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 早いものだ。  あんたがいなくなってから、もう一年が経つ。  息が白く色づいた。  流石は山奥。ふもとの町の寒さとは全く違う。  昨日積もった雪が足を何度も掴む。あんたの墓石にたどり着くまで負けてたまるものか。雪なんかに負けてたまるものか。  自分がとても馬鹿馬鹿しく思えた。  墓石といっても裏庭にあるのだ。漬物石を乗せただけの墓。十分な墓を作ってやれなかった自分に嫌気がする。  そうだ、自分をあざ笑ってやろう。声を上げて。自分が自分を嫌いになるまで。  大きくため息をつく。このため息に、どんな思いが込められていたのか。自分でもわからない。   「コート着るだけじゃ厳しい……な」  根性も寒さにはかなわない、という事か。そう思ったときだった。  ぽつり。  鼻に何かが落ちた。とても冷たい。  視界にとても小さな白いものが映る。 「……どおりで寒いわけ、か」  なるほどと、見た瞬間納得できた。  雪だ。  つい、天を見上げてしまう。  昇ったばかりの太陽の日差しが、粉雪に反射している。  輝いていた。ものすごく綺麗だ。  もしかすると、あんたからのおくりものだろうか。  ふとよぎる、愚かな願い。  そうだとしたら、永遠に降り続いていてほしい。  そうひそかに、思ってみた。  自然と足が止まる。  口のない墓石。  もし、墓石に口があったなら。  枯れた花束。  決してあんたを、忘れていたわけじゃない。  心の状態を表しているかのように眼は潤みだす。  雪が舞う中、墓石の前で俺は静かに手を合わせた。   [[TOP]]  [[中編TOP>中編]]  >>
 早いものだ。  あんたがいなくなってから、もう一年が経つ。  息が白く色づいた。  流石は山奥。ふもとの町の寒さとは全く違う。  昨日積もった雪が足を何度も掴む。あんたの墓石にたどり着くまで負けてたまるものか。雪なんかに負けてたまるものか。  自分がとても馬鹿馬鹿しく思えた。  墓石といっても裏庭にあるのだ。漬物石を乗せただけの墓。十分な墓を作ってやれなかった自分に嫌気がする。  そうだ、自分をあざ笑ってやろう。声を上げて。自分が自分を嫌いになるまで。  大きくため息をつく。このため息に、どんな思いが込められていたのか。自分でもわからない。   「コート着るだけじゃ厳しい……な」  根性も寒さにはかなわない、という事か。そう思ったときだった。  ぽつり。  鼻に何かが落ちた。とても冷たい。  視界にとても小さな白いものが映る。 「……どおりで寒いわけ、か」  なるほどと、見た瞬間納得できた。  雪だ。  つい、天を見上げてしまう。  昇ったばかりの太陽の日差しが、粉雪に反射している。  輝いていた。ものすごく綺麗だ。  もしかすると、あんたからのおくりものだろうか。  ふとよぎる、愚かな願い。  そうだとしたら、永遠に降り続いていてほしい。  そうひそかに、思ってみた。  自然と足が止まる。  口のない墓石。  もし、墓石に口があったなら。  枯れた花束。  決してあんたを、忘れていたわけじゃない。  心の状態を表しているかのように眼は潤みだす。  雪が舞う中、墓石の前で俺は静かに手を合わせた。   [[TOP]]  [[中編TOP>中編]]  [[>>>日記帳]]

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