第壱話

どこにこれだけの人が居たのか、などと言いたくなるほどの観衆が見守るなか、
歓迎パレードは大歓声の中で盛大に取り行われた。
バトントワラーが華やかな舞い、そして鼓笛隊の堂々たる演奏と共に、
ある一台のリムジンカーが戦自の誇る戦車部隊に守られながら、
歓迎式典までの道のりを人々の喝采を受けながらゆっくりと進み、遂に歓迎式典へと到着する。
そして、NERV作戦部長たる葛城ミサトのうやうやしい対応を受けてリムジンから降り立ったのは、
どこから見ても男子中学生にしか見えない只一人の少年、碇シンジである。

第三東京市市長、および来賓のゼーレ議長キールより祝福の言葉を受け、
科学の街らしくスーパーコンピュータであるMAGIによる前代未聞の開催宣言が行われた後に、
ついに碇シンジが観衆の前へと姿を現す。
飛び交う歓声、黄色い声援、そして万雷の拍手。
彼の登場と共に、「ゆけゆけ碇シンジ」などというテーマソングを歌っているのは、
一体どうやって調べたのだろうか、シンジがこよなく愛しS-DATで聞いている有名アーティストその人である。
その、どんな国賓クラスでもロックスターでも味わったことのない歓迎を受けて、
彼は目を白黒させてその場の状況を受け入れられずにいる。
いや、実のところは呼ばれた理由すら判っていないのだ。
そして式典の中央にある巨大な代物。それこそは人型決戦兵器エヴァンゲリオン初号機。
碇シンジはやっとの思いで口を開き、側に立っている実の父親にしてNERV総司令碇ゲンドウに向き直る。
「父さん、これに乗れっていうの?見たことも聞いたこともないのに出来るわけがないよッ!」
「何も心配いらない。ややこしい説明なんぞ聞く必要もないのだ息子よ。」
「ただ、座っていればいいだけです。さ、エントリープラグはこちらですよ。」
父に続いて丁寧に、そしてにこやかに案内した女性はNERV技術部に所属する赤木リツコ博士である。

そしてシンジは訳も判らぬまま手渡されたハサミで紙テープを切り、
ミス第三東京市より歓迎の花束と祝福のキスを受けエントリープラグに搭乗する。
くす玉が華々しく割られ、初号機には幾本ものドンペリが叩き付けられ、いよいよ起動開始である。
伊吹マヤのアナウンスと共に巨大パネルに表示される彼のシンクロ率、その素晴らしい数値に観衆は大爆発だ。
そして使徒が現れる。
あらかじめ用意されたポジションに間違えようもなく降り立ったのは第三使徒サキエル。
毒々しい姿ではあるが、おとなしく初号機が来るのを待っている。そう、碇シンジに倒されるのを待っているのだ。
弱点であるはずの赤々と胸部に輝くコアを隠そうともしないのが何よりの証拠。

そして赤木博士はシンジに指示をする。
「まず、歩くことだけを考えて。」
「あ、歩く……?」
そう彼がつぶやくが早いか、初号機がゆっくりと使徒に向かって歩き出した。
またもシンジの名を讃え喝采する人々。
実のところ、NERV技術部スタッフがリモコンのレバーを握りしめていたのだが、それは内緒の話だ。
「ではシンジ君。使徒をやっつけてしまいましょう!」
声高らかに作戦指示をだす葛城ミサト。その傍らで伊吹マヤが暴走ボタンのスイッチを押す。
「え……倒すって……どうやって……」
などとシンジが考え悩む暇も与えず、初号機は使徒に突進して輝くコアにストレートパンチを一閃。
割れるコア、吹き飛ぶ使徒、それを見て群衆の歓声は大爆発する。

こうして碇シンジの使徒との戦いが幕を開けた。
ここまで、シンジは何もしていないように見えるが、それは気のせいだ。
最終更新:2007年02月22日 23:45
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