チェンジ・ザ・ワールド☆

act.2(明月院)

最終更新:

streetpoint

- view
管理者のみ編集可
就職難民 黙って俺についてこい!










 あれから社長と会社のロビーで別れ、私は単身音楽制作部へと乗り込んだ。

 ドアをノックする。


 しばらく待ったけど返事はない。

 もう一度ノックする。


 ガチャリ


 と、ドアなんだけどいかにも『不機嫌!』って感じに開いて、中からこれまた不機嫌な顔の明月院さんが現れた。


「あ、あの。こちらの部署でお手伝いをさせていただく事にしました。よろしくお願いします」


 少し緊張気味にそう言うと、明月院さんは小さくため息を吐いた。


「入って」

「はい、失礼します……」


 君みたいな役に立ちそうもない人間はいらないから、帰って。

 とか言われるんじゃないかと思ったけど、いきなり追い返されはしなかった。良かった……のかな?

 取りあえず明月院さんに付いて室内に入ると、机の上からA4サイズのクリアファイルを渡された。


「今日の会議の資料。社長に渡すようにさっき言われたから、目を通しておいて」

「分かりました」


 書類を渡してそれだけ言うと、明月院さんは私を無視してパソコンで何やら作業を始めてしまった。

 ―――会議って何時からなの? っていうか、この人必要最低限の事以外話さないのかしら。 

 考えても仕方ない。私は部屋の隅に置いてあるソファーに座り、受け取った書類を出して内容をしっかりと頭に叩き込む作業に没頭する事にした。

 音楽のことなんて分からないけど、それでも魅力的な仕事だと思ったんだもの。CM音楽についても勉強しなきゃ!







 どれくらい時間が経ったか、ふと目の前に影が出来て顔を上げる。


「あ、もしかして会議の時間ですか?」


 明月院さんが無言で立っていて、じっと私を見下ろしていた。

 無表情なのにやっぱり凄く綺麗。

 私の質問に小さく頷くと、さっさと部屋を出て行く。


「あっ! 待って下さい!」

「うるさい。大きな声を出すな」


 ピタリとドアの所で足を止め、私は明月院さんに怒られた。そんな大きな声出してないと思うけど……


「君は音楽に関して素人なんだろ? なのにどうして?」


 エレベーターに乗った所で今度は質問された。


「どうしてって……全国の人が見るCM曲を作るなんて、すごく素敵なお仕事だと思って。CMって内容だけじゃなくて、音楽もすごく大事だと思ったんです」

「―――俺はこんな仕事大っ嫌いだ」

「え?」


 私に、というより、明月院さんは空中に向かってそう吐き捨てた。

 大嫌い? どうして?


 疑問は出て来たけど、聞けなかった。だって、嫌いだと言った明月院さんの顔がすごく辛そうだったから。

 何か理由があるのかも知れない。

 でも、私がそれを聞くべきじゃない。

 エレベーターが止まり、会議室へと入るとたくさんの人たちが集まっていた。

 席に座ると、明月院さんが口を開いた。 


「社長が、新製品がヒットするまで俺の仕事を手伝うようにって」

「分かりました」


 ということは、新製品をヒットさせられなかったら私は自動的にこの会社でお掃除の仕事―――いや、丁稚奉公―――。


「君みたいな素人には何も期待していない。俺の邪魔だけはしないでくれ」

「最初から邪魔をするつもりで選ばせてもらってません。確かに失敗してご迷惑かけることはあるかと思いますけど、自分なりに明月院さんのお役に立てるように一生懸命やりたいんです。集中できないとおっしゃるなら、私は別の部屋を借りてお仕事をしますし、頼まれればどこにでも行きます」


 これが私の本心。だってそうでしょ? 邪魔する事が前提で仕事を選ぶなんて、産業スパイじゃあるまいし、あるわけない! それに私はこれでも本気なの! ここで新製品を大ヒットさせないと、一生社長にこき使われる事が決定してるんだから!!

 じっと睨むように明月院の目を見つめていると、ふと、ほんの一瞬だけど笑った―――

 笑った!?


「まあ、いいよ。やらなきゃいけないことはまだたくさんあるし、君でも出来る仕事も何かあるかも知れないし。ちょっと考えてみる」

「―――あっ、ありがとうございます!」

「だから、大きい声だけはださないで」

「すみません……」


 でも良かった! なんか明月院さんって割れたガラスで誰彼構わず斬りつけちゃうのかと思ってたけど、案外人間らしいかも。

 ようし、頑張るぞ!!







次へ → act.3(明月院)




お帰りの際は、窓を閉じてくださいv
お話はこちらに戻る
人気記事ランキング
目安箱バナー