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せいなるつるぎ

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せいなるつるぎ ◆piKeR1obXI


「よし……これで完成だ」

 F-3の森の一角、木も雑草なく空から光が差し込む神聖な感じの開けた空間。
 ドラクエⅥを倒したRPGツクールは少し歩いたところでこの空間を見つけ、
 そしてその場にとあるイベントを創りあげることに成功していた。

「名付けて、聖剣イベント!!!」

 自信満々に叫ぶ彼の正面にあったのは、「地面に刺さった剣」だった。


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 まぎれもなく剣としか言いようがないものが地面にまっすぐに突き立てられ、抜く人を待っている。

「やはり王道RPGといえばまず剣を抜くイベントだ。そういうわけでツクったぜ!
 ちなみに、剣はさっき倒したやつが持っていた剣(メタルキングの剣)を流用させてもらいました。
 あとはこの看板をここに立てて……と。ふふ、殺し合いもいいがやはりせっかくの自由なフィールド、
 イベントをいくら作っても容量が足りないと言われないこの設定! ツクラーとしてイベントを作らずに
 居られようか! いやツクらずに居られるはずがない! 血が騒いで仕方がなかったのだ許せ」

 ながながと講釈を垂れるイベントキャラじみた喋り方でテンションをヒートアップさせながら、
 RPGツクールは木の皮を剥がし木の枝と組み合わせて作ったらしい看板を剣の前に立てる。
 そこには【勇者にしか抜けない聖剣ユグドラシル】と雑な感じに書かれていた。
 これはファミコン版RPGツクールのサンプルゲーム「FATE」に出てくる剣から取った由緒正しき名前である。

「看板も立てたし、あとはこれを誰かに抜かせれば……ふふふふふははははは!」

 ――――――ビュン

「ははははははははは、アバッ」

 イベントの完成に高笑いするRPGツクールだったが、しかしその次の瞬間、
 弾性のある何かが勢いよくしなる音が聞こえたと思ったら頭の横から急に殴られたかのような衝撃が襲ってきた。
 なんだなんだと手を当ててみれば、そこには穴が空いていた。
 穴。
 頭に穴が開いていたので、どろりとRPGツクールの思考が濁った。

「は?」

 そしてそれが意識があるうちにRPGツクールが呟けた、最後の言葉になった。



【RPGツクール 死亡】



「ツクールに精を出していて勝ち残れるほど、バトルロワイアルは甘くないのだよ……」

 木陰から姿を現したのは口ひげに縦縞の服の肥満男、トルネコの大冒険である。
 彼はブースターを使い空を舞う最中にRPGツクールを見つけ、そのまま悟られぬよう近くまで接近すると、
 容赦なく支給された銀の矢を放って彼の頭部を横から貫いたのだった。

「さて、今度こそ良い武器が手に入るといいんだが」

 トルネコは先ほどストリートファイター?にしたのと同じように死んだRPGツクールのそばに座り込み、
 デイパックを漁る。銀の矢は残り7本になってしまった。
 先ほどブースターを入手し機動は上がったが、やはり戦力としてはサブウェポンにあたる武器が欲しい所だ。
 遠距離ならば銃があれば一番いい。
 近距離――商人としてはそもそも、近距離で戦うなどというリスクは負いたくないが――を想定するならば、
 ブースターと併用し、接近で中距離から一気に間合いを詰め、多少外れてもダメージを与えるようなものが理想だろうか。
 刀剣類の刃が長いもの。ハンマー棍棒などの打撃武器。斧。あるいは電撃鞭。あるいは。
 トルネコはいろいろな武器を思い浮かべつつ、デイパックから目当てのものが出てくることを祈った。
 しかしRPGツクールのデイパックからはなにも出てこなかった。

 からっぽだった。

「……どういうことだ? 誰かに譲った……ということはないだろうが」

 疑問を頭に浮かべ、トルネコは横を見る。
 そこには子供が遊びで作ったかのような看板と共に、雑に地面に突き刺さっている「メタルキングの剣」がある。
 アイテム鑑定能力を持つトルネコにとって【勇者にしか抜けない聖剣ユグドラシル】などというたわ言は通じない。

「……」

 普通ならこの突き刺さっている剣がRPGツクールの支給品だった、ということで話がまとまる。
 けれどじっと木の影に隠れて弓を放つ機会をうかがっていたトルネコは、RPGツクールの長い講釈も耳に入れている。
 RPGツクールは確かに言っていた。「剣は倒したやつから奪ったものだ」と。
 それが彼の冗談やこちらの幻聴でないとすれば、RPGツクールは剣のほかに支給品を持っていたはずなのだ。
 なのにそれがない。どこへ。どこへやった?

「まさか」

 トルネコが注視したのは、聖剣ユグドラシル(偽)が刺さる地面だった。
 その地面は一度掘り返されて、その後、剣と共に埋め立てられているようだった、
 だがその範囲が――剣だけを埋めたにしては妙に広い。 

「まさか他に何か……この下……こいつ、罠を張っていたのか?」

 罠がうずまくダンジョンを歩むゲームであるトルネコの大冒険は、そこで、
 RPGツクールが剣の下に罠を張った可能性に思い至ることができた。

「例えば爆弾。例えば毒ガス袋。あるいはもっとおそろしい、何か。
 剣を抜かせるイベントは――剣を抜いたらその下のなにかが起動してしまうイベントというわけか?
 殺し合いに乗っていながら、ふざけたことをしていると思っていたが……。
 こうなると話は変わってくる……貰って行くつもりだったこの剣、私が抜くわけにはいかなくなった」

 しゅた、と剣から飛び離れ、トルネコは剣を最大限警戒。
 トラップは正直言ってトルネコのトラウマだ。罠の可能性があるものに触れようとはとても思わない。

「となれば……これは誰かに抜かせるしかあるまいな。
 店に売れば3000Gはくだらないだろうに、もったいないことだ。仕方ない」

 一瞬で次にとるべき行動を決め、トルネコはデイパックを広げると、
 RPGツクールの死体をその中に収めた。血の跡に土を掛け、固める。証拠は隠滅される。
 後で初めてここに来た誰かが、主催の用意したすごい剣とでも勘違いしてくれれば御の字だろう。

 あるいは銀の矢で倒せない相手などが現れた時、こちらに誘導して抜かせてもいい。
 あえて対主催のフリをして「聖剣を見つけたのです」などと話術で誘導してもいいし、
 普通にブースター機動と矢で追いつめて誘導してもいい――手はある。
 今の策では足りない時の次の矢としてせいぜい利用させてもらうことにしよう。

「では、そろそろ行くか」

 すっかり聖剣イベントを罠だと決めつけたトルネコはそう合点し、再びブースターを起動してその場を去った。
 あとには聖剣ユグドラシルだけが残される。
 確かに、その下の地面には、確かにRPGツクールの支給品が埋まっている――。


【F-3 森】

【トルネコの大冒険】
【状態】健康
【装備】7本の銀の矢@トルネコの大冒険、ブースター@第4次スーパーロボット大戦
【道具】支給品一式×2、RPGツクールの死体入りデイパック
【思考】
1:優勝を狙う
2:武器を集める
3:聖剣の罠を利用することもあるかも
※外見はトルネコです
※アイテムの鑑定ができます








 遡って――RPGツクールが死ぬ数十分前のこと。
 デイパックから取り出したる支給品を前に、彼は憂いの表情を浮かべていた。

「やっぱり……これで殺しは、できねぇよ」

 光り輝くようにも思える聖なる力を放つ、それは剣だった。
 RPGツクールである彼には、おそらくどこかのゲームの出展であろうその剣の名前を知ることはできない。
 それでも、分かることがあった。この剣は魔を打ち払うためにあるものであり、
 決して殺し合いに、人やカセットを殺すのに使っていいような武器ではないということを。

「俺は、殺し合いに乗った……意地汚いソフトだ。そんな魂に染めていい剣じゃ、ない」

 その剣を使わないことは、ずっと前から決めていた。
 そして、だからといってメタルキングの剣なら使っていいかというと、それもダメだった。
 RPGツクールは、物語を、キャラクターを、アイテムを、自分で作るゲーム。
 他人から奪ったり、貰ったり――そういったものでは、いけないのだ。どれだけつらくても、
 自分の力でやらなければ意味がない。そういったところで、彼は意固地になっていた。

 だから彼は、創ることにした。
 聖剣イベント。あからさまに罠のようでいて、本当の聖剣が地下に埋まっているそのイベントを。
 いつか本物の正義バカが、その剣を抜いて来て。
 魔王となりゆく道を選んだ自分に立ち向ってくる――そちらのほうがより「らしい」。

「大丈夫だ。こんな剣を越える設定の剣だって、俺は作れるんだから」

 強者の余裕だったのだろうか。
 あるいは、正しい使用者に剣が使われることを、心の中で願っていたのだろうか。
 かくしてその剣は、RPGツクールの手によって、偽りの聖剣の下に秘された。


 かつて魔王を斃したその聖剣の名を、グランドリオンと言う。



※F-3、聖剣ユグドラシル(メタルキングの剣)の下に、グランドリオン@クロノ・トリガーが埋まっています


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