真・恋姫無双SS 『思いは死せず』



夜、一刀は自分の寝台に近づく気配に目を覚ました。
まだボーっとする頭と耳で、気配の正体を探る。
(シャオか・・・?)
忍び込むような真似をする人間は呉の中には多くない、頭の中で候補を消していき、答えを出した。
(何かちょっかい出してきたら飛び起きて驚かしてやろう)
我ながら子供っぽいと思いながら、一刀は寝たふりした。
しかし、気配の主は一向に一刀に近づいてこなかった、それどころか手近な椅子に座りゆっくりと何かを飲んでいる。
匂いからそれは酒だと用意に知れた。
(祭さんが酔って自分の部屋と間違えたか?いや、明かりもつけずにってのはおかしい)
一刀は薄目を開け、その正体に目をやった。
そこにいた影に一刀は目を見開いて飛び起きた。
「なっ!?」
「あっ、起こしちゃった?ごめ~ん」
雪蓮が杯を片手に悪びれた様子もなく笑っている。
「な、なんで・・・」
「死んだはずだって?そんなのこっちが聞きたいわよ」
雪蓮がむぅと頬を膨らませる。
「折角、もう一度会えたんだからもっと言う事あるんじゃない?」
「いや・・・、だって」
会話をしているうちに段々と嬉しさと涙がこみ上げてくる。
「でもさ、俺のところより真っ先に行くところあるんじゃないのか?」
「・・・冥琳のところ?」
「そうだよ!蓮華だって喜ぶよ!!」
嬉しさのあまり、一刀は雪蓮の手を取ろうとする。
が、一刀の手は雪蓮の手をすり抜けた。
「え?」
「こういうこと、神様って残酷よね」
雪蓮は自嘲気味に笑う。
「こんなまま冥琳の所に行ったら、『こんな所で何をしてる』って怒られちゃうわよ」
そんな雪蓮の笑顔が一刀にはひどく痛々しく思えた。
「それに蓮華も、私に会ったら揺らいじゃいそうだし」
「だから、俺のとこに?」
「そ、だ~い好きな一刀のとこ」
そう言って、雪蓮は一刀を抱きしめる。
しかし一刀の体は雪蓮を認識していなかった、その現実が一刀の心を強く締め付けた。
「私ね、ずっとこうしたかったの」
一刀は俯いたまま耳を傾ける。
「孫呉の王だとか、そんなの関係なく好きな人を抱きしめたかった」
「ずるいよ・・・」
「え?」
「そうやって・・・、自分の・・事ば・かりで・・・」
溢れ出る涙と言葉を雪蓮は優しく受け止めた。
「ごめんね、でもこれが最後のわがままだから」
「そんな事言うなよ!!この国には・・・、皆には、俺には雪蓮が」
言いかけたところで雪蓮が目でその言葉を殺した。
「それ以上言わないでよ、未練が残っちゃう」
そう言ったところで雪蓮の体が淡く光だした。
「あ、時間切れかな?」
「待ってくれ!」
一刀は必死で手を伸ばす。
が、何も掴むことは出来ない。
「大好きよ、一刀・・・、冥琳達によろしくね」
淡い光の中に雪蓮の体が溶けてゆく。
最後の最後で雪蓮が見せた笑顔は生前に一刀が見たものより何倍も美しかった。

光の収まった部屋の中で一刀はただ一人立ち尽くしていた。
「畜生・・・」
ひどい虚脱感の中で一刀は寝台に倒れこんだ。
部屋を見回せば、先ほど雪蓮が飲んでいた酒瓶が目に付く。
「神様ってのは本当に残酷だよな・・・」
一刀は酒瓶を手に取り杯に注ぐ。
そして、それが自分と雪蓮を結ぶ最後の線の用にゆっくり杯を傾けた。
「辛・・・」
窓から見上げた空に浮かぶ月はいつもより明るく見えた。





  • いい作品です、質がいい(もっと呉希望) -- とびかげ (2009-06-17 21:08:38)
  • 泣けてくるです とてもいい作品でした -- 竜王 (2010-01-09 19:24:44)
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最終更新:2010年01月09日 19:24