チェンジ・ザ・ワールド☆

三島10日目・No.3

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私のやんごとなき王子様














「会長、ご一緒してもよろしいですか?」

「水原君……」


 水原さんは真っ直ぐに三島君を見つめていた。


「すまない、俺は小日向君と――」

「会長、お返事を聞かせて下さい」


 何かを言いかけた三島君の言葉を制するかのように、水原さんが声を被せた。


「……それは」


 三島君が何かを言おうとした瞬間、再び大きな花火が上がった。


 ドーーーン!!


 大きな音が鼓膜を揺らす。三島君がなんて言ったのかが聞き取れなかったけど、私がここにいてはいけない事だけは分かった。


「あ、私ちょっと向こう行ってるね」

「小日向君、問題無い。君もここに居てくれ」

「でも」


 戸惑う私を無視するかのように、水原さんが凛とした眼差しのまま口を開く。


「会長、私は会長の事が好きなんです。どうか私と……」

「水原君、すまない」


 水原さんの言葉を受けると、三島君は思いきり頭を下げた。


「三島君……」


 その真摯な姿勢に私は思わず目を奪われた。


「すまない、水原君。君の気持ちには答えられない」


 頭を下げたままの三島君がそう言うと、水原さんの瞳にみるみるうちに涙が溢れだしていく。その黒い瞳の中に幾筋もの光の花が咲いては散っていく。


「分かりました。会長、有難うございました」


 そう言うと水原さんもまた一礼をし、宿舎の方へと駆け出していく。


「三島君……!」


 とてつもなく動揺していた。水原さんが目の前で振られて、一体どうしたらいいのか分からない。


「すまない、小日向君。せっかくの花火だったのに」


 そんな事言いたいんじゃないよ。だって――


 三島君の思いと水原さんの思いが私の心の中で交錯する。

 私は……私の思いは……


「ごめっ……私、水原さんの事……見てくるね!」

「小日向君!」


 駆け出した私に三島君の声が投げられた。

 その声に追いつかれないように全力で大地を蹴りあげる。

 何をしているんだろう。何がしたいんだろう。

 三島君の思い、水原さんの思い――――その二つを考えると、そこに自分の思いを割り込ませる事なんて出来なかった。

 ただ――

 水原さんが心配だった。















「水原さんっ!」


 宿舎へ戻る途中の林道で、水原さんに追いつく事が出来た。声を掛けたものの、次に繋げる言葉が見つからない。

 私の呼びかけに足を止め、こちらを振り返った水原さんの表情はいつもと同じく凛としていた。


「どうかしましたか? 会長は?」

「えっ、あのっ……」


 口ごもる私に、水原さんは涙に濡れた瞳のまま微笑んだ。


「私を心配して下さったんですか?」

「その……」

「ふふっ」


 躊躇う私の肩を、そっと水原さんが叩いた。


「私なら大丈夫です。ですから会長の元へ戻って下さい。会長、ああ見えて今日の花火大会楽しみにしてたんですよ?」


 ああ……。

 水原さんの言葉に無意識のうちに私の頬を涙が伝った。

 この子は……本当に三島君だけを見て……三島君の幸せだけを願ってる……!


「水原……さん……」

「泣いてたら会長がまた悩んじゃうじゃないですか」


 そう言って私にそっとハンカチを差し出してくれた。


「ごめ……ありが……」


 そのハンカチを受け取って、溢れ出る涙を抑え込む。


「あ、ほら。会長だ」


 水原さんは私の背後に視線を向けると、もう一度微笑んだ。


「会長の事、よろしく頼みます」


 そう言うと、くるりと踵を向けて去っていく。

 肩に残った水原さんの温もりが、私の心を突き刺していく。


 水原さん……!


 私なんかより、あなたの方がずっと……!


「小日向君!」


 背後から三島君の声が聞こえると、私はもう一度だけ水原さんのハンカチで涙をぬぐった。

 水原さんの気持ちを無駄にしたくない。


「三島君」


 にっこりと笑顔を作って、私は彼の人に向って片手を上げた。

 花火はまだ――終わらない












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