真・恋姫無双SS 『1人じゃないから』




「ご主人様に、お話があるの」
桃香にそう呼び出されて、一刀は邑の外れまで来ていた。
「皆の前じゃ話せない事なのか?」
桃香は下を向き、小さな声で呟いた。
「私・・・、ご主人様が嫌いになったの・・・、私事で・もう会・・わない・・・で」
「え?」
その嗚咽と涙で彩られた言葉の真意を汲み取れず、一刀は立ち尽くしていた。
袖口で涙を拭うと桃香は背を向けてゆっくりと歩き出した。
「ちょっおい!待てって!」
「触らないで!」
一刀が桃香の肩を掴むとそれが勢いよく振り払われた。
一瞬見えた桃香の顔は憎しみとも悲しみとも取れず、言うなれば嘆きと言った感じの表情だった。
振り払われた手と桃香の背中を一刀はただ見つめる事しか出来なかった。

「これで・・・良かったんだよね?」
桃香は自室で寝台に突っ伏しながら誰となく呟いた。
胸にあるのは自責と後悔の念、そしてほんの少しの安堵感だった。
「涙って枯れないんだな~、あんなに泣いたのに・・・」

「・・・人様、ご主人様!!」
耳元で大声をあげられ、一刀は飛び上がった。
「あぁ、ごめん、何か用?」
「何か用?ではありません!」
愛紗が怒り顔で仁王立ちしていた。
「今日までに治水工事の案件の書類を頼んでおいたはずですが?」
「ご、ごめんもうできるから」
慌てて机の上の筆を取ろうとして水差をひっくり返した。
「まったく、何をしているのですか・・・」
愛紗が呆れ半分で水差を拾う。
「桃香様といい、ご主人様といいどうしたのですか?」
「桃香?」
一刀はその言葉に過敏に反応してから、しまったと思った。
「何か、あったのですね?」
愛紗が詰め寄ってくる。
「実は・・・」
一刀は観念して事の顛末を話した。

「なるほど・・・、桃香様の真意が量れずといった所ですか」
「あぁ、俺が悪いにしても理由がわからない」
「桃香様の性格上、誰かを一方的に攻めたりする事は無いと思うのですが・・・」
「じゃあ桃香の方で何かを抱えてるのか?」
「恐らく・・・」
それを聞くや一刀は部屋を飛び出した。
「ご主人様!」
「書類は後で持ってく!」

一刀は桃香を探し回った、街中、行きつけの茶店、服屋。
そして、日も暮れ始めたころ桃香と最後の言葉を交わした邑の外れで泣いてる背中を見つけた。
「桃香・・・」
「私事で会わないって言ったでしょ」
「これは公務だ、国の仲間が苦しんでる理由を知る権利位はあるだろ?」
「ずるいよ・・・」
「ずるいかもな、でも全部一人で抱え込んで泣いてる桃香の方がずっとずるいよ」
桃香は夕焼けの空を見上げ口を開いた。
「私ね、怖いんだよ。世の中を平和にするって言ってもやってる事は戦争だし」
一刀も口を挟むことなく黙って桃香の話に耳を傾ける。
「もし、平和になっても私は犠牲になった人たちの人生を背負わなきゃいけないから。そんな重たいものを好きな人に持たせられるわけないよ」
「だから、俺を突き放したのか?」
「ご主人様はきっと支えてくれる、でも・・・」
一刀は桃香を後ろから強く抱きしめた。
「・・・たまには甘えてくれよ、辛かったら言ってくれよ、1人で泣かないでさ」
とうとう桃香が声を出して泣き始めた。
「愛紗だって鈴々だっているんだ。重たい荷物を丸投げするような奴らじゃないだろ?桃香は1人じゃないんだ」
「うん・・・、うん!」
涙でぐしゃぐしゃの笑顔で一刀に向き直り唇を重ねた。
「きつくなったらまた泣かせてね」
「お安い御用だ」
重なる二人の影が夕焼けに長く伸びていた。






  • 感動した!! -- 荻上 (2009-05-21 10:37:11)
  • 桃香には王としての覚悟が足りなさすぎると思う。他の二人だって背負ってるんだよ。 -- ヨシヲ (2009-06-08 23:40:02)
  • う~む…桃香って、結局無能なの? 蜀以外のルートだとウザい娘に見えて仕方がない -- 名無し (2010-01-25 01:00:19)
  • 魏の最後では案外芯のしっかりとしたところを見せていたと思うがな。 -- 名無しさん (2010-03-21 03:32:41)
  • 死ね -- . (2011-05-18 14:45:35)
  • ↑そんな言葉しか使えないお子ちゃまにはこのゲームは -- 名無しさん (2011-07-06 16:28:39)
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最終更新:2011年07月06日 16:28