チェンジ・ザ・ワールド☆

雨の日に〜5−8

最終更新:

streetpoint

- view
管理者のみ編集可
5-8
















 加藤が病院の手術室の前の椅子に腰掛けぼんやりと時計の秒針を見つめていると、隣りに誰かがやって来た。


「先輩……」


 やって来たのは津田だった。

 急にいなくなった加藤と車を心配して何度も加藤に電話を掛けていたのだが、先程本部からの連絡で成川が何者かに刺され、加藤がそれに付き添って病院にいる事を知って急いでやって来たのだ。


「悪い、連絡出来なくて……」


 加藤の隣りに腰掛ける津田は、加藤の様子に首を横に振った。


「一体何があったんですか?」


 そんな事を聞かれても加藤にも分からない。ただ変な電話が掛かって来て……


 !?


 加藤ははっとした、もしかして電話の主は桂元秋杜だったのではないか? しかしそれならば成川の名前を知っている理由が解らない。自分も何故あの時電話が悪戯ではないかと疑わなかったのか。


「岡部の見た映像……」


 ふと加藤の口から出た言葉に、津田は首を傾げた。


「女を後ろから抱きかかえる人物、水……?」


 水じゃない、さっきのは成川の腹部から大量に出血した血溜まりだ。

 コートを着て中折れ帽を被った人物が桂元秋杜ならば、岡部は未来の出来事を見たというのか。


「……おい、津田」


 ぶつぶつ小声で何かを言っていたと思ったら、名前を呼ばれて津田は少し驚いた。


「は、はい?」

「岡部のやつが見たっていう出来事は、今まで全部過去の事だよな?」


 そう言われ、津田は天井を見上げて少し考えた。


「ええと……あ、はい、そうですね。見えた映像と時期を組み合わせると、最初の事件以降時系列にそって不思議な光景が見えてる事になりますからーーーそれがどうかしたんですか?」

「さっき岡部のやつが喫茶店で近藤あかりと別れた後に、誰かが水溜まりの中でぐったりする女を後ろから抱きかかえてる映像を見たんだ……その水溜まりってのが、さっき成川が倒れてた様子に当てはまる気がするんだ。だからもしかしたら現場に犯人の足跡が残ってるんじゃないかと思ったんだが……」

「っ!? すぐに鑑識に確認します!」


 津田はそう言うと慌てて廊下を走り去って行った。

 さっきは人も多かったし、血を踏んであちこち歩いた人間も少なくはないはずだ。少しでも手掛かりになる物が見つかればと加藤は膝の上に置いた拳を強く握った。



 津田が鑑識に確認を取りに行ってから、どれくらい時間が経っただろうか。時計の針は深夜の1時を回っていた。かれこれ2時間以上成川は手術室に入っている事になる。

 相変わらず目の前の扉は固く閉ざされていて、厭味の様に手術中と光る蛍光灯がぼんやりと薄暗い廊下に浮かび上がっているだけだった。

 確認を取った所、成川には母親と兄しかおらず、その母親も長男家族と一緒にハワイに住んでいるとの事だった。

 加藤はその長男に電話を掛けたが、電話越しでもひどく狼狽えているのが分かり、自分の所為だと何度も頭を下げた。


「大丈夫だ、医者を信じろ。大丈夫ーーー」


 と、そこへ津田と津田から連絡が行っていた岡部が加藤の元へとやって来た。


「加藤……成川さんは?」

「ああ、まだ手術中だ」

「そうか……」

「先輩、鑑識に確認しましたけど、足跡が多すぎてまだ特定出来ないそうです。それと第一発見者……成川さんが倒れていた場所の目の前の家に住むおばさんなんですが、その人の話しによると微かに話し声が聞こえていたらしいんですけど、一瞬大きな声がしたと思ったらすぐ静かになったみたいです。それからしばらくしてコンビニに行こうと玄関を出たら、成川さんが血まみれで倒れていたと……」


 加藤の前に立ってそう報告する津田に頷くと、加藤は隣りに座った岡部を見た。


「岡部、お前がさっき見たのはこれだったんじゃないか?」

「ーーー分からない。でも、一つだけ思い出した事があるんだ」

「思い出した事?」

「ああーーー」


 岡部の言葉に、加藤と津田は肩に力を入れた。


 ガチャン


 岡部が何か言おうとすると、手術中のランプが消え、中から看護士が数名出て来た。


「あっ……」


 加藤と岡部は椅子から立ち上がり、三人がほぼ同時に固唾を飲んだ。


「警察の方ですか?」


 看護士の後から出て来た医者に言われ、加藤と津田が頷く。


「手術は成功です。ただ、危険な状態である事には変わりません……意識は微かにありますが、今夜が山場になると思われます」


 医者の言葉に、加藤は自分の足下を睨みつけた。


「お願いします、彼女を……助けてやって下さい。俺の責任です……お願いします」

「全力を尽くします」


 医者はそう言うと、手術室から担架に乗せられて出て来た成川と共に足早に廊下の奥へと消えた。


「加藤……」

「先輩、大丈夫ですよ。きっと成川さんは元気になりますから」

「ーーーああ、そうだな……そうだ、岡部。お前さっき言いかけたのは、何だ?」


 これ以上自分を責めても成川の容態が良くなる訳ではない。加藤は気持ちを入れ替えて、秋杜を探す事に決めた。


「ああ……俺が成川さんに見せてもらった、今回の事件の被害者の女性なんだけど、彼女達と話した事があるんだ」

「何だって? どういう事だ?」


 加藤は岡部の顔を覗き込んだ。


「いや、ずっと何か引っかかってて気持ちが悪かったんだが、さっき思い出したんだ。以前被害女性と話した事があったんだ……」















                                  続く…















次へ ↓




人気記事ランキング
目安箱バナー