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文房具最終話

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datui

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文房具マスター画鋲(完結編)


ふと、光が差し込んだ。ほんのその一瞬の間に、画鋲の目の前の光景はがらりと変わってしまっていた。
今まで一緒に居た、理科のノートはもちろんいる。だが、場所が違うのだ。すぐ近くには……ケンちゃんの亡骸。
そしてその周りには、互いに殺し合えと命じられ、散り散りとなっていた文房具たちが集っていたのだ。。
だが、かれらもまたきょとんとしている。彼らもまた、自分達がなぜこの場に集ったのか、理解出来ていないのだろう。
「……あ、あの……これは一体、どうなっているんですか?」
「分かるものか! ……ありえない……こんな一瞬で、また全員が集うなんて!」
ノートは何やら焦っていたようだ。彼女の計画にまるでないこの状況が、そうさせているのだろう。

「――久しぶりだな、君達――実に2ヶ月以上ぶりといった所かな?」

その時だった。ほんの数時間前、どこかから聞こえてきた声が……感電の神の声が、響き渡る。
その反応は様々だ。ある者は怯え、ある者は怒号を発した。ただ……2ヶ月も経ってないだろうとは誰もが思ったが。
「いやいや、まさかこれほど長きに渡って戦いが続くとは思わなかった。そこで君達には、すぐにでも決着を着けて貰おうとね。
 さすがにスタンドやら道具やらを使われたら長引きそうだから、その辺は全部没収させて貰った。
 あと、まだ登場していないキャラもいる位だし、ハンデにならないようロワ中のケガは全快させておいた。
 死んだ奴はさすがに生き返らせられないが、まあ蒼い子もヒナもダメだった訳だし。最後くらいガチバトルで頼む」
感電の神は咳払いした後、この場の全ての文房具達を殺気立たせるような事を言い放つ。
「ここまでに死んだのは、僅か5名……多くの予約も消えて行った。そして、実に2ヶ月以上もレスが無かった……
 その間にも新たなロワは次々と芽生え、最近はこのしたらばにも書き手ロワが……おっと、おしゃべりが過ぎたな」
感電の神は更に激しく咳払いした後、急に語気を強め始めた。
「とにかく、君達の大事なケンちゃんを蘇らせるには、戦え! 今すぐに!
 最後の一人が誕生すれば、その時はケンちゃんを生き返らせてあげよう!
 さあ、早く戦え! 現実時間だったらとっくにケンちゃんは白骨化している所なんだぞ! さあ!」
その言葉を最後に、感電の神からの声が聞こえる事は無かった。
……決して、たった今から始まった殺し合いに、声が掻き消された訳ではなく。

【場所:ケンちゃんの傍】
【生存する全ての文房具は全快し、武器・スタンド等の特殊能力は没収されました】

彼らの戦いは惨烈を極めた。もはや、文房具としての死が繰り広げられるばかりなのだ。

シャープペンシルの芯が、はさみによって木っ端微塵に斬り砕かれる。
それを見て号泣しているシャープペンシルの口に修正ペンがその液を流し込み、使い物にならなくして窒息死させる。
テープを定規に叩ききられて死んだ修正テープ。コンパスに突き刺され、ひびが入った所を雲形定規に叩き割られた下敷き。
そのコンパスと雲形定規も互いに殺し合いを始め、生き残ったのは、先端が欠けた雲形定規を刺し続けるコンパスだった。
三色ボールペンに突き飛ばされ、蓋が外れて中身をぶちまけて逝った万年筆のインク。
相方の死も知らず分度器を塗り潰し殺した万年筆も、やがてインクが切れて果てた。
三色ボールペンと四色ボールペンが、互いに体をぶつけ合い続ける。
緑色を持つ自分の方が、赤青黒の三色しかない三食ボールペンより優れると笑った四色ボールペンは、しかし液漏れで自滅した。
戦いに勝った三食ボールペンも、次に単色だと見下していたボールペンから突き刺され、同じように液漏れを起こして死んだ。
毛先にボンドをつけられ、当然死の転帰をとった毛筆。しかしその木工ボンドも、穴あけパンチに穴を空けられボンドが溢れて逝った。
そのボンドの遺体目掛け投げ付けられ、蓋を開けたまま突っ込んだ朱も死んだ。
それを見て笑っていたねりけしは、隠れ潜んでいた色鉛筆に消しゴムのカスを混ぜられ、ねりけしとしての粘度を保てず果てる。消しゴムのカスも同じ事だった。
色鉛筆の芯を体に詰められた鉛筆削りも逝った。今まで自分達を磨いてくれた鉛筆削りを殺した事に怒った鉛筆は、色鉛筆の脆い芯を内部から叩き折る。
自分に芯は無いから関係無いと笑ったクーピーは、重量のある算盤に潰されバラバラにされた。
だがその算盤も完全無欠ではない。ケンちゃんの使用は荒く、ツマミの部分に脆くなった場所があったのだ。
体格ではいい勝負の筆箱は、迷わずそこに体当たりをした。たった一つのツマミが弾けただけだが、算盤は文具としての命を終えた。
全ての文具たちの母艦でもあった筆箱は、しかしこのバトルロワイアルでは格好の的だった。
小回りが利くマジックペンやクレヨンが、もう二度と取れないであろうラクガキをあちこちに行い、汚していく。
ついに使うに耐えない程よごされ……文具として使い物にならなくなりかけた筆箱はしかし、マジックペンのキャップを弾いた。
これまでの執拗な攻撃が祟り、やがてマジックペンが先端をこすりつけても何もつかなくなった。
その瞬間が彼の死であり、それに焦ったクレヨンもまた、筆箱の重量に叩き折られて死んだ。
そして……その筆箱も死んだ。最後に塗り潰して殺したのは、今まで隠れていたクレパスだったが。
消しゴムの体を定規が両断する。しかしその直後、今度は定規の体を穴あけパンチが真ん中から砕いた。
二度目の対決で今度は判子を全て塗り潰し殺した修正ペンは更に三角定規の文字も塗り潰し死に追いやった。
しかしそこで液が切れ、修正ペンもまた死んだ。液体系文具達が長期戦に弱い事は、これで理解して頂けた事だろう。

たったこれだけのレス……もとい時間で、仲間だった大勢の文房具達の残骸が積み重ねられていく。
それを画鋲は、ただ泣き叫んで目を逸らそうとする事しか出来ない。
しかし、その横のノートは違った。彼は嬉々として戦いの状況を記録し続けていく。
「は、はは……素晴らしい! おおっ、穴あけパンチを斬ろうとしたはさみが逆に関節が外れて死んだ!
 安物なのに、無理をしようとするから……ははは! 考えたな鉛筆! 死んだ木工ボンドの体液を穴あけパンチの関節に流して殺すとは!」
「もうやめてよ! 何で戦うの!? 何で殺すの!?」
冷静なノートの言葉が、戦いを続ける仲間達の姿が耐え切れず、ついに画鋲は涙を溢れさせた。
「……何を泣く必要があるの? 使われる事も少ないくせに、やたらケンちゃんを見てたあなたが」
そんな画鋲の前に現れたのは……ホッチキスだった。
それを見るや、ノートは血相を変えて引き下がる。彼女は分かっていたのだ。文房具の力関係。ホッチキスとノート、どちらが勝つか……
「い……嫌ぁぁぁぁ! 私はただ、全てを記録したくて……」
「黙りな! んな物、二度と開けなくしてやんよ!」
バチン! バチン! 爆音と共にノートは全身をホッチキスに止められ、身動きすら取れなくなった。
芯さえ外せば、辛うじて使える……そんな虫の息状態で生きていたノートだったが、そこに現れたボールペンが止めを刺す。
「はは! いいざまだね、ノート……ケンちゃんを生き返らせるのは私だ! あんたは国語にでもなってろ!」
体を横にずらす事すら出来ず、ボールペンはノートの理科と書かれた部分は何度も何度も塗り潰した。
消しゴムで消せない。修正ペンを使ったって、みっともない跡は永遠に消えない……この瞬間、ノートもまた果てた。
「ねえ、やめてよ……どうしてこんな事するの!? もういいじゃない!」
そんなノートの死を信じられず、画鋲は泣き続ける。
「何を言っているの? 貴女はケンちゃんが生き返らなくてもいいの?」
体のあちこちにテープを巻かれたコンパスが、穴だらけになった鉛筆を捨てて三者の間に割って入った。
その後ろにはテープを全て切られて死んだセロハンテープと、彼に幾重にも巻きつけられ死んだクレパスが転がっている。
「そうよ、ケンちゃんは生き返って……私だけを愛してくれるの」
ホッチキスも笑い、画鋲の方を見る。それに続くように、ボールペンもケタケタと笑い始めた。
気付けば残りは、たったの4人になっていたのだ。
そして、この戦いはクライマックスを迎える。

鋼の肉体に芯を飛び道具としても使えるホッチキスが、まずこの場を支配した。
牽制で芯を飛ばし、怯んだ所を一気に噛み付く……しかし、残った者達も只者ではない。
ボールペンはグリップ部分こそ被弾したが、それでも文具としての命を失う程のダメージではなかった。
コンパスは至って涼しげに受け流したし、誰よりも弱弱しく振舞っていた画鋲でさえも……全身の強度は、かなりのものだった。
「なっ……何よ何よ何よ! 何で効かないのよ!? なんっ……!?」
ここでホッチキスは気付いた。他の文具たちと同じように、残弾……彼女の場合、ホッチキスの芯が底をついたのだ。
シャープペンシルや万年筆と違い、残弾の補充の当てなど無かった彼女にとって、芯が切れる事、それは……
「いっ……嫌ぁぁぁぁぁ! 嘘! 嘘! 私がいなきゃ、ケンちゃん学校のプリントバラバラにしちゃう! 私が……」
最後までケンちゃんを気にかけたホッチキスの最期は、同じくケンちゃんを想う画鋲の心を打った。
だが、他の二人は何も気にしなかったらしい。コンパスとボールペンは互いに突き合い、そして、ボールペンの先端が砕け散った。
「ふ、ふふふはははははははは!」
体に巻きついたテープを風に泳がせ、コンパスは高らかに笑った。そう、生き残りは、これでたったの二人なのだ。
「分かってるわよね、画鋲! この私の針は……裁縫箱のマチ針なんぞより遥かに堅くて太いのよ! 私が一番なのよ!」
銀色に輝く針先を自慢気に画鋲へと向け、彼女は慌てて自分の針を隠した。
太さ、強度……その全てにおいて彼女に劣っているのは、明らかなのだから。
「……そうよ、他の皆はまた買って貰いなさいよ。でも、私はいつまでも一緒よ……ケンちゃんが中学、高校、大学へ行っても……
 ……いえ、ケンちゃんならきっと、将来は大きな会社にだって入れるわ! そこで設計とかの仕事をする時にも、私が活躍するの……
 ケンちゃん、会社の人に言われるの。『このコンパス、古いねぇ。いつから使ってるの?』って! そうよ、私とケンちゃんの絆は、永遠にだって……」
うっとりとした顔をふと引き締め、コンパスは画鋲に向かって飛び掛った。
「……あんたなんて、代わりはいくらでもいるわ! 使い捨ての消耗品! おすもうさんが踏んだって気付かれない!
 でも私は違う! 私は鉛筆の芯さえ代えてくれればいつまでも使えるわ! 私がケンちゃんとずっと一緒に居るのよ!」
頭部でコンパスの針を受け止め、軽く一部が凹んだ事に画鋲は気づいた。
だが、その顔に悲しみはない。……彼女は、先のコンパスの言葉で気付いたのだ。
――自分もケンちゃんが大好きだと。彼とずっと一緒に居たいと。
追い詰められた彼女は、一番強い気持ちでしか行動できなかった。
他の理性など、もはら無意味。画鋲は奇声を上げ、コンパスの攻撃を掻い潜る。
「何を、今更!」
画鋲の針がコンパスに刺さったが、しかしそれは彼女の黒い塗装を僅かに剥ぐだけで終わった。
「無駄よ! あんたの力じゃ、カレンダー一つ引っ掛けるだけでやっとじゃない!」
コンパスは笑ったが、しかし彼女は気付かなかった。彼女より遥かに小さい画鋲が、その攻撃の後どこに消えたのかを。
「ちっ……ちょこまか、と……!?」
不意に、全身の力が抜けるのをコンパスは感じた。この異常なまでの脱力感、そして猛烈な眠さ……
「……死ぬ、の……私、が……!?」
人間で言えば、心臓を抉られたといった所だろうか。薄れ行く意識の中、コンパスは悟った。
画鋲は……彼女は、コンパスの中でも唯一脆い、鉛筆の芯部分を砕いたのだ。
針だけのコンパスなど、もはやただの凶器でしかない。それは、コンパスそのものである彼女が誰よりも分かっていた。
「……ええ、けんちゃんはこどものころからさんすうがとくいで……わた、しが……いつもきれいなえんをかくのをてつだって……」
だが、何故かコンパスは穏やかだった。これで、少なくともケンちゃんは生き返るのだから。
その隣に自分はいなくても、きっとケンちゃんは立派な大人になってくれる。
その光景を想像して、コンパスは笑みすら浮かべて逝った。

【シャープペンシルの芯:死亡確認】
【シャープペンシル:死亡確認】
【修正テープ:死亡確認】
【下敷き:死亡確認】
【雲形定規:死亡確認】
【万年筆のインク:死亡確認】
【分度器:死亡確認】
【万年筆:死亡確認】
【四色ボールペン:死亡確認】
【三色ボールペン:死亡確認】
【毛筆:死亡確認】
【木工ボンド:死亡確認】
【朱:死亡確認】
【ねりけし:死亡確認】
【消しゴムのカス:死亡確認】
【鉛筆削り:死亡確認】
【色鉛筆:死亡確認】
【クーピー:死亡確認】
【算盤:死亡確認】
【マジックペン:死亡確認】
【クレヨン:死亡確認】
【筆箱:死亡確認】
【消しゴム:死亡確認】
【定規:死亡確認】
【判子:死亡確認】
【三角定規:死亡確認】
【修正ペン:死亡確認】
【はさみ:死亡確認】
【穴あけパンチ:死亡確認】
【ノート:死亡確認】
【鉛筆:死亡確認】
【セロハンテープ:死亡確認】
【クレパス:死亡確認】
【ホッチキス:死亡確認】
【ボールペン:死亡確認】
【コンパス:死亡確認】


【優勝:画鋲】

「見事だった、画鋲よ! 君こそキング……いや、クイーン・オブ・文房具だ!」
突如鳴り響いた感電の神の声も、今の画鋲には右耳から左耳へとするりと抜けていく。
彼女はあまりにも疲れていた。戦いが、そして死んでいった全ての者達の死体を見た事が。
「はは……さすがにリアルで私を感電させただけ……いや、まあいい。
 それよりも画鋲よ、本当に見事だったぞ! 約束だ、ケンちゃんを生き返らせてあげよう!」
「……生き返る? ケンちゃんが?」
そんな魅力的な言葉ですら、今の画鋲にははっきりと耳に入っては来なかった。
コンパスに突かれ、凹んだ部分が今になって疼き始める。
だが、それでも画鋲は笑った。だって、ケンちゃんがこれで帰ってくるのだから――


ケンちゃんは帰ってきました。
……正確に言えば、時間が戻ったのです。あの日、ケンちゃんが倒れたあの瞬間に……
ケンちゃんのお母さんがブレーカーを上げ、大急ぎて部屋の中に入ってきました。
でも、ここからの景色が前に見た物と違います。ケンちゃんは、あっと言う間に目を覚ましたのです!
「お、お母さん?」
「もう、バカ! 何危ない遊びをしてるのよ! 死んじゃったかも知れないのよ!」
お母さんは泣いていました。当然でしょう。だって、私も泣いているのですから……
そういえば、私はカレンダーの傍にいました。あの日、ケンちゃんが倒れたのを見届けた場所で。
でも、違ったのは……私以外の全ての文房具達でした。
「……ちょっとあんた、何バカな遊びをやってたの!? せっかくの道具をメチャクチャに壊して!」
「え? え? ちょっと待ってよ、僕ピンセットで遊んでただけだよ!?」
「何言ってるの! 一杯壊してるじゃないの! 明日の学校どうするの!? 
 ……ああ、もう! 仕方ないから今からコンビニでいりそうな物を買いに行くわよ!」
「えっ、本当!? じゃあガリガリ君も買って!」
「何言ってるの! あんたは今月お小遣い抜きよ! ほら、早く支度なさい!」
「えー!? 待ってよ、本当にボク何も知らないんだよー!」
……お母さんは、だんだん涙が薄れてきたせいか、逆に怒り出してしまいました。
それを見てびくびくしながら、ケンちゃんがお気に入りのシャツを着ていきます。
そして、何でだろうと何度も呟きながら、足元に転がっていた文房具を掻き集め、ゴミ箱に捨てました。

ケンちゃんが出て行って、部屋には静けさが帰ってきました。
他の文房具の皆は居なくて、ここに居るのは本当に私だけ。でも、何故でしょう。そんなに悲しくありません。
だって、ケンちゃんがいてくれるから。ケンちゃんは今度こそ帰ってきてくれるから。

私は画鋲。ちょっと頭が凹んでいるけど、この中で一番の文房具。
次にケンちゃんが触れてくれるのは、また年が明けてから1週間後くらいかな?
大丈夫、それまでは絶対にカレンダーを落とさないから。
前はごめんなさい。私がつい力を抜いてカレンダーを夜中に落として、ケンちゃん怖がって泣いちゃったもんね。
ちょうど映画館でリングを観に行った後だったもんね。あの時は本当にごめんね。
これからはもっと頑張るから。私、あなたの為に頑張るから。
そして、あなたの為に死んで行った他の文房具の分まで、どうか新しい文房具達も可愛がってあげてね。
皆だって、あなたの事が大好きだから。
あなたが一生懸命勉強して、お友達と笑って、遊んでくれる事が、私達の何よりの望みだから。

そして、死んで行った皆も、安心して眠ってね。
皆がケンちゃんの事大好きだったって、決して私は忘れないから。

どうか、ケンちゃんが大きくなるまで、ずっと使ってもらえますように。



【文房具ロワイヤル~and a thumbtack the great stationery~:完】

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