チェンジ・ザ・ワールド☆
華めきたり.8
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華めきたり
【話ノ七】
「あのお、茂兄さま?」
「なんだい? 薫」
にこにこと笑顔の茂に、困った様な顔で笑う。
今朝、屋敷を出ようと準備をしている所へ、珍しく早い時間に起きていた茂と出くわしたのだが、それからこっち、ずっと薫の後を着いて来るのだ。
「いいえ、あの、私、これから銀座へ出かけるの。何か私にご用なら伺いますわ」
「別に用ってほどじゃないんだ。銀座へ出るのなら丁度いい。俺もちょいと銀座に用事があってねえ、一緒に出かけようか」
「茂兄さまの運転で、という事でしたら、お断りしますわ」
「大~丈夫! まかせておいて。安全運転するからさっ!」
言うが早いか、茂は軽い身のこなしで駆けて行ってしまった。こうなってはこれ以上無理に断る事は出来ない。
薫は諦めてため息を吐くと玄関へとゆっくり歩を進めたのだった。
銀座へとやってきた薫と茂の二人。薫は再び困った様子で後ろを着いて歩く兄を振り返る。
「茂兄さま、一体どこまでついていらっしゃるつもりですの?」
「どこまでって、俺が着いてきちゃあいけないのかい? あれ? もしかして逢い引きとか?」
「まあ、逢い引きだなんてとんでもない事を……違います。でも、お友達に会いに行くのですから、茂兄さまには遠慮して頂きたいのです」
「友達? 男友達?」
「もうっ、違います!」
「薫様! 茂様!」
とぼけて笑う茂を睨んだ所で、後ろから声をかけてきた人物へ二人は同時に視線を寄越した。
「喜助……?」
「喜助さん」
そう、やってきたのは喜助だった。
「どうなさったんで? お二人お揃いで銀座へ出かけられるなんて、珍しい事もあるもんですね」
にこやかに会釈をして二人の前に立った喜助に、茂は驚きつつ、直ぐさま薫の様子を確認した。
「違うんですよ、喜助さん。私が出かけるのに、茂兄さまが無理やり着いてきたんです」
動揺している風はなく、ごく自然に薫は喜助に状況を説明する。
この様子では喜助に会いに出たのではなく、本当に友人に会いに来ただけなのだろう。多少がっかりしたが、それでも心のどこかで茂はほっとしていた。
「茂様、いくら薫様の事が心配だからって、着いて来るのはいただけやせんぜ。それじゃあ、オレは玄一郎様に頼まれた仕事があるんで失礼します」
「お疲れ様です」
「ああ」
軽い足取りで去って行った喜助を見送ると、薫は微笑んだ。
「喜助さんって、本当に仕事熱心な方ですわね」
「そうだね、父さんの仕事ってそんなに給金がいいのかねえ。危険な事もあるだろうに」
俺には理解出来ないよ。と吐き捨てると、茂は薫と視線を合わせる。
「お友達とは何時まで一緒にいるんだい? もし、そんなに掛からないなら、俺はちょっとその辺を散歩しているから一緒に帰ろう」
「時間は分からないの。パーラーでお茶を飲みながらお話をする予定だから、遅くなるかもしれないし。兄さまは先にお帰りになって」
「そうかい、じゃあ、薫も気をつけるんだよ。近頃は物騒だからね」
「……はい。あの、茂兄さま?」
「ん? なに?」
「本当に私、女友達と会うだけですから、心配なさらないでくださいな。もし、良い人が出来たら、隠さずにお話ししますから」
困った様な悲しそうな顔で言う麗しい妹の姿に、茂は胸が痛んだ。
面白半分で喜助との事を探るつもりだったのだが、この様子では喜助とは何もなさそうだ。だが、最近妙に仲が良いというのはやはり気になる。
「分かっているよ。嫌な思いをさせてごめんね」
手を振ってパーラーへと消えて行く薫の姿を見届けると。茂はふとため息を吐いた。
「雅の言ったように、父さんに関係する何かを喜助から探ろうとしているのか? でも、薫がそんな事をする理由がなあ……」
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