真・恋姫無双SS 『絆』


太陽も高々と上がり、ぽかぽかの陽気に俺は思わず大あくびをした。
「隊長、不謹慎ですよ」
凪が冷めた目で俺を見ていた。
「あぁ、悪い。あまりに平和なもんだからさ、つい」
この日は街中を警邏していても、なにひとつの事件もなく、俺と凪も半ば散歩感覚で街中を歩いていた。
「そうですね、我々が勝ち取り、作ってきたこの平和をなんとしても維持しなくては・・・」
「そんなに思い込まなくても、沙和や真桜ほどとは言わないが力を抜く事も大事だぞ?」
「あの2人が抜きすぎなんです!」
「確かにな」
そんな話をしながら角を曲がると、先ほどとはうって変わって大きな人だかりができていた。
「なんでしょうか?」
「喧嘩か大道芸人と言ったところか?」
俺たちは人ごみの中心に割って入った。
「そこ!横入りはあかんでぇ~!」
「あっ、すいませんって・・・、おい!!!!」
人だかりの中心には真桜がへんてこなカラクリと共に鎮座していた。
「げっ」
げってなんだ、げって。
「なにやってんだ!こんな所で」
「あぁ、いやな、退屈な街並みにちょいと刺激をと思うてな」
目が泳いでる、なんとわかりやすい奴だ。
「で、そのカラクリはなんだ?」
「いやぁ、えっと」
しどろもどろになりながら答えを探しているようだ。
「兄ちゃん、知らないのかい?なんでもこのカラクリに金を入れると未来を占ってくれる玉がでるんだぜ」
言われてやっと気づいたが、この形には見覚えがあった。
「ガチャガチャ・・か?」
回しやすい形のハンドル、中に見える開閉可能な玉、どう考えてもそのものである。
「がちゃがちゃ?うちのカラクリにけったいな名前、付けんでくれる」
ジロっと睨んできた真桜の顔が瞬間で青ざめた。
「どうした?」
背中からの冷たい空気を感じ俺は振り向いた。
凪が手甲に氣を溜めながら、鬼の様な形相で立っている。
「真桜、仕事を貰い給金も貰ってる癖に庶人から金を取って、胡散臭い商売をしていたのか?」
口調はいつも通りなのだが、言葉の端々に強烈な殺気を纏ってる。
「凪、落ち着け、俺がきっちり叱って、返金させるから、な?」
「あぁ、ほら夢を与えるのも士官の務めやと思うんよ」
ぶちっ!
あぁ、余計な一言を・・・
「貴様!守るべき庶人から、巻き上げただけでなく!誤った認識を持たせる可能性のあるものを、言うに事欠いて『夢』だと!?」
凪はカラクリに向けて全力で氣を飛ばす。
木っ端微塵になるカラクリ、放心状態で固まる真桜、自業自得にしてもちょっと可哀想だ。
「そ、そうだ沙和、あいつはどこに言ったんだ?」
全力で話を逸らして、凪の気を落ち着けよう。
「た~いちょう!なんの騒ぎなの~?」
神がかったタイミングで現れた沙和はまるで女神のように思えた。
が、沙和は真桜の方に大きな袋を差し出した。
「はい、頼まれてたカラクリの部品、真桜ちゃんのおかげで限定物の服が並ばず買えたの~」
「えっと、つまり・・・」
真桜が客を引く、その間に空いた店で沙和が買い物をするって寸法か、変なとこばっか頭が回りやがる。
気がつくと周りに街のみんなはいなくなっていた。
「サボった挙句に、詐欺めいたことをして、ただで済むと思ってるのか?」
凪の殺気にみんな逃げ出したんだろう、あぁ、今日の報告書を出すのが怖い。

その後、凪の一喝によって真桜と沙和は半泣きで警邏に戻っていった。

「あぁ~、今日は楽だと思ったのに」
報告書と騒ぎの罰として与えられた仕事を前に俺はため息をついた。
コンコン
こんな時間に来客?
「どうぞ」
「失礼します」
凪が扉を開けるやいなや、頭を凄い勢いで下げた。
「申し訳ありませんでした!」
「へ?」
「私のせいで、罰を受けたんですよね?」
決して凪のせいではないのだが、真面目すぎるのもここまで行くと凄いな。
「せめて私も、お手伝いをと思ったんですが」
「いや、これは俺がやらなきゃいけない事だからさ」
「しかし、それでは」
そうだなぁ。
「なぁ、凪って何であの2人と一緒にいるの?」
「はい?」
「いや、一緒にいると疲れない?凪みたいな性格だとさ」
凪は少し考えると、ゆっくりと口を開いた。
「少し昔の話をします」


「昔の私は、弱くて泣き虫でそれでいて不器用で、いいとこなんて何もない子供でした」
「意外だなぁ」
「そうですか?」
凪はくすっと笑って見せる、その笑顔はいつも見せる笑顔より柔らかかった。
「真桜と沙和とも疎遠な感じで、いつも1人でした」

きっと、羨ましかったんです。

私にはない色んなものを持ってて、自信に満ちあふれた2人が・・・。

そんな事ばかり考えてうじうじしてたのが気にいらなかったのでしょう、真桜と喧嘩になりました。

「自分はいつも、つまらん顔して!その顔を見かけるのもうんざりや!」
「そ、そんなこと」
「真桜ちゃん、やめるの~」
「じゃかぁし!」
「ひっ!」
真桜は凪の胸倉を掴み威嚇する。
「自分は何のために生きてるんや?何をしてもつまらん顔して」
「私は・・・」
言葉が出ない。
「沙和は?」
「え、えっとぉ~、可愛い服着たりとか、自分を磨きたいの~」
「うちはこのカラクリを世間に認めさすっちゅー夢があるんや!」
そんな2人の夢を聞かされて、凪はゆっくりと言葉を選んだ。
「わ、私は・・・、2人みたいになりたい」
泣きそうに上ずった声を喉からひねり出す。
「なんやて?」
「私も綺麗になりたい、実力を認めて貰いたいの!」
こんな大声を出したのは初めてじゃなかろうか?自分でも驚いてる。
「今度は猿まねか!自分だけの野望とかないんか?」
「まだ、そこまでは・・・」
真桜の顔が不意に和らいだ。
「・・・ほんなら、うちの傍におり、一人じゃ見つけられんのなら、うちも探したる」
「え?」
「真桜ちゃん!?」
「沙和もそれでええか?」
「うんうん、名案なの~、楽進ちゃんを可愛くして世間に認めさせるの~」
沙和はぴょんぴょん跳ねて喜んでる。
「アホ、それ自分の夢やんか!」
「・・・でいい」
「ん?」
「凪で・・・いい」
「ほんなら、うちも真桜でええわ」
「私は沙和でいいの~」

それからですね、この腐れ縁が続いてきたのは。

真桜もあんな性格ですから、近所の男の子とよく喧嘩していたのですが、巻き込まれていくうちに格闘の腕ばかりが伸びてしまって。

「今では2人の抑制役です」
「なるほど、真桜らしいっちゃらしいな」
ふと、気になった事を聞いてみる。
「夢って見つかったの?」
「はい」
まっすぐこちらを見つめる瞳が綺麗に輝いてるように感じた。
「私の夢は私の大切な人を、私の手で守ること。真桜も沙和も」
凪は顔を赤くしながら言葉を繋げる。
「た、隊長も・・・」
「うん・・・」
俺は凪の頭をポンポンとなでてやる」
「わ、私は何を言ってるのでしょうか!?」
うろたえる凪をそっと抱き寄せた。
「俺もがんばってお前らを守んなきゃな」
「はい・・・」

「真桜ちゃ~ん、なんだか入って行きにくいの~」
「うちはこっ恥ずかしくて死にそうや~」
謝りに来ていた2人は扉の影からそっと離れた。
(えぇ夢、見つけたやないか)

余談だが報告書は完成せず、華琳にこってり搾られたのは言うまでもない




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最終更新:2009年02月18日 15:01