- 涯にいたる夢 - [夕陽 淡]

夕陽さんが入室しました
夕陽 : –––––––––数日前
夕陽 : はあ、もう夜……。
夕陽 : … ……。
夕陽 : (今日は疲れきったので、この喫茶の地下室に泊まろう。
夕陽 : (そう思い、空いているベッドに潜り込む。
夕陽 : (レウカ事件のあとは、抗魔金属の回収と整理に追われている。
夕陽 : (キアシスは一枚岩ではない。何を考えているかわからない連中に気づかれないように、
夕陽 : (隠密に埋却できる場所を探し当て、許可を取り、埋めることはひどく神経がすり減り、骨の折れる仕事だ。
夕陽 : はあ、七夕か……。
夕陽 : (気がつけばまた一年が過ぎている。ここ数年で自分の立場は大きく変わった。
夕陽 : (名前のない使い捨ての兵士から英雄へ。街を歩けば、期待と羨望の声。
夕陽 : (そして、たまに自分に向かって放り投げられる嫉妬と悪意。
夕陽 : (だが自分がそんな価値のある優れた人間だとは到底思えないのに。
夕陽 : …………。
夕陽 : ……ふわあ……、眠い……。
夕陽 : (なぜだか、昔のことを思い出す。
夕陽 : (「今日は街に繰り出して、たくさんお洋服買おうね。夕陽。」
夕陽 : (街へと向かう馬車は魔物に襲われ、父と母もろとも灰になったのは、その日。
夕陽 : (あれは5歳の頃。今では、父と母の顔もおぼろげになってきた。
夕陽 : (「君たち孤児だが、素晴らしい適合値を持っている。キアシスの平和を守るために、特別に選ばれた戦士だ。誇りに思ってくれ。」
夕陽 : (「学校もいかず毎日毎日戦闘訓練、戦闘訓練。それなのにちっとも実践がきやしないのに、オカしな話だよね。」
夕陽 : (「ただの戦闘用の機械が一端の感情を出すか?モルモットが…。」
夕陽 : (「訓練生同士の負傷は事故だ。慈悲をかけるな。涙を流すな。戦闘者には必要ない。」
夕陽 : –––––––疲れていると、嫌なことばかり思い出す。(目を閉じる
夕陽 : (そして、ゆっくりと意識は薄れていく。
夕陽 : (………………………………………………
夕陽 : (… ……、   …… … 、  。
淡さんが入室しました
 : はじめまして。淡っていう名前だよ。小さな島に住んでいた。人間は妹と二人だけだったな。
 : 広い世界を見てくるって息巻いたけど、それだけじゃ食べていけないからね。傭兵になることにしたんだ。
 : 魔法…?わかんない。でも、これ古代魔法っていうんだって。ぼくは速度だけを書き換えることができる。
夕陽 : (夢のなかで久々に見る顔。聞く声。
夕陽 : (彼は、どことなくキアシスの人間と雰囲気が違っていた。話し方やイントネーションも。穏やかさも。
夕陽 : (––––––––––場面が移る
 : 第二次抗魔戦争……。ついに来た実戦がこんな規模なのは不安だけど、
 : 夕陽がそばにいてくれるなら百人力だね。
夕陽 : (……………場面が切り替わる。
 : これは吊り橋効果ってやつなのかな。でも、こんなに綺麗なのは、ぼくの故郷の島の風景と、だと思う。だから、その……。ぼくと付き…
夕陽 : いいよ、ずっと淡以外誰も私のこと、人間として見てなかったから、……。
夕陽 : 淡のおかげで自分が人間だって知れた、変なやつだけど。(ふふっと笑う
 : いつかぼくの生まれた島を案内するよ。人なんていないけど、ぼくの生まれた島を見せたいんだ。何もないけど、悪いやつもいないから。
 : そこでその……、(声が小さくなって口ごもる)。
 : 指輪とか…………渡そうかな…………(ほとんど聞こえない音量。
夕陽 : (……………場面が切り替わる。
夕陽 : (……………巨大な機甲兵が無数にキアシスに迫る足音がする。そしておびただしい数の銃弾の雨が降っている。
夕陽 : (……………崩れた街の暗がりに、横たわる少年の手を握る少女の影。
夕陽 : (横たわる淡の手を必死で握る
 : (右胸に大きな穴が空き、口から血を流している)
 : ………………、。(ヒュー、ヒューという呼気が口から漏れる
 : ごめん、生まれた島……、見せれなかったや……。
 : 最後に……。こんなプレゼントしかできないけど……。(淡の手から光がつたい、夕陽を覆う
 : ばいばい、夕陽…。ぼくのことは忘れてね、……
 : 夕陽を人間として見てくれる人を見つけて、
 : おばあちゃんに……なってね………、、(         
夕陽 : (そこから先の記憶は、もうない。
夕陽 : (無我夢中で、新たに覚えた能力を行使し、次に気づいたときは自分はキアシスを救ったことになっていた。
夕陽 : (自分がなにやら表彰され、賞賛されている時、南国から来た青年は、他の者たちもろとも、一緒くたに土の中に投げ込まれた。
夕陽 : (そこから先は、環境は大きく変わったが……変わりすぎてしまった。
夕陽 : (気持ちもなにもない興味本位の賞賛。
夕陽 : (気の合う人間もいない。配属された先では、仕事せずに婚活しかしないクソ上司、やけにおどおどした女、気はいいけど全く本心をみせようとしない幻獣種。
夕陽 : (街に出たら、めんどくさい対応。
夕陽 : (こんな能力のせいで……、と思ってしまいそうな自分の気持ちを押しとどめようとする。
夕陽 : (… ……、   …… … 、  。
夕陽 : ––––はぁ。古い夢を見てしまった。
夕陽 : (最低限の身支度を済ませて、帰ろうとする。
夕陽 : (喫茶の入り口に来た時に、笹が目に入る。
夕陽 : むかつくから殴り書いてやろう。
夕陽 : 「恋人ができますように 夕陽」
夕陽 : (いくつか他の短冊も目に入る。
夕陽 : 「親方と意味不明女がこれからも何となくいい感じ (名前は書かれていない)」
夕陽 : 「バリバリィ! へるつ」
夕陽 : 「おいしいものたくさん食べられますように ルウナ」
夕陽 : 「全世界がラブに包まれますように ヴァール=ハイト」
夕陽 : 「チームみんな仲良く元気で。大規模な戦いに巻き込まれませんように ミヅハ」
夕陽 : 「ヘルツさんとこが繁盛しますように。お兄ちゃんが見つかりますように 金星ぼたん」
夕陽 : (……………金星、という名前に目が止まる。あの南国の青年と同じ名字だ。
夕陽 : ……まさか、。
夕陽 : ––––––––––––––––––––
夕陽 : ……まさか、ね。
夕陽 : (そして喫茶を出る。今日も抗魔金属の整理が待っている。
夕陽 : (それから数日後、あることが起こった。
夕陽 : (そして、夕陽はこう思うのだった。
夕陽 : (「また抗魔金属か、。」
夕陽さんが退室しました
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最終更新:2018年07月15日 22:39