真・恋姫無双SS 『新たな世界』



一刀がいなくなってから半年もたった頃、ようやく慌しい政も一段落し、華琳は短めの休暇をとっていた。
中庭を歩きながらふと、夜空を見上げた。
「アレと別れたのも、こんな星の日だったかしら?」
自分も感傷的になったものだと、自嘲気味に笑う。
「いや、星がもっと高かったかな?季節的に」
「!?」
聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた、振り返れば声の主は大木の下に座り込んでいた。
「一・・・刀・・?」
華琳はゆっくりと声の元へ向かった。
「一刀!」
触れようとすると、声の主はふっと姿を消す。
「・・・!?」
突然の事に華琳は腕を伸ばしたまま硬直した。
そして、頬に一筋の涙が流れた。

翌朝、華琳は何事もなかったかのように街中を歩いていた。
どこを歩いても一刀との思い出がちらついて仕方がなかった。
(仕事をしている間は忘れられてたのに・・・)
気づけば街から離れ、一刀と別れた場所に来ていた。
「我ながら、未練がましいわね」
流れる小川に小石を投げ込むと小さな波紋が広がり、そして消えていった。
(一刀みたい)
自分の中で大きくなり、そして消えていった人物がよぎる。
「待ち人かえ?」
「!?」
(いつの間に・・・?)
いつの間にか華琳の隣に立派な髭を蓄えた太公望が鎮座していた。
「そう身構えんでくれ、こんな爺に何もできんよ」
爺は楽しそうに釣り糸を垂らす。
「恋人でも、待ってるんかえ?」
ニヤニヤしながら聞いてくる爺に華琳は不思議と嫌悪感を覚えなかった。
「来ないわよ」
華琳はきっぱりと言い放つ。
「ほほう」
「あいつはもう、この世界にいないの」
「死んだのかい?」
随分とずけずけと聞いてくる老人だと思いながら華琳は首を横に振る。
「とにかく遠い場所へと行ったのよ」
爺は髭をさすりながら遠くを見つめ口を開いた。
「世界とは1冊の本であり、書き上げるのは人の仕事なり」
「・・・どういうこと?」
「世界の住人であるお主にも物語は作れるってことじゃよ。強き願いは新たな世界を創るじゃろうて」
それだけいうと爺は糸を引き上げどこかへと歩いていってしまった。
「あっ・・・」
名前を聞くこともできなかった、不思議な雰囲気がそれを許してくれなかった。
「強い、願い・・・」
気がつけば日はゆっくりと傾きだし、空には一番星が輝いていた。
やがて、月が頭上に昇る頃に華琳は蛍と指先で戯れていた。
背後からの人の気配に蛍が逃げるように飛んでいった。
「随分と待たせてくれたわね」
「・・・悪い」
「あの時、あなたを拾った時からあなたは私の物なの」
「うん」
華琳は決して振り返ることなく、背後の人物に言葉をかけていく。
「もう、私の前から消えないで」
「あぁ」
華琳の顔は涙でぐしゃぐしゃだった、そしていつもの口調で静かに告げた。
「命令よ、抱きしめて・・・」
背中に感じる懐かしい温もり。
「ただいま、寂しがりやの女の子」
曹孟徳の新しい世界がこうして幕を開けた。



  • エンディングを思い出してまた目から汗が… -- ぱどちょう (2009-03-11 03:48:06)
  • …やばいな。涙が…。続きを書いてほしいもんだけど…如何? -- NYANKO (2010-01-09 16:18:16)
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最終更新:2010年01月09日 16:18