「手紙を書いても良い、ということだ。ただし、内容は検閲させて貰う」
と、監視員から筆記用具や用紙が支給された。
今時、紙媒体? そうシンジは眉をしかめる。
既に学校の教科書も電子化されて、パソコンを開いて授業を受ける時代である。
しかし、それに加えて、
「そして喜べ。勉強をしても良い、と許可が下りたぞ」
と、監視員は分厚い教科書の山を机にドン。
「えー? やっぱり紙なんですか?」
「教育法が改正されたのだ。字を書けない子供が増えて困るとな」
「はあ……」
「しっかり手を動かせよ。少年!」
その一言、変な意味にも聞こえるが……シンジはとりあえず手紙を書く。
もちろん出す相手はレイ。
聞けば、アスカの方はドイツに護送されて帰っちゃったとか。
既に向こうの国家機密と化してしまい、状況すら判らない。
しかし、何を書こうかな。
共通の話題なんてエヴァのことしか無いし。
検閲も入るんだし、そんなことを書いちゃ駄目だろうな。丸ごと黒塗りされてしまいそう。
などと、シンジは頭を悩ませるのだが……しかし、シンジは思い返し、目を輝かせて立ち上がる。
「そうだ。今のことを、これからのことを書けば良いんだ」
そうそう、全てはこれから。
前を見て先に進むことが肝要、過去を振り返っても仕方がないのだから。
「それじゃ、えーと……元気ですか? こちらでは一日三食、おやつまで支給してもらって、と……」
そんな具合で、現状報告書は完成。
未来への展望は、また今度。
そして、封筒にも入れずに監視員に渡さなければならない。
「よし、配送してやろう」
無難な内容のお陰で、一箇所も黒塗りされずに検閲はパス。
返事は、その翌日に返ってきた。
「あれ? 監視員さん、これって僕が出した手紙じゃないですか」
「そうだ。彼女が突き返してきたらしい」
「……そ、そんな」
しかし、その返してきた手紙を見れば。
「うわ、なにこれ」
誤字脱字が細かくチェックされて、ビッシリと朱書きまでされているではないか。
「いや少年、良く聞け。その朱書きをしたのは俺達ではなく、綾波レイ本人ということだ」
「あ、綾波が」
「もっと勉強しろよ、少年! あっはっはっは」
でも、シンジの心にじんわりと何かがこみ上げる。
へえ、綾波って綺麗な字を書くんだな、と――。
「勉強でもしようかな?」
と、シンジは教科書をピラリとめくってみた。
(続く?)
最終更新:2009年03月28日 21:53