チェンジ・ザ・ワールド☆
土屋10日目・No.2
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私のやんごとなき王子様
今日は実質の合宿の最終日。明日にはまたフェリーに乗って学園へと戻る事になっている。
大道具も大詰めで、皆必死に自分の担当と向き合っている。
「よしっ、ここまでにするか」
昼も過ぎた頃、担当の先生の声がかかる。
船に乗せて持ち運ぶ為に絵具を乾かす必要があるので、今日は今までの微調整くらいしかやりようがないのだ。
全体的なバランスを見た先生が、キリが良いと踏んで早めに切り上げる事にしたのだろう。
「はーっ」
「やったぁ」
「終わった~」
「まだ学園戻ってからやる事あるだろ~」
口々に皆が安堵の言葉を漏らしていく。
私も何とか形になっている事に心底ほっとしていた。
「君」
明日の準備を済ませた子達から部屋を出ていく。私も自室に戻ろうとした時、土屋君に声をかけられた。
「なぁに?」
歩みを止めた私に近付くと、土屋君はいつもの尊大な態度で言い放った。
「今日は花火大会だね。後で迎えに行くよ」
「えぇ!?」
「それじゃ」
それだけ言うと、サッサと部屋を去って行ってしまう。
本当にペースを崩さない人だな……。
呆れながらも心のどこかで喜んでいる自分がいた。
土屋君と一緒に合宿最後の夜を過ごせる!
自然と笑みが零れる自分が可笑しくて、自室に戻ってからも私はにこにこしっぱなしだった。
夕食後、土屋君が約束通り部屋まで迎えに来てくれた。
さなぎはとっくに米倉君と出かけていなかったけど、私が土屋君と一緒に行くと言ったら「えー!? ‘あの’土屋君と? うわぁ」とか言いながら何とも言えない顔をしていた。もうっ、土屋君にも良い所がすごくいっぱいあるんだよって言いたかったけど、言わなかった。何となく自分の中にしまっておきたいような、一人占めしたいようなそんな気分だったから。
土屋君は私の前をさっさと歩く。その歩みについていくと、皆がいる海岸沿いから少し離れた小高い丘に到着した。
「ここなら人もいないし、花火も見やすそうだね」
「うん」
皆はここの存在に気付いていないらしく、まさに穴場スポットと行った感じ。
「あ、そろそろ始まりそう」
私がそう言い終わるのとほぼ同時に、近くの海面からシュルシュルと第一発目の花火が打ち上がった。
ドーーーン!!
大音響を響かせ、心臓の内側から体全体を振るわせるような振動が走り抜けた。
夜空に弾けた大きな色鮮やかな花火に、一斉に喝采が起こる。
「わあ……綺麗」
「へぇ……中々のものじゃないか」
素直じゃないなぁ、と思いながらも私は思わず笑みを零した。
土屋君がそんな私に視線を向ける。
花火に照らされたその顔は、彫刻みたいに整っている。
「凄い迫力だね」
「この音を絵で表現するには……」
土屋君は夢中で夜空を見上げている。
こういう所が、最近では本当に愛おしく思える。
最初の頃は「あーまた世界に浸っちゃってる」って思ってウンザリしたのに、人を好きになるって本当に不思議だ。
だってその人の全てを、こんな風に好ましく受け止められるんだもの。
次々と重力に逆らって空へと投げ出されて行く火の花――見ていると全てを忘れそうになる。ずっとこのままこうしていられたらいいのに。
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