チェンジ・ザ・ワールド☆

act.7(白波瀬)

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streetpoint

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就職難民 黙って俺についてこい!










 「―――おい。いい加減に人のスーツから手を離せ」


 モデルさんたちによるデモンストレーションが終わり、次は各メーカーによる商品説明が始まろうとしていた。

 私は、最初ほど緊張はしていなかったものの、これからこの大勢の人の前で話さなきゃいけないのかと考えると、もう、今にも倒れそうになっちゃって、社長のスーツの裾を掴んで放せなくなっていた。


「だって、社長」

「情けない声を出すな。お前は本当に成長しないな」

「女性に対してそんな言い方はないんじゃないかな? 御影山」


 また社長に怒られた所で、聞き覚えのある声が社長の向こう側から聞こえてきた。

 この声はまさか……。


「いつから偉そうに俺に意見が言えるようになったんだ? 白波瀬」

「……えっ!?」


 嘘、白波瀬さんっ!? 私が慌てて社長の影から飛び出すと、そこには見慣れた男性がいつも通りの笑みを浮かべていた。


「物心ついたときから、かな?」


 微笑んだままそう答えた白波瀬さんに、社長は小さく舌打ちをした。


「しっ、白波瀬さんっ!!」

「こんばんは、葉月さん」


 優しく声をかけてくれる白波瀬さんに会えた驚きと嬉しさで、彼に向って駆け寄ろうとした私の腕を、社長が掴んで引っ張られてしまった。


「痛っ」

「―――おい、どういう事だ? 何故白波瀬がうちの葉月を知っている?」

「まだ美成堂の社員じゃないだろ? 葉月さんとは、偶然知り合ったんだ。何度も食事に行ったし、美成堂の新製品についても教えてもらった。本当にありがとう、葉月さん。とっても助かったよ」

「えっ? えっ?」


 一体どういうこと? 白波瀬さんは何を言っているの?


「おい、葉月!」

「はいっ!?」

「お前、この男にグロスの話しをしたのか!?」

「は、い……」

「っ……。どういうつもりだ? お前、そこまでしてうちに勝ちたいのか?」

「そこまでして? 別に僕は卑怯な事をした覚えはないんだけどな。葉月さんと楽しく食事をしたりして、仲良くお喋りしてただけだよ。おっと……御影山、そう怖い顔するなよ。僕はあくまでも、会話の中で偶然にも手に入れられた情報を活用させてもらっただけ。そんな風に睨まれる覚えはないんだけどな」

「はっ! そう言う事か、うちの情報が秀麗に漏れてたのは、葉月からだった。という事か」

「ええええっっっっ!?」


 何で!? どうして!? 私の所為? 私の所為なの!?


「葉月さん、ごめんね。……騙すつもりじゃなかったんだけど」

「こいつは秀麗の社長、白波瀬陽だ」

「しゅっ、秀麗の社長っ!?」


 嘘よ! だって、白波瀬さん、美成堂より弱小だって……あれって、私から情報を聞き出す為の嘘? 優しくしてくれたり励ましてくれたりしたのも、全部嘘だったの?

 どうしよう。もう、全然頭が追いつかないよ……!


『間もなく商品説明会が始まります。各社は――――』


 司会の人のスピーカーからの音声が、耳の中を素通りしていく。視界はまるで何かで殴られたかのように、ぐらぐらと揺れている。こんな、こんな事って……!


「葉月、おい、葉月!」


 社長が私の肩を揺すっている。はっとして視線を上げると、社長が心配そうな顔で私を見ていた。


「アナウンスが聞こえなかったのか? 商品説明会が始まる。行くぞ」

「は、はい!」


 白波瀬さんを無視して歩きだした社長の背を、私は必死で追いかけた。そうだ、まだ仕事が残っている。最後までやるって決めたんだから!

 ちらりと後ろに視線をやると、白波瀬さんはまだこちらを見つめていた。その姿はどこか諦めたような、そんな風に見えた。

 白波瀬さん、どうして……。




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