チェンジ・ザ・ワールド☆

土屋4日目・No.3

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streetpoint

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私のやんごとなき王子様












 フェリーに乗ってからは大道具担当に用意された客室内で荷物の積み忘れ等ないか再びチェックをして、その後はデザイン面での話し合い何かを皆でしていた。

 ……はずだったのに、いつの間にか土屋君がいない。

 土屋君は性格に多大な問題があるけれど、それでも大道具の要の存在。私はチームのみんなに探しに行ってくると告げ、急いで客室を飛び出した。

 一体どこへ行ってしまわれたのよ、あのお方は……!


















「せせせせせんぱ~~い! なにしてるんですかーーーっ」


 土屋君を探し回って歩いていると、甲板の方から聞き覚えのある声がする。あれってもしかして?

 近付いてみると声の主はやっぱり潤君だった。「潤く……」と声をかけようとした次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは――


「きゃあーーーっ! つ、つ、つ、土屋君! 何してるのーーーっ!」


 思わず大きな声が出た。だって土屋君ったら柵を乗り越えて今にも海へと飛び込もうとしているんだもの!


「こっ、小日向先輩~~~っ!」


 私に気づいた潤君が泣きそうな顔でこっちを見てきた。私は慌てて二人の元へと近付いて行く。


「一体どうしたの!?」

「先輩が……、土屋先輩が……。この海の光は素晴らしいから、是非とも体に染み込ませたいとか言いだして」

「はぁ!?」

「僕……本当にどうしたらいいか……」


 潤君は完全に涙目だ。土屋~~~っ。思わず心の中で呼び捨てにした。


「潤君、私がなんとか話してみるから、潤君は先生を呼んで来てもらえる?」


 私がそう言うと、心底困っていたであろう潤君の顔がパアッと明るくなった。


「はいっ! 真壁先生を呼んできます!」


 そう元気に返事をし、潤君はパタパタと駆けて行った。……さて。


「土屋君、どういうつもりなの?」

「どういうつもりも何も。君の方こそどういうつもりだい? こんな美しい海を、それに反射する光を見ても何も感じないのかい?」

「感じるわ、綺麗だと思うわよ。でもだからってそれが何で飛び込みに繋がるワケ?」


 私が少しイライラしながらそう言うと、土屋君は実に愉快そうに笑い始めた。


「あっははは! 面白い事を言うね、君は。そんなの当たり前じゃないか。体に染み込んだ感覚というのは一生消えないんだよ? だから僕は飛び込むのさ。そうしてこの光を体いっぱいに受け止められれば、それは僕の脳に記憶として結びつき、それはやがてこの腕に力を与えるのさ! 素晴らしい水面を描く力にね!」

「……土屋君、あのね。一歩間違えれば命を落とすのよ? 分かってるの?」

「命? 芸術を探究した結果落とす命ならば惜しくはないね!」

「土屋君!」


 そんなやりとりをしていると、遠くの方から潤君の「先生、こっちです!」という声が聞こえた。良かった、真壁先生見つかったんだ。


「おい、土屋! お前何やってんだ!? 水中大脱出でもやる気か、バカ!! 危ないだろうが!」


 もの凄い勢いで走って来ながら言ってる真壁先生の言葉が変だ。土屋君の状態を見てきっと動転してるんだろうな。なんて事を考えていると、土屋君が深いため息を吐いた。それはもう、深いため息を。


「はあ……全く、君達には呆れるよ。芸術というのはね、五感を常に多方向に向けていなければいけないんだ。僕のやろうとしている事が危ない? それこそ危険な考えだよ! 今その時にやりたいと感じた事をやらなければ、二度とその感覚を味わう事は出来ないんだ。僕は今、この海の光を体中で感じたいんだ。だから邪魔をしないでくれ!」

「お前のその芸術に対する考え方はすごいと思うぞ! だけどな、絶対に危険だと分かっている事を目の前にして、それを黙って見過ごすなんて出来る訳ないだろ?!」


 真壁先生はそう言って真剣な顔で怒った。


「そうですよ、危ないですよ、土屋先輩!」


 潤君も本当に不安げな表情だ。だけど土屋君はそんな事おかまい無しに続けた。


「僕が自分の意志でそうしたいんだ、僕の意志を邪魔する権利が君達にあるのかい? もし今この瞬間を逃したら、この感覚は二度と味わえないんだ、それを君達が再び味わえると保証でもしてくれるのかい?!」

「そんな事を言ってるんじゃない! お前を心配してるんだ!」

「ははっ! それこそ大きなお世話ですよ、先生」


 プチン……

 その瞬間、私の何かが切れた。


「大きなお世話で結構っっっ!!!」


 私が急に大声を出したものだから、先生と潤君が驚いてこちらを振り向いた。

 私はというと、半分無意識のうちに肩を怒らせ、ずんずんと土屋君に近づいてまた声を荒げていた。


「自分の勝手で海に飛び込みたいって土屋君が言うんだったら、私も自分の勝手で土屋君を飛び込ませたりしない!」


 そして自分でも信じられない位の力で、惚けた顔の土屋君の腕をがっしりと掴んだ。


「――で、でかした! 小日向!」

「先輩さすがですっ!」


 真壁先生と潤君は漸く我に返り、急いで私に続いて土屋君を取り押さえた。














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