チェンジ・ザ・ワールド☆

Confusion.3

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Confusion












 今オレの目の前にはガキの頃からの知り合いで、そのガキの頃からずっと好きな女、弥永桂(やなが けい)が座っている。

 親の仕事の都合で中学生の途中にアメリカに引っ越し、高校受験に合わせて日本に帰ってきた。

 桂の父親と俺の父親が子どもの頃からの友達で、家も近所だったという繋がりのおかげでオレと桂も産まれた時からずっと一緒にいる。というか、今は実はオレの家に一緒に暮らしている。桂の両親は仕事の都合でまだアメリカから帰って来られないのだ。

 それが周囲にバレると色々と面倒だから住んでいる事は内緒にしてある。まあ、普通年頃の他人の男女が一つ屋根の下に暮らしてるなんて、危ないもんな。

 そんな訳で一緒にいるが、同級生なのは偶然で互いの両親は驚いたらしい。どうやら父親二人は勝手に俺達を結婚させようと盛り上がっているようだ。まあ、オレとしてはそれは願ったり叶ったりなのだが、桂は全くその気は無いらしい。というか、そんな事実知らないらしいのが悲しい。

 つい先日もシニア時代の知り合いに会いに武蔵野第一高校くんだりまで出向いていたし……

 っつーか、あいつにだけは絶対に桂が女だって知られたくなかったのに。

 女だということを隠してシニアで野球をしていた訳ではなかったが、途中から入ってきたやさぐれ男から桂を守りたかった。ピッチャーとしてのセンスも度胸も投げる球もそこらのレベルじゃないあいつは、性格も最悪だった。特に我の強い俺みたいなキャッチャーとは馬が合うはずもない。

 バッテリーを組まされた時は心の底から嫌だったが、監督に言われて仕方なくやってやってた。だってあいつの球を取れるのがオレしかいなかったし、あいつと組めればレギュラーは確実だったから。

 桂はそんなあいつに普通に話しかけては煙たがられていたみたいだが、それでも特に気にすることはなかったようだ。桂ののんびりした性格が幸いしたのだろう。気付けば桂よりあいつの方が桂を気にしはじめていた。それでもあいつは馬鹿だから桂が女だとは最後まで気付かなかったみたいだが。

 抜群の野球センスを持った桂はシニアでも4番だったし、アメリカでも野球チームに入って活躍していた。

 オレの心配はずっと絶えなかったが、取りあえず同じ高校を受験することで一安心となった。

 桂はアメリカでの成績が優秀だったおかげで高校は推薦ですでに入学が決まっていた。そして今はオレの受験の追い込みの手伝いをしてくれている。


「隆也、明日の試験私も一緒に行くからね」

「は? いいよ、来なくて」

「なんで?」

「来てどうすんだよ。試験の間暇だろ?」

「私が付いて行ったら邪魔?」


 そんな悲しそうな顔されたら駄目だなんて強く言えなくなるだろ。

 しゅんとする桂に心の中でため息を吐く。


「ーーー受験に関係ない奴は入れないんじゃないのか?」

「あ、そうか……じゃあ大人しく待ってる」

「間違っても榛名の所には行くなよ」

「なんで?」

「なんででも」


 オレは榛名のあの顔を思い出してピクリとこめかみをひく付かせる。

 悔しいが榛名はカッコいい。それに榛名にはこの間桂が女だとバレてしまってるから、側に置いておくのは危険だとオレの何かが訴えているのだ。

 絶対桂の事を気に入っているに違いないんだ。最近頻繁にメールをしているみたいだし。くそっ。


「でも練習の邪魔したりしないよ?」

「バカか、お前は」


 そういう問題ではないのだが、桂にはもう少し身の危険を感じてもらわねばならないようだ。

 オレは桂の腕をいきなり掴んだ。


「えっ?」


 驚く桂を力任せに引き寄せ、そのまま床に押し倒す。


「いたっ! ちょっと隆也痛いよ」

「お前はもう少し危機感を持てよな」

「危機感?」


 オレに覆い被さられるような格好になっているにもかかわらず、桂はきょとんと不思議そうな顔でオレを見上げている。

 このやろっ……可愛いんだよ。

 少し桂に顔を近づける。


「お前は女なんだから、男と二人きりになったら危ないって事だ」

「榛名君が危ないって事?」

「……まあ、そういう事だ」


 オレのことは完全に眼中にないその発言に、オレは力なく桂の上に体を預けた。


「うっ……隆也、重い……」


 悲しいがこんなことをやっても拒否られないのは、幼なじみの特権だとありがたく受け止めることにする。しばらく桂の柔らかい体を堪能し、ゆっくりと体を起こして桂を座らせる。


「ーーーお前なあ、もしオレがあのままお前の事襲ったらどうするんだよ?」


「え? 隆也、私の事襲うの?」


 また驚いた顔で言う桂に、オレは目頭を抑えた。


「いやごめん。オレが悪かった……」


 こいつがオレの事好きになってくれたらいいのに。本当に何度そう思った事か。

 ただでさえ望み薄なのに、榛名と会ってからの桂は楽しそうでオレはずっと落ち着かない。だから、なんとしてでも榛名から桂を遠ざけなくてはいけない。

 それがオレの使命だ。







                  続く…




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