真・恋姫†学園 序章『魏』







~外史『魏』にて~











華琳は書簡から目を離すと、ため息を漏らした
覇王にため息は似合わぬ、と自ら律していたが思わず漏れてしまった
そんな自分に苛立ちを覚える

昔に比べてため息の回数が増えたことを自覚していた
それは彼がいなくなったせいだということもまた自覚していた

北郷一刀、文字通り流星の如く現れ、そして彼女のすぐそばで雪のように消えてしまった最愛の人
華琳は彼が消えてしまったことを後悔するような、すばらしい国を作ることを約束した











それからもう一年が過ぎようとしていた

蜀や呉との軋轢は末端部分で残るものの、多くのものは戦争がなくなったことを喜び、この歴史の流れを歓迎した
彼女は覇王と呼ばれるようになり、望みは叶った
後はこの平和な世をいかにしてより良くし、長く持続させるかが課題だった

華琳にしか出来ない判断は減り、彼女は以前にはない平穏な時間を持てるようになった


望みはすべて叶い、彼女は幸せの絶頂にいる筈だった
しかし、今彼女は自室でため息をもらしている

彼女は自分の時間を持てるようになってしまったがために、一刀のことを考える時間が長くなってしまっていた
そのため、時折塞ぎこむことがあった




そんな自分達の主を見て、歯がゆく思っている武将達がいた
その最たるのが春蘭、秋蘭、桂花の三人だった
誰よりも華琳を崇拝し、彼女のために戦ってきた三人
そのため、華琳の心の穴を埋められない自分達が無力であることを感じていた

「北郷が悪いのだ、あやつはいったいどこにいったのだ!!」
春蘭が小声で、苛立ちを隠しきれずにつぶやく

「姉者、そう熱くなるな。華琳様の口から何も出ぬ以上、私達が勝手に詮索してよいことではない」
春蘭は冷静に姉を諌める
しかし彼女もまた一刀が消えたことに驚き、悲しんでいる者の一人だった

「まったく、あの下衆は消えて清々したかと思ったら華琳様に迷惑をかけて……」
桂花は華琳のことが心配で仕方がなかった

「……はぁ」
三人はふと顔を合わせると、同時にため息をついた





「心配してくれてありがとう、でも私は大丈夫だわ。仕事に戻りなさい」
三人が自分を心配して窺っているのに気づいていた華琳は声をかけた

「は、はい!!華琳様!!」
油断していた春蘭たちは驚き、慌てて室を後にした





部下達が消えたのを確認してから、彼女はつぶやいた
「駄目だわ、こんなのでは……」

部下に心配されるようでは覇王として失格だ
覇王は常に一番出なくてはならない

ぱんぱん
彼女は自らのほほを両手で軽く叩いた






「……さて、仕事に戻らなきゃ」
「おうおぅ、だいぶやつれたのぉ」
華琳が机に向かおうと背を向けたやいなや、扉の方から声をかけられた

バッと華琳が振り向くと、そこには扉にもたれ掛かった老人がいた
「あなたは……」

華琳は初対面であるはずの老人から目が離せなかった
なぜだろうか、記憶の奥底に何かが眠っていて出てこないような、奇妙な既視感を覚えた

「どこかであったかしら?」
「いんや、ここでのお前さんには会ったことがないのぉ」

老人の言い回しが引っかかった

「……ここでの?それはどういう意味かしら?」
「おぉっと、いけないいけない。まぁ口が滑ったものは仕方がないのぉ」

ものすごくわざとらしくとぼける老人に腹が立ってきた


「で?そのあった事のない不審者がこんなところに何の用かしら?」
しかし、華琳も覇王である
相手に対する不信感をおさえつつも、どうやって入ってきたか聞くのではなく相手の目的を探ることにした


「なぁに、お前さんの望むことを教えてやろうと思ってのぉ」
「あら、嬉しいわね。それは何かしら?」

華琳は訝しんだ
この老人は誰なのか、何の目的なのか、そしてなぜ自分にそのようなことを言うのか、すべてが分からなかった






「…いいかの?今から言うことを胸にきちっと収めなされ

歴史というものはの、糸ではないんじゃ。
一筋に流れているようでその実、いくつもの分岐があるのじゃ。
その分岐はの、簡単に生まれるものじゃよ。

人の行動、人の思想、人の感情、人の欲望など数え切れんほどの要素によって分岐し続けるのじゃ」






「……私が覇王にならない未来や彼が消えない未来もあるということ?」

「ああ、そうじゃ。
じゃが、それだけではない。

歴史というのは川みたいなものじゃ。
ぶっとい本流があっての、そっからいくつもの支流が分かれておる
じゃが、時に川は思いがけないところで合流するじゃろ?
それと同じことが歴史でも起こるんじゃ」





その言葉を聴いた瞬間、華琳はゾクッと背筋が凍るのを感じた
なにか途方もないことを聞いてしまった気がした

「……つまりそれは」
「そう。つまり、お前さんの望みはお前さんしだいだということじゃ」


老人はそういい残すと扉を開けて飄々と去っていた
華琳はしばらく動けずにいた




「……華琳様!!」
心配になって戻ってきた三人が呆然としている華琳を見つけて悲鳴を上げた

「……あら、三人ともいけない子ね。仕事をちゃんとしないと駄目じゃない」
「それどころではありません!!いったい何があったんですか!?」
春蘭は華琳の華奢な肩をつかみ、必死に訴える

「あら?会わなかったかしら、あの老人に?」
「老人?何のことです?……それから姉者、落ち着け」
秋蘭が春蘭を華琳から引き剥がしながら訝しげに言う

「……そう、仙人の類だったのかしら」
「華琳様?本当に大丈夫でしょうか?」
桂花が不安そうに尋ねる


「……ええ、もう大丈夫よ」
そう返した華琳の瞳には今までになかった、いや、かつての華琳の持っていた生き生きとした野望に燃える炎が灯っていた






「春蘭、秋蘭、桂花!」
「「「は!」」」

「国中、いや世界中から占者、術者を集めなさい!!」
「は、はい!……しかし何ででしょうか?」
そうたずねる桂花に、華琳は不適に笑って言った

「私は覇王曹操!!
運命なんてものには縛られないわ!
天命が私と一刀を引き離すのだとしたら、私は私の力でその天命を打ち砕くのみ!!」

主の本来の眩いばかりの自身に満ちた姿がそこにあった
三人はそれを愛おしく思い、そして同時に叫んだ

「「「 はい!!! 」」」


その瞬間、華琳の周りから神々しい光が溢れ出てきた
恐怖は感じなかった
むしろ、興奮に胸が高鳴っていた
そして一番それを感じていたのが華琳だった
彼女は根拠はなかったが確信した
この光は彼に繋がっていると








「待ってなさい、一刀!!今、会いに行くから!!」

華琳がそう叫んだと同時に光は濁流の如くあたりを渦巻き、そしてひときわ大きく輝いたかとおもうと、華琳たちを包み込み、そしてうそのように掻き消えた







後に残されたのは散らばった書簡と倒れた椅子、机のみだった



ども、礼流です。
魏編はだいぶ瀬領さんのSSに触発されています。
その瀬領さんのSSは明日にでも記載させていただく予定です。

さて、残るは呉編。
結構大変です。
真・恋姫では最初にクリアしたのが呉だったので、正直記憶があいまい(汗
とにかくがんばります。

2009/02/14

  • :春蘭は冷静に姉を諌める :
    ここの部分妹は秋蘭ですよね? -- @ (2009-07-29 21:59:08)
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最終更新:2009年07月29日 21:59