恋姫†学園第一話『役割』


  入学式は問題なく行われた。どうみても1学年以上違うちびっ子の鈴々や朱里が新一年生として入場してきて、くすぐったいような不思議な嬉しさを感じた。兄の気持ちってこんな感じなのかなと思った。
  式典では誰かが騒いだり暴れたりすることもなく、いたって普通に進んだ。まぁ鈴々が寝ていたり、途中で星が抜け出したりしたりなどはあったが……。しかし何故か上級生からの言葉がなかった。例年、生徒会長から今後学園生活を送ることになる一年生のために激励の意をこめて行われるはずだった。正直うちの生徒会はあまり目立たず、縁の下の力持ちのようなポジションだったため、一般生徒のほとんどは会長の顔すら知らない、もしくは忘れている。生徒手帳を見るまでは知らなかったが、生徒会長は前生徒会長からの指名、及び先生一同による承認によって決まるらしい。そのため、まぁ自分とは無縁だろ、と誰もが思っている。俺も確実にその一人だった。










  正直彼女たちがこの世界に溶け込めるか不安だったが、つつがなく終わり少し安心していた。今日は授業がないため、始業式の後は始めて同じクラスになったやつと自己紹介しあったり、春休みの間あまりあっていなかったクラスメートと雑談したりしてすごした。愛紗達が男供に囲まれて、「しつこいっ」と言ってぶっ飛ばしたりしていたが、まぁ日常の範囲内…かな?青龍刀ももってなかったし。午前中でHRでの連絡事項や係り決めなども終了し、後は変えるだけとなった。俺は愛紗達に声をかけ、一緒に帰ろうと思ったが、そのとき・・・・・・










『北郷一刀くん、北郷一刀くん、至急生徒会室まで来てください。繰り返します。北郷一刀くん、北郷一刀くん、至急生徒会室まで来てください』



  全く身に覚えがない放送アナウンスだった。俺、なにかやったか、と首を傾げつつも生徒会室へと向った。生徒会室がどこにあるのかわからず、職員室まで行って先生に聞く羽目になった。










  教室と同じ材質の濃い茶色の扉が見えてきた。生徒会室といっても当たり前だがあまり変わらないようだ。これがゲームや小説の世界とかだったら別の建物に生徒会室があって、薔薇の館とか呼ばれてたりするんだろうなと思ったが、うちはそんな特別扱いはないようだ。扉の上には生徒会室というプレートがあり、それだけが他と違うところだった。あまり教室と変わらないとはいっても、若干緊張はする。俺は軽く深呼吸してドアを軽くノックした。



 コンコンッ



「北郷か、入れ」



 即座に返事が来た。落ち着いた高いとも低いともいえない、中性的な声だった。威厳があるわけでもないが、まったくないわけでもない。ただ、どこかほかとは違う何かを感じた。とにかく、全く聴いたことのない声だった。



  ガチャッ



  入るとそこには貂蝉と白装束の人がいた。中性的な、整った顔立ちをしていて、背も中くらいだった。髪は少し蒼をたらしたかのような黒。それを、肩にかかるくらいまで伸ばしている。
  ゆったりとした服を着ているせいもあって、体型的には男とも女とも取れる。声も中性的で、高めの男の声とも低めの女の声ともとれる。ますますだ性別がわからなくなった。
  左慈と同じ白装束をきていることに気がつき、思わず身構える。



「ご主人様、この人は貴方に危害を加えることはないから大丈夫よ」



  貂蝉のその言葉に少し警戒を緩めた。彼(彼女?)がいれば大抵のことは大丈夫だろう。俺の貞操以外は……。俺は相手を注意深く見つつも、体勢を楽にした。そして改めて訊いた。



「あんたは一体…………それに俺に何のようだ?」



「私か?私の名は黒須。御察しの通り、作られた存在だよ。ただ、先に言っておく。私は何もする気はない」



  ひどくどうでもよさそうに、興味なさそうに答えた。声も体もだるそうに緩んでいる。深い蒼の瞳も何も映していないかのように空を彷徨っていた。まったく触れたことのないタイプの人間だったため、俺は少し面を食らった。しかしそんな俺を無視して黒須は話を進めた。



「お前を呼んだのは只一つ、お前にやってもらいたいことがあるからだ。いや、正確にはやってもらわねばならないことが」



「一体何をやらせようっていうんだ?」



そのもったいぶったようなしゃべり方に俺はすこしイラついた。わざわざ放課後に呼び出されたことや、校門に愛紗たちを待たせているためもあって、さっさと切り上げたかった。








「単刀直入に言おう、お前には生徒会長をやってもらう」











  ……は? わけが分からない。何故俺が?生徒会長なんて俺とは無縁のはずだ。それに規定では前生徒会が決めることだろう?俺は何がどうなっているのかわからずに混乱していた。



「ふん、事態を理解していないようだな」



「黒ちゃん、そりゃまだ何も言ってないじゃない」



「その呼び方はやめろ!!」



「あらん、いいじゃない。か わ い く て ☆」


  どうやら二人は知り合いらしい。俺を全く無視した不毛な言い争いが目の前で繰り広げられる。俺は意識的にそれを無視した。その間に事態を整理してみることにした。


短くまとめると、

 『放課後、俺は放送で生徒会室に呼ばれた。そしていきなり生徒会長になれといわれた』




・・・・・・それだけで分かるわけがないだろ!!
  白装束の奴が呼んだからにはなにかこの世界に関する問題が関係あるのか?それと俺が生徒会長になるのとなにか関係があるのか?






「どうやら詳しく説明する必要があるようだな。ったく面倒くさいな…いいか、まずこの世界はお前が作り上げた外史だ。
だが、お前が望んだせいで本来はありえない人物が他の外史から呼ばれた。それが各武将達だ。
  世界の修復を受けて多少の修正は行われているが、それでも世界に異変は起きている」



  お前が外史に落ちた時と同様にな、と奴は続けた。



「元々この世界に存在していたものは世界の部品としてあらかじめ組み込まれている。ゆえにその行動によって起こることは想定の範囲内であり、許容範囲内だ。
  しかし、前回のお前のように外から来た者が起こす行動は想定外であり、世界をゆがめてしまう。
  前回はお前を排除することで左慈はそれを修復しようとしたらしいが、今回はそうはいかない」



「………なんでだ?」



「それは人数と人だ。前の世界ではお前は服装だけが妙なだけの只の凡人だった。運動能力も平凡、たいした軍事的才能があるわけでもない。容姿はまぁましだが目を見張るほどでもない。放っておいてもどうせ右も左もわからない世界ではのたれ死ぬだろうと思われていた。故にそのまま放置された。あのまま山賊に襲われて殺されていれば、あの外史は想定の範囲内で収まった。たいした影響を起こさないからな」



  あんまりの言い草にムカッときたが、それを抑えて話を聞く。



「だが、今回は人数が多すぎる。さらに人が人だけに既に周囲に与えている影響も大きい。彼女たちはお前とは違い運動能力がこの世界の住人とかけ離れている。さらに頭脳明晰な軍師もいる。それに加えて容姿はお前の理想を反映したため、こんなひとつの学園にいるのはおかしいほど秀でている。仮に彼女たちを全員排除したとしたら、そのゆがみは確実に出る。あれだけ目立つ人間が一気に消えたとしたら妙だろう?それにこの時代というのも問題だ。文明が発達し、たった一人の失踪でも大きな問題になる世の中だ。神隠しにあいました、だなんて理由で片付けるわけにもいかない。戦争もほとんどないから戦死したというわけにもいかない。
  親衛隊まで出来るほど、すでに彼女たちはこの世界に根付いている。全くややこしいことだ」



一回聞いただけでは分からないことも多かったが、要するに俺らが排除される、つまり白装束の連中が襲い掛かってくることはないんだな、と俺は少し安心する。しかしまだ根本的な疑問は解決されていない。



「それと俺が生徒会長になることに何の関係があるんだ?」



「話は最後まで聴け。この私が説明してやっているというのだ。お前がこの外史を作り、彼女たちを招いたことですでに異変は起きている。それのひとつが生徒会長の不在だ。
  お前や彼女たちの何人かあるいは全員が、お前が統治するということを望んでいる。故にこの世界においてそのポジションにいられる地位の人間をふるい落とし、そこにお前が座るように力が働いている。まぁ、もともとお前は彼の存在を知らなかったから消されたという線もあるがな。とにかく、今生徒会長という席が空席になっているのは事実だ。今は何故か私がその席に座らされているが私は業務を一切するつもりはない。そこでお前に押し付けようと思ってな。まぁ悪いことではないだろう、生徒会長となれば無理を通して道理を引っ込めることも可能だ。
  お前だって必要だろう?彼女たちを守る、この世界においての権力が」



  全部は分からない。だが、何となくは分かる。そして奴がなにを望んでいるのかもわかった。



「つまり、他の世界の人間はこの世界にとって害だってことか?」



「害、までとは言わないにしろ、影響力が大きいことは確かだ。外から来るのが二人程度ならまだ何とかなった。監視し、不用意なことが起こらないように気を付けていれば。
  だが、今回はお前が連れてきた27人もの人間が外から流れ込んできた。外から流れ込んで来た者にはなにかしらのファクター、役割が付与される。前回、お前が果したように。
ひとつひとつならそれをもとに行動を予想することは出来たが、多くのファクターが存在するとき、それらが複雑に絡むことで全く予想もつかない事態が起こる可能性がある。それは良い方にも、悪い方にもいくだろう。
  そもそも前の世界ではお前一人だけだったにもかかわらず、あれほどの混乱が起きたのだ。今回はそれを更に凌ぐことは間違いない。
  だが、あらかじめそれを統制することが出来れば、たいした問題にはならない。
  それができる唯一の人物がお前だ、北郷一刀。お前なら彼女たちのことを理解しているだろうし、彼女たちはすでにお前を中心に動いている。故に私や貂蝉では出来ない」



「一体どんなことが起きるんだ!?」



「それは私たちにも分からない。戦争が起こるかもしれないし、この外史が許容範囲を超えて崩壊するかもしれない。世界といえどもあまりにも突拍子もない事態にはついていけない。
  それにだ……うまくやればハーレム、酒池肉林も夢ではないぞ?」



「なっ!?」



 カアっと自分の顔が赤くなるのが分かる。な、何を急に言い出すんだ!!



「まぁ心配するな。仕事自体は前の世界よりずっと楽だし、見返りにある程度の資金援助もしてやろう。それにそもそもあの家を用意したのも私だぞ?」



「え、ってことはつまり……」



「そう、君には選択の余地はないってことだ。断ればあの家からたたき出す」



  これが今迄で一番効いた。もう俺の答えはイエスしか残されていなかった。 というか、あれいわれちゃしょうがないでしょうに……。



「分かってくれたようだな。補佐には関羽達をつける。今までと面子は変わらないから安心しろ」



  そう言い残すと、奴は足音もたてず、すべるように俺の横をすり抜けていった。バタンと扉の閉じる音だけを残して。行ったか、と思いきやまた扉がひらいた。








「おっと、最後に一つだけ。学校でご主人様はやめさせろ。見てるこっちが恥ずかしい」



「あ・・・・・・・・・・・・」



  今まで当然のように呼ばれていたから忘れていた・・・。











「ま、そういうことだから、頑張ってねん。辛くなったらあたしがいやしてア・ゲ・ル♪」



「いや、全力で心の底から断固拒絶させていただきます」



「あら、一刀様ったら酷いお・ひ・と ☆」








  やれやれ、メンドウなことになったな・・・・・・でも、以前と同じ面子で同じコトができる、そのことを嬉しく思っているのは事実だった。内容も変わってとまどうこともあるだろう。それでもまぁやっていけるだろう。皆がいるから。







  こうして聖フランチェスカに史上最高に特殊なメンバーの生徒会ができあがった。

会長  北郷 一刀
副会長 関羽 雲長
会計  諸葛亮 孔明
書記  趙雲 子龍
雑用  張飛 益德
     馬超 孟起
顧問  黄忠 漢升

さてさて、どうなることやら。










[あとがき]
はい、なにやら無理やりな理屈をこねまわしました。
どうやったら戦争が起こるんだろうw
風が吹けば桶屋が儲かる、みたいな理論で行けばいつかはなるのかな?



今回、この世界の核心みたいなこと言っちゃってますが、あまり無視しても構いません。この話で重要というか、設定したかったのは、
①一刀が生徒会長になる
②この世界はなんでもあり
③一刀の豪邸の理由
の3つだけですから。
②の条件によって、イベントの幅を増やそうかな、と。



幅が広がりすぎて、どんな話になるのか全く見えてません(汗
一応、こんなエンディングにしたいという案は蓮華だけはあるのですが、愛紗と華琳は考え中です。
愛紗は比較的重い題材を扱いたいなと。マジメキャラは思いつめるタイプだと思うので。
華琳は・・・何が起こるか分からないw
アイデア募集中です。




一緒になって書いてくれる人募集中です。
自分は今のところ愛紗、蓮華、華琳の3つしかエンディングを作る予定はありません。他のキャラの活躍がほしいという方、意見だけでも構いませんし、ご参加ください。



2/14 23:19第1回修正

7/26 11:20第2回修正

  • 誰か更新して TT -- 無双 (2008-08-04 14:11:29)

  • -- 4.4.‘4 (2008-10-08 16:23:09)
  • 恋、月、詠の活躍がみたいです。 -- 素人 (2009-01-07 21:07:34)
最終更新:2009年01月23日 08:17