魔王陛下


不毛の山脈から更に北上した白銀色の雪原、埋もれるように存在する古びた城。
古城の建立と同時に構えられて以来、幾人もの君主を頂き
そして時を経て打ち捨てられたと思しき玉座。
高く据えられたそれを踏みつけにするように座し、王の間から広間と雪原を
睥睨するかのように泰然と佇む存在。
放棄され時が過ぎ去った今になって、かつてその椅子に座したどんなものよりも
高等な存在を迎え入れる事になったのは、皮肉な事だった。

玉座の下、王の間の奥、悪魔のひしめく広間の前。そこで二人の高位の悪魔は口論を繰り広げる。
ムナード「ここは雪原の原住民どもを根絶やしにして、万全を期するべきかと」
パルスザン「まず厄介な竜乗り達を一気に滅するべきでしょう」
先程から二体の悪魔による舌戦は平行線を辿るばかりで、一向に進展を見せない。
パルスザン「逃げ回るばかりの鼠を延々と追いかけても何の益も無いでしょう」
ムナード「その鼠の為に、防衛戦力を割き続けるなど愚かにも程がある」
二体の悪魔の間に、冷たい空気が走る。
ムナード「見るに、王国の人間どもは血族同士の骨肉の争いに執心している様子」
ムナード「捨て置き勝手に自滅を待つのが得策」
パルスザン「ルーゼル様は一刻も早いムクガイヤの処刑を臨んでおいでです」
一方は侮蔑するかのように、一方はうんざりしたように互いを睨む。
パルスザン(何を意地になってるいるんだ、コイツは)
ムナード(いちいち魔王陛下をかさに着て卑小な男)

一向に進展の見えない無益な作戦会議はなお続く。
既に半刻が過ぎ去り、巡回と称して不参加を決め込んでいた
他の高位悪魔達も王の間の様子を伺う。
ショハード「うへえ、まだ終わってねえのかよ兄貴」
フーリン「ルーゼル様の御前だ、控えろよ」
ショハード「あ!?んだと!」
将校達の対立に、どよめき浮き足立つ悪魔達。
ルーゼル「黙れ」
しかしそれも、深淵から響き渡るような声色によって一瞬で静まりかえる。
先程まで無関心に見下ろしたまま沈黙を保っていた存在が、口を開いたのだ。
瞬間、悪魔達は寒気に凍りついたかのようにピシリと硬直し
慌てふためくような、怯えたような冷たく緊張した空気が広間を支配する。
ルーゼル「俺の命令は変わらん」
ルーゼル「鏖だ」
ルーゼル「この地における不快な生き物は皆殺しだ」
ルーゼル「例外は無い」

その言葉に、各々は唖然としたかのようで、ある者は閃きを受けたかのようで
ある者は朗報を受けたかのようで、反応は様々だった。
二人の高位悪魔は口角を吊り上げ喜びを隠さない。
ショハード「ヒャハッ、虐殺!最高!」
フーリン「きっと激戦になるな、楽しみだ」

パルスザン(この徹底的なまでの害意、感嘆とさせられますね)
ムナード(どこまでも苛烈。悪魔美学というものを心得てらっしゃる)
玉座の下、二体の悪魔は玉座に向き直り、各々のやり方で一礼する。
パルスザン「畏まりました、ルーゼル様」
ムナード「御意の侭に、魔王陛下」



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最終更新:2011年01月18日 20:24