チェンジ・ザ・ワールド☆

act.12(春日)

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就職難民 黙って俺についてこい!










 春日さんの病院へ戻って来た。

 けど、何だか足が重たい。

 目の前の扉を一瞥し、すうっと息を吸い込んでノックする。


「はい」


 と春日さんの返事が聞こえ、ゆっくりと病室に入った。


「気分はどうですか?」

「―――あんたの顔見るまではそこそこ良かったけど」

「そうですか……」


 くっ、ムカつく……


「で? 仕事はどうなったの?」

「あ、はい。無事に契約取りました。うちの製品を大々的に売り出してくれるそうです」


 ―――あれ? 何か言われると思ったけど、何も無し?

 じっと春日さんの顔を見つめていると、しばらく黙っていた春日さんがいきなり顔を上げて目を丸くさせた。


「ほ、本当に?」

「はい、頑張りました!」


 やった、びっくりしてる。そりゃそうよね、なんせ私自身一番びっくりしたんだもん。


「―――あんた」

「はい?」

「その書類見せて」

「あ、はい」


 まだ信じられないのかしら? まあ、無理も無いけど、もう少し私の事信じてくれてもいいと思うのは私だけ?

 パラパラと書類をめくり、内容を確認すると、春日さんはページをめくる手を止めて深いため息を吐いた。


「あの、何かまずかったですか?」


 私の問いにも無言で書類を差し出して、バサリと布団を被って横になってしまった。

 何か失敗したの? もしかして……?

 ドキドキと緊張を走らせていると、春日さんがボソリと言った。


「よくやったんじゃない?」


 え……? 聞き間違い……じゃないよね? 今、『よくやった』って、春日さん言った―――

 嘘、初めて褒められた!!!


「あっ、ありがとうございます!!」


 思わず大きな声になる。


「うるさい。僕は休む……ああ、何か入院手続きしろって言われたけど、保険証家なんだよね。あんた持って来てよ」

「え? 私が? いいんですか?」

「他に暇な人間いないし、仕方ないからあんたに頼んでんの。適当に着替えも持って来て。……これ、僕のマンションの鍵。住所はそこにメモしておいたから、よろしく」

「はい……」


 てっきり“あんたにだけは頼まない”とか言われると思ってたから、私は拍子抜けした。


「それじゃあ、行ってきます」


 無言でもう何も言ってくれない春日さんの病室から出て、私はマンションへと急いだ。
















 すごく綺麗なマンションで、部屋もきちんと片付けられている。男の人の一人暮らしにしては広過ぎる気がするけど、窓からの眺めがとても綺麗だ。


「すごいなあ、こんな高級マンションに住めるくらい、稼いでるんだ。テーブルもちょっとアンティークっぽいし、本棚とか机もセンス良い感じ。台所も広くて片付いてるっぽいし、すご〜い。彼女さんきっとすごくマメな人なのね……おっと、保険証と着替えっと」


 メモに書いてある引き出しに保険証を見つけ、次は申し訳なく思いながら着替えをバッグに詰める。

 男の人の下着に触るなんて、お父さん以外で初めてだよ。うう、何か見ちゃいけないのに見てしまう……お父さんのと違ってお洒落なんだなあ。今度お父さんにお洒落なパンツプレゼントしてあげよう。

 ―――あ〜もう! 何でこんなにやらなきゃいけない事から脱線しまくってるのよ!!

 春日さんの彼女さんって、どんな人なんだろ? 春日さんが可愛らしい顔立ちだから、お人形さんみたいにふわふわ柔らかそうな人かな? それともバリバリ仕事をこなして春日さんとも対等に戦うようなキャリアウーマンみたいな人かな? ――まあ、間違いなく面食いだろうから、彼女さんは美人に違いないわね。


 ……なんで私自分で考えててちょっと傷ついてるの? べ、別に春日さんはただの上司で、私の事を邪魔者の虫けらくらいにしか思ってないのに。そりゃあ確かに顔は可愛いし仕事もできるけど、無理無理無理! ……はっ!? ってか私のバカ!!


 突如浮かんだ思いを振り払うように、私はブンブン! と大げさに頭を降った。――ちょっとクラクラする。


「とにかく、早く病院行かなきゃ!」


 荷物をまとめ、私は急いで春日さんのマンションを出た。

 何だかあまり長居していると、余計に春日さんやまだ見ぬ春日さんの彼女の事とか、色々と考えて傷つきそうな気がした。









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