チェンジ・ザ・ワールド☆
波江7日目・No.2
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私のやんごとなき王子様
「小日向先輩すごいです!」
練習が終わり、食事当番である私は同じく当番である潤君と一緒にキッチンで野菜を切っていた。
潤君が褒めてくれたのは、私がたどたどしくもオディール役の台詞を言い切る事が出来たから。もちろん演技の出来なんて酷いものだったけど、医務室から戻って来た先生の話しではオディール役の彼女の具合はあまり良くないらしく、急遽船で病院へ行く事になったという。
おかげで私の代役が本当にそのまま採用になってしまい、危うく気絶しかけたんだけど……だけど途中で投げ出す訳にもいかないし、こんな風に潤君に笑顔で褒められて、それが何だかとっても嬉しいから頑張ろうかな、なんて思ってしまった。
「でも、全然上手く演技なんて出来てないし、やっと台詞が言えた程度だよ」
「そんな事ないですっ! 本当に凄くって……僕、少しだけ先輩を遠くに感じちゃったくらいです」
そう言った潤君は笑顔だったけど、少しだけ寂しそうに見えた。
「潤君……?」
「あ、全然変な意味じゃないんですよ!? 本当にすごく嬉しくて……えっと……オディール役だった先輩の事は凄く心配なんですけど、でも……こんな風に小日向先輩が認められるって言うのは、僕は心から嬉しくてえっと」
「ふふっ、有難う」
しどろもどろになりながら、必死に説明をしてくれる潤君が可愛らしくて、私は自然に顔がほころんだ。
「えっと、皮むきおえました!」
照れ隠しのように少し大きめな声で潤君が私にじゃがいもを手渡す。
今日私達が作るのは肉じゃが。全校生徒プラス先生の合計200人分の料理だから作る量がさすがに多い。私と潤君はじゃがいもの皮むきを今やっている。
「じゃあ次は食べやすい大きさにじゃがいもを切っていこうか」
「はい!」
二人で同じようなリズムでじゃがいもを切っていく。そのリズミカルな音が耳に心地良い。
「小日向先輩は料理はよくされるんですか?」
「お母さんのお手伝いをしたり、たまにお菓子焼いたりするくらいかなー。……って、潤君の方こそ手慣れてる感じがするけど、よく料理とかするの?」
均等に切られていくじゃがいもを見ながら私は尋ねた。
「僕は姉がいるんですけど、その姉に『これからの男は料理位できなきゃダメだ!』って言われて、よく母や姉の手伝いをしているんです」
そう言って可愛らしい笑顔を私に向ける。
「そっかぁ、それで。潤君ならいつでもお婿にいけるね」
「えぇ!? うわぁっ!」
私の発言に驚いた潤君が、派手にじゃがいもを転がした。
「じゅ、潤君!?」
「す、すみません~~!!」
調理台に転がったじゃがいもを拾う潤君の顔は、耳まで真っ赤だ。
私、そんな変な事言っちゃったかな?
「ご、ごめんね! 私、変な事言ったかな?」
「い、いえ! そ、そういう事じゃ……こ、これは僕の問題です!」
何がどう潤君の問題なのかはよく分からなかったけど、何だか楽しそう……ではあるかな?
ふふっ、こんな風に潤君と一緒に何かをするって本当にすっごく楽しいな。
微笑みながら目線を先にやると、亜里沙様の姿が視界に入った。彼女の周りには相変わらず取り巻きが何人もいて、亜里沙様が作業をしようとするのを阻止しているのが見えた。きっと危ないから座っていて下さい、とか言われてるんだろうな。
亜里沙様も皆と一緒に料理したり海で泳いだり、本当はやりたいんじゃないかって思う。だって私だったらたとえそれが仕事のためとはいえ、行動を制限されるなんて我慢出来ないもん。
普通の高校生らしく学校に行ってお洒落して、友達と遊んで恋をして―――
「桜先輩、大変ですよね」
私の視線の先に気づいた潤君が小さく零した。
「うん……私、少しでも力になれたらって思うけど……」
私も小さく答える。
「小日向先輩ならきっとなれますよ! オディール役として」
「そうかな?」
「そうですよ!」
潤君の励ましを受けると、なんだか力が湧いてくる気がする。
予想もしなかった出来事で急遽オディールという大役をすることになったけど、潤君もこうして応援してくれるし、あの亜里沙様が私を押してくれたのだし――私もそれに答えたい! だからしっかりご飯食べて、睡眠をとって、台詞をしっかり覚えなきゃ。ヘタクソには変わりないんだから、頑張ってせめて皆の足を引っ張らないように演じるんだ。
隣にいる潤君の心地よい声を聞きながら、私は今まで感じた事のない不思議な気持ちに胸を躍らせた。
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