3人目 第九話

さてさて、果敢なシンジの面会は続く。

ようやく一週間後に許可して貰えた第2回目。

「綾波、今日はクッキーを焼いてきたんだ!」
「……」
「い、いますぐ監視員さんから渡して貰うから」
「……」

互いの監視員同士、確認済みと頷き合いながら手から手へ。
そして、レイはそのクッキーをポリポリ。

シンジは不安げに尋ねる。
「ど、どう……?」
「固い」

「へ? あ、ああ、そうだね。もっとシットリしたクッキーがいいかな」
「判らない」
「その……美味しい?」
「固い」

そして、一枚だけ食べ終えたレイは立ち上がり、面会は打ち切り。
監視員は気の毒そうにシンジの肩を叩いた。

「少年よ。カントリーマァムの原材料には白あんが含まれていると言うぞ」
「そうなんですか! よーし、さっそく挑戦してみよう!」

いや、製品を買ってこい。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

さらに一週間後の第3回目。

「綾波、僕の持ち物の一部が返して貰えたんだ」
「……」

「ほ、ほら、僕のSDAT。勉強ばかりじゃ退屈でしょ? だから綾波に貸して……」
「いらない」

相変わらずの無愛想なレイの口調。
いや、負けるなシンジ

「あ、そうなんだ……でも、テレビもラジオも無いから退屈でしょ」
「ううん、有線ひいてもらったから」
「えー!?」

綾波は頷く。
「音楽しか流れないから問題ないって」
「……」

そして、帰りの車の中で。

「監視員さん! どうして教えてくれなかったですか! 有線ならOKだって!」
「い、いや、それは俺も気が付かなかった。流石、貴女は頭が切れる……」
「そうか、綾波も音楽は聴くんだ。それなら、さっそく――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

はい。さっそく一週間後の第4回目。

シンジはチェロを持ち込んだ。
そう、念願だったレイに直接聞かせる夢が叶ったのだ。

クッキーに続いてチェロで勝負というわけだ。
あやとりと射撃が得意な野比のび太よろしく、炊事とチェロが得意なシンジ。
どちらもそこそこ上手いという程度なのも共通するところだが。

シンジはレイの顔を見ないうちからチェロの弓を構えてスタンバイ。
現れたレイはそのシンジの姿を見て、きょとん。

「綾波、それじゃ大して上手くないけど」
「……」

そして、前置き抜きで奏でられるバッハ無伴奏チェロ組曲。
シンジはもはや夢心地でチェロの弦を奏で続ける。

そんなシンジの演奏を立ったまま聴いていたレイは――。

「あ、あの」
「……」
「あの」
「……え?」

レイの方から声を掛けられ、シンジは慌てて手を止めた。
「え、綾波、なになに?」
「あの……」
「どうしたの、綾波」

レイは少し言いづらそうに、こういった。
「どこから歌えばいいの?」
「……え!?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シンジは帰りの車の中で、再び監視員の太い腕を叩く。

――ぱんっ!
「痛い!」

――ぱんっ!
「い、痛い! 少年、運転中だから止めろといってる!」

シンジはうつむき加減でクスクス笑う。
「ああ、なんて可愛いんだろう。そりゃ確かにあの曲は伴奏みたいに聞こえるけど」

――ぱんっ!
「少年! だから痛いと言っている!」
「僕の演奏で一緒に歌おうとしてくれたなんて……いったい、なんの歌だと思ったんだろう」

シンジのクスクスとした、噛み殺そうにも噛み殺せない笑いは、止まらない。
「少年、大丈夫か?」
「よーし、あれに主旋律をつけて歌詞もつけちゃおうかな」
「止めろ。我らが父を汚すつもりか」

とりあえず、レイとの仲は進展していることは間違いない。
頑張れ、シンジ。

(続く?)
最終更新:2009年04月05日 22:24
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