先に……」
ドラスティーナ「停戦? ラザムは今こっちに向かっているの」
フーリン「血相変えて向かってきてるっすよ。」
ドラスティーナ「ちっ……」
 ドラスティーナは神殿へ引き返した……。

………………

ヨネア「何かしらこの扉?」
 ヨネアはラザム神殿の地下施設の最下層にある大きな扉を見つけた。
 派手な装飾がしてあり、強力な呪法で封印してある。
 見るからに、一部の人間にしか見せられない秘密が詰まっているのは明らかだった……。
ヨネア「開かないわね」
ヨネア(ラザムの黒い部分が隠されているのかしら? それとも宝物庫って奴? どちらにしてもワクワクするわね)
キオスドール「恐らく、一部の人間にしか開けられないようになってますわね」
キオスドール「この扉は、特別な呪法が施されていて、ここの石版に手の平をあて、ここの宝玉を見る事で、その者を判断します。
そしてその者が、定められた呪文を唱える事で、初めて開く事ができます」
ヨネア「手の込んだ作りね」
 ヨネアは、魔法で破壊を試みたが、半ば予想通り、ビクともしない。
ヨネア「スネアが捕えたラザム関係者の中に開けられそうな奴いないかしらね」
 ヨネアはキオスドールを連れ、アルナスウルフが閉じ込めたラザム関係者のいる部屋に行く。
 縛られた信者達に向かって、ヨネアは叫ぶようにして言った
ヨネア「ねえ、最深部にある派手な扉をあけたいんだけど、誰か開けられる人いない? 扉を開けてくれればここにいる全員を解放するわ」
 信者達がざわつく、そもそも、地下施設がある事すら知らない者も多いようだ……。
 だが、キオスドールは信者達の挙動を観察し、明らかに一部の信者達の視線を集め、逆にあえて視線を送られない男が一人いる事を見抜いた。
キオスドール「あの方ですわ……」
 キオスドールに指さされたその男は、年輩で格好こそ一般信者と何ら変わりない服を来ていたが、巧妙に自分の高い魔力を隠していた……。
 男の名前はステファノといって、教団幹部である。
 当然見抜かれた事で、信者達の間で動揺が走る
ステファノ「…………」
ヨネア「ちょっと来てもらうわよ、置いといてもしょうがないし、残りは解放してあげて」
 見張りを任しているアークデーモンとノーライフキング達に解放の指示を与えた後、縛った状態のステファノを地下施設の扉の前まで連れて来る。
ヨネア「ここを開けて欲しいんだけど」
 ステファノは何も答えない。
ヨネア「素直になった方が身のためよ、言う事を聞いてくれれば命まではとらないわ」 
ステファノ「お前が銀の夜明け団の生き残りか……。これは復讐のつもりなのか?」
ヨネア「復讐? 私はそこまでバカじゃないわ、ただ単に、アンタ達が気に入らないだけよ」
ステファノ「気に入らないだけで、ここまでやるというのか?」
ヨネア「そうよ、アンタらは大陸各地で治療とか行って正義の団体みたいなツラしているけれど。詐欺という名の奇跡を起して信者と金を集めているだけじゃない」
ステファノ「言ってくれるな……。銀の夜明け団は黒い事をやっていなかったとでも?」
ヨネア「知らないわよそんな事」
   「あたしは銀の夜明け団って名称が気に入っただけで、メンバーだったとか生き残りとかじゃないの」
   「ただ闇の魔法を教えくれた名も知らない人が、最後の一人だったってだけ」
ステファノ「ふん、魔王を召喚し、大陸を危険に曝した者がラザムを否定するのか」
ヨネア「魔王を召喚したのはムクガイヤの命令、その責任はあいつにあるの、あいつがそれに至ったのは政治の腐敗が原因」
ステファノ「口だけは達者のようだな」
ヨネア「どうでもいいわよ、んで、開けてくれるの開けないの?」
ステファノ「開けると思うか? そこにはお前には想像もできないラザムの闇が詰まっている」
     「忠告してやるが、開ければ魔王降臨以上の大惨事が起こる。それでもいいのか?」
ヨネア「キオスドール、精神を支配するってできる?」 
 面倒くさいと判断したヨネアは強引な手に出る。
キオスドール「うふ、禁欲の厳しい修行を積んだ者なので、誘惑はできませんわ。」
      「それに、修行を受けた高位の僧侶の精神を無理に操ろうとすると廃人になりますわよ?」
ヨネア「構いやしないわ、できるならやって」
キオスドール「うふふ……」 
 ステファノの精神に入り込み強引に、扉を開く魔法を唱えさせる。
 ドサッ
 ステファノは白目を向き、口をパクパクさせていた……。
キオスドール「あらあら、おかわいそう」
ヨネア「ふん、素直に開けてくれれば、ここまでしなかったわよ」
 ヨネアはキオスドールの皮肉とも受け取れる言葉には全く動じず、そのまま中へと入っていく……。
 しかし、その中は、ヨネアが想像していたものとは違っていた。
ヨネア「何これ、モルグ?」
 死体置き場の様な部屋で、包帯の様な布でグルグル巻きにされた死体の様なものが多数、安置されている。
キオスドール「この雰囲気、ゾクゾクしますわね」
ヨネア「聖人のお墓? 死体安置所とかかしら? それにしては何ていうか雑に扱われているし、禍々しい感じよね」
 光とは相いれないのは勿論、闇ともまた違った感じである。
ヨネア(この禍々しい感じ何処かで……)
 ヨネアが感覚を研ぎ澄ませて力の出所を探ると、そこには装飾の施された小さな箱を見つけた。
 中には、黒いながらも輝く多面体が入っている。その禍々しさは、マクラヌスと良く似ていた……。
ヨネア「何かしらこれ? まあいいわ持って帰って研究しよう」
 一旦、棚に戻し、次は布でぐるぐる巻きにされた死体らしきものを良く見てみる。
 ただの布ではなく、魔力を帯びている事がわかる。何かを封印するように……。
 ヨネアは直感的に、これは危険な物で、ラザムでは完全に処分できないため、保管に止めていると認識した、しかし、湧き上がる好奇心には勝てなかった……。
 ナイフを取り出し、布を斬ろうと刃をたてる。
ヨネア(中々、丈夫な布ね……)
 そうこうしている内に、ナイフが布を遂に裂き中を見る事ができた。
ヨネア「あれ?」
 中身は空だった。繭の様にも見える布の中は何も入っておらず空洞だったのである。
ヨネア(いや……確かに、何かあったわ)
 ヨネアは最初に触った時の感覚を思い出し、中身があった事に間違いないと結論づける。
キオスドール「ヨネア様!!」
 キオスドールが悲鳴の様に叫んだ。
ヨネア「え?」
 気が付くと、ヨネアの周りには大鎌を持った水死人のような青白い顔をした者達が何人もいたからである
ヨネア「何よこいつら?」
 屋内と言う事もあって、物理的な破壊力の無い、相手の精神に働きかける広範囲魔法、イリュージョンを唱えた。
 しかし、全く言っていい程、効いていない。
キオスドール「ドロウンバブル」
 キオスドールの水の魔法が、わずかに相手の動きを鈍らせる。
キオスドール「ヨネア様、今の内に」
 ヨネアは見つけた多面体を回収しようと置いた棚を見るが、しかしそこにあった筈の多面体は無くなっていた。
 探している暇は無いと判断し、キオスドールに言われた通り、部屋を出る。
 異変はここだけではなかった、地上階からも大きな禍々しい力を感じ取った……。
ヨネア「何が起こったっていうのよ!」
 ヨネアは薄々感づいていた、ラザムの最深部では、禍々しい存在を封印しており、それを自分が解いてしまった事を……。

………………

ドラスティーナ「ポポイロイト、アンタ一体なにやったの!?」 
 ふん縛った、毒蛇スネアが断末魔の様な悲鳴を上げながら、明らかに人ではない何かに姿を変えようとしていたからである。
 ポポイロイト、レドザイト、ラングトスの3人は揃って首を横に振る。
ドラスティーナ(それもそうよね、幾ら悪魔でも此処までの事は! まずい、力がどんどん大きくなっている)
 今もなお大きくなるスネアの禍々しい力を感じ取り、いずれ自分の力を超える事に勘づき剣を抜く……。
ドラスティーナ「火炎斬!」
 炎の剣で、スネアを攻撃するが、まるで介さない。
ドラスティーナ「ちっ」
 スネアを無視して、ヨネアを助けに行くか、倒して行くか、苦渋の決断を迫られる。
ドラスティーナ「ラングトス、2人と兵を連れて先にここを脱出しなさい、私はヨネアを連れて来る」
 ラングドスは言われたとおりにレドザイトとポポイロイトを連れ、屋外へと向かう。
ドラスティーナ「やっぱり、無視して通してくれるほど、甘い相手ではないわよね」
 スネアに向かって斬りつけるが、スネアの圧倒的力を前に成すすべもなく、防戦一方となる。
フーリン「しょーがねーな姐さん、その姐さんの今の主ってのを俺が連れきてやるよ、だから姐さんはそいつを引きつけておいてくれ」
ドラスティーナ「フーリン! …………。わかったわ、ありがとう」
 フーリンに借りを作るのに躊躇いつつも、素直に礼を言う。

 一方ヨネアとキオスドールは湧き出た死霊に包囲されていた。
ヨネア「一体、何なのよ」
 エクスプロージョンを一か八かで使おうかとも思ったが、地下なので間違いなく瓦礫の下敷きになる。
 その時、フーリンが駆けつけ、死霊を蹴散らし、突破口を開いた。
フーリン「こっちだ」
ヨネア「あんた誰よ?」
 いきなり現れた、悪魔に戸惑うヨネア。
キオスドール「行きましょう、ヨネア様、考えている暇はありませんわ」
ヨネア「何よ何よ! いきなり現れて」
 文句を言いながらも後を追う、地上階に出る事に成功し、ドラスティーナの魔力の方へ向かって走った。
ドラスティーナ「遅いわよ!」
 ドラスティーナは巨大な蛇の様な外見となったスネアと交戦し、既に傷だらけになっていた。
ヨネア「ごめん」
ドラスティーナ「逃げるわよ」
 そのまま、死霊達を交わしながら、外へ出る。
 ヨネア一向は、そのまま砂漠の方へと向かって走った……。
ヨネア「ぜえ、ぜえ、ここまでくれば少し休めるわね」
フーリン「ひゅう……。すげーなこりゃ」
 神殿から溢れ返る死霊の軍勢を遠目に、この様を楽しんでいる。
ヨネア「あんた誰よ」
ドラスティーナ「こいつは、魔王の側近よ」
ヨネア「何で、魔王の側近がここにいんのよ」
ドラスティーナ「そうだったヨネア、ここには間もなくラザムの軍が戻ってくるわ、急いで退散しないと」
ヨネア「えっえっ、何でどうして」
フーリン「じゃっ、俺はこれで、姐さん生きていたらまた会いやしょう」
 そう言って、フーリンは動揺するヨネアを無視して魔王軍の方へと飛び立った……。
ドラスティーナ「話は後よ、ブレアまで戻るわよ」
 ドラスティーナはヨネアを引っ張るようにして先に進む、ここでモタモタすれば、ラザムと死霊に挟まれる事になるからだ。

…………………

―銀の夜明け団、陣営

 何とか迫りくる死霊の軍団を引き離す事ができた銀の夜明け団だったが、アルナス砂漠に出る前に、ラザムの使徒とぶつかる事がわかる。
ドラスティーナ「死霊は私達に特別な感情を持っているわけではないから、進行速度はそこまで速くないけど、このままだと、砂漠に着く前にラザムと激突するわね」
キオスドール「交渉もできませんわね、神殿をめちゃくちゃにしてしまわれたわけですから」
ヨネア「わかっているわよ、こうなったら戦うまでよ」
 ヨネアは疲れ切っている悪魔達に号令をかけた……

―ラザムの使徒 陣営

 神殿の方から禍々しい力が湧き出ているのを確認する光の賢者……
イオナ「やってくれましたわね、銀の夜明け団……」
 ラザムの深部に封印されていた死霊が解き放たれた事を悟る。
ホルス「イオナ、神殿で何が起こっているんだ?」
イオナ「ホルス様、ラファエル殿、明日は魔王軍より強大な敵と戦う事になるとお考えください」
 イオナはホルスの問いには答えず、戦いが近い事を2人に伝えた。
偵察隊「イオナ様、お耳を……」
 その時、偵察隊から、ラザム神殿と自軍の間に悪魔の軍勢を確認したとの報が入る。
イオナ「……そのまま、蹴散らしましょう。」
   「ホルス様、ラファエル殿、偵察隊が悪魔の軍勢を確認しました。おそらく銀の夜明け団の一党と思われます。」
   「今より戦に備えてください」
 ホルスもラファエルも、釈然としないまま戦いの準備に入った……。

―ルートガルド城 トライドの病室

 宮廷医管であるデッドライトが窓を開けて、ラザム神殿のある方角を見ていた……。
デッドライト「異界の淵門が開いた。まさか人が自ら開けるとは……」
 眠っているトライドに目をやる……。
デッドライト(この際、こっちも開けてしまおうかしら?)
      (いえ、もう少し待てば、彼が全軍を王都に集結させ、ここに攻めて来る、その時に……)


■VSラザムの使徒

 ヨネア率いる銀の夜明け団と、ラファエル率いるラザムの使徒が対峙した……。
イオナ「……」
イオナ(あれが銀の夜明け団のリーダー……、魔王の召喚といい、封印されていた死霊の解放といい、碌な事をしませんわね)
ラフェエル「行くぞ皆の者!」
 ラファエルが号令をかけ、ラザム使徒が動きを見せるが、馬に乗っているのはラファエルのみなので、後続をどんどん引き離し、実質単騎で向かって来る。
ドラスティーナ「後続が追いついてないじゃない、単騎で向かって来るなんて」 
ヨネア「まあいいわ、そんなに死にたいなら、死ねばいいのよ」
 ヨネアがラファエルに集中砲火を浴びせるため、号令をかけようとした時……。
ラファエル「光竜剣!」
 ラファエルが放った光の刃は、ヨネアのみを狙っていた!
 ラファエルは総大将が魔術師という、肉体的には並の人間と変わらない事に目をつけ、単騎で向かって油断を誘い、総大将を一気に討ちとってしまおうという大胆な作戦に出たのだ。
 その後、後続のホルスが追い付き、ラフェエルの援護に入る。
 完全に出鼻を挫かれた、銀の夜明け団は、ラザムの使徒に散々に蹴散らされ合戦はラザムの圧勝に終わる。
 銀の夜明け団は散り散りとなって砂漠の方へ逃げたため、イオナは追うような事を命じず、死霊の軍団の戦いに備えさせた……。


……………………

ヨネア「こんな事になるなんて……」
 ヨネアは、何とか逃げ延び、砂漠を横断していた。
 魔法による飛行の速度は決して遅い物ではなかったが、先の戦いで負傷したドラスティーナを抱えているため、本来の速度で飛行できずにいる。
 ドラスティーナは光竜剣からとっさにヨネアを庇い、そのまま肩から胴にかけて深い傷を負っていた……。
 光の刃は、ドラスティーナの体を貫通し、翼を斬り飛ばしている。そのためヨネアが抱えて逃げるしかなかったのである。
ドラスティーナ「……ヨネア、私を置いて………行きなさい、流石に無茶よ、この速度で……砂漠を横断するなんて」
ヨネア「うるさい、怪我人は黙ってなさい、それにアンタらしくないわよこんなところで諦めるなんて」
ドラスティーナ「……あら? 私は無理なものは無理と諦めるタイプよ……」
ヨネア「ブレアに戻ったら説教してやるんだから」
 ドザッ
 ヨネアが飛行に使っている魔法の杖から落下する。
 何かにぶつかったとか、強風が吹いたわけではない、単純に魔法力が尽きたのである。
 砂漠であるため、ここで倒れれば命は無い……。
ヨネア「レドザイトが居ればまだ、なんとかなったのに……」
 冷気の魔法を得意とするレドザイトが居れば、灼熱の暑さを凌ぎ水の確保ができただろう。
 動きが止まり、急に仲間の無事が気になりだす。
ヨネア「……あの子達は無事……逃げれたかしらね? ねえドラスティーナ?」
 返事は無かった……。
 ドラスティーナは既に意識を失っており、生死はわからない……。
ヨネア「ごめんね、バカなリーダーで……」
 ドラスティーナに一言謝るとヨネアは目を閉じた……。


―クイニック 魔王軍 陣営 

 最速の悪魔であるフーリンが、ラザムの真意を確認し、戻ってくるのに左程時間は掛からなかった。
ルーゼル「死霊の軍団か……。奴らは私と知の無い死霊如きを天秤に掛け、死霊を選んだという事か」
フーリン「そうなりやすね」
ルーゼル「わかった、もういい。停戦など破棄だ、不快な生き物どもは皆殺しにしろ」
ショハード「ひゃはっ! 虐殺最高」
フーリン「後、ルーゼル様、ドラスティーナ様を敵陣営てか、あのムクガイヤの陣営に加わっているのを確認しやした」
ルーゼル「何!? ドラスティーナが!?」
フーリン「まあ、あの野郎に仕えているというよりも、人間の魔術師の娘を面白がってあれこれ手を貸しているって感じでしたけどね」
ゼオン「おい、その娘は、闇の魔法を使う生意気な小娘じゃなかったか?」
フーリン「そうそう」
 拳を握りしめ、バキバキと間接を鳴らす……。
ゼオン「あのガキ! 捻り殺してくれる」
 ゼオンはヨネアに召喚され、そのまま強制送還された屈辱を思い出していた……。
ルーゼル「ドラスティーナは放っておけ」
    「私は、グウェン、リリックと共に、ラザムと決着をつける。」
    「パルスザンとフーリンは、リュッセル半島の竜騎士共を討伐、ムナード、お前は残りを率いて雪原を攻めよ。」
ムナード「仰せのままに」
パルスザン「かしこまりました」
 魔王軍は3手に分かれ、再び侵攻を開始する……。


―ムクガイヤ魔術師団 本軍

 魔王軍を追い詰めていたラザムの使徒が、急に兵を引いたとの報が、ムクガイヤの元へ届いた。
ムクガイヤ「ラザムが引いただと?」
サルステーネ「はっ、その様でございます」
ムクガイヤ「追い詰めていたのに兵を引くとは……。魔王を倒させてから王都に進行するつもりでいたが予定が狂ったな……」
 ラザムの使徒は魔王軍に対してアドバンテージを持っていた。
 ならば、魔王軍と自軍で雌雄を決するよりも、魔王軍をラザムの使徒に討伐させてから一掃すればよいとムクガイヤは考えていた。
サルステーネ「ラザムの使徒は、ラザム神殿の奪還に向かったようですな」
ムクガイヤ「しかし、何故今更、神殿よりも魔王の討伐を優先していたというのに」
サルステーネ「一説によりますと、ヨネア様のアルナス砂漠への侵攻によるものと」
ムクガイヤ「闇の魔法を、この世から消すためにか?」
     「しかし魔王討伐より優先順位が高いとは思えんな、まあいい、リュッセルはどうなっている」
サルステーネ「ラザムの使徒が撤退したため、リューネ騎士団は魔王軍の猛攻を防げず多くの兵力を失った所、息を吹き返したリュッセル国に滅ぼされた模様ですね。アルティナの生死は不明です。」
ムクガイヤ「目の前の敵国を無視して、大義のため魔王討伐に参戦した者の末路などこんなものか……」
サルステーネ「現在、グリーン・ウルスと魔王軍が交戦中ですが、魔王軍がグリーンのほぼ全てを制圧しているようですね。」
ムクガイヤ「こうなると悠長に構えてもいられんな、フェリル党にリュッセル国を早急に落とさせ、薔薇十二字団にオステアを服属させるように伝えよ」
サルステーネ「はは」

■VSリュッセル国

 ムクガイヤの命を受け、リュッセル半島に侵攻を開始したフェリル党であったが、空を制する竜騎士相手に、戦果を上げられずにいた……。
 難攻不落のリュッセル城を包囲し、兵糧攻めにしようとしても、竜騎士を率いたセレンに蹴散らされる始末、また、軍師スーフェンがフェリル党に反感を持ち潜伏するリザードマン達に激を飛ばし、破壊工作を行われたため、前線に物資の供給もままならいこともあった。
 ルルニーガは多大な犠牲を覚悟のうえで、全軍あげてリュッセル城を攻める事も考えたが、決断には踏み切れずにいる。
ルルニーガ「………………、竜騎士の部隊、難攻不落の城、どちらかだったら何とかなるだろうが、両方を相手取るとなると……」
ムッテンベル「親父様、チョルチョと名乗る、リザードマンの巫女が軍議の参加を望んでおりますがいかが致しますか?」
ルルニーガ「チョルチョ……。あの娘か……」
 聞き覚えのある名前……。
 チョルチョは巫女といってもゲルニードのお気に入りで、軍師の様な役目を負っている。潜伏していたゲルニードが出頭してきた時も、同行していたので良く覚えていた。
ルルニーガ「して、何ゆえ?」
ムッテンベル「何でも、リュッセル城の攻略できると息巻いておりますが……」
ルルニーガ「ふむ……、まあ、良いだろう」
 現状、特にこれといった、策があるわけではないので、ルルニーガは軍議の参加を許可したのだった……。

―フェリル党 陣営 軍議

 今回の軍議はいつもと違っていた。
 リザードマンであるチョルチョとイオードが参加していたからである。
 リュッセルにはリザードマンの軍師スーフェンがおり、その同族を参加させるなどと、不満を持つものもいたが、ルルニーガは解さなかった。
チョルチョ「軍議に参加させていただき光栄にございます」
ルルニーガ「うむ、何でも、リュッセル城を攻略できると言ったそうだが、その真意を聞きたくてな……」
 ざわつく一同……。しかし、チョルチョは落ちつき全く動じなかった……。
チョルチョ「はっ。こちらを」
 そういって、チョルチョは弓によく似た物を差し出す……。
バルバッタ「なんだこりゃ?」
ムッテンベル「これは?」
ルルニーガ「クロスボウか」
 ルルニーガは一時期、人間の文化を色々と調べており、その時、武器について書かれた文献でその存在を知っていた。
チョルチョ「御名答にございます。これは人間の作ったクロスボウを元に、私達穹廬奴で作った弩という新しい武器です」
ルルニーガ「ふむ」
チョルチョ「イオード」
 矢は既にセットしてあり、イオードはクロスボウを手に取り矢を放つ、イオードの放った矢は、軽く700ドットは飛んでいた……。
 弓よりも遥かに長い射程距離である。
ルルニーガ「大した威力だな……」
チョルチョ「はい、ではこれを」
 そういって、バルバッタに弩を渡す。
バルバッタ「意外とでけーなこれ……」
 バルバッタはチョルチョから説明を受け、弦を引く。
 しかし、弦は固く、どんなに力を入れても引くことができなかった。
バルバッタ「なんだこりゃ、固くて引けねーじゃねーか」
チョルチョ「クロスボウが普及せずに廃れたのは、弦が固くて滑車を使って引かなくてはならず、そのため速射性に欠けました。」
     「使う矢も短いものを使わなくてはならず、安定性が弓よりも悪い物でした……。」
バルバッタ「それじゃ使えねーだろ、何しに来たんだてめーわ、そうか、弦を引かせて、俺の指を切断しようって腹だな?」
 チョルチョはバルバッタの罵倒など全く気にせず、説明を続ける。
チョルチョ「しかし、使えないのは要するに人間の腕力、筋力の問題です。」
     「そしてこのクロスボウではなくこの弩は、クロスボウよりも大型に作り、より長い矢をセットすることができ、安定性の問題も解決しています。」
ルルニーガ「なるほど、そういう事か……」
 ルルニーガはにいっと笑い、わざと説明を端折って勿体つけたチョルチョの真意を読み取った……。
チョルチョ「イオード」
 イオードが今度は弦を引く、リザードマンの剛腕は、バルバッタではビクともしなかった弦を引き、矢をセットして見せた。
 チョルチョは今度はクロスヘルムを用意し、それをイオードに射ぬかせる。
 矢は肉厚の鉄で作られたクロスヘルムを容易に貫通していた。
バルバッタ「いっ!?」
ルルニーガ「つまり、この武器で竜騎士を撃ち落とせという事か……」
 改めて弩を手に取り思考する。
 実践に投入するとなると、この試作品だけではなく、大量に作らなくてはならない。
 しかし、この弩が扱えるのは、リザードマンだけである。
 ついこないだまで敵だった者達に、その者達にしか使えない武器を大量に与えてよいものかどうか?
 弩の部隊を編成すれば、竜騎士達に大きな打撃を与える事ができるだろう。
 まだ、使われていない武器なので、対処ができないのである。
 対抗策を講じられれば、有利にはなりつつも相手も手強くなってくる。
 中途半端な投入は、戦を長くするだけなので、それそうおうのリザードマンの部隊を編成しなくてはならない……。
ルルニーガ「チョルチョよ、ついこないだまで敵だった者達に、強力な武器を与えて部隊を編成するというのは、決して簡単な事ではない……。
     「もし、お前達が裏切れば我々の損失は計り知れず、お前達が結果を出せなければ、それ相応の責任が待っている」
     「お前にその覚悟があるのか?」
 ルルニーガは剣を抜き、切っ先を突き付ける……。
 チョルチョは動じる事無く、まっ直ぐルルニーガを見据え……。
チョルチョ「あります。
     「元帥がリザードマンの裏切りを懸念されるのはごもっとも、ならば私を人質としてお使いください」
 つまり、リザードマン達が裏切る様な事があれば、自分を斬れと……。
チョルチョ「この弩の部隊に用意する兵は、私が単于ゲルニードより直接預かりし信用のおける兵達です。
     「兵達の女房・子供は既に人質になる決意をしております。
     「この者達を人質にすれば、穹廬奴には誇りがあります、決して裏切りは致しません」
ルルニーガ「ふむ」
 嘘を言っている様には見えない……。
 しかし、女子供を人質に取れば、流石に人聞きが悪く、ルルニーガ個人としても当然したくない、そのルルニーガの心理を見越しての主張かもしれなかった。
ルルニーガ(良い眼をしているな……)
ルルニーガ「女子供を人質とする必要は無い……。これから早速、開発・生産に当たってもらうが、お主は悪いが、ワシの近くにおれ、監視は常につけさせる」
チョルチョ「光栄にございます」
 チョルチョは頭を深く下げる。
 軍議はそこで終り、早速、材料となる樹木の手配をエルフィスに指示し、イオードの指示でバルバッタ達、ゴブリンに組み立てを命じた……。

………………………

 ルルニーガは、確実にリュッセル城を落とすため、全軍を集結させていた。
 わざと、ゴブリン達をリュッセル城から見える位置に配置し、その一方で、新しく編成されたリザードマンによる弩の部隊は、鎧も弩も、緑色に着色し、茂みや森林に布陣させ、リュッセル城からは見えないように配置する。

リジャースド「フェリル党の総軍のようだな……」
セレン「今回で決着をつけたいようですね。」
スーフェン「竜王ルルニーガは、あの阿斗(ゲルニード)と違って、無駄な力攻めをするとは思えぬ、しかし、このリュッセル城をどう攻める?」
 スーフェンは何か策がある事は見抜きつつも、真意までは掴めない、ゴブリン達が、ルルニーガの号令に従い、リュッセル城に向かって前進を始める。
 スーフェンはセレンやリジャースドに打って出るように指示は出さなかった。真意の読めない、ルルニーガの策を警戒しての事である。
 ルルニーガはゴブリンの頭数を生かして、城を包囲するように号令をかけていた。
リジャースド「軍師、うって出るか?」
スーフェン「いや、待たれよ……。この城はそう簡単には落とせはせん。まだ様子をみるべきだ、相手の狙いがわからん」
 とはいえ、城を包囲され、力攻めをしてこられる中、城内の兵達は焦り始めた……。
 兵力は相手の方が倍近い、今まではルルニーガが犠牲を出さないため、直ぐに兵を引いていたが、今回は、いつもと違って一向に兵を引かないうえに、リジャースドやセレンといった竜騎士の部隊がいつまで立ってもうって出ない、これが城壁を守る者達にとって重圧になっていた……。
 一方、フェリル党も、リュッセル城を強引に攻めていたため、多大な犠牲を支払う……。
ムッテンベル「親父様、このままでは犠牲が……」
ルルニーガ「わかっておる、だが竜騎士を引っ張り出さなくてはこの城は落とせない」
 籠城戦は我慢比べの様な状況になっていった。
セレン「リジャースド様、このままでは兵の士気が持ちません、私が行きます。軍師殿、ご指示を……」
スーフェン「うむ……。やむをえまい。だがセレン殿、気をつけられよ、ルルニーガは何かを企んでいる。」
セレン「わかりました。深追いはしません」
 リジャースドの部隊は城に残したまま、セレンは城の屋上から打って出た。
 竜騎士が他の部隊よりも優れている点として、城門を開けずに出陣できるという利点がある。
ルルニーガ「きおったか、待ちくたびれたぞ」
 しかし、竜騎士の部隊はいつもの半分くらいで、まだ警戒されているのが見てとれた。
ルルニーガ「リジャースドは未だ城というわけか……」
 とはいえ、いつまでも城に張り付いていても犠牲が大きくなるため、兵を引くように指示をだす。
 セレンは城に張り付くゴブリン勢を遠くからドラゴンのブレスで蹴散らしていった……。
 撤退を始めたゴブリンを追撃し、できるだけ討ち取るか、深追いはせずに一旦城に戻るか? 判断を迷っていると、遠方に、総大将ルルニーガの姿が見えた。
セレン「ルルニーガ!」
 セレンは追撃の号令をかけた。ルルニーガの姿を確認し、討ちとってフェリル党の弱体化を狙ったのである。
ルルニーガ「やっと来たか」
 警戒され中々うって出てこようとしないリュッセル軍に業を煮やしたルルニーガはわざと自分をエサにして挑発したのだ。
 ルルニーガはゴブリンを退却を促しつつ、セレンを引きつける。
イオード「随分待ったな……」
 伏兵となった弩の部隊は、ようやっと戻ってきたゴブリンの部隊とそれを追う竜騎士の部隊を見て、弩を狙い定めていく。
 弩の利点として、矢をセットすれば、後は力を使うことなく待機できた。
 これが弓だとずっと引っ張ってなくてはならないため、狙い定めるという事は難しい。
イオード「まだだ、まだ射るなよ」
 イオードはドラゴンのブレスの射程距離、そして、弩の射程距離を考え、セレン部隊の攻撃が届く直前まで引きつけさせた。
イオード「今だ! 放て!」
 イオードは一斉射撃の号令をかけた!
 一斉に放たれた矢の雨を受けセレンは落竜する。
セレン(矢!? 伏兵? どうして?)
 セレンは何がどうなったかわからないまま、地面に落ちていった……。
 ドラゴンのブレスを警戒し、遠方から撃っているため、当然威力は落ちている。しかし、矢が刺さる事で竜の飛行を狂わせ、騎士が竜から落ちてしまえば、落馬よりも大きなダメージを負う事はいうまでもない。
 次々に、矢の餌食になる竜騎士達。
 ルルニーガは後退したゴブリンと伏兵だったリザードマンの兵を素早く合流させ、再度、リュッセル城を攻めに向かう。
 今度は、弩に焙烙玉をセットし、ゴブリンの投石よりも遥か遠方から城を爆撃する。
 セレンの撃退と、先ほどとは明らかに厄介な攻撃を受け、城内は大混乱に陥いった……。

 ルルニーガは今度は城を包囲はしなかった。
 包囲してしまうと、より城攻めに伴う大きい犠牲を負うからである、ならば、あえて退却路を残し、リュッセル城から追い出してしまえば犠牲を少なくして勝利できる、
 もちろん相手を取り逃がすわけなので、リュッセル軍とは再び戦う事になるが、自分達がこの難攻不落の城に入城すれば、相手がおいそれとは攻められない事はわかりきっていた。
 スーフェンはルルニーガが退却路をわざと残している事はわかっていたが、かといって籠城を続けていても、全滅は時間の問題なので撤退を促した……。
ルルニーガ「チョルチョよ」
 今回の戦でずっと人質として傍らにいるチョルチョに声をかける。
チョルチョ「はっ」
ルルニーガ「見事だ」
チョルチョ「身に余る光栄にございます」
 相手に警戒され、籠城戦が長引き、犠牲は予測よりも大きい物となったが、ルルニーガの大勝利と言えた……。

…………………

 セレンが意識を取り戻したのは、リュッセル城に運ばれた後の事だった。
 矢を受け落竜し、一命を取り留めたのは奇跡に近い事だったが、後続の衛生部隊の治療が速かったのも上げられる。
エルフィス「気がつきました? 確か貴方はアルティナ様の」
 セレンはリューネ騎士団に在籍していた時、アルティナに連れられ、パーサの森を訪れた事がある。
 そこで、エルフィスとも面識があった。
セレン「…………」
 セレンは何も言わなかった……。
エルフィス「しばらくは安静しないといけませんが、命に別状はありません」
セレン「私はどうなるの?」
エルフィス「リュッセル国との交渉に人質として扱われるかもしれません」
セレン「リュッセル国は?」
エルフイス「今はリグナム火山に追い詰められているようですね」
セレン「そう……」
 尊敬するアルティナ、親友のルオンナル、そして現在の主リジャースドの安否が気になりだす。
 しかし、動けない自分に出来る事がないため、泣くしかなかった……。

…………………

 それからしばらくして、リジャースドはムクガイヤ魔術師団に降伏した……。
 降伏を決意したのは、セレンもリュッセル城を失った今、どうあがいても勝ち目が無い事が勿論あげられるが、それとは別に、まだアルティナが消息不明だった事があげられる。
 アルティナが既にムクガイヤに対し、臣下の礼をとっていれば、リューネ騎士団の再興の話をつけ、以前と同様に直参と郷士の確執にうんざりさせられるところだが、アルティナや直参の騎士がムクガイヤに振っていない今ならば、降伏を条件に、郷士や直参の差別化を廃止し、対等に扱えと言う事ができた。
 ムクガイヤからすれば、入植した者達を特別待遇で扱うつもりも、入植以前からいる者達を奴隷にするつもりも全くなかったので、すんなり受け入れた……。

―セレンの病室

セレン「リジャースド様、降伏されたんですね」
リジャースド「すまねえな、勝てなくて……」
セレン「私の力が……。あの時、ルルニーガを討とうと追撃しなければ……」
 セレンが俯いて答える。
 確かに、あそこで判断を誤ったが、誤らなくても戦が長引いただけで負ける事に変わりはなかっただろう。
リジャースド「おまえのせいじゃねえよ……。でもな、降伏の条件に郷士と直参の騎士の扱いを対等にしろってつけといたぜ」
 リジャースドの方を見るセレン
リジャースド「だからもう、悩まなくていいんだ……」
セレン「はい……」


―アルナス砂漠 アルナス城

ヨネア「うっ……」
 ヨネアが目を覚ましたのは、砂漠で倒れてから3日後の事だった……。
 砂漠で倒れたヨネアは、援軍に向かっていたニースルーの率いる薔薇十二字団に救助されていたのだ。
ニースルー「起きたのね、よかった……」
ヨネア「ニースルー」
 ベッドで寝かされており、ニースルーに看護されていたようだ。
ヨネア「…………」
 何がどうなったのかよくわかないが、記憶を辿り、自分達がラザムの使徒に敗北し散り散りになった事を思い出す。
ヨネア「ドラスティーナは?」
ニースルー「無事よ」
ヨネア「ポポイロイトはレドザイトは、あとそれから……」
ニースルー「皆無事よ……」
 取り乱すヨネアを落ちつかせる。
ヨネア「そう……。よかった……」
ニースルー「全く、無茶しすぎよ。それから、砂漠を救助のために捜索したチルクを始めとするブルーゴブリン達にお礼を言っておくのよ」
ヨネア「うっ……。わかったわ」
 ニースルーに案内され、銀の夜明け団が休んでいる場所に向かう。
 そこでは、残りのメンバーがそろってトランプをしていた……。
ヨネア「アンタ達、思いのほか楽しそうね……。心配してたのに……」
 レドザイトはヨネアを確認するや否や、飛びついて来た……。
 一番最初に召喚され、一番懐いていたといっていい。
ヨネア「ごめん、レドザイト心配かけて……」
 心配をかけていたのは自分の方だったと思い知らされる。
ドラスティーナ「ま……。アンタも気がついてよかったわ」
ヨネア「ふん……。死んでたまるもんですか……」
ポポイロイト「ヨネアも入ろーよ」
 皆で遊んでいるトランプに誘われる。
 いつものヨネアなら、忙しくなくても忙しいと言って断る所だが、今日は付き合う事にした……。
ヨネア「しかし、折角奪ったのに、これで水の泡ね……。」
 ラザムから奪った黒歴史の記録や光の魔術書、それと興味を引いた文献などを思い出す。
キオスドール「うふ、ヨネア様、確かに水の泡でしたわ」
 キオスドールはそう言って、トランプを水泡に包んで、宙に浮かばせて見せる。
ヨネア「まさか!?」
キオスドール「これと同じ要領で、残らず運んでますわよ」
ヨネア「でかした」
 興奮しキオスドールの肩を掴んで前後に振るヨネア。
キオスドール「ヨネア様、落ち着いてください」
ニースルー「ラザムから奪った物って何?」
 その時、興奮するヨネアとは対象に、冷やかな質問が投げかけられる。
 明らかに、ニースルーは怒っていた……。
ヨネア「い、いや……、ラザムの地下にあったあいつらの行った所業について書かれた記録よ」
 ニースルーに圧倒され、たじっとなりつつも、開き直る様にして答えた。
ニースルー「それでヨネア、それをどうするつもり?」
ヨネア「どうって、それを一般公開し」
ニースルー「それはダメ!」
 大きな声ではっきり言う。
ヨネア「ちょっとニースルー何を怒っているのよ。別に有らぬ事を言いふらすとかじゃなくてあいつらが実際に行った事を……」
ニースルー「それでもダメ」
ヨネア「どうしてよ」
ニースルー「ラザムを信じている人はこの大陸に大勢いるのよ? その信仰を傷つけるなんて……」
ヨネア「でも、それはラザムの自業自得でしょ」
ニースルー「それは違うわ……。確かに何処の組織にも汚職に手を染める者はいる。」
     「ラザムの中にも、信仰を利用している者はいる。」
     「でもね、ラザムの教えを信じて、貧しい人の為に、奔走している人もいるの。」
     「そういう人を傷つける事は、いくらヨネアでも許さない!」
 親友にかつてない程、凄まれ今にも泣き出しそうな顔になるヨネアであった。
ドラスティーナ(やっぱりこうなったわね……)
ヨネア「……何よ。あいつら、闇の魔法を研究してた一団を皆殺しにしてたのよ。」
   「もし同じことをラザムがもう一度行えばあたしはヤツらに殺されるのよ。」
   「それでも平気なの?」
ニースルー「ヨネア、せめて、ムクガイヤ様の大陸統一が終わってから、ラザムを裁判に掛けましょう」
ヨネア「ふん、何よ裁判って知らないわよ」
 ヨネアはそういうと、手に持ったトランプを叩きつけ、走り去った……。
ドラスティーナ「困ったリーダーだこと……」
 そのまま感情に任せて、砂漠の方へと飛び出していく
 ドラスティーナは溜め息をつきつつも後を追った……。

……・……・……・……・……・

ヨネア「ただいまー」
 砂漠に飛び出し危険を感じたのか、ストレス発散できたのか暫くしてヨネアは何事もなかったのように戻ってきた……。
ポポイロイト「ねーねーうしちちのおねーちゃんは?」
ヨネア「え? 知らないけど」
レドザイト「おねーちゃんの事をおっていったよ?」
ヨネア「えっ? すれ違ったのかしら」

 一方ドラスティーナはヨネアを探して砂漠の上空を飛びまわる。
ドラスティーナ「もう、何処に行ったのよ、あいつは……。一回城に戻ろうかしら……」
 一旦、捜索を打ち切って、城に戻ってないか確認しようと戻った時、遠目に倒れている人影を見つけた。
ドラスティーナ「ヨネア!?」
 近くまで行くと、少女の様だが、来ている服が違う。
ドラスティーナ「紛らわしい」
 そういいつつも、倒れている少女を摘みあげると、その少女には動物の耳が生えていた。
ローニトーク「はわわわわわ」
 その少女は摘み上げられた事で意識を取り戻す。
ドラスティーナ「何よこの子? ゴブリンじゃない」
 ドラスティーナはローニトークを頭からつま先まで品定めするかのように見ている。
ローニトーク(悪魔。ど、どうしよう)
 頭に生えた角を見て、ドラスティーナが悪魔と言う事に気づくが、下手に抵抗して殺されるのではないかと思いじっとしていた。
ドラスティーナ「ふぅ……。しょうがないわね、ゴブリンがどうなろうと知らないけど、あの子が私達を救助するために派遣した子だろうし。
それにしてもグズねえ、救助にきて救助する相手に救助されるなんて」
ローニトーク(な、何か勘違いされている)
 ドラスティーナはローニトークをニースルーが派遣した自分達の救助隊と勘違いしていた。
 アルナス城まで連れていると、チルク達が使っている執務室まで向かう。
ドラスティーナ「チルクと言ったわね、アンタ達、自分達の人員ぐらいちゃんと管理しなさいよ。この子、遭難していたわよ」
 そう言って、ローニトークをチルクの前に突き出した。
チルク(誰だこの子? 見覚えがないけど……。まあ全員の顔を覚えているわけじゃないし……)
チルク「今度から気をつけるよ、君だめじゃないか、勝手な行動とって」
 とりあえず、適当にローニトークを叱る。
ドラスティーナ「ふん……」
 ドラスティーナが背を向けた時、怖くて口を閉じていたローニトークが精一杯叫んだ。
ローニトーク「私、ゴブリンじゃありませんエルフです!」
 静まり返る部屋……。そしてしばらくしてその場にいる全員が爆笑しだした。
ローニトーク「? ? ?」
 何故笑われているのかわからない。怖いけど精一杯の勇気を振り絞ってまた叫ぶ。
ローニトーク「な、なにがおかしいんですか?」
ドラスティーナ「アンタねえ、エルフの耳を見たことないの?」
ローニトーク「え?」
ドラスティーナ「そんな、耳していないでしょうが! それに見なさいよ」
 ドラスティーナは執務室にいるフーリエンやキスナートを指差す……。
ローニトーク「…………」
ドラスティーナ「ね? 同じ耳しているでしょ。まあ、冗談としては中々笑えたわ」
 そういって、唖然とするローニトークを残してドラスティーナは執務室から出て行った……。
チルク「んで、君は何処の隊の所属かな、隊長に連絡するから」
ローニトーク「わ、わたし……。その……」
 あたふたするローニトーク、
チルク「じゃあ、名前は?」
ローニトーク「ローニトークです。」
チルク「わかった、それじゃフーリエン悪いけど、この子を医務室に連れてってあげて……かなり錯乱しているし」
 フーリエンに指示を出して部屋から出した後、このアルナス城に派遣されて者の名簿を確認する。
チルク「ローニトークなんて名前はないなあ」
 チルクはローニトークがエルフというのは欠片も信じていなかったが、フェリルに属するものではない事は感づいていた……。


■蛇王VSラザム

 ラザムの使徒は、ラザム神殿から溢れ出した死霊軍と交戦していた。
 魔王軍と結んでいた停戦は破棄され、挟まれた事になる。

 後続はホルスに任せて、ラファエルとイオナは神殿の奪還に向かう……。
 何とか、死霊軍を一掃し、リッチースネアを倒す事に成功したが、ラファエルを失う事となった……。


■VSオステア

 オステアはムクガイヤ魔術師団と同盟を結び魔王軍と交戦していた。
 ムクガイヤ魔術師団は、難民の受け入れ、食糧、医療品などの物資の供給は惜しまなかったが、肝心の援軍は雀の涙であった。
 これは、遠まわしに服属を求めていたからである。
 しかし、オステアは、ムクガイヤ魔術師団の一部になる事を拒み、実質、自軍だけで魔王軍と戦い続けた……。
 ラザムの使徒が撤退したため、よりいっそう魔王軍の猛攻が激しくなり、ピコックは討ち死に、後継者のアルジュナはムクガイヤ魔術師団の領地であるブレアに逃げ延びるしか無く、オステアは実質消滅した……。


■第六軍団 リュッセルオーダーVS魔王軍

 リュッセル国が服属し、リジャースドは新たな第六軍リュッセルオーダーとして、軍団を任される事になった。
 リュッセル半島から、フェリル党と共にグリーン地区への侵攻を任される。
 リュッセル国の軍師スーフェンは、既に穹廬奴がフェリル党に服属していたため出奔、フェリル党は、グリーンへの侵攻だけでなく、湿地帯よりネルザーン砦の攻略を命じられた。
 これを受けルルニーガは、支配下にあった穹廬奴のチョルチョとイオードをリュッセルオーダーに協力させ、自身はゴブリン勢を率いて、ネルザーン砦の攻略に向かった。

 リュッセルオーダーは、魔王軍と海を挟んで対峙する事になる。
 魔王軍は、宿将であるパルスザンが指揮をとっていた……。

 チョルチョとイオードは海峡沿いに部隊を配置、その後ろにリジャースド、セレン率いる竜騎士が控える。 

パルスザン「敵の布陣が終わったようですね」
フーリン「ありゃ? 見た事ない奴らだな……」
 フーリンの目に映ったのは、リザードマンの軍勢だった……。
 この時、まだ魔王軍とリザードマンは一度も交戦したことが無い。
パルスザン「あれはリザードマンという種族です」
フーリン「流石、よく知ってんな」
パルスザン「情報では、気性が激しく戦闘を好み、剣を得意とし、飛び道具は短剣を投げる程度、武一辺倒の種族の様ですね……」
     「武勇は侮れませんが、魔法抵抗力が非常に弱く、魔法による攻撃には対処できないようです。」
     「リザードマンによる穹廬奴という勢力がありましたが、大した結果も出せずムクガイヤ魔術師団に服属したようですね。」
 収集した情報をフーリンに伝えて行く……。
 パルスザンの情報通り、リザードマンは魔法に弱く、精神に働きかける闇の魔法を使う悪魔は天敵とも呼べる存在だった……。
フーリン「要するに、俺らと相性が悪く敵じゃねーってことだな。気性が激しい奴は混乱に弱いしな」
パルスザン「情報ではそうなります。しかし、油断は禁物ですよ接近戦に持ち込まれれば我らより有利です。」
     「それに後方に控えているのは竜騎士セレン」
フーリン「有名なのか?」
パルスザン「情報では最強の竜騎士の様ですね、貴方が戦った、スヴェステンやアルティナよりもその実力は上の様です。」
フーリン「そいつは楽しめそうだな、つーわけで、行ってくるぜ、出遅れんなよパルスザン」
パルスザン「やれやれ、こちらの被害は最小限でお願いしますよ。」
 パルスザンの戦術は、まずノーライフキングにティアマットを召喚させ、ティアマットを盾にしながら、
 相手に近づき、コンフュージョンで相手の部隊を混乱させて同士討ちをさせていくというもので、常に被害を少なく相手の被害を大きくを考えての事である。
 一方、最速の悪魔と呼ばれるフーリンの戦術は、それこそ単騎で先陣を切り、速い物順に一列で突っ込んで、敵と接触したら散開し、相手を蹴散らしていくというもの……。
 全く異なる戦術だが、パルスザンはフーリンに絶対の信頼を置いているため、自分の戦い方を押し付ける様な真似はしなかった……。
 イオードとチョルチョは闇の魔法の射程距離を考え、ぎりぎりまでフーリンを接近させる。
チョルチョ「放て!」
 号令をかけ、セレンの時と同様、一斉射撃を行う。
 新兵器ともいうべき弩による一斉射撃は、最速の悪魔フーリンを見事に撃ち落とした。
フーリン「俺は……どこまでもいけるはず……」
 一瞬にして全身に矢が刺さり、何が起きたのか分かっていない感じだった。セレンは自分に起きた客観的光景を見て、弩の威力に改めてぞっとした……。
 そのまま海へと落ちて行く……。
パルスザン「フーリン!」
 堕ちて行く親友を見て、血相を変えて救援に向かう。
 既に生死はわかなかったかが、まだ、息があればシャルロットの魔法で回復させる事ができるからだ。
 しかし、その望みも、竜騎士を率いて出撃したセレンとリジャースドに阻まれる。
パルスザン「邪魔だ!」
 パルスザンは闇の魔法による攻撃をノーライフキングの部隊に命じるが、セレンは広範囲に及ぶ必殺技、青竜剣を放ち、後方にいるノーライフキング達を一掃する。
 最初は、リュッセルオーダーが優勢に進めたが、気持ちを切り替えたパルスザンの巧みな戦術により、次第に劣勢になっていく。
 リザードマンの弩の部隊に接近し、混乱の魔法を使い同士討ちを狙い、弩の部隊は統制が取れなくなっていった……。
 結局の所、双方の被害が甚大なものへとなり、両軍引き上げる形となった……。

パルスザン(まさか、あの様な兵器を開発しているとは……)
     「くそっ!」
 いつも冷静沈着であったが、この時ばかりはフーリンの死なせてしまった事に、自身に対する苛立ちを抑えきれなかった……。
シャルロット「パルスザン様……」

 一方リュッセルでは……。
リジャースド「くそ、あの厄介な奴を撃ち落とせた時はいけると思ったんだがな……」
 セレンは何も言わない。
 ここに集まった陣営は、敵同士だったという事もあり、今一つ噛みあっていなかった……。
 とくに何か話し合われる事なく軍議が終了する。

 この後も、海峡を挟んで幾度も交戦したが、パルスザンの巧みな戦術により、大きく戦力を減らしていったのはリュッセル・オーダー側であった。

…………………………

 滅亡してから隠遁に近い生活をしていたゲルニードだったが、
 チョルチョとイオードの活躍により、自身も落とせず難攻不落だったリュッセル城を見事落とした事で、行いを改めていた……。
 ゲルニードが向かった先は……。
ゲルニード「頼むスーフェンこの通りだ……」
スーフェン「ふん……。よくここがわかったな……」
 穹廬奴と関わりを再びを持つかも知れない事を快く思わず、リュッセルオーダーを出奔したスーフェン……。
 その予想通り、現在、リュッセルオーダーは穹廬奴の残党と協力し、魔王軍と対峙している。
 ゲルニードは、武だけではダメだという事を言葉ではなく心で理解したが、とはいえどうしていいものかわからず、単于だったという見栄を捨て、自ら処刑しようとした軍師であるスーフェンに頭を下げたのだった。
ゲルニード「このままでは終われん、俺は何としてでも穹廬奴の地を取り戻させねばならぬ」
スーフェン「唯、自分の知を使う者に仕えるのみだ。お前はこの知を使う気があるのか?」
ゲルニード「ある……。俺にお前の知を使わせてくれ」
スーフェン「ふん……。」
 スーフェンはゲルニードに背を向け歩きだした……
ゲルニード(ダメか……)
スーフェン「何している速くしろ。ここまで言わなくてならぬのか?」
 スーフェンは振り向き、ゲルニードに命令した……。

…………………………

―軍議

セレン「既に、相手とこちらでは戦力差が、既にリュッセル北部を守る防衛力はありません」
リジャースド「リュッセル城に籠城して戦うと言う事か……」
 戦線は維持できなくなってきている。しかし、魔王軍にリュッセル半島の上陸を許せば、さらなる猛攻にさらされるだろう。
 その時、会議室の扉が開き、二人のリザードマンが入ってきた……。
チョルチョ「単于」
リジャースド「軍師」
ゲルニード「チョルチョを心配掛けたな」
リジャースド「軍師、来てくれたか……。お前が入れば心強い」
チョルチョ「何故、スーフェンが?」
ゲルニード「俺が、お願いしたのだ……」
チョルチョ「単于……」
スーフェン「ふん」
リジャースド「早速で悪いが、何か策はあるか? 軍師」
スーフェン「うむ……。無い事は無い、その前に皆に聞きたい、特にアト、お前にな」
 アトとは馬鹿な君主をさした穹廬奴特有の言葉である。
チョルチョ「貴様ーー」
 慕う者を貶され、ゲルニードに掴みかかるチョルチョ、しかしそれを制したのはゲルニード当人だった……。
ゲルニード「止せチョルチョ……。それよりもスーフェン聞きたいこととは……」
スーフェン「魔王軍で最も恐ろしいのは誰だ?」
 一瞬静まり返った後……。
ゲルニード「そんなもの、ルーゼルに決まっておるだろう……」
 ゲルニードが真っ先に答える。周りの者もルーゼルが答えだとは思いつつも、そんな簡単な答えなわけが無いと思考を巡らせていた……。
スーフェン「だから、おまえはアトだというのだ……」
チョルチョ「!!」
 また、チョルチョがスーフェンの言葉に過剰に反応し、拳を握りしめる。しかしゲルニードはチョルチョを手で制した。
ゲルニード「そうだな……。知が無い俺にはわからない。教えてくれ」
 以前のゲルニードなら、スーフェンを2~3発殴った後、裸にして木に縛り付け晒しものにしていただろう。
スーフェン(少しは成長したようだな……)
セレン「おそらく、流れと状況からして答えはパルスザンだと思いますが、何故ですか軍師殿、魔王ルーゼルは本人が絶対的力を持ち、戦略、戦術も確かなものです」
スーフェン「うむ……。確かにルーゼルは魔王軍の誰よりも強い……。」
     「だが、悪魔を絶対的なものとし、多種族を見下している」
     「一方、パルズザンはどうだ? 人間に関心を示し、決して油断しない男。」
     「人間を見下し、圧倒的力を基に前進しかしないルーゼルが、ここまでやれるのは人間を決して侮らない軍師が仕えての事……」
チョルチョ「なるほど」
 スーフェンの解説に、快く思わないチョルチョまでもが関心を示す。
ゲルニード「それで、何が言いたいのだ?」
スーフェン「わからんのか、魔王軍など、パルスザンを倒せば後は自滅するという事だ……」
 周囲がざわつく……。
リジャースド「軍師よ、そういうなら当然、パルスザンを出し抜く策があるのだろうな」
スーフェン「残念ながら、それは無い、魔王はパルスザンを絶対的に信頼し、パルスザンは魔王に絶対の忠誠を誓っている」
ゲルニード「随分、敵の事情に詳しいのだな」
スーフェン「第十三計……」
ゲルニード「打草驚蛇」
スーフェン「ジェイクから習ってはいるようだな……。知が無いのは馬鹿だが、知があっても使わないのを愚かという」
セレン(うわっ……)
リジャースド(軍師は一言多いのはいつも事だが、明らかに悪意があるなこれは……)
ゲルニード「そうだ、俺は愚かだった……。ジェイクを死なせたのだからな……」
チョルチョ「単于……」
 素直に認め、スーフェンはこれ以上馬鹿にしずらくなった……。
スーフェン「……話を続ける。現状、我らが圧倒的劣勢、なのでここは 連環計を仕掛ける……」
セレン「話が戻りますが、軍師殿、先ほどパルスザンを倒す策は無いと」
スーフェン「うむ……。あの男は隙が無い、馬鹿の振りをしても本当の馬鹿を差し出しても見破られる……」
ゲルニード「では、どうしようというのだ」
スーフェン「策を仕掛けるのはパルスザンではない……」
リジャースド「仲違いを仕掛けるという事か?」
スーフェン「左様……。確かにパルスザンは人間の文化に関心すら示すような悪魔だ。」
     「偏見を持たないあの者は情報収集に長け、こちらを侮らない、しかし周りの者はどうだ?」
     「自分達を絶対的な者とし、多種族を家畜以下に見ている。」
     「そういった偏見を持つ者から見れば、パルスザンの文化に関心を示す一面など、見るに堪えないのではないか?」
セレン「つまり、パルスザンを魔王軍の誰かに討たせるんですね」
リジャースド「悪くないと思うが、そんな事が可能なのか?」
スーフェン「うむ……。絶対は無いが、うってつけの人物がいる。今雪原を支配しているムナードという者だ。グリーンに流言飛語を行う」
ゲルニード「ムナードと言えば、魔王軍一の切れ者、下手な流言に引っかかるとは思えんが……」
スーフェン「お前はまるでわかっていないようだな……。騙される騙されないと頭の良し悪しは関係ない、さらに言えば、騙すのが上手いからと言って、騙されにくいわけでもない」
スーフェン「信じたい事実を流言にして流せば、それが嘘だと分かっていても行動するもの」
 意外な事を堂々と言う
スーフェン「ようするにだな……、ムナードは誰よりもパルスザンの死を望んでおる。」
     「パルスザンに謀反の疑いがあると情報が来れば、信じる信じないではなく、それを信じたいのだ奴は」
一同「なっ!?」
スーフェン「驚くには当たるまい……」
     「状況を考えて見れば、パルスザンはまだリュッセルに侵攻できていない、逆にムナードは雪原をほぼ制圧している。」
     「グリーン地区の戦力と我々の戦力を考えれば、これだけでどっちが上とかは判断できないが、当人はそう思っていないだろう。」
     「パルスザンを無能と思っているだろうな……。」
     「そしてムナードは我らを、突っ込んで来るしか能が無いと思っているだろう。まさが自分を騙してくるとは思ってない」
ゲルニード「上手くいくのだろうな?」
スーフェン「絶対は無いと言った筈だ……。ムナードが流言を受けて、魔王に報告するに止めてしまえば、魔王が諫めて終わりだろう。
      だが、パルスザンを快く思わない他の悪魔が魔王に報告するまえに討ちとれという事を助言すればムナードは動く」
リジャースド「成程な、まあ、上手くいかないにしてもこちらは流言するだけだからな……。戦力もこの状況だ、やるだけやってみるか」
ゲルニード「連環計といったな? 続きがあるのか?」
スーフェン「当然ある……。が、この策が上手くいかない事には次の策はない、まずはグリーンに流言を行う」
     「流言内容は、パルスザンに謀反の疑い有、フーリンは背中を射られて死んだという事にしろ」
 流言は、ムナードの支配するグリーンにすぐさま広められた。
 この時、グリーン・ウルスはミッドウェイに立て籠もり決死の抵抗を続けていた……。
ショハード「兄貴、面白い噂が流れているぜ……」
ムナード「パルスザンが謀反を考えているというのだろう? 馬鹿馬鹿しい、確かにあの男は愚鈍だが、魔王様を裏切るなどと……」
ショハード「でもよ、フーリンは背中を射られて死んだって話だぜ」
ムナード「パルスザンが背後から殺したという事か?」
    「ますます、わけがわからんな、あいつにとってフーリンは親友の筈、謀反を起こすなら共謀した方がよいであろう」
ショハード「反対されたんじゃねーの? それを口封じとか……」
ゼオン「パルスザンは平気で背後から矢を射る汚ねえ野郎だろからな……」
 かつて一騎討ちで倒したかった相手をパルスザンが背中から射殺した過去があるゼオンはパルスザンが殺したと決め付けた……。。
ムナード「所詮は噂だろう?」
ショハード「ああ、所詮は噂だ……。だけどそれでいいんじゃねーか?」
 この時、ショハードが相手にされてもいないのになおも食い下がってくる真意を知る……。
ムナード「しかし、それならば、魔王様に謀反の疑い有りと報告し……」
ショハード「魔王様に報告した所で、兄貴が諫められるだけじゃねーの。証拠があるわけでもねーんだし」
ムナード「確かに証拠が無いからな……。やはり寝も葉もない噂に過ぎんのだろう。それに奴らの流言という事もある」
ショハード「なあ、証拠ってのは作るもんじゃねーのか?」
ムナード「……ショハード、お前……」
ショハード「俺らがグリーンをここまで制圧したのに、あいつはまだリュッセル半島に侵攻できてねーんだぜ、フーリンは討ち死にしたしよ……。」
     「こんな無能が、いつまでもNo.2にいても魔王様の為にならねーよな?」
ムナード「…………」
 改めて、状況を考える。現在、グリーンはほぼ平定しており、力は低いものの配下の者は多い……。
 パルスザンがリュッセルを再び攻めた時に、背後をつけば討ちとる事は可能だろう。
ショハード「俺らが雪原を完全に支配したら、魔王様からパルスザンの援軍に行けと言われるだろうな、でもって手柄は全部あいつが持っていく……」 
ムナード「…………流石は俺の弟だな……」
 ショハードは素直に誉め言葉として受け取ったが、この言葉は皮肉を込めたものだった……。
 ムナードは演説などで、その気の無い相手を言葉巧みにその気にさせる事を得意としている。
 勝ち目が無い戦いに兵を言葉巧みに誘導し特攻させるなど何度も行ってきた。
 そして、それを今日は弟にされたのだ……。
 パルスザンが謀反等するわけがない、ここで同士討ちをすれば魔王軍は大きく戦力を失い、窮地に立たされる。
 それは、わかっていた。
 しかしムナードは自分の野心を既に抑える事ができなくなっていた……。

…………………

―軍議

 パルスザンが再び、リュッセルに向かって侵攻を開始したとの方が届く……。
 それから程なくして、ムナードが兵を上げたとも

リジャースド「上手くいったな……」
スーフェン「うむ……。では、次の策の説明する」
 スーフェンは連環計といっていた、最初の策が上手くいったので、それに続く策の解説を始めた
スーフェン「今、魔王はゴイザムの入り口の当たりで、ラザムの使徒と交戦中だ……。」
     「その魔王の近辺に、ムナードが謀反を起こしたと流言を流す」
セレン(えげつな……)
リジャースド「ふははは、軍師よ、容赦ないな……」
スーフェン「これで魔王がムナードを粛清してくれれば御の字だ。まあ流さなくてもお気に入りのパルスザンが討たれれば十分粛清はありえる。
     「だが、噂を流した方が話が速くなるからな」
ゲルニード「…………」
チョルチョ「…………」
スーフェン「アト……。どうした? 斬った貼ったがないからつまらんのか?」
 全く反応を示さないゲルニードが気になり、嫌味を言う。
ゲルニード「いや、改めて知の大切さと恐ろしさを知ったのでな……」
 関心するように言い返した。以前のゲルニードからは決して出てこない言葉だった……。
 スーフェンは少し気をよくしたのか、この後、ゲルニードを馬鹿にする発言を一切しなかった……。
チョルチョ「ですが、それも向かってくるパルスザンを撃退できればの話ですよね」
 ここで、パルスザンを押しとどめ、撤退させないと挟撃にならない、下手をすればパルスザンを取り逃がす事になる。
 取り逃がせば、確実に魔王軍を立て直すだろう。
 それに、この手の策は一度失敗すれば、2度は使えない、確実にムナードにパルスザンを始末させる必要がある。
スーフェン「その通りだ……。ここが正念場となる各々油断めされるな……」

…………………

ゲルニード「いつもよりも敵の数が多いな……。」
セレン「今回でリュッセル北部を制圧するつもりなんでしょう」
チョルチョ「負けないもん」
 ゲルニードは弩を構えた……。
チョルチョ「単于?」
ゲルニード「使い方はイオードに習った……。良い武器だ……」
 穹廬奴では弓の様な飛び道具は邪道とされている。
 ましてや、弩は弓と違い、弦さえ引いてしまえば、狙い定めやすくそこまでの鍛錬を必要としなかった。
 こういった仕様は穹廬奴の価値観にそぐわない……。
 しかし、見栄を捨てたゲルニードは、成果を上げたチョルチョの開発した武器を素直に誉めた……。
 チョルチョはそれが何よりもうれしかった……。
 いつもは遠方から、弩で射かけても召喚されたティアマットを盾にされ思うように戦果が上がらない。
スーフェン「セレン殿……。弩で射る前にまずはティアマットを蹴散らし、そしてなるべく敵を引きつけるのだ」
 スーフェンは弩の力を最大限に発揮できるようにティアマットの撃退を優先させた。
セレン「わかりました」
 セレンは青竜ライムに乗って、ティアマットの撃退に向かう
パルスザン「いつもと戦法を変えて来ましたか……」
 パルスザンはティアマットの防壁を簡単にくずさせないため、冷静にデーモンとリッチーに援護の指示を出していく。
 その時、放たれた矢がパルスザンの肩を貫いた。
パルスザン「ぐっ……」
シャルロット「パルスザン様!?」
 傍らにいるシャルロットがパルスザンに回復魔法をかける
イオード「流石に、竜に乗りながらでは脳天は狙いにくい」
リジャースド「……だが、これで迂闊、前には出られないだろう、このまま引いてくれねーかな」
 イオードはリジャースドの竜に乗り、弩で直接パルスザンを狙ったのだった
 しかし、2人乗りで飛行しながらではかなりの力を使って引かなくてはならない弦を引くことはできないため、一時後方に下がる。
 二人乗りをした竜騎士はイオードとリジャースドのみだったが、パルスザンは狙い撃ちを警戒し、部隊を下げた。
 ノーライフキングとアークデーモンの援護を失ったティアマット達はセレンの竜騎士部隊に蹴散らされた。
パルスザン「敵もやりますね」
 一旦さがり、ティアマットが撃退されたのを見て、歯がみする。
 矢の傷は治療され、戦うに当たって、何の問題も無かったが、防護壁ともいうべきティアマットが一掃された事がパルスザンを迷わせていた。
 兵力は倍近いので、このまま力攻めでも勝つことはできる。
 しかし、無理に突っ込めば多くの兵を失うだろう。
 そして、何より今までとは違って明らかに優れた軍師が向こうの陣営にいることは見てとれた……。
パルスザン「一時撤退する」
 慎重な性格の為、相手方の情報が無い時は、無理な戦いはしない、パルスザンは兵を引いた……。
リジャースド「ふう……。なんとか追い返したな」
スーフェン「だが、多くの戦力を残したまま兵を引いた……。ムナードが勝ってくれると良いのだが」

 パルスザンがクイニックまで戻ると、クイニックに向かって来る一軍を見つけた……。
パルスザン「あれは?」
シャルロット「旗からしてムナード様の率いている部隊のようですね、行って参ります。」
 戦で疲労したパルスザンに無理はさせまいと、率先して行動するシャルロット
シャルロット「これはムナード様、どういった用件でございますか?」
ムナード「ふん、奴隷が……。魔王様より援軍に向かうようお達しを受けた。門を開けられよ」
シャルロット「しばし、お待ちください」
ムナード「何故、待たなくてはならん。通せ!」
シャルロット「そんな困ります!」
 強引にクイニックへ入ろうとするムナードに対し、慌てるシャルロット、しかし見かねたパルスザンもこの場にやってきた……。
パルスザン「ムナード、何の用ですか? 魔王様に援軍の要請などしていませんが……」
ムナード「お前がしていなくても、魔王様が自ら私に命令を下されたのだ」
パルスザン「…………。わかりました」
ムナード「ふん」
 パルスザンは当然これが面白くなかった。確かにリュッセルオーダーとは一見、一進一退の互角の勝負を繰り広げているように見えるが、戦果はまるで違う。
 パルスザンは自軍を殆ど消耗させておらず、既に兵力は倍の差がついている。
 一方、ムナードは無理な攻めをしているため、確かにグリーンをほぼ制圧してはいるが、戦力の消耗は激しかった……。
 長期的に見れば、必ずムナードのやり方では戦いを維持できなくなるとパルスザンは読んでいる
 そしてそれが、ルーゼルがムナードではなくパルスザンを軍師にしている理由だった。
 ムナードの軍勢をすべてクイニックに入れた時、ムナードは剣を抜き、切っ先をパルスザンに突き付ける。
パルスザン「何の真似です?」
ムナード「パルスザン、貴様、魔王様を裏切る気だな?」
パルスザン「何を馬鹿な事を……」
     (こいつ何を言っているんだ?)
ムナード「フーリンは背中を射られて死んだとの報告もある、それに……」
 そういって、ムナードは懐から書状を投げる
 そこには、リュッセルオーダーのリジャースドから内応勧誘の旨が書かれているものだった。
 無論、パルスザンには身に覚えが無い。
パルスザン「馬鹿馬鹿しい、こんな物、敵の仕掛けた謀略に決まっているだろう。
      こんな手に引っかかるとは……」
 書状の内容を否定し、理にかなった弁明を始めるパルスザン、しかし、ムナード側の悪魔達は薄ら笑いを浮かべており全く動じなかった……。
パルスザン(まさか? こいつら……)
 パルスザンはムナードの真意を読み取った。裏切りが事実かどうかはムナードにとってどうでもいい。
 そもそも、渡された書状も、敵方が用意したものではなく、ムナードが用意したものであった。
 パルスザンは説得は無理と見て、目くらましを放ち、この場から逃げる。
ムナード「追え、殺せ……。魔王様がこの事実を知る前にパルスザンの首を取るのだ」
 自身の配下に号令をかける。
 クイニックでは、悪魔同士による醜い戦いが行われた……。
 パルスザンは、シャルロットを連れ、僅かな手勢とともに、クイニック北部にある山地に逃れていった……。

……………………

 逃げ場は無かった。ムナード達悪魔に包囲されどう逃げようとも見つかるのは時間の問題……
 パルスザンはクイニックから脱出するために交戦し、体はゼオンの攻撃を受け負傷、魔力も空に近かった……
 それでも健気に、残り少ない魔力で治療を続けるシャルロット……。
シャルロット「パルスザン様、必ず生きて魔王様と合流しましょう。そこで疑いを晴らすのです」
パルスザン(この子は気が弱い、魔王様の元へ行っても、私が死ねば再び奴隷階級に落とされるだろうな……)
パルスザン「シャルロット、私が死んだら、お前はドラスティーナ様の元へと行きなさい……」
     「フーリンから聞いた話ですが、お前を仲間に引き入れたがっているそうです」
シャルロット「!? パルスザン様、嫌です死ぬと言われるなら私も共に……」
パルスザン「悪魔らしくありませんね」
シャルロット「パルスザン様こそ」
パルスザン「ふっ……。それもそうですね、わかりました」
 そう言いつつも、パルスザンはシャルロットに送還魔法を掛ける。
シャルロット「パルスザン様!?」
パルスザン「どうやら、人間に毒されていたようですね、美学とは逆の行動を取るとは……」
 パルスザンはシャルロットをムナード達の敷いた包囲網の外側に飛ばした……。
ムナード「つくづく、愚かな奴だ、奴隷を逃がすために魔力を使い切るとは……」
パルスザン(愚かと言うのは、私利私欲に走ったお前を言うのだ……)
 パルスザンがその死を覚悟した時、ムナードの元に弟のショハードが血相を変えてやってくる……。
ムナード「どうした」
ショハード「兄貴、大変だ……。魔王様が俺達の粛清の兵を上げ、こっちに向かっている」
ムナード「何だと?」
パルスザン(こんな事も読めなかったのかこの男は……。これで魔界一の切れ者と自称するのだから笑わせる)
ムナード(魔王様の動きが速い、これでは……。いやまだパルスザンは死んでいない、ここはパルスザンに私の便宜を計らせて……)
パルスザン(と、考えているのだろうな……
      確かに、魔王軍の事を考えればそれが最良……)
 この時、既にムクガイヤ魔術師団は大陸3分の2を制圧している。
 ラザムと魔王軍が交戦している間に、レオームを攻め、ゴート3世はルートガルド城に撤退し籠城した、ムクガイヤは無理に城攻めはせず、その間に経済力が豊富な王都を次々に攻略している。
 ラザムも死霊軍との戦いで戦力を減らし、すでに領有しているのはラザム神殿のみとなっていた。
 ここで、魔王がムナード一派を粛清してしまえば、大きく戦力を失う事になる。
 そうなってしまえば、総合的に見て勝つことは難しい、いくらルーゼルが個々で強くてもどうにもならない。
 パルスザンにはそれがわかっていた。
 しかし、パルスザンは自分を殺そうとした者の便宜を図るなど、その高位悪魔としてのプライドが許さなかった……。
パルスザン(ルーゼル様、お許しを……)
 パルスザンは剣を抜き、自ら首を掻き切った……。
ムナード「なっ……!?」
ショハード「兄貴、どうする?」
ムナード「ええい、仕方あるまい、こうなれば魔王と戦うまでだ……」
 ムナードは自軍をムナード党と称し、反旗を翻した……。

…………………

 魔王軍で内乱が起きという報は、すぐさまリュッセルオーダーの元へと届いた……。
スーフェン「うまくいったようだな……」
リジャースド「軍師、流石だな」
 リュッセルオーダーはこれを機に、グリーンへの侵攻を開始した……。


■ムナード党壊滅

 ムナード党と魔王本軍との戦いはまるで勝負にならなかった……。
 ビッテトールとダレスダラムは魔王軍を前にいずこかへ消え、ゼオン、ショハード、ナームは討ちとられた……。

リリック「魔王様、首謀者であるムナードの奴を捕えました……。」
 十字架の様な形をした枷に魔法で強化した鎖で縛られて運ばれてくるムナード
ルーゼル「うむ……」
 ルーゼルは膝まずくムナードを見下ろしながら前に立った。
ルーゼル「ムナードよ、お前は軍師になりたかったのか? 魔王の座が欲しかったのか?」
ムナード「貴方がいなければ、私が魔王になっていました……」
ルーゼル「そうか……」
 その瞬間、ムナードの頭部が弾け飛んだ……。
リリック(ムナードの奴は嵌められておったか……)

 この後、雪原はリュッセルオーダーが制圧し支配下に入れ、グリーンウルスもそれに服属した……。
 ラザムは神殿のみの領有となったまま、その辺一帯の攻略を銀の夜明け団に変わって行っていた薔薇十二字団は特に兵を上げる事はせず、交渉による解決を行っていた。
 王都はすでにムクガイヤ魔術師団に制圧され、残すはルートガルド城のみとなっている。
 ガルガンダのドワーフ達は、ムクガイヤが優勢と見ると、決起しガルガンダ山を攻め、服属を条件に支援を求めた……。
 魔王軍の領地は、ガルガンダの山地の一部と廃都ハルトのみとなっており、大局は決していた……。

ルーゼル「リリック、グウェン」
リリック「は」
グウェン「は」
ルーゼル「わかっていると思うが、魔界に帰るつもりはない、防衛は考えなくてもいい、一兵残らず、全軍をハルトに集結させよ」
    「あの野郎を殺してくる」
リリック「仰せのままに」
グウェン「現世の果てまでお供します」

■VS魔王軍

 魔王軍が兵をハルトに集結させているとの報がムクガイヤに入る
 ムクガイヤはこの時、ルートガルドを城以外を全て制圧しており、城の周り大軍で固め、それ以外は王都で毎日大規模なパレードを行っていた。
 必死に篭城しているゴート三世に対する嫌がらせである。

 城にいるダイナイムから、こっちに寝返りたいとの書状が届けばそれをゴート三世に送り返し、城内を疑心暗鬼にさせていた……。
ムクガイヤ「ククク……。王子自ら、私に忠誠を誓わせてやるわ」
 ムクガイヤは徹底的にゴート3世の心を折るつもりである。
サルステーネ「我が君、魔王軍が全軍をハルトに終結させているようです。」
ムクガイヤ「全軍を? 山の守りはどうしているのだ?」
サルステーネ「放棄した模様です」
ムクガイヤ「おそらく、南下し王都に進軍する気だな……」
ムクガイヤ(もはや大局は決している、大方一矢報いてやるといった玉砕覚悟の最後の進軍だろう)
サルステーネ「いかがなさいますか? フェリル党に相手をさせますか?」
ムクガイヤ「いや、よく考え見れば私は魔王の顔すら知らん、それではあまりにルーゼルが哀れではないか、お前の暗黒騎士団と私の近衛魔術師団で決着をつけよう」
サルステーネ「御意」
 ムクガイヤとサルステーネの軍は、王都をフェリル党に任せてイオナ平原へと出陣した……。

 イオナ平原で対峙する事になった両軍。
 ムクガイヤの兵力はすでに魔王軍の4倍近いものがあった……。
ルーゼル「お前が俺を召喚したムクガイヤか……、召喚してから今日まで姿をくらましているとはとんだチキンだったな……」
ムクガイヤ「これはこれは魔王ルーゼル、今日は魔王様にお礼が言いたくて一言、言いに参った」
ルーゼル「礼だと?」
ムクガイヤ「天下を取らせてくれてありがとう。
      お前が、自称最強の魔王で、トライドと引き分けた時は心底落胆したが、こうして無事役割をはたしてくれて余も感激しておる」
ルーゼル「随分と気が早いな、まだ貴様は天下を取っていないであろう? それにお前はもう詰んでる」
ムクガイヤ「ククク、もはや哀れなピエロにはご退場願いたいのだが、慈悲深い私はお前に選択肢をやる」
ルーゼル「選択肢だと?」
ムクガイヤ「私の配下となれ、さすれば大陸の半分の領地を与えてやろう」
 これは、よく物語などで魔王が勇者に言う台詞であった……。
ルーゼル「全部だ」
ムクガイヤ「何!?」
ルーゼル「この大陸は全て私のものだ……。チキンな貴様は南エルタに自治区を与えるからそこに引き篭もってろ!」
ムクガイヤ「ククク……。サルステーネ!」
 ムクガイヤが叫ぶようにしてサルステーネの名を呼んだ、号令をかけろの意であった。
サルステーネ「はっ、全軍出撃!」
 暗黒騎士団に号令がかかる。馬に乗った部隊がルーゼルの悪魔の軍勢に向かっていった……。
 激しい戦いが続いた……。兵力で劣る魔王軍は何度も暗黒騎士団を押し戻す奮闘振りを見せる。
 しかし、グウェンが戦死し、それに続きリリックも戦死する。
 暗黒騎士団の兵を半分以下まで減らしたが、ついに一兵残らず討ち取られた……。

 ルーゼルは魔力も体力も底をつき、近衛魔術師団の精製したゴーレムにうつ伏せにされた状態で押さえつけられる。
ムクガイヤ「流石は魔王ルーゼルよ……。精強な暗黒騎士団をこうもやられるとは……」
ルーゼル「お前の戦での働きはただ喋るだけか? 喋るだけなら誰でもできるぞ?」
 ムクガイヤはルーゼルの頭を踏みつけた。
ムクガイヤ「うるさいぞ。貴様は負けたのだ……。最後ぐらい潔く負けを認めろ」
 そして、そのまま座り込み、ルーゼルの髪の毛を掴んで強引に持ち上げた……。
ルーゼル「ムクガイヤ、お前の敗因はな、最後までチキンを貫かなかった事だ……」
ムクガイヤ「敗因だと?」
 ルーゼルの表情は笑っていた、絶望的状況なのにもかかわらず余裕があった……。
 逆にムクガイヤは自分に鳥肌立っているのを感じる。
ルーザル「お前が、私の相手をせずに、配下の者を差し向けていたら勝てたのにな……」
 ルーゼルの体に光輝く文字が浮かび上がる。
 何かしらの呪法をすでに自分の体に施していたのだ……。
ルーゼル「言っただろう? お前はもはや詰んでいるとな!」
 ルーゼルは自爆した……。その爆発はその場にいた者全てを巻き込んだ……。
 当然この戦いの生存者はいない……。

■VSルートガルド

 ルーゼルの自爆によって発生した爆風による衝撃波は大陸全土に及んだ……。
 イオナやハルトでは大地震が起き、イオナ平原に近いルートガルド城の窓ガラスは全て割れた、窓辺に立っていた者にはガラスの破片を浴び、重症を負う……。

ゴート3世「父上!」
 ゴート3世は、城を襲った衝撃波を受け、寝たきりのトライド容態が気になったのは当然といえた、血相を変えて病室に向かう。
 そして病室で見たものは、想像を絶するものだった。
 宮廷医官のデッドライトは窓の近くに立っていたのか、ガラスの破片を全身に浴びていた……。
 これだけなら、おかしい事は何もない、ゴート3世が目を疑ったのは、デッドライトが全身にガラスを浴びながらも平然と立っており。
 そして、傷口からは全く出血していなかったからである。
 人間と同じ姿をしているが、中身は全く異なるものというのが嫌でもわかった……。
ゴート3世「おまえ……。人間か?」
デッドライト「どうも、思った通りに事が運びませんでしたわね」
 ゴート3世にではなくつぶやくように喋る……。
 ゴートは警戒をしつつも、ベッドで眠っているはずの父親に目をやった。
 しかし、ベッドに父の姿は無く、ワームホールの様な物が出来ていた……。
ゴート「貴様! 父上に何をしたあ?」
 恐怖に震えつつも、怒り叫ぶゴート、デッドライトは意に介さない
デッドライト「貴方の後ろにいらっしゃいますわ」
ゴート「はっ!?」
 確かに、ゴートの後ろにトライドは立っていた……。骸の状態で……。
 背丈や体格、わずかに残った特徴でそれが父だったものである事はわかった。そして生きてはいない事も……。
ゴート「貴様!」
 しかし、デッドライトに何をするよりも早く、死霊と化したトライドに剣を振るわれる。
 ゴートは何とかそれを交わし、体制を立て直そうとしたその時、デッドライトの放ったダークレイに肩を貫かれた!
 ゴートが死を覚悟した時
「地裂斬!」
 フィーザレスが救援に駆けつけ、その技によって、床をブチ抜き、トライドとデッドライトを下の階に落とした。
フィーザレス「若! ご無事ですか?」
イオナ「ゴート様」
 肩の傷にすぐさま回復魔法をかけて治療する。
ゴート「助かったフィーザレス」
フィーザレス「ここは危険です。一点に兵を集めて包囲を突破するのです、先ほどの衝撃波で敵は浮き足だっております。若なら必ずや突破できるでしょう。」
ゴート「わかった。」
 その時、強大な死の波動がフィーザレスの開けた穴より噴出した。
 ゴートとイオナ、フィーザレスをそれをかわすが、立ち位置は分断される。
 下の階には、六枚の翼を持った人型の化け物がいた……。
フィーザレス「若、先に行ってください、必ず後から追いつきます。」
 フィーザレスは既にここを死地と決めていているようだった……。
イオナ「行きましょうゴート様」
ゴート「フィーザレスよ、生きて必ずレオームを再興するのだ、これはお前の天命だ」
フィーザレス「はっ、必ず」」
 フィーザレスはそのまま下の階に飛び降り化け物に飛び掛った……。

 セトトンネルと呼ばれるその波動を放つ化け物は一体ではなかった……。
 すでに、ルートガルド城の上空を何体も飛び回っている……。
ムッテンベル「親父様、城に異変が……」
ルルニーガ「うむ……。わかっておるわ」
 苦々しい顔で上空にいる化け物を見つめる。
 ムクガイヤと暗黒騎士団が向かったイオナの方で起こった爆音と衝撃波、そして、それに呼応するかのように現れた空を飛ぶ異形の化け物。
 関係は不明だが、ルルニーガにはもはやムクガイヤは生きていないだろうという事は分かっていた……。
ルルニーガ「全軍退却」
 この様な混乱している状況で、城から現れた化け物を攻めても、勝ち目が無いと踏んだルルニーガは全軍に退却を促した……。
 その号令を受け、海路を封鎖していた第3軍、ローイス水軍も撤退を始める。
 その時、軍団長であるニーナナスは、レオームの船を見かけたが、もはやそれどころではないとしてこれを見逃した……。

■代表会議

 王都から噴出した死霊の軍勢は止まる事を知らなかった。魔王軍と違って人を奴隷としてすら使うことはせず、逃げ遅れた人間はすべて魂ごと喰われていった……。

 ムクガイヤがイオナ平原にて戦死したとの報を聞いたニースルーは、すぐさま軍団長や地方を治めている有権者達に書状を送って召集をかける。
 後継者を特に決めていなかったムクガイヤを後を誰が継ぐのか? これをはっきりさせないと、各軍団や有権者達が独自に動き、再び戦乱になる事を懸念したのである。
 王都を見渡す事のできるガルガンダ山で、会議は行われた。

 集まったのは
第ニ軍 フェリル党      代表 バルバッタ  補佐 ルルニーガ
第三軍 ローイス水軍     代表 ニーナナス  補佐 ナシュカ
第四軍 薔薇十二字団     代表 ニースルー  補佐 チルク
第五軍 銀の夜明け団     代表 ヨネア    補佐 ドラスティーナ
第六軍 リュッセル・オーダー 代表 リジャースド 補佐 アーシャ
オステア  代表 アルジュナ 補佐 キュラサイト
パーサ   代表 キニー   補佐 エルフィス
穹廬奴   代表 ゲルニード 補佐 チョルチョ
グリーン  代表 カルラ   補佐 ポートニック
ガルガンダ 代表 ジャンク  補佐 オートム

ラザム   代表 イオナ   補佐 ホルス

の22名と、ムクガイヤ魔術師団の初期から在籍しているゾーマも呼ばれていた。
 ラザムの使徒はムクガイヤの支配下になったわけではなかったが、王都に現れた死霊に対抗するには必要であり、また、この状況で戦うのは好ましくないためニースルーが書状を送っていた。

ニースルー「わかっていることと思いますが、大陸は今死霊が溢れ、未曾有の危機を迎えております。これを速やかに解決するため」
     「まず、ムクガイヤ様の後継者というより、皆の代表を選びたいと思います。」
 ニースルーが集めた趣旨を諸侯に説明していく……。
ソーマ「後継者に関して、ニースルー殿を私は推挙したいと思う。
   「ムクガイヤ魔術師団の結成時からおり、フェリル島での政治活動、人格を考えて妥当な人選かと」
バルバッタ「俺も、ニースルーがいいと思うな」
 ルルニーガにつねられて、ニースルーを押すバルバッタ。
ルルニーガ「ムクガイヤ魔術師団がここまで勢力を拡大したのは一重にニースルー殿の種族を差別しな人柄あってのこと」
 ルルニーガの発言は大きかった、大陸制覇に多大な貢献をしており、武勇に優れ、多種族の信頼も厚いものがあった。
 全員から賛成を得られることはなかったが、反対意見は少ない。
チルク「本人の意志も重要でしょう。ニースルーはその気があるの?」
ニースルー「…………。皆様に異論が無いなら、私が代表をやらせていただきます。」
 沈黙を貫いているものはいたが、多くの賛同者を獲得し、ニースルーが代表に選ばれた……。
ニースルー「早速で申し訳ないのですが、私、ニースルーは代表を辞退したいと思います」
 一同がざわつく、代表になっておいて、いきなり辞めたいと言い出したのだ。
 ふざけるなと声を荒げるものもいたが、ルルニーガの静粛にという言葉で静まり返った……。
ルルニーガ「ニースルー殿、お考えを聞こうか」
ニースルー「私は、死霊の軍勢を討伐するに当たって、代表は武官の方が勤めるべきと思うからです」
 至極、真っ当な主張に異論はおきない
ニースルー「しかし、ながら、死霊が討伐されれば復興が次の課題となり、そして大陸の安寧と発展が私たちに課せられることになります。」
     「我が君、ムクガイヤはレオーム王朝の腐敗を嘆き、よりよい世を作るため、賢人による統治を理想とし立ち上がりました。
      故人を悪くいうわけではありませんが、しかし、彼は領土を拡大すればするほど、傲慢になり、かつて彼が嫌っていた者達となんら変わりない人物になっていました。」
      仮に私が代表を務めても、腐敗していくでしょう。誰がなっても遅かれ速かれそうなります。
      ならば、民衆一人一人に投票を行う権利を与え、代表を決めるべきです。
      皆で代表を選び、代表には任期を定め、例え、政治が間違った方向に行っても、速やかに政権交代が行われるようにするべきなのです。
      今するべき事は、ここにいる皆で投票を行い、一刻も速く大陸の平和を取り戻すため、死霊の軍勢に立ち向かう勇者を決めたいと思います。」
 突然の提案に再びざわつきだす。代表を投票で決めるというのは今まで行われていなかったからである。
 反論は出なかった、まずニースルーが一人の参加者としてではなく、一旦代表になってからの発言というのが大きい、つまり既に代表の言葉として絶対的なものがあるからである。
 さらに言えば、この中で一番発言力を持っているのはルルニーガになる。そのルルニーガがニースルーを推す伏しがあるため、反対意見を言いづらい空気があった。
 また、異種族が多く参加しているのも大きい。
 この場に参加している異種族は、自分たちの種族が今後どう扱われていくのか? そこに関心がある。
 大陸でもっとも繁栄している種族は人間であり、当然、極度の差別意識を持つものが代表になる事は好ましくない、ニースルーの主張は、最悪を回避しやすく、最悪の者が代表になっても任期が過ぎれば希望を得られるからである。
 ニースルーの意向が通り、投票が行われた……。

 大陸の代表となって死霊の軍勢に立ち向かうのはルルニーガが選ばれる……。
 そして、代表となったルルニーガは、リッチートライドを滅ぼし、見事死霊の軍勢を打ち破ったのだった……。


■ラザム裁判

 戦乱が終わり、復興が大陸全土で行われ始めた頃、ニースルーは、ラザムを裁判にかけた……。

 告訴内容は、
 旧・銀の夜明け団の虐殺
 闇の魔法を禁忌と定め、闇の魔法を覚えた者に対する迫害行為
 光の魔法の独占行為
 の3つである。
 ラザム側の言い分として、闇の賢者が魔王を召喚し、戦乱を起こす事を予知した結果、それを阻止するため平和を維持する為に行った行為という主張がなされた。
 しかし、ニースルーは、その予知をして行動をとった事が、当時の闇の賢者がヨネアに闇の魔法を教える事となり、魔王召喚の流れとなったため、戦乱の責任はヨネアではなくラザムにあるとした。

 司法省長官に選出されたサーザイトはこれを認め、ラザムに戦乱の損害賠償を行う事を命じると共に、未来を予知する類の魔法を使用することを禁じた……。
 これにより、ラザムの溜めこんだ資金は戦乱の復興の財源にされる事となる。

 また、闇の魔法を禁忌としている事も、闇の魔法を覚えたからと言って、その者の人権が無くなるわけではないとし、ましてや迫害の理由にはならないとして敗訴となった。
 光の魔法の独占に関しても、ラザムが独占することで、多額の医療費を要求する聖職者を増やす行為とし、敗訴となり独占を禁じた。

 以上により、ラザムは深刻なまでの資金難となり組織を維持できなくなったため解散となる。
 光の魔法は一般の魔法と同様となり、学校でも教わる事が容易となり、医療の発展を一助となった。
 闇の魔法は、禁忌ではなくなったが、悪用される事が多いため、習うには資格が必要と定めれた。

 信仰の自由は認められ、ラザムという組織が無くなっても、ラザムの教えを信じる人は無くならなかった……。

  • イオナ国とかアナザーと同じ系統の、読み応えのある熱い話。面白かった。 -- 名無しさん (2023-10-24 18:38:00)
  • いいねえ -- 名無しさん (2023-12-16 19:20:14)
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最終更新:2023年12月16日 19:20

*1 同じ時代に生まれていれば!