3人目 第弐話

「手紙を書いても良い、ということだ。ただし、内容は検閲させて貰う」
と、監視員から筆記用具や用紙が支給された。
今時、紙媒体? そうシンジは眉をしかめる。
既に学校の教科書も電子化されて、パソコンを開いて授業を受ける時代である。

しかし、それに加えて、
「そして喜べ。勉強をしても良い、と許可が下りたぞ」
と、監視員は分厚い教科書の山を机にドン。

「えー? やっぱり紙なんですか?」
「教育法が改正されたのだ。字を書けない子供が増えて困るとな」
「はあ……」
「しっかり手を動かせよ。少年!」

その一言、変な意味にも聞こえるが……シンジはとりあえず手紙を書く。

もちろん出す相手はレイ。
聞けば、アスカの方はドイツに護送されて帰っちゃったとか。
既に向こうの国家機密と化してしまい、状況すら判らない。

しかし、何を書こうかな。
共通の話題なんてエヴァのことしか無いし。
検閲も入るんだし、そんなことを書いちゃ駄目だろうな。丸ごと黒塗りされてしまいそう。
などと、シンジは頭を悩ませるのだが……しかし、シンジは思い返し、目を輝かせて立ち上がる。

「そうだ。今のことを、これからのことを書けば良いんだ」

そうそう、全てはこれから。
前を見て先に進むことが肝要、過去を振り返っても仕方がないのだから。

「それじゃ、えーと……元気ですか? こちらでは一日三食、おやつまで支給してもらって、と……」
そんな具合で、現状報告書は完成。
未来への展望は、また今度。

そして、封筒にも入れずに監視員に渡さなければならない。
「よし、配送してやろう」
無難な内容のお陰で、一箇所も黒塗りされずに検閲はパス。

返事は、その翌日に返ってきた。
「あれ? 監視員さん、これって僕が出した手紙じゃないですか」
「そうだ。彼女が突き返してきたらしい」
「……そ、そんな」

しかし、その返してきた手紙を見れば。
「うわ、なにこれ」
誤字脱字が細かくチェックされて、ビッシリと朱書きまでされているではないか。

「いや少年、良く聞け。その朱書きをしたのは俺達ではなく、綾波レイ本人ということだ」
「あ、綾波が」
「もっと勉強しろよ、少年! あっはっはっは」

でも、シンジの心にじんわりと何かがこみ上げる。
へえ、綾波って綺麗な字を書くんだな、と――。

「勉強でもしようかな?」
と、シンジは教科書をピラリとめくってみた。

(続く?)
最終更新:2009年03月28日 21:53
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