チェンジ・ザ・ワールド☆

Confusion.1

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Confusion












辛いなら辛いって、言えばいいんじゃない?




中2のあの頃、俺は間違いなくものすごく駄目で嫌な奴だった。

そんな俺を、あいつはたった一言で救い出してくれたんだーーーー



膝の半月板を痛めた俺を、監督は無視し続けた。それまでは違和感があるといくら言っても聞き入れずに使い続けたくせに、故障したと分かった途端にまるで存在しない人間のように俺を扱った。

やり場の無い怒り。

周囲と引き離されてしまうような疎外感。

もうこのまま野球が出来なくなってしまうのではという絶望感。

そして何度も襲って来る不安。

そんな時、部の仲間はシニアチームに行くように勧めてくれた。

最初は乗り気ではなかったし腐っていた俺は、当然のごとくシニアでも嫌われていた。

成長することを見越して絶対に無理はしないと決め、投げる球数も80球と制限した。

それを生意気だと言って文句を言って来る奴らなんて山ほどいたが、俺の目標はプロなんだ。

今無理をして夢を棒に振るくらいなら、文句もいじめも耐えられる。

そんな折、初めて会った時のあいつの印象は


『なよなよしてて女みたいな奴』


それは一緒に練習してる時も試合している時も一年後も変わらなかったんだが、驚いた事にそいつは面白いくらいにバッティングが上手かった。

一つ年下で、俺とバッテリーを組む事になった阿部隆也の幼なじみ。

身長の割に線が細くて、その体でどうやったらそんなスイングが出来るんだってくらい、あいつはボールを遠くへ飛ばしていた。

そんなあいつが、シニアに入ってすぐの頃、チームに馴染もうとしない俺に向かって突然言った。


「榛名君。膝、怪我してたの?」

「……は? お前に関係ないだろ」

「あ、ごめん、そうだよね……でも、辛い時は辛いって言っていいんじゃないかな」


俺は驚いた。怪我の事は監督しか知らなかったはずだし、ましてやチームの連中になど話した事はなかったから、あいつが言った言葉全部が俺を驚かせた。

誰も俺にそんなストレートな言葉をかけたやつはいなかった。

怪我を知っている奴らでも、無理しなくていいよ。とか、お前なら大丈夫。とか、いつか分かってもらえるって。と言った腫れ物を触るような優しい言葉はたくさんくれた。

今考えたらその言葉も嬉しかったんだが、あいつの言葉はそんなんじゃなかった。

俺の心の奥底を、まるで覗いているみたいに淀みなく言ったんだ。

真っすぐな目で俺を見て。


「ーーーお前、何言ってんの?」

「本当は優しいのに、わざと冷たい言い方とかするよね。野球、皆でやりたいくせに、一人になるような態度取ったり……それも本当は辛いんでしょ?」


俺はそれ以上文句も否定の言葉も出せなかった。

あいつの言ってる事は全部当たってたから。

胸元ぎりぎりを、見たこともない豪速球が通過して行く恐怖にも似た感覚。

無視するようにあいつから目を逸らしてスパイクの紐を結ぶ俺に、あいつが微笑んで言った。

女みたいな顔で……


「ねえ、勝負しない?」











あの日、俺はあいつに完敗した。

最高のコースへと俺の手を離れた渾身のストレートは、グランドのフェンスの向こうへと消えて行った。


それから約1年後、あいつは親の仕事の都合でアメリカに行ってしまった。












「元気してんのかなーーー」


高校1年ももうすぐ終わる冬、俺は所属している武蔵野第一高校のグランドで練習に励んでいた。

やりたかった部活。あいつが背中を押してくれたからこそ手に入れる事が出来た。

今、この姿を見せて笑ってありがとうって言いたい。


ーーーなんだ?


グランドを走っていた俺は、グランドの入り口付近が妙に騒がしい事に気付いた。

何人かの人だかりが出来ていて、楽しそうに話している。って言っても反対側を走っている俺には会話までは聞こえないんだが、集まっている数人を2年マネージャーの宮下先輩が怒鳴って散らしている。

宮下先輩は可愛いんだけど、怒ると怖い。


え? 俺?


その宮下先輩が大きく手招きして、俺の名前を叫んでいる。何事かと急いでそっちへ向かうと、すれ違い様先輩達に


「おい、榛名! 絶対後で紹介しろよ!」

「信じらんねー! あ~んな美人と友達なんて、羨ましいよな~」


などと小突かれた。

増々訳が分からない俺は、取りあえず宮下先輩が立っているフェンスへと急ぐ。


ドキッ……


入り口のすぐ横のフェンスの向こうに、スラリとしたスタイルの良い女の子が立っていた。しかも、信じられないくらいとびきりの美少女だ。

あまりの可愛さに、俺は知らず顔が赤くなる。


「榛名君」


その美人がとびきりの笑顔で俺の名前を呼んだ。


「え?」


今、間違いなく俺の名前呼んだよな? え? ちょっと待て。俺知り合いにこんな美人いないけど……

吃驚して目を丸くさせている俺のところへ、宮下先輩が寄って来た。


「榛名、あんたに客だよ」

「客って……」


俺は辺りを見回す。が、その子以外に客は見当たらない。

やっぱりこの子?


「ちょ、ちょっと待ってください。俺、こんな子知らないっすよ!」


慌てて手と首を振ると、宮下先輩が眉をしかめた。


「え? だってさっき話聞いた時に1年半くらい前、同じチームだったってーーー」


同じチーム? 1年半前? 中学の時のマネージャーはこんな美人じゃなかったぞ? それともあいつがこの1年半でこんなに変わったのか? いやありえない。この間まで学校一緒だったじゃねえかよ。どうみても別人だって。

俺が全く分からないと言った表情をしていた所為か、宮下先輩がああと小さく言ってその子の側へと戻って行った。


「榛名あなたの事知らないって言ってるみたいだけど、もしかして追っかけとか? そういうの、困るのよ。嘘吐いてまで来られると練習の邪魔になるんで、帰ってもらっていい?」


なっ! なんてもったいな……いや、失礼な事を言うんですかっ!?

俺は慌てて二人の元へ走った。


「えっ、いや、嘘は吐いてません……榛名君、本当に覚えてないの?」


悲しそうな顔で俺を見上げる女の子に、俺はものすごい罪悪感を感じた。


「ご、ごめん。マジで思い出せないんだけど、本当に俺、あんたの事知ってる?」

「……本当に覚えてないんだ。随分会ってなかったしね。やっぱり隆也とも連絡取ってなかったの?」


タカヤ? 


「本当は連絡取りたかったんだけど、隆也が榛名君は忙しいから連絡すると迷惑がかかるって言って、ずっと出来なかったんだ」


ま……まさかーーー


「やっと日本に帰って来れたから、どうしても一度顔を見たくって。いきなり来たりして迷惑だったよね」


ーーーやっぱりそうなのか? だって、


だって…………


「う、嘘……だろ? だって、お前ーーー」


俺はあまりの衝撃に、瞬きすることすら忘れてしまっていた。

体が何故か震えている。

無意識のうちに口から出た名前。


「ーーー弥永、桂」

「あっ、うん! 良かった、思い出してくれたんだ!」


信じられない。俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。


「えっ? 大丈夫、榛名っ?」


宮下先輩が驚いて俺の肩を揺さぶる。


大丈夫じゃない。


だって俺は、ずっとずっとーーーーーー





桂は男だと思っていたんだ!!!!!!





ーーーーあれ? ちょっと待てよ。


ガバッと起き上がり、桂の前のフェンスを掴む。


「お前男だよなっ!?」

「ええっ!?」


驚いて声を上げたのは宮下先輩。桂はぽかんと口を開けて俺を見上げている。

ちくしょう、そんな顔もめちゃくちゃ可愛いじゃねえかよ!


「あれ? えっ? もしかして、女って、知らなかった……の?」


やっぱり女なのかっ!


「だって誰もお前の事女だなんて言わなかったし、第一お前あんなにアホみたいにホームラン打ったりヒット打ったりしてたじゃないかよ! 隆也の奴だってそんなの一言も…………あっ!!」


俺はそこまで言って、ふとある事を思い出した。

昔隆也に、桂のしゃべり方とか顔が女みたいでムカつくと言った時、あいつ人をバカにしたような顔で笑いやがった。

あの時は心が狭い奴だとバカにされたんだと思ったが、今思えばあれは俺だけ知らない事をバカにしてたんだ。


「くっそ~、隆也の奴っ!」

「ごめんね、まさか知らなかったなんて、知らなくて……あ、あのね、部活終わるまで待ってるから、後で少し話そうよ」


謝る顔も可愛いなーーーなんてバカか、俺は。


「分かった、絶対にそこから動くなよ」

「え? トイレに行きたくなったら?」


素でぼける桂に、シニア時代を思い出して懐かしくなった。

そういえばこいつ、天然だったな。


「そこにいる宮下先輩に連れて行ってもらえ」

「あ、うん、分かった」

「それじゃ、こいつの事よろしくお願いします」


その日の練習は、いつにも増して部員全員の気合いが入っていたのは言うまでもない。










                               続く…







とりあえずここまで読んでくださってありがとうございます。
結構前に書いてたんですけど、榛名がちょっといいヤツ仕様になってます(笑)
おおふり大好きなんですけど、一番は何と言っても花井です!!!
次がこの榛名で、その次が阿部ですかねー。
ちなみにヒロインの名前は弥永桂(やながけい)ちゃんです。
阿部とのお話はそのうち・・・
それでは、また!





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