チェンジ・ザ・ワールド☆

華めきたり.11

最終更新:

streetpoint

- view
管理者のみ編集可
華めきたり







【話ノ十】





 「ちょっと、アレって一体どういう事なのさっ!!」


 血相を変える茂に、わなわなと震える勇が叫ぶ


「茂! 今すぐ車を止めろっ! 喜助のやつめ、この俺様が叩き斬ってくれる!」

「お、落ち着け大佐! 博、雅、しっかり抑えろ!」

「あーもうっ! こんな狭い所で暴れないでよ! 馬鹿勇っ!!」


 刀に手を掛けて飛び出そうとする勇を、博と雅が必死で抑える。


「薫の馬鹿っ! 何で喜助なんかがいいんだよっ!」


 休日に浮かれた様子で出かける薫を追いかけるべく、茂の運転で尾行を開始した一同だったが、待ち合わせ場所に現れた喜助を見て勇の怒りが爆発したのだった。

 狭い車内に大の大人がひしめきあって、仕事でいない進は後で聞いたら行かなくて良かったと心の底から思うだろう。そんな滅茶苦茶な状況下、楽しそうにパーラーに入って行く薫と喜助の後ろ姿を、とうとう堪えきれなくなった勇が車から飛び出した。


「うわっ!? 勇っ! 待ってよ!!」


 すぐにその後を博が追う。


「ちょっと正! 俺も行って来るから車よろしくっ!」

「あっ、茂! お前までっ!」


 運転席を飛び出した茂に向かって伸ばした手も虚しく、社内に残った正と雅は視線を合わせて盛大なため息を吐いた。


 バンッ!!!


 と、乱暴に開けられた扉の向こうは若い女性客で溢れていて、その誰もが突然の珍入者に目を丸くさせる。

 迷う事無く一直線に歩く三人の男達を、正面からしっかりと見据える美しい女性。

 薫はすっと立ち上がると、


「あら、兄さまに博。良かったら一緒にしゅうくりぃむを頂きません?」


 笑顔で席を勧めた。そんな事などお構いなしに、勇は小心者なら卒倒しそうな程の鋭い眼孔で喜助を睨みつけると、腰の刀を左手でカチャリと鳴らし声を発した。


「喜助。貴様いい度胸をしている。我らの妹に手を出すなど、覚悟は出来ているのだろうな?」

「な、何をおっしゃってんですかっ!? 薫様に手を出すなんて、そんな大それた事するはずがないでしょうっ!?」

「薫っ! 俺、絶対やだからね! 喜助が悪いとかじゃないけど、薫が結婚するなんて、絶対絶対! やだからねっ!」

「薫! この間は俺にあんな事言っておいて、やっぱり喜助と……わあ~ん! お兄ちゃんは悲しいっ!」


 良く分からないが、取りあえず三人共薫と喜助が一緒にいるのが許せないらしい。


「皆、どうしても私と喜助さんをいい仲にしたいみたいですわね。違うと言っても信じていただけないのなら、どうです、喜助さん。本当にしてしまうというのは?」

「いっ!? ななっ、何をおっしゃってんですかっ!? そんなの、冗談でも冗談ですぜ!!」

「むううっ! 喜助、貴様やはり俺様に斬られたいのだなっ! 覚悟しろっ!」

「わああっ!?」


 喜助に掴み掛かろうとした勇の手をうまく躱し、素早い動きで店の外へと喜助は逃げ出した。


「待てぃっ!!」

「あっ! 待って! 博、勇が殺人犯になる前に捕まえるよ、急いで!!」

「ちょっと! ーーー薫っ! 俺、しすたあこんぷれくすでもいいよ、だって薫が大好きなんだもん。だから、絶対に邪魔してやるからねっ。待ってよ、茂!」


 全員が出て行くと、入れ違いに正と雅がやってきた。


「薫、大丈夫か?」

「正兄さま。私は大丈夫だけど、喜助さんが……」

「勇の馬鹿、本気で斬るかもね」

「どうして雅まで一緒なの?」

「僕はきたくなかったのに、馬鹿博が無理矢理っ!」

「何だ? 雅は何か知っているのか?」


 二人のやりとりに、正は首を傾げる。


「取りあえず喜助さんを助けに行きましょう。怪我をしたら大変だわ」

「薫が悪いんだからね。ちゃんとあの馬鹿共に説明しないから」

「ごめんなさい」

「おい、二人だけで会話を進めるな、私にも分かるように説明しろ!」


 喜助を探す道すがら、薫と、宣言通りすぐに薫が何を調べているか、その答えを言い当てた雅は正に説明をした。

 偶然耳にした玄一郎を目の敵にする連中の会話。そしてそこから送り込まれたらしい間者の事。それを探る為喜助に近づいた事。


「ーーーまったく、どうしてお前はそうお転婆なんだ。長男である私にくらい相談してもいいものを」

「ごめんなさい」

「まあ、勇にだけは相談しなくて正解だけどね」

「それでは何故、今日は二人で出かけていたのだ?」

「兄さま達が誤解して喜助さんにご迷惑をかけたから、そのお詫び。だったのだけど、今日が一番迷惑をかけてしまったわ……」


 肩を落とすと、向こうの通りから喜助達が走って来るのが見えた。

 とうとう勇は刀を抜いてしまっている。


「あの、馬鹿っ!」


 正は血相を変えて勇を止めに走った。


「勇兄さまっ!!!」


 薫の一声で、勇は動きを止めた。

 刀を持った軍人が、往来で一般人を追いかけている様子はかなり目立ったようで、どんどんと人が集まって来る。


「喜助さん、私の後ろへ」

「へいっ!」


 慌てて薫の後ろへ逃げる喜助。


「むう、薫、貴様喜助を庇うのか? その男を差し出せ!」

「嫌です! いい加減私の話しを聞いて下さい!」

「話し、だと?」

「喜助さんには色々とお世話になったので、そのお礼をするために今日は出かけてきたんです。それをこそこそと着いてきて、勘違いした上に切り掛かるなんて、それでも軍人ですか!? もっと冷静にご判断ください!」

「なっ……」


 怒鳴った事など一度もない薫が、今、勇の目の前で声を荒げて怒っている。


「本当に、何でもないと言うのだな?」

「そうです」

「博の早合点だった。という事なのだな?」

「そうです」

「ーーー分かった。薫の言葉を信じよう」


 そこでようやく勇は刀を鞘に納めると、博と茂を振り返った。


「よし、屋敷に戻るぞ! 茂、車を回せ!」


 さも嬉しそうにそう言うと、後ろ髪引かれる様子の茂と博を連れて去って行ってしまった。

 全くもって人騒がせな兄である。


「はあ……。お、大声を出すというのは、こんなに疲れるものだったんですね」


 気が抜けた様子の薫に、喜助は困った様なほっとしたような顔で笑った。


「まったくで」





 薫と喜助の疑惑は晴れたが、玄一郎の事が片付いた訳ではない。

 他とは違う家庭環境で育った宮ノ杜の兄弟達には、これからどんな人生が待ち受けているのだろうか。

 そして、薫と喜助の間に微妙な変化が起こった事は、間違いのない事実だった。 



 了     2013.05.18




=あとがき=

最後までお読み下さりありがとうございました!
初、華一小説です! 音文さんへのプレゼントとして書かせて頂きましたが、時間が掛かって本当に申し訳なかったです…
内容は、私個人も音文さんも、兄弟皆がわいわいぎゃーぎゃー楽しくしているのが好きなのでw そんな感じにしてみたかった。
してみたかったんだよおおお!!!!
音文さんは全員のキャラの雰囲気が出てるとお褒めの言葉を頂きましたが、もう、個性が強過ぎて(笑)
でも、楽しく書かせて頂きました!! また違うお話で華一は書きたいです!
本当に音文さんには感謝感謝! です!!




ブラウザを閉じてお戻りくださいv
その他二次小説トップに戻る
目安箱バナー