チェンジ・ザ・ワールド☆
華めきたり.4
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華めきたり
【話ノ三】
仕事中、秘書が遠慮がちに正の前へやってきた。
「どうした?」
「いえ、あの、お客様がお見えです」
「客?」
「はい」
困ったようなその様子に、正は首を傾げる。
「客が来る予定など無いはずだが」
「それが、薫様が……」
「何? 薫だと?」
驚いた。薫が正の職場である銀行まで来ることなど滅多に無い。何かあったのではないかと、慌てて秘書に命令をする。
「すぐにここへ通せ」
「畏まりました」
しばらくして入室してきた薫は、いつもと変わりのない笑顔で長男である正の前へやってきた。
「お仕事中にご免なさい。銀座まで出てきたから正兄さまのお顔を見たくて」
先日雅の実母の呉服屋、伊村屋で作らせた藍色の着物を着、その着物が良く映える赤い巾着を下げた美しい妹の姿に正は破顔した。
いつもは厳しい顔つきの正だが、薫だけはやはり特別だ。
応接用のソファに向かい合って座り、秘書がすぐに用意してきた茶を勧める。
「それは構わんが、何かあったのか? 用があるなら使用人にでも行かせればいいだろう」
「自分で出来る事は自分でやるわ。結婚したらその方のお屋敷に使用人がいるとは限らないでしょう?」
「まさか。当主がお前を使用人のいない家柄の男のもとへ嫁に出すとは思えん」
宮ノ杜家の為なら我が子すら利用する当主の顔を思い浮かべ、正は薄く笑う。
「あら、父様は関係ないわ。私の結婚ですもの。私が選んだ方と結婚するんだから、家柄なんて分からないでしょう?」
「ははは、何だ、好いた男でも出来たのか?」
「うふふ、どうかしらね」
「山程縁談が来ていたのを断っているくせに、変な笑い方をするな」
「それは正兄さまも同じでしょう? あまり色町で遊び過ぎないでくださいね」
「むっ、大佐と一緒にするな。私はそんな事はしない」
妹にからかわれ、ついむきになってしまう。それでも殺伐とした家と会社の中で生きている正にとって、薫は清流のように活力を与えてくれる存在だ。
「……あら、もうこんな時間。ごめんなさい、お仕事中に」
ほんのひと時のように感じられた妹の訪問は、昼の二時を告げる時計の鐘によって閉じられた。
「いや、薫が顔を出すなんて珍しいからな。大佐の顔を見るとやる気が失せるがお前ならいつでも構わん。ただし、来る前に連絡をしろ。私が出かけていたらどうするつもりだったのだ?」
いつも突然やって来ては仕事の邪魔をして去って行く勇の顔を思い出し、それを打ち消すように正は眼鏡の位置を直した。正の言葉に微笑み、薫はゆっくりとした所作で立ち上がる。
「正兄さまがお留守なら別にそれでも構わなかったのよ。さっきも言ったけれどお顔を見たかっただけなんだもの」
「毎日家で顔を合わせているだろうに」
言葉は冷めているが、本当は嬉しいのを隠しきれない。
ニコリと笑顔を残し、麗しい妹は
「それじゃあお帰りを待ってるわ。お仕事頑張ってくださいね」
そう言い残し去って行った。
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