チェンジ・ザ・ワールド☆

An angel〜.4

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An angel's drop








 その場にいる事がとても辛くてどうしようもなかった晶は、真っ直ぐに家に帰る事なくショッピングモールをぐるぐると散策していた。

 家に帰れば、きっと余計な事ばかりを考えてしまうのではないかと感じ、わざと家とは逆方向を歩き、遠回りして家に帰るつもりだった。

 ショッピングモールはただ歩いているだけで周りが賑やかで、滅入った気分も少しは晴れていくような気がする。

 しばらく歩いているとコスメショップのショーウインドーの前で録画された今流行の天使のリップのCMが放送されていた。

 良恵も人気でかなり売れているのだと晶に自分のリップを自慢するかのように貸してあげると言っていた。

 それもそのはずだった。

 この流行のリップはなんと5リッチもするのだ。

 晶が親に貰ってる小遣いの半分がリップ一本分の値段というわけなのだ。


「カワイイなぁ。でも高いなぁ」


 今の声は晶ではなく、晶の隣で目を輝かせながらリップのCMを見ていた、晶と同じくらいの年齢の女の子の声だ。

 茶色い髪色のボブカットの真っ直ぐな髪に、くりっとした瞳、柔らかそうな唇。

 そして何より背が高くスタイルも抜群。

 同性の晶でも思わず見入ってしまうようなそんな可愛らしい女の子だ。


「あなたもそう思わない? カワイイけど高過ぎるよね」

「え? あ、はい」


 初対面で彼女に話し掛けたが、馴々しいとか不思議と嫌らしいような気持ちにはならなかった。

 きっと彼女がとても人懐っこそうで、初対面の人にも優しく微笑むからだと晶はそう思う。


「テルたんにお願いしようかなぁ」


 とても物欲しそうに見ているので、思わず晶が代わりに買ってあげたくなるようなそんな可愛らしい仕草をする。

 自分も天地の前でこんな可愛らしい女の子になれればいいのにと思ってしまう。


「こらっ! どこに行ってたんだよ、お前は」

「イタッ」


 急に彼氏らしき人が現れ、女の子にいきなりチョップしていた。

 本当に急だったので晶は呆然として二人を眺めていた。


「何かあったんじゃないかってめちゃめちゃ探したんだぞ。勝手にどっかに行ったりするなよ、心配するじゃん」

「だってテルたんがいつまでもトイレから戻らないから退屈だったんだもん」

「退屈って言っても、ものの1~2分だろ。少しは我慢しろよ。ていうか恋するリップなんてのジーッと見つめて、まさかコレを買う気じゃないだろうな?」

「うーん、実は迷ってるの」

「いらねえだろ、金の無駄だ。こんなの」

「だって恋するリップだよ!? リップなのに恋しちゃうんだよ?」

「意味分かんないこと言うな」

「乙女心が分かんないなあ、テルたんはっ!」

「やかましい、人前でその呼び方やめろ! 恥ずかしいんだよ!」


 二人の漫才のような会話を聞いていて、晶は思わずクスクスと笑ってしまった。

 今この瞬間だけでも、天地の事を考えずに済んだ事に二人に感謝した。


「佐野先輩! 佐伯先輩!」


 声のする方向に振り向くと、なんとそこにいるはずのない天地がにこにこしながら駆け寄ってきた。

 晶は思わず凍り付いてしまい、天地を見れなかった。










 今までそばにいた漫才カップルは天地の知り合いだった。

 というよりも、この人達はもしかしなくても例のあの二人じゃないかとピンときた。

 元はね学プリンスの佐伯瑛と天地が仲良かった先輩という人ではないかとそう感じた。

 晶の事も気にするかようにちらりと天地は目線をずらしてこちらを見たが、すぐにまた二人に視線を戻した。


「奇遇ですね。お二人でデートですか?」

「俺達付き合ってんだし、当然だろ」

「ちょっとテルたん、絡まないのっ」


 佐野は佐伯に茶化さないように注意するが、そんな事はお互いに聞く耳持たない様子だった。

 どうやら二人は犬猿の仲のようだ。

 わざわざ説明を入れなくても、二人の間には充分過ぎる程の異様な空気をバシバシ感じていた。


「そうですよね。わぁ、この赤色のリップ、佐野先輩に似合いそうですね」

「さすが翔太! 翔太は昔から流行に敏感よね。好み分かってるぅ」

「いや、佐野先輩に似合いそうだなって直感でそう思っただけですよ」

「香奈はどっちの味方なんだよ」

「えへへ、今は翔太」

「彼氏なんですから、佐野先輩にプレゼントしてあげたらどうですか? 僕なら絶対そうしてますよ」

「そうだ、そうだー。彼氏ならプレゼントしてよー。テルたんの前でだけオシャレにしていたいって思ってるのにさぁ」


 すると佐伯は少し顔を赤らめるようにして、ごまかすように咳払いをした。

 どうやら佐野の言葉に反応を示したようだ。


「香奈には赤よりピンクの方が似合うんだよ。だからこっちなら買ってやる」

「やったー」

「晶ちゃんは持ってるの? 天使のリップ。晶ちゃんにもピンクが似合うんじゃないかな?」


 急にこちらに話題を振られ、晶は何も答えられなかった。

 こんなに仲の良さそうに話をしている天地達を見ていると、なぜだか気を使ってしまうのだ。


「翔太の彼女、あきらちゃんっていうんだね。カーワイイ。二人並んでるととってもお似合いだよ」

「あの、私は…」


 晶が二人の誤解を解こうとすると、急に天地がハハハ! と大声で笑い飛ばした。


「そうですかぁ? そんな風に言われると照れますね。ねぇ晶ちゃん?」

「えっ? あ、えっ?」


 晶はわけが分からなくなり頭が混乱していた。

 だけど天地は晶に話を合わすように促すような目で見ている。


「………」


 下手に何かを言えば嘘だとバレてしまうような気がしたので、晶はあえて何も話さずに黙秘を続けた。

 それ以前に、晶の胸の内はなんだかもやもやしていて、佐野と天地が仲良くしているとそのもやもやがより一層強くなる様子だった。


「晶ちゃん?」

「翔太がいきなり変な話題をふるからだよ」


 佐野が天地の事を『翔太』とそう呼ぶだけでなんだかだんだんともやもやがイライラへと変わろうとするのだ。


「天地先輩! 帰りましょう! お先に失礼します!」


 晶は天地の思惑を聞く事もなく、三人から背を向けて歩き出した。


「ちょ、ちょっと晶ちゃん!? 急にどうしたの!? 晶ちゃん!」


 天地は晶の名前を叫びながら急ぐように逃げる晶を追い掛けて行った。







                    続く…



(えりさんが全面的に書いてくださった所は修正は加えていません)



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