真・恋姫†学園 序章『呉』





~外史『呉』にて~








平和、その一言が良く似合う世の中になった

蜀と連合を結ぶことで魏を打ち下し、天下は蜀と呉で二分されることになった
これで無闇な戦争は怒ることはないだろう
蜀の劉備、桃香は戦争を望むような子ではない
むしろ、積極的に無駄な戦争をなくすべく俺達に連合を申し込んできたほどだ


もう、呉の民が祖国を追われる心配はない
自分は大きなことを成し遂げたんだ、雪蓮や冥琳が思い描いていた世界を手に入れたんだ

北郷一刀はそう思い、燃え尽きた感じを受けていた


呉の独立のために戦い散っていった雪蓮や冥琳、そして多くの兵士たちのことを思うとまだこれから頑張らねばならないと思う
しかし、そう自覚していても活力が沸いてこなかった

元の世界ではただの学生だった人間が一国の王の伴侶である
これまでの激動の日々を思い返すたびに、自分が越して生きていられるのが不思議に思えた

それと同時に何故雪蓮たちを守ってやれなかったのかと後悔の念に駆られた
もちろん、普段の生活に支障はない
しかし、書簡からふと目を上げたとき、一息つこうといすに座ったとき、暖かいお茶をすすっているときなどふとした時にそういった思いに駆られていた

彼は自分のそんな様子を心配そうに見ている存在に気づかなかった














或る日、一刀は川辺にいた
在りし日の楽しかった思い出の、そして自分の無力さに嘆き悲しんだ思い出のつまった場所に
そこには三つの墓が並んでいた
ひとつは雪蓮と蓮華の母親の、もうひとつは雪蓮の、そして最後に冥琳の墓だった

彼は小さな赤い花をそれぞれの墓に供えて手を合わせた
そしてしばらくの間そのままでいた

「やはりここにいたのね」
「蓮華、か。
なんだ来るのなら一緒に出ればよかったのに」
蓮華は答えずに一刀の隣に屈み、先ほど彼がやっていたように手を合わせた

「なぁ、蓮…」
「一刀」
話しかけようとした一刀の言葉を遮り、蓮華は言った

「いつになれば貴方の心は悲しみから解放されるの?」
「……それはどういうことだい?」
「最近の貴方は見ていてて辛いの。
幾度もため息をつき、貴方から気力が抜け落ちている気がするわ。
少し前までこんなことはなかったのに」


蓮華は視線を落とし、拳を握り締めて呟いた


「……私では姉さまの代わりにはなれなかったということかしら?」
「蓮華、前にも言ったけど君は君だ。
誰かの代わりではなく、君であればいいんだよ」

「でもあなたは誰も見ていない!!
私も、小蓮も、穏も、思春も!! 私達の誰も見ていない!!
……いったい、貴方は誰を見ているんですか?誰を思っているの!!」
蓮華はそんな一刀の言葉を遮るように捲くし立てた

「姉さまや冥琳でしょう!?
貴方はいまだにお姉さまたちを救えなかったことで後悔していて、そこから抜け出せないでいるんじゃないの!?

私は、それが辛くて…悲しくて……」

蓮華は涙を流しながら、今まで溜め込んでいた悲痛な訴えを投げかけた



「……蓮華、心配かけてごめん。
別に俺は蓮華たちを見ていないわけじゃない。
雪蓮や冥琳を救えなかったことを後悔しているわけでもないんだ」
「………え?」

「俺は雪蓮によって命を助けられ、雪蓮に夢をもらった。
そして冥琳に支えられ、冥琳に背中を押してもらった。
……つまり、今の俺がいるのは二人のお陰なんだ。

勿論、蓮華たちのお陰でもある。
皆のうちの誰か一人でもかけていたら俺は今の俺ではなかっただろう。
ただ…いやだからこそ、かな。
俺はいつも思うんだ




嗚呼、今この平和な世を雪蓮たちも一緒にすごせたらどれほど幸せだろうか

彼女達がいたならば今の世にどんな夢を持つのだろうか




ってね」



「……それは結局悲しみにとらわれているんじゃない?」
「いや、違うよ。
ただ、二人が生きている未来もあったんじゃないかなと思ってね。
こう、平和だとそういうことばかり考えちゃうだけさ」


それっきり、二人の間に沈黙が流れる
しかし先ほどまでのそれとは違い、沈鬱さがなくなっていた
むしろ心地よい沈黙だった





「……さて、行こうか蓮華」
「ええ」
一刀は立ち上がると蓮華に手を差し伸べた
蓮華はその手をとって立ち上がると、そのまま手をつないだまま歩き始めた

しかし、そのまま手を引かれる形になった
一刀が墓をじっとみつめて動かなかったからだった

「…一刀?」

彼は目を閉じて最後に思った


本当に、本当に彼女達ともう一度すごすことが出来たら良いのに、と
まだ伝えたかったこと、聞きたかったことがいっぱいあったのに、と


「…ごめん、蓮華。さ、行こうか」
そういうと一刀は墓を後にした






二人は墓の周りからあふれ出す光に気づくことはなかった














その夜、二人は寝台を共にした
「…一刀」
「ん?」
「辛いときには言って。私は貴方の支えになりたい」
「何を言ってるんだ、逆だろ。
俺が蓮華を支えなきゃ。
そう約束したんだから」


「…一刀」
「何?」
「約束したから、じゃなくて自分の意思で決めて」
「え?俺は自分の意思で約束したんだけど」
「いいから!」

うろたえる一刀に蓮華は小さく馬鹿、と呟いた
それはあまりにも小さかったため、一刀は気づかなかった
彼女は一刀に、雪蓮との約束だからではなく自分の意思で決めたからといってほしかったのだった

「わ、わかったよ。
俺は、俺の意思で蓮華を支え続けるよ。
これからずっと、いつまでも」
「ありがとう。……よろしくね、一刀」
「お、おぅ」
顔を赤らめつつ満面の笑みを浮かべた蓮華に少し戸惑い、気の抜けた返事になってしまった















ふと一刀は気づいた

「なぁ、蓮華」
「何?一刀」
「外が明るい」
「それがどうかしたの? 星がよく出てるのかしら」
「異様だ。ほら、南側は暗いけど、北側だけ明るい。
蓮華、ちょっと待ってて。様子を見てくる」

そういうと一刀は寝巻きのまま北側の窓にいき、戸を開いた

その瞬間を待ち構えていたかのように、光の奔流が部屋になだれ込んできた
「うわ、なんだこれ!?」
「か、一刀!?」

光はそのまま一刀の体を包み込み、見えなくなってしまっていた
慌てて蓮華は手を伸ばして彼を掴もうとした
すると、光が蓮華の体まで包み込み始め、そして眩い光に視界を遮られて何も見えなくなった
それは目を開けていられないような眩さだった

それでも彼女は一刀を探し当て、掴んだ
一刀はそれに気づき、蓮華を胸に抱きかかえて目を瞑ってことが過ぎ去るまで耐えていた

光はどんどん量を増していき、二人の周りを渦巻いた
そして竜巻の如く形状を変えたかと思うと、ひときわ大きく輝いた



そしてシャンという音と共に、まるで嘘のように掻き消えた
そこに残されたのは嵐が過ぎ去ったかのように荒らされた寝室だけだった。
二人の姿はどこにもなかった。



ども、礼流です。
真・恋姫無双の呉ルートのおさらいをしていたら公開が遅れました
呉、やはり最初にやった勢力だったこともあってだいぶ忘れている部分が多かったです

さて、次は学園編。
始まりまでの構想はあるのですが、いざ文章にしようとすると結構大変です
少し公開まで間が空いてしまうかもしれません(汗

2009/02/20

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最終更新:2009年03月04日 00:23