真・恋姫†学園 ~始まり 前編~






季節は冬の終わり
辺りにはすっかり春の雰囲気が漂い始めていた
梅の木には可憐な花が咲いていた
気候も、寒さが緩まりすごしやすくなっていた




聖フランチェスカ学園から少しはなれたところに古い日本家屋があった
それは誰にも使われていないはずなのにほこりが払われ、どこか生活の匂いがしていた
門は開けっ放しにされており、本来ならホームレスなどが居座っていてもおかしくないほど無防備だった
しかしそこは夜な夜な謎の雄たけびが上がる、ものすごく重いもの同士がぶつかる音がする、鬼が出るなどの奇妙なうわさが絶えないところであったため、人すら寄り付かない場所であった








今、そこに人影があった
「そろそろ、かしらん?」
その人影は巨漢でありながらもしなをつけてつぶやいた
それは見るものを圧倒する光景であった
というよりも、直視できる人間は稀有であろう
ボディビルダー顔負けの小麦色の筋肉質な体、頭頂部はすっかり禿げており、もみあげのかわりに謎のみつあみが顔の左右に垂れ下がっている
そしてなによりもソース顔という表現では足りないほどの濃い顔
しいて言うなら泥顔、という他ない







そんな個性的な人物がなんとピンクの褌一丁で庭に仁王立ちしているのだ
しかも女口調で独り言をぶつぶついっている
その光景の奇妙さというか、おぞましさは押してはかれるだろう
彼(彼女?)は妙にそわそわしているように思われた
誰かを待っているかのようだった








「あらん?おかしいわねん、そろそろだと思ったんだけど……」
気のせいか、と思ってきびすを返したところ、空から雷が落ちてきた



それは轟音と共にその怪人を直撃した!!



「あああっぁああああん!!か…感じちゃうぅぅん!!」
怪人は苦しむのではなく、悩ましい声を上げていた
しかしその声は男のものであるがために、それは毒音波としか思えない破壊力を有していた
そしてそのままずしいぃという重々しい音と共に倒れた








「いってぇぇ……」
雷によって大きくえぐられた穴から一人の男が出てきた
青年というには若く、少年というには大人びていた
いささかくたびれた感じの学生服に身を包んでおり、その服が聖フランチェスカのものであることはここいらにすむ人間ならすぐにわかっただろう
彼は片手で頭を抑えながら、腰ほどの高さまでの穴から出て目の前にある日本家屋の母屋に向かって歩き始めた



ぐにゅっ

そのとき、彼は地面に横たわったものに気づかずに踏んでしまった

「んぁらん?」

むくっとその物体は起き上がると、彼を見つめた

「あらん?」

かつて小麦色にテカテカと照っていたその体は今やあちこちが焦げていて全体的に黒っぽくなっていた
しかし、雷の直撃を受けたことを考えると軽症過ぎるほどだ
その怪人は目を瞬かせると、叫んだ





「ああぁああぁああああああぁああああっああん!! ご主人さまぁああん!! お・ひ・さ(ハート)!!」
「ぎゃああああぁああぁあぁぁあ!! 寄るなああああああああぁあああ、化け物!!」

奇妙な雄たけびを上げながら怪人がにじりよってきて、彼は一目散に背を向けて逃げ出した
至極当然の反応であった




「あん、いけずぅ!! でも、逃がさないわよぉおお!! まってぇええん!!」
怪人は身をよじったかと思うと、轟音を撒き散らしながら彼に追いすがった

こんなものに追い掛け回されてはたまったものではない、彼は必死に怪人の手を避けた
しかし相手は人間とも思えない怪人である、あっという間に二人の距離は縮まっていく
いや、彼我の身体能力の差を考えると一瞬で追いつけたはずである
怪人はわざと間一髪のところで見逃し、追いかけっこを楽しんでいるように見えた




「つうぅぅうっぅかぁあまぁえ~~~~った!!」



追いかけっこを満喫したのか、怪人が一気に跳躍した
その先は彼の進行ルートとぴったり重なっていた


空から降ってくる汗だくのマッチョマン、その絵は想像を絶するだろう

「やめろおぉおおおおお!! こっちくんなぁあぁぁあぁああ!!」
彼は生まれてこの方味わったことのない恐怖に襲われていたことは間違いない





怪人の跳躍がちょうど最高点に達したとき、空に轟音が鳴り響いた
雲ひとつない快晴な空からまたしても雷がおちてきた
そして、それはお約束のように怪人の体めがけて落ちてきた

「あばばばばっばばばぁあああ!!」

流石に二発目は辛いのか、怪人も悶絶し始めた
その後を追うかのようにさらに二発命中し、怪人は言葉を発する間もなく倒れた



雷による爆風が収まると、そこには炭化寸前の怪人の姿があった。



彼は一応怪人の身を案じながらも、先ほどまでの恐怖を思い出し自業自得だと思い直した
「一体なんだってんだ……なんか見覚えあるような気がするのが嫌だが」

彼は轟音にビックリして倒れていた体を起こすと、服についた砂埃を払いながら周囲を観察した






「電信柱があるし、これは武家屋敷の趣だし、ここは日本……それも元の世界と同じかそれに近い時代のものって考えていいのか?」
意外と落ち着いている自分に驚きながらも考えを張り巡らせた
これが4回目だからだろうか、と自分で納得していた節もあった



「戻れた、のかな。でもなんでだろう、俺はさっきまで……あれ?」
彼は自らの体の異常に気がついた








自分の記憶が三つあることに








正確には、三つ混在しているといったほうがいいだろう
つい先ほどまで愛紗にしかられるのが嫌で逃げていたという記憶と実感がある
しかしその一方で華琳を残して逝ってしまったという記憶と実感もある
さらには、蓮華と一緒に巻き込まれたという記憶と実感もある


どれが正しい記憶であるというわけではなく、どれも正しい記憶であるように思えた
彼は怪人に追いかけられていた以上に混乱していた


と、そこに



「ご主人様!!見つけました!!」
「一刀、探したわよ!!」
「一刀、無事だったのね!!」

三つの声がかけられた




ども、礼流です。
本編ではあまり活躍の場がなかった若本閣下に活躍してもらいました。
いやはや、かきやすいったらありゃしないw


さて、もとの世界編にやっと突入というしたのですが、正直ここいらで僕の構想が終わっていたりします。
正直なところ、真のキャラ全員を書くのは無理だと思った時点で、ストーリーを書くのは半ばあきらめていました。
今考えているのは、もとの世界に戻ったという設定を生かしたSSを思いつく限りかいていこうかな、というもの。
つまり、恋姫†学園のように、続き物を書く予定がないということです。

もちろん、いいアイデアとかが浮かんだら描くかもしれませんが…
2009/03/04

  • 若本w
    筋肉だるまがまさかこんなことにw -- 猫神 (2009-03-05 13:29:09)
  • 三つの記憶が混じるのは自分も考えましたが
    書くのが難しくて止めた設定でしたww
    これからの更新を楽しみにしてますね! -- 夢見屋 (2009-03-06 05:46:09)
  • これは楽しみなSSだwがんばってください! -- 明日明後日 (2009-03-13 14:33:03)
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最終更新:2009年03月13日 23:19