「フン……」
などという鼻息を残して、戦自将校を乗せたVIP席がゆっくりと退場していく。
その内の一人が尚も僕を睨み付けているから、僕も負けじと見返してやった。
なんだよ、その態度。干渉しない、と言っておきながら。
僕がそんなことに気をとられていると、唐突にぐいっと襟首を引っ張られた。
リツコさんだ。
普段は冷静沈着にしてエレガントな物腰、でもときたま男性的な荒っぽいことをするんだな、この人。
そして僕はそのまま、巨大なデスクへと引っ張られていく。
そのデスク、何も置いておらず黒一色。
と、思いきや、リツコさんが触れた瞬間にチャカチャカと様々な情報が表示された。
成る程、パネル式コンピューターか。
「後で、使いやすいメニュー画面を作ってあげるわね」
と、リツコさんは言う。
そして、ひときわ大きな画面が表示され、そこに映し出されたのはあの少女。
レイだ。目を閉じて、眠っているように見える。
「あの、さしでがましいかと思いましたが、薬品を投入して眠らせています。
プラグの中でもがいて怪我でもしたら、と思ったので」
僕とリツコさんの側まで来てささやいたのは、地下で出逢った伊吹マヤさんだ。
「ありがとう。気が利くわね、マヤ。すぐに中和剤を注入して」
「はい」
多分リツコさんは、例え少女がもがき苦しんでいたとしても、構わずほったらかしにするつもりだったと思う。
この人、実はもの凄く残酷な性格じゃないかな、と。
マッドサイエンティストっていうのだろうか。よく判らないけど、そんな感じ。
中和剤というのが効いてきたのだろう。
しばらくすると画面のレイが目を覚まして、キョトキョトと辺りを見渡している。
そして、その動きはピタリと止まる。レイはなんと、画面越しに僕と目を合わせたのだ。
思わずビクッと驚くと、リツコさんは僕の両肩に手を置いて囁いた。
「向こうにこちらの様子が映し出されているの。あなたの顔を見て落ち着いたのね」
成る程、強ばっていたレイの表情が和らいでいくのが判る。
しかしこの机のどこにカメラがあるのだろう。
正直、民間に降りていない最新技術に驚かされっぱなしだ。
「さあ、そのまま話しかけて」
「え、あの、話しかけるって」
「目の前にいると思って話せばいい」
マイクすらどこにあるか判らない。凄いね、何から何まで。
まあ、とりあえず。
「えーと、レイ。聞こえる?」
僕が話しかけると、レイはピクリと反応する。
しかし、返事はない。言葉が通じないのか、口がきけないのか。
本当に僕の言うことをきいてくれるのか、正直言って不安なんだけど。
いや、それどころじゃない。ちゃんと、正しておかないといけないことがある。さっきの人は?
ああ、すぐ側にいた。
「あの……」
「やあ、シンジ君。初めまして、と言っておこうか。
私は冬月コウゾウ、NERV副司令の任を預かる者だ。よろしく頼みよ」
僕が顔を上げて、ひとこえ発した瞬間に例の男がにこやかに名乗りを上げた。
僕が次に何をして何を言い出すか、全て読まれているような気がするな。
いや、とりあえず僕を総司令に仕立てた主犯のこの人に抗議しないと。
このまま父さんの跡継ぎなんかさせられちゃたまらない。
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「いえあの、よろしくされても困ります。僕がここの総司令ですって?
僕、自分で言うのも何ですが子供なんですよ? そんな大人の仕事が出来る筈ありません」
「世間の常識ならばね。君はレイの、言うなれば保護者となりうる者だ。
その者はレイをエヴァのパイロットとして育て、使徒を倒さなければならない。
その者がどうやって、ここNERVに存在せしめるか。そして、総司令の地位は空座だ。
ならば答えは一つ。違うかね?」
まるで僕に神託を下すかのような冬月副司令の口調。
ん、まてよ?
僕は声を落として囁いた。
「地下のアレを……あの水槽を知ってるんですか」
「無論だ。そして、念のために私も試されたよ。そして、私にはなついてくれなかった」
「あ、あの、あんなことが、クローン人間なんてものが許されると」
「もちろん許されないことだ。社会の規範からすればな。だからこそ、最重要機密として扱われている」
「もし僕が言いふらせば」
「やってみたまえ。信ずる者は誰も居ない。アレの映像をばらまいたとしても、笑い話と捉えられかねない」
「……」
嫌いだ。こういう言い回し。
僕にそう言っておくことで、言いふらしたりしないように暗示をかけてるだけだ。
でも、そうだね。この副司令さんの言う通りだろう。
映像なんて幾らでも作れるし、見方を変えればまるで漫画の作り話。
誰も信じないことは間違いない。
クローン技術とかいうものが実用化されていない、と思われている今ならば。
いや、話を本題に戻そう。
「でも何で総司令をしろ、と? あなたがすればいいんじゃないですか」
「それについては、君がその上着を着てここに来た。理由はそれだけだよ」
「それだけのことで?」
「いや、実は私も一瞬はバカバカしいと思ったよ。確かに世襲制度が通用する仕事ではない。
しかし、君が全ての機密を握る手段があるとすれば、常識を無視して総司令としての立場に立つのがもっとも……」
「あのー! お取り込み中に済みませんがぁー!」
僕達の会話に大声で割り込んできたのは、えーと、そうそう。
何とか部長の葛城さんだ。
「エヴァンゲリオン初号機の出撃、よろしいんですね? 総司令閣下」
また、これだ。大人というのは何でこう、一言多いのかな。
僕もついやり返したくなっちゃうじゃないか。
「なら、僕が駄目だ、と言ったら出撃させないんですか?」
すると、葛城さんはかなりムッとした顔をしたけど、ここは堪えたらしい。
振り返って、広大な階下の全フロアまで響き渡るほどの大声で叫んだ。
「エヴァンゲリオン初号機、発進準備!」
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細かいことは判らないけど、地下数百メートルのこの地下基地からあの巨大ロボットが搬送される、ということらしい。
次々とその複雑な行程がスタッフ達によりアナウンスされ、専用のリフトに搬送されていくエヴァンゲリオン初号機。
そうしている間にも操縦席のレイは、搬送の時に受ける振動にも何の関心も持たず、僕の顔ばかり見ている。
恐らく、いや、間違いなくこれから何が行われるのか、自分が何処にいるのかすら、何も判っていない。
そりゃまあ、誰も説明なんてしてないけど。
そして最後に、モニタ画面からズズーンという凄まじい振動が聞こえてきた。
地上に射出された、その為の衝撃だ。
流石のレイもこれには堪えたらしく、目を閉じ歯を食いしばって耐えている。
そして僕はデスクのモニタ画面から、前方のパネルに映し出されている映像に目を移した。
地上の様子だ。地上に出たあの巨大ロボットの姿がそこにある。
地上に現れた巨大ロボット、エヴァンゲリオン。
そして、街を襲う巨人、シトの姿。
こんなものがやってきている信じられない事態をようやく思い出した気分だ。
怪物というか、巨人というか――いったい何なんだよ、あれ。
これを相手にあのレイという少女に戦え、と?
無茶苦茶だ。
会ったばかりの僕でも判る。あの子の知性や経験は赤ん坊並だ。
僕は振り返って尋ねようとした。
「あの、リツコさん。あの子に戦うなんて」
「いいから、ほらしっかり操縦桿を握らせて」
「いや、無茶ですって。それに操縦って」
「エヴァはね。基本的に特殊な操作なんて必要ないの。自分の体を動かすイメージをエヴァに伝えればいい」
「イメージを、伝える?」
「そう。あ、待ちなさい。あのお姉さんがね」
そして葛城部長のひときわ大きな号令が響く。
「エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」
「ね? あのお姉さんがリフトオフって言ってから。ほら、戦闘開始よ」
「ええ? いや、待ってくださいよ。戦闘開始ってあの」
全てが唐突すぎる。戦闘開始? で、僕にその指示をしろと?
やっぱり無茶苦茶だ。
しかし、そうも言ってられない。
その初号機が固定されていたリフトから解放された様子が見える。
そしてダラリと肩が下がり、ぶらりと両腕が揺れる。
立ってはいるけど、正にニュートラルな状態だ。つまり、制御ゼロ。
しかも、シトとかいう巨人は既に初号機の存在に気付いている。
ズシッズシッと足音を立てて、初号機の元へと近づいて来るではないか。
「あの、リツコさん、あの」
「はいはい、ほら操縦桿を握らせて――そうねぇ、まず歩くイメージをさせてみて」
「は、はい。えーと、レイ?」
僕がそう声をかけると、ビクンと目を見開いた。ちゃんと聞こえては、いるようだ。
「操縦桿を握ってよ。それだよ、目の前にある……いや、僕の顔じゃなくて、前だってば」
前がどっちだかまるで判ってないように見えたけど、レイはキョトキョトと左右を見渡して、ようやくそれらしいものに触れた。
よかった。言葉は通じる。
ていうか、目の前に敵が迫っているというのに、そんなレベルで本当に良いんだろうか。
いや、そんなことを言ってもしょうがない。とにかく言われたとおりに指示をしないと。
「レイ、イメージするんだ。歩くイメージを」
無言。反応無し。何、と尋ねるように僕の顔を見る。
「ねえ、レイ。聞こえてる? イメージだよ、イメージ!いや、僕の顔を見てたってしょうがないってば!」
やっぱり無反応。きょとんとした顔で僕の顔を見てばかり。
ああもう、判ってるのか判ってないのか、どっちなんだよ。
「ああ」とか、「うん」とか、何でも良いから言ってくれなきゃ判らない。
そうこうしているうちに、ほらもう敵が目の前じゃないか。
いや、その前に葛城さんの方がキレる寸前。
「リツコ、駄目ならそう言って! 後退させるわ!」
「部長さん、落ち着いて。シンジ君も、いわばレイも初心者運転なのよ?」
「レイが初心者? そこまで墜ちたって訳?」
「そのようね。失った記憶は半端じゃなさそう」
なに言ってるんだ、白々しい。
もういい加減、以前のレイとは別人ですって地下に連れて行って見せちゃえばいいのに。
って僕もそんなこと言ってる場合じゃない。もう巨人は初号機の目の前だ!
「レイお願いだよ、イメージするんだ。歩いて……あーもう! 早く逃げて!」
と、僕が叫んだその瞬間。
なんと初号機が巨人の脇をすり抜けて走り出したではないか。
「走った!」
と、叫ぶリツコさん。いや、あなたが驚いてどうするの。
「凄い、あのオーナインシステムと呼ばれた初号機が動いている。いや、走っている」
「やったぞ! 我々の努力が報われたんだ!」
「これはいけるかもしれない!」
リツコさんに続いて、スタッフ達からも鬨の声。
口早にリツコさんに尋ねる。
「初号機ってそんなレベルだったんですか」
「そうよ。以前の『レイ』はずっと試験用の機体、零号機で訓練をしていたから。
実戦可能な初号機はこれが初始動。私達は試行錯誤の繰り返しだったって言ったでしょ?」
「あのう、本当にこれって人類の命運がかかってる戦いなんですか?」
「当たり前じゃない。私達は、本当にギリギリの戦いをしているの」
と、にこやかに答えるリツコさん。なんか、余裕満点の笑顔なんですけど。
って言ってる場合じゃない。
見れば初号機の走り方は完全に女の子走り、駄目だこりゃ。
あ、あ、あーあ、もう追いつかれそう。
「シンジ君! ボヤボヤしてないで、攻撃させて!」
またしても怒鳴り散らす葛城さん、怒らなくてもいいじゃない。
「り、リツコさん。攻撃ってどうすれば」
「何でも良いからさせてみて。あなたの思いつく限り」
「え、はい、えーと」
どうすればいいだろう。
そうか、イメージしろとか歩けとかいうより、もっと大ざっぱに言っちゃった方がいいかもしれない。
逃げろといったから走って逃げた。
よし、それなら。
「レイ、倒すんだ。その巨人を倒すんだ。ねえ、聞いてる?」
聞いちゃ居ない。ていうか、僕の顔を見ながら必死に走ってばかり。
地上の建物をズシズシと踏み荒らしながら。
その様子、本当に僕の言うことを聞いてるのかな。
ああ、もう諦めてしまいたい。
「ねえ、レイ! 周りが見えてる? その巨人を……え?」
僕が尚も指示をしようとした、その時だった。
ピッという電子音、リツコさんがデスクのパネルを操作して、レイとのモニタ画面を切ってしまったのだ。
「あの、リツコさん、どうしたんですか」
「いいから」
「いいからって、レイに指示をしないと」
「いいの。見てなさい」
「え……」
僕が前方の巨大なパネルに目を移すと、そこに映し出されているのは巨人に捕まってしまった初号機の姿。
追いつかれたんじゃない。突然、初号機は走るのを止めて立ち止まったのだ。
そう、リツコさんがモニタを切った瞬間に。
そしてガクガクと苦悶するような様子が見える。
レイ、僕を見失い混乱している?
「リツコ、どうしたの! シンジ君、レイに攻撃をさせてって言ってるでしょ! 聞こえないの!」
聞こえないの、と聞きたいのは僕の方だ。
リツコさんはモニタ画面を再び開こうとはしない。
「リツコさん、レイに指示をしなくちゃ……あの……」
だが、リツコさんは前方のモニタを見たまま、動かない。
ガシッ!ガシッ!と響き渡る轟音。既に巨人の苛烈な攻撃が始まっていた。
巨人の手から放たれる閃光が、初号機の頭蓋を砕こうとしている。
「リツコさん!」
「始まるわよ」
「え?」
その時だった。
ズガガガッ――と鳴り響く凄まじい轟音。
それは、初号機が巨人を吹っ飛ばした音。
初号機の様子が一変した。
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「あ、あ、あ……」
誰かが言葉にならない声を発する。続いて、どよめく司令塔。
初号機に、何かが起こった。
「初号機、制御不能!状態不明! いや、これは――暴走状態です!」
そのアナウンスの声、マヤさんだった。
それを受けて、おお、と新たなどよめきをあげるスタッフ達。
初号機は身を震わせる。そして、ベキッ、バキッと立てる凄まじい物音。
それは巨人の顔の装甲が避け、禍々しいまでの口が開く音だった。
頭蓋の装甲を引き裂いて、恐々強い牙を剥いたのだ。
そして野獣のような雄叫びをあげる。あれは……あれは、ロボットなんかじゃない!
語り部のような口調でリツコさんは僕に囁く。
「あれこそが、エヴァンゲリオン初号機の真の姿」
「真の姿? あの、エヴァンゲリオンって」
「その正体は使徒。あの巨人と同じく使徒そのもの」
「ええ!?」
「我々の科学力では使徒を倒すことは不可能。
ならば、使徒を倒す方法は?
答えは簡単、同じ使徒同士を戦わせる以外にない。
エヴァは使徒の体、その脊髄に潜り込み神経接続によって操縦可能とした兵器。それが可能なのは」
「レイ、だけ?」
「そうよ。そして初号機は機動中にその制御が外された今、自らの意志で本能のままに殺戮する野獣と化した」
「制御が、外された?」
まさか、リツコさんは――?
などと、考える余裕は完全に奪われる。
目の前に映し出される映像に圧倒される他はなかった。
巨人に飛びかかり、殴りつけて蹴り倒し、その勢いのままに全身をぶちかまして吹き飛ばす。
勢い、突進力、闘争本能、それらを自らもてあますかのように振り乱し、猛り狂うエヴァンゲリオン初号機。
その有様に、管制塔は騒然とする。
各部署がキビキビと発令をしていた統制はもはや無い。
皆、顔面蒼白で初号機の戦い振りを――。
「おい、見ろ! 使徒が!」
「自爆する気か?」
苛烈な攻撃を受けていた巨人の様子が一変、身をひるがえして初号機に組み付いたのだ。
そして、炸裂。
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戦闘は、終わった。
巨人の体は四散、後に残されたのは魂が抜け落ちたかのようにたたずむ、初号機のみ。
騒然となって見守っていたNERVのスタッフ達は、マヤさんのアナウンスでようやく息を吹き返す。
「使徒、消失! 初号機、制御、戻ります! パイロットは――」
「マヤ」
「あ、はい。初号機、暴走状態は沈着しています。全ての計器は正常値、異常みとめず。パイロットの状態、不明」
なんだ、今の。
リツコさんがマヤさんのアナウンスを差し止めた?
そして戦闘は終わったというのに、これからがクライマックスであるかのような葛城さんの激しい指示が飛ぶ。
「そのまま初号機のモニタリングを継続。初号機にワイヤーを張り、臨時の拘束をした後に回収作業に入ってください。
平行して医務班を急行させ、パイロットの生命維持を。戦自に連絡、現場の被害状況を――」
そんな葛城さんを横目で見ながら、リツコさんはマヤさんに囁く。
「マヤ、医務班に」
「はい、手を回します」
囁き返す、マヤさんの声。
なんだか少し震えているような。
続いて、リツコさんは僕の腕をグイッと引っ張り上げる。
いつもの、そして重要な何かをするときの強引さで。
「さあ行くわよ、シンジ君」
「ちょ、ちょっと、リツコさん、どこへ」
「初号機の元へ。さあ、あなたには全てを見て貰うわ」
「す、全てって、あの、ちょっと」
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そして、地上へ。
緊張続きで地下の中を引きずり回され、ようやく空に下に出て思わず深呼吸。
しかし、それも束の間。
「さあ、来なさい。早く」
と、リツコさんは尚も僕の腕を引く。
僕は相づちすら打つ余裕もない。
やがて、初号機の足下へと近づいていく。
その場は既に現場作業に携わる部隊でごった返していた。
ワイヤーを一本、また一本と初号機にかけられる傍らで、しずしずと操縦席であるエントリープラグが下ろされる。
その真下。医務班のマークのついたパネルで囲まれた『密室』が、そこにあった。
その中へとリツコさんは僕の手を引いて滑り込む。
「ああ、赤木博士――あ、あの、その子は何ですか。無関係者は」
「いえ、この子はもっとも重要な関係者よ。前総司令のご子息、碇シンジ君」
「ああ、これは――」
と、リツコさんが医務班の連中を掻き分けて進んだ先。
扉が開かれたエントリープラグが、そこにあった。
「さあ、見なさい。これが結果よ」
と、リツコさんがプラグから引きずり出した物。
首のない、プラグスーツ。
「……え?」
それが何なのか、判らなかった。
何を意味しているのか、判らなかった。
そして、リツコさんがスーツのジッパーを開くと、ゴロゴロと何かが転がり落ちる。
それは、人間の部品であった。
腕、手、脚、胴体が、まるで生ゴミであるかのように、あたりにぶちまけられた。
それでも、僕はまだ理解できなかった。
何が何だか判らなかった。
しかし、徐々に頭が巡り始める。
そして、スーツに続いてプラグから取り出された物。
それはレイの頭部であった。
それを見た瞬間、僕は、僕は――。
「う……うあ……ああ……うわああああああああああああああああああっ!!」
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最終更新:2009年02月24日 19:44