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ミョーギコは辺りをゆっくりと見回した。
三方を囲んでいる壁の高さはミョーギコの三倍ほど・・・飛び越えることなど無理だ。
そうしているうちにもアヒャ族の男はミョーギコに一歩一歩近づいてくる。
「……」
黙々とミョーギコは男をにらみつけた。そして、後ろの壁に片足をつけ男にばれない様に狙いを定め……。

「うらあぁ!!」
男はミョーギコの頭目掛けて飛び掛る。
同時にミョーギコは壁につけた足に全身の力を注ぎ、壁を蹴る。
男の下をそのまま潜り抜け、男の後ろへと回る。そして伸びる耳で男を地面に打ち付けた。
男はそのまま――かと思われたが、男も負けちゃあいない。
ミョーギコの攻撃を紙一重でかわしたようだった。
「ミョッ!?」
驚いている隙を突いて男は拳をミョーギコにぶつけた。
ガンっと響く音と同時にミョーギコは倒れた。

しかし、意識が飛ぶことはなかった。ただ単に倒れただけである。
ミョーギコは耳を伸ばし、体を起き上がらせる。そして敵の位置を確認しようとするが、不思議なことにその敵がいなかった。
後ろを振り向いてみるも男の姿は無く、あるのは自分と自分の影だけ。 

ミョーギコはほっと一息ついてこの場所から抜け出ようとするが、上から何か大きなものが落ちてきた。
それはあの男だった。
背中に大きな傷が走っていた。血の気も失せている。
「……」
ミョーギコは目線を前に向けた。
目の前には、アヒャ族の男とは別の男、フーン族の男が立っていた。
その男は、アヒャ族の男が持っていたものよりも大きめの血のついたナイフを手に握り締めていた。
血はアヒャ族の男のものだろう。
「いやぁ、あぶない、あぶない。もう少しで大金をもって行かれるとこだったぜ」
フーン族の男はいやらしい笑みをうかべた。
どうやら、ミョーギコが危険な状況であることに変わりはないようだ。

「ミョ……」
 ミョーギコはじりじりと後ろに追い詰められていた。一歩、一歩、と。一方のフーンは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「心配すんなって。すぐに終わらせてやるからよ……」
 ミョーギコの足が壁についた。もう、逃げ道はどこにも無い。
 ミョーギコは顔を下に向ける。
「ミョー」
 ホシュ、と音がして耳がフーンに向かって飛んでいった。ただ速度が恐ろしく遅かったため、後ろの通行人に刺さってしまった。その耳はブーメランのようにもとの場所に戻ってきた。
「ミョーン」
 そういいながら顔を上げる。おそらく通行人にこのことを気づかせようとしたのだろう。だが、今は夜。街の明かりは妙な光を発するネオンのみ。目をこらさない限り、この細道を見つけることは不可能だ。
 ミョーギコに冷たい何かが当てられる。言わずともそれはいやらしく光るナイフで……。
「助けをよぼうたって無駄だ。今の世の中お前の味方は一人もいねえ」
 男は不気味に笑った。その表情に情けなんてものは何処にもなかった。ただあるのは狂い、のみ。ああ、向こう側でドタドタと走る音が聞こえる。ココだよ、ココだよ……。気がついてよ。タスケテヨ。
「おい」
 ミョーギコは伏せていた顔を上げる。なぜか世界が歪んでいる。初めての、感覚にミョーギコは戸惑った。殺される寸前になってとうとう神経がいかれてしまったのだろうか。耳から入ってくる情報は今のミョーギコには理解する事が出来なかった。
「最後に言い残す事はないか? それくらいなら言わせてやる――て、言ってもお前は『ミョー』としか離せないもんな! ほら、言ってみろよ、ミョーって!」
 ミョーギコには男の声は聞こえなかった。ただ聞こえていたのはすぐ近くで走り回る足音のみ。そしてその足音はこちらに向かってきて……――!
「オラアァァアアア!!」
 聞き覚えのある声。それは間違いなくこちらに向かってきている。
「変人制裁!」
 男の後方に見えたモナーの姿。
 そして数秒もたたない内に聞こえてきた何かが壊れたような鈍い音。
――隣には男がいた。
 白目をむいてぐったりしている。


「いやぁ、モララーの言うとおり、やってみるものモナね」
 モナーはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
 それもそのはず。大の男をたった一人で、しかもたった一発のパンチで飛ばしてしまったのだから。
 一人で勝手に猛スピードで走っているモナーだから、僕はそれなりの体力があると思っていた。だから僕はモナーに言ったんだ。「あいつの先にミョーギコがいる」って。あいつというのがまさしくこの男。暗闇の中、かすかに見えた男の先にミョーギコがいるような気がしたんだ。正直、根拠はない。もし、外れたとしても僕はすぐに助けを呼べる体制をとっていた。でも、まさか。望んでいた事なのに……。ああ、一体なんだろう、現実離れしたこの状況は。
「どうしたモナ?」
 僕は目を瞑った。……いや、やはり現実離れなんてしていない。モナー、君は無理をしているんだ。あんな物凄い力、普段は大脳が整備しているから出せる筈がないんだ。仮に出せたとしてもそれは大脳が死んでいる。仮に大脳が生きていたとしても負担が物凄いんだ。なのに、君からは痛さを感じない。どうしてだ。

 目を開ける。むろん、僕の目に真っ先に飛び込んできたのは闇だった。
「モララー?」
「……大丈夫だよ」
 やっとピントが合ってきた。細道の奥に何か動めいている。
――ミョーギコだ!
「モナー、あそこにミョーギコが居る! やっぱり僕の読みは当たっていたんだ!」
 僕はモナーの手を引いてそこに行こうとしたが、モナーは動かなかった。
「な、なんか体がだるいモナ……アハハ」
 そういうとモナーは地面に座り込んだ。熱がある。しかもかなり熱い。僕はミョーギコの方を見た。ミョーギコには特に大きな外傷はないようだ。首に薄く傷があるくらいだろうか。闇になれた僕の目はそれを確認すると、周りを見渡し、変なヤツがいない事を確かめた。ごめんね、ミョーギコ。もうちょっとそこで待ってて。
「モナー……、僕の背中に乗って」
「……ぇ・・・。でも……モナ……けっこう・・・重い・・・モナよ」
「いいから。乗って」
「……うん」
 足に満身の力を込めて立ち上がる。しかし、ようやく立ち上がれてもかなりフラフラだった。これじゃあまともに歩けるかどうかも分からない。
 一歩一歩、確実に踏み出す。あの細い路地に。
「ミョーギコ……?」
 薄暗闇の中、青い三角形のものがピクリと動いた。よかった、やっぱり無事だったようだ。僕はミョーギコに近寄った。倒れていた男を踏みつけぬように。
「ミョー……」
 ミョーギコはゆっくり立ち上がった。でもさっきとは違って弱弱しく。
 ああ、ミョーギコ。ごめんね。僕が勝手に居なくなったから。
 僕のせいでミョーギコとモナーが……ごめんね。
「ミョー・・・?」
 ポタリ。何かが落ちた。暗闇のせいでそれが何なのか、分からなかった。
 汗なのか、血なのか、それとも――。
「ごめんね、本当にごめんね」
 僕は自分の口を塞ぐ事ができなかった。


 ああ、なんて僕は情けないヤツなんだろう。
 僕は無力だ。
 友達を傷つけてばかりいる、馬鹿だ。
 大馬鹿者だ。
「も、モララー、どうかしたモナ?」
モナーが驚くのも無理はなかった。
僕の頬に冷たいものが滑り落ちていたからだ。
「ごめんね…ごめん…ね」
僕はただ同じ言葉を繰り返していた。
視界がぼやけていることにさえ気付かずに。
「ミョー」
ミョーギコが小さな声で鳴いた。
その声はまるで、僕を慰めているかのようだった。
僕はやっと自分が泣いていることに気付いた。
「モララー、やっぱりおろしてほしいモナ」
耳元で言われたモナーの声に涙を拭って答えた。
「いや、大丈夫だよ。本当にごめんね」
声がまだ震えている。
「と、とりあえずこの場から立ち去ろう」
深呼吸して続ける。
「いつまでもいたら、ミョ-ギコの首を狙ってくる奴がまた来るかもしれないからな」





三人は静寂に包まれたフェボンタウンの通りをあてもなくさまよっていた。
いつも、なにげなく動かしている自分の体でさえ重りのように重く感じる。
三人は町のはずれの丘にたどり着いた。



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 かみんぐすーん。