真 恋姫†学園 序章『蜀』



この世界には正史と外史が存在する
正史とは本来のあるべき歴史の流れ
正史のうちにいる人物や集団の強い願いや想像などによって分岐した歴史が外史である

外史は主に分岐し続ける
外史のうちにいる要素によって外史もまた外史を創造することが可能だからだ

しかし、時に外史が同じ結論へとつながることがある

これは、一人の男によってかつて生まれたひとつの外史、そしてそこからさらに分岐した三つの外史が交錯した物語である










~外史『蜀』にて~







北郷一刀は悩んでいた
しかし、彼は蜀の太守として悩んでいたわけではなかった
魏や呉と協力関係を結び、火急の案件は目に見えて減った
愛紗や朱里などの優秀な補佐がいるのに加えて、激しい戦いや葛藤を乗り越えて桃香も成長の兆しが見え、正直なところ一刀がやるべき仕事は少なくなっていた

「う~ん、なにかが違うんだよなぁ…これじゃ全体の調和が乱れるし……」
「ご主人様」

「かといってここで逃げに転じたら新しいものは生まれないしなぁ……」
「……ご主人様」

「ああ、向こうの世界ならいっぱい資料はあるのになぁ……」
「……ご主人様?」

「ここはおもいきっt」
「ご主人様!!」

「うおわぁああ!!」

いきなりの大声に驚き、振り返るとそこには眉間にしわを寄せた鬼、いや愛紗がいた

「な に を なさっていたんですか?」
「い、いやぁ、あのね、町の住民からの要望で……」
「ほほぅ、それはそれは」

愛紗は疑わしそうな目で一刀を見ると、書簡の下にあわてて隠された紙を引っ張り出した

「……あ」
「…………この破廉恥な格好をした女性の絵のどこが住民からの要望なのですか?」

「えっと、その……」
「もちろん、満足のいく返答をいただけるのでしょうね?」

愛紗の額に今にも青筋がたちそうな勢いだ
周囲の空気が重く、冷たくなっていくのを一刀は感じた

「呉服屋のおっちゃんに頼まれてさ!!以前いくつか天界の服を教えたらなんか師匠って呼ばれるようになっちゃって、それで新しいのを……」
「ほほぅ、それはそれは。そのようなことをなさるほどのお暇があるのですから、もちろん先日お渡しした魏と呉との間の関税の案件や西方の警備の案件などは片付いていらっしゃるのですよね?」

わざとだろうか、丁寧な物腰や口調が余計に迫力を生んでいる

「ええっと、それは……あ、そうだ、俺朱里にその件で相談があったんだった。急がなきゃ……」
「ご主人様!!」

一刀は脱兎のごとく逃げ出した

「はぁ、はぁ、やっばいなぁ、すっかり夢中になって忘れてた…なんていったらすげぇ怒られるよなぁ……」

後ろから愛紗の自分を呼ぶ声が聞こえてきて、身震いをした
とにかく逃げようと通路の角を曲がったところで愛紗と鉢合わせてしまった

「見つけました!!覚悟なさい、ご主人様!!」
「うわぁ、ごめんなさい!!」

一刀はとにかく逃げること、この場から離れられることを強く願った

その瞬間、淡い黄色の光が一刀を包みこみ………そのまま一刀とともに消えてしまった




「え!?」

愛紗は驚愕した
目の前から一人の人間がいなくなった、それも自分の最愛の人が
彼女は狼狽しながらも、事態を把握するべく皆を呼んだ













「それでは、皆さんそろったようなので会議を始めます」
王座で桃香はそう宣言した
しかし、焦燥と不安の色を隠せないでいた

「ふむ、主殿が仕事をおさぼりになっているのを愛紗が見つけ、注意しようとしたところ、主殿が逃亡を図り、そのまま消えてしまったということでいいですかな?」
「愛紗が怖くて隠れているのに違いないのだ!」

静まり返って重くなっている雰囲気を軽くするべく、鈴々が冗談を言うが虚しく響くのみだった。

「……概ねは合っている。しかし、ただ消えたというわけではない」
愛紗はこの数時間ですっかりやつれたように見えた
それほど自分を責めて、そして精神的に不安定になっていた

桃香はそんな愛紗を見て、励ますことも出来ない自分を歯がゆく思っていた


「……光」
「光?」

愛紗がポツリとつぶやいた単語に皆が疑問を持った

「そう、光だ。ご主人様はどこからともなく現れた光に包み込まれてそのまま……まるで元から居なかったかのように消えてしまった……」
「うへ、嘘だろう?そんなことがあってたまるかよぉ」
翠が思わずぼやいた
それほどまでに現実味のない話だった

「……ご主人様がこちらに来たときと似ていますね」

朱里が顎に手を当てて考えを整理しながら話し始めた

「ご主人様が現れたときも突然でした。光が隕石のように落下してきて地表にぶつかったと思ったらご主人様が居ました」
「なるほど、となるとご主人様は別の世界に、もしかしたら元の世界に行ってしまったと考えられるわね」

紫苑が朱里の言葉をつないだ

「あわわ、そうだとしたら……」
「私たちにはどうにも出来ませんね」

桃香は厳しい現状を見つめ、そうつぶやいた

「じゃ、じゃぁどうするのだ!? ……お兄ちゃんとお別れだなんて鈴々、いやなのだ!!」
「それは私たちも一緒だ!!うろたえるな!!」

涙の混じった声で喚く鈴々を愛紗が諌めた
しかし、彼女の声も涙が混じっており、お世辞にも落ち着いているようには聞こえなかった

歴代の武将たちもなすすべもなく、或るものは必死に考えをめぐらせ、或るものは嘆き、また或るものはほかの武将を気遣っていた。
あたりの空気がこれまで以上に重く、冷たいものとなっていくのを誰もが感じていた。


そんな中、桃香がつぶやいた。

「……占い」
「え?」

皆が桃香の方を向いた

「ご主人様がいらっしゃったとき、占いで天の御使いが空からやってくるという占いがありました」
「そうか、占師なら何かわかるかもしれぬ!!」

皆が町に駆け出そうとしたところ、王の間の出口に一人の翁がいた。

「お若いの、そう慌てなさんなって」
その人物は立派なひげを生やし、釣り竿を肩に担いだ齢九十にもみえる老人だった

「な、貴様、どこから入った!!」
自分たちに気配を察することなく侵入していた老人に愛紗達は警戒した

「おぅおぅ、怖い怖い。こんな爺、何も出来やせんって」

愛紗が構えた青龍刀に臆することなく、ずけずけと中に入ってくると、桃香に言った



「天守さん、いいかい、今から言うことをよおっく聞いておくがえぇ。

強き願い、それが唯一の条件じゃ
強き願いの元、世界はその容貌を変え、時に時空すら飛び越えるじゃろう。

お主らが必要なのはそれだけじゃ」

「……強き願い…?」


「かっかっか、まぁそう悲観するなっちゅうことじゃて」

翁はそういい残すとくるりと反転し、ひょうひょうと去っていった
誰も翁をとがめられはしなかった
そうしてはならないような、不思議な雰囲気の持ち主だった

謎の翁の姿が消えると、場に漂っていた奇妙に張り詰めた空気が緩んだ
武将達は体の力が抜け、その場にへたり込んでしまった。

「な、なんだったんだ、今のは?」
「あの迫力、ただものではないな」

翠と星は自らの獲物で必死に体を支えながらつぶやいた
まるでこの世のものではないような、触れてはいけないものと邂逅してしまったと感じていた


「……もしかして、私達に助言をするためにきてくださったのかもしれませんね」
桃香がつぶやく


「……強き願い。 強く、強く、ご主人様に会いたいと私達が願えば、きっと……」

その言葉を契機に武将達は願った、自らの主に会うことを、最愛の人に会うことを








必死に祈る彼女達の周りで光がポゥっと灯り始めた

それはまるで逆さまに舞い落ちる雪のように頼りない光だった
しかし次第にその量を増していき、光の奔流となって彼女達の周りを渦巻き始めた

祈りからだけでなく、その光に耐え切れなくなり皆目をぎゅっと閉じた
収まることなく光はその量と速度を増していき、そしてひときわ大きく輝いたかと思った次の瞬間、嘘のように掻き消えた


そして残されたのは人ならざるものに荒らされた王の間の無残な姿だけだった




長らくお待たせいたしました、恋姫†学園更新いたしました。
無印版は設定など、忘れてしまった部分が多かったので新たに真恋姫無双を基準に書き始めました。
何分、プロットもなにも書かずに衝動のまま書き始めたので後の展開がどうなるのか、続けられるのか、ちゃんと終わらせることが出来るのかなどなど不安な点は多いですが、出来る限りがんばろうと思っています

2009/02/11


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最終更新:2009年03月04日 00:23